そいつの開発者、俺なんだが   作:束田せんたっき

10 / 10
この車五人用なんだ

 作戦はこうだ。まず、俺のマスターキーで先行車と移送車を分断。田上のバンで移送車と後続車の間に割り込み、後続車を足止めしている隙に、ウィンストン・クラリス・俺の三人で移送車を襲撃し、府馬教授を救出する。最後は田上のバンで逃走する。

 

 移送車を先行車と後続車が挟むようにして、高架入り口の分岐地点に入った。上空では統制局のドローンが数機、隊列を組んで飛行している。俺はまず、端末から交通システムを掌握した。

 

> Privilege Level: ROOT

> ./override_traffic --target Traffic_Node_E-07-J04 --mode split

> Target Convoy... [FOUND]

> Lead Vehicle -> Main_Lane_A

> Transport Unit / Rear Escort -> Bypass_Lane_B

> Junction Split... [OK]

> We apologize for the inconvenience.

 

 先行車だけが本線の向こうに消え、後続の車両は黄色い誘導灯に従って、俺たちが待ち受ける退避用レーンに流れた。インカムにジョンの声が入る。

 

『田上さん、今っす!』

『おうよ!』

 

 側方から飛び出してきた田上のバンが、移送車と後続車の間に割り込んで分断する。ウィンストンが大きく振りかぶってガムテープで巻かれた球体を投げた。それはドローン付近の上空で炸裂し、すべてのドローンが制御を失って墜落した。ジョンお手製の局所的電磁パルス弾だ。

 

 異常を察知した統制官が車から降りてきた。移送車から一人、後続車から二人か。事前情報では統制官は六人。先行車に二人乗っていたとして、残っているのは運転手だけだろう。

 

 クラリスが先陣を切った。リボルバーで移送車から出てきた統制官の手首と肩を撃つ。たちまち一人無力化してしまった。

 墜落したドローンの残骸を拾い上げたウィンストンが、後続車側の統制官にそれを投げつけた。怯んだところで間合いを詰めて、肉弾戦に持ち込む。ウィンストンの鉄パイプと統制官の警棒が交わった。ここで想定外が起きた。

 

『まずい! 田上さんの車が制圧されたっす!』

「マジか」

 

 後続車の統制官の一人が、バンのタイヤをパンクさせ、田上を運転席から引きずり降ろしていた。それを見たクラリスが田上の方へ駆けていく。

 バンはもう使い物にならないだろう。しまった、逃げ足が潰された。

 俺はその戦闘のどさくさに紛れて、移送車の後部に張り付いた。

 

> Direct Link: GOV-TRN-PV-09... [OK]

> ./unlock_vehicle --target Rear_Hatch --silent

> Rear Hatch Lock... [SEALED]

> Authorization Required: CONTROL_OFFICER

> Bypassing Authorization... [OK]

> Alarm Output... [MUTED]

> Rear Hatch Lock... [UNLOCKED]

 

 音もたてずにハッチが開いた。警戒しつつ足を踏み入れる。中は薄暗く、4畳くらいの広さだ。奥には、椅子に拘束され、猿轡をかまされた老人がいた。出目金のようなギョロ目が俺を見据える。あれが府馬教授だろう。

 

「助けに来ましたよーっと」

 

 府馬教授に近寄って拘束具を解こうとすると、老人は目を見開いて唸った。嫌な予感がする。とっさに跳び退ると、俺と教授の間を青白く光った棒が通り過ぎた。車の床が少し凹む。

 

 移送車の隅の陰から、白い詰襟の男が姿を現した。俺はその顔を知っている。人工的な笑み、どこを見ているかわからない糸目。胸に鈍く光る高城之男の徽章が、やつが統制局の猟犬であることを雄弁に語る。

 

「不意打ちとはご挨拶だな、西条」

 

 西条はこんな状況でも律儀に右手を斜め下に突き出し、警棒を持った左手を腹の上に添えた。

 

「高城之男へ一致せよ。不意打ちとは失敬な。先に襲撃してきたのはあなた方ではありませんか。一致維持法第13条に基づき、D503、あなたを拘束します」

 

 言うが早いか、西条は警棒を横なぎに振ってきた。なんとか身体を捻って避ける。髪の毛が逆立った。この警棒、まさか電流が流れてるのか!?

 

「この法律人間が!」

「重要なのは法ではありません。それによってもたらされる秩序です」

「この秩序人間が!」

 

 予定では戦う必要がなかったから、当然俺は丸腰である。掠っただけでジャージの袖が焦げた。勝てるわけがない。俺はインカムに叫んだ。

 

「ジョン! 聞いてる通りピンチだ! 他の連中は何やってる!」

『みんな他の統制官に手間取っていてすぐには援護できないっす! 耐えてくださいっす!』

「畜生!」

 

 壁に備え付けられていた予備の警棒を取り、西条の攻撃を防ぐ。衝撃が腕に伝わった。一撃が重い。まともに直撃したら死にかねないぞ。

 外で銃声が二発続く。田上を押さえていた統制官の怒号が聞こえる。

 

「だいたいなんでてめえがいるんだよ! 情報にはなかったぞ!」

「統制局のデータベースに大変興味深いアクセスがありましてね。来てみたら大当たりでした」

「俺のせいかよ!」

 

 手が塞がっていて管理者権限を使うこともままならない。当然、素の俺の戦闘力なんか高が知れている。足を払われ、壁際に追い詰められた。

 

「意外とあっけなかったですね。これで終わりです」

 

 西条が警棒を大上段に構える。俺は反射的に目をつむった。次の瞬間、側面ハッチが蹴り開けられる音がした。目を開けると、西条と金髪の少女が取っ組み合っていた。

 

「平人!」

 

 金髪の少女が握るリボルバーから白煙が昇っている。西条はその銃口の先を逸らすので精一杯だ。

 隙は十分だった。俺は端末を操作し、車内の電子機器を統制下に置く。

 

「ジョン! この車を強奪する! ウィンストンたちにも伝えてくれ!」

『了解っす!』

 

> Internal Suppression Drone Bay... [STANDBY]

> Unit SD-03... [READY]

> Ownership Override... [OK]

> Target Lock: 04-B-273-A632 / SAIJO_ARATA

> Intercept Course... [CALCULATED]

> Suppression Drone... [LAUNCHED]

 

 車内の壁に格納されていた小型ドローンが、甲高い駆動音を上げて飛び出した。西条は舌打ちし、クラリスの腹を蹴り飛ばした。銃口が跳ねる。うめき声をあげて倒れ込むクラリスを、俺は片腕で抱きとめた。その頭上を、小型ドローンが西条の顔面目がけて一直線に飛ぶ。やつは身を翻してそれを避けた。

 だが、それでいい。そこが俺の指定した位置だ。

 

 外ではウィンストンが後続車の統制官を路面に叩き伏せていた。田上を押さえていたもう一人は、クラリスに撃たれた手を押さえて後ずさる。田上はその隙に運転席へ走っていく。

 

『平人さん、ウィンストンと田上さんが移送車の運転席を制圧したっす!』

「上等!」

 

> ./override_vehicle --target Prisoner_Transfer_Vehicle --mode force_eject

> Vehicle Interior Control... [ACTIVE]

> Bulkhead... [CLOSING]

> Rear Hatch Lock... [RELEASED]

> Ejection Route... [CLEAR]

> Manual Driver Input... [WAITING]

 

 隔壁が落ち、西条と俺の間を分厚い鋼板が遮った。警棒が叩きつけられ、青白い火花が散る。同時に床の搬送レールが逆回転を始めた。西条の身体が、開いた後部ハッチへと押し流されていく。それでも西条は壁に警棒を突き立て、片膝で耐えた。

 俺は端末を握ったまま、精一杯の笑みを浮かべる。

 

「悪いな、西条。この車五人用なんだ」

 

 西条が眉をひそめた。

 

「D503、あなたは何を……!?」

 

> Driver Input: ACCELERATION

> Force Ejection... [OK]

 

 田上がアクセルを踏み込んだ。移送車が獣のように唸り、急発進する。次の瞬間、西条の姿は開いたハッチの向こうへ消えた。

 

 しばらく車を走らせ、誰も追ってこないことを確認したクラリスが息をついた。

 

「勝った……のよね?」

「多分な」

 

 クラリスが静かに拳を突き出した。俺は身体の節々が急な運動で痛む中、黙ってそれに拳を合わせた。

 

 

 

 移送車を途中で乗り捨て、俺たちはとぼとぼと帰り道を歩いていた。ウィンストンに背負われた教授が静かに目を閉じている。統制局に監禁されていたせいか、頬はこけ、呼吸も浅い。田上がタバコをいじりながら言った。

 

「悪い、ミスった。クラリスちゃんにかっこいいところ見せたかったんだけどな」

 

 ウィンストンが申し訳なさそうに眉を下げた。

 

「いや、作戦が甘かった。今回の損害は全て私の責任だ」

 

 ほんとだよ。移送車奪えなかったら詰んでたとかガバガバ過ぎる。

 

 クラリスが俺の肩に肘を置いてきた。

 

「なんで成功したのにそう辛気臭いのよあんたたちは。想定外はあったけど、誰も失わずに帰ってこれたんだからそれで良いじゃない。ね、平人?」

「かもな。あと近いし重い」

 

 あくびしながらそう答えた。責任とか成功とかどうでもいい。眠い。疲れた。

 

「何よ、悪かったわね」

 

 クラリスがほんのりと耳を赤くして俺から離れた。いつもなら「最低」とか言いながら脛の一つでも蹴ってきそうだが、どういう心境の変化だろうか。

 それを不愉快そうに見ていた田上が道端に唾を吐いた。きたねえ。

 

「田上よ、百年の恋も冷めるぞ」

「ケッ、地獄に落ちろ」

 

 中指を立ててくる田上。そんな仕打ちされるようなことしたか?

 

 そんなこんなでアジトまでたどり着いた頃には昼になっていた。追跡を逃れるために何度も迂回したためだ。ウィンストンが府馬教授を医務室に送り届ける別れ際に、俺の片手を握った。

 

「今日は本当にありがとう。君の機転のお陰で、失ってはならない人を取り戻すことができた。ジョンが昼食を用意してくれているから、それを食べてゆっくり休んでくれ」

 

 駅のホームではジョンやエリたちが出迎えてくれた。ちょっとした凱旋だな。

 

「お疲れ様っす」

「おかえり平野っち。大丈夫だった?」

「余裕のよっちゃんだぜ」

「余裕の……何それ」

 

 ポケットに手を突っ込んだクラリスが、顎を上げて言った。

 

「結構ギリギリだったじゃない」

「うるせえ。だいたい、俺の負担デカすぎるんだよ。車の分断、ハッチ開放、西条の相手、おまけに移送車の強奪ときたもんだ。サポーターにタンクとアタッカーまでやらせんな」

「わかってるわよ、それくらい」

 

 髪の毛の先をくるくるといじって、クラリスが目線を逸らした。

 

「ありがと、あんたには助けられたわ」

「お、おう」

 

 こういう反応をされると調子が狂うからやめてほしい。

 

「まあ座ってくださいっす。ごちそうっすよ~」

 

 ジョンに勧められるがままにおにぎりなんかを食べていると、ナース服のスカートを腰に巻いた変質者が近づいてきた。相違教の司教、似内である。

 

「高城之男と相違せえ。流石ですねえ信徒平人、信徒クラリス、信徒信輔(しんすけ)、邪悪なる統制局を見事打ち破りはるとは。私の目に狂いはありまへんでしたわ」

 

 おにぎりを頬張りながら田上がうんざりして言った。というか、田上の名前、信輔だったのか。

 

「お前の目はいつも狂ってるだろうが、司教様」

「信徒信輔、狂ってはるのは私ではありまへん。世界の方です」

「どっちもだろ」

 

 つい俺は口を挟んでしまった。司教の視線が俺にロックオンされる。

 

「信徒平人、あんさん、Fの祝福に胡坐をかいて、反一致的実践が足りてへんのではありまへんか? 高城之男は右利きでしたさかい、左手で箸を取る修行などはどうですか?」

「いやいいよ」

「それは残念ですわ」

 

 司教が俺たちと同じテーブルに着いた。ここに居座る気かよこいつは。

 ジョンが司教にコーヒーを注ごうとすると、頑として司教は言った。

 

「よろしければ紅茶はありまへんか? コーヒーとはそれすなわち、高城之男の愛飲した不浄なる液体。一致度が上がってしまいます」

「今、沸かしてくるっすね」

「おおきに。不一致は一日にしてならず、ですからね」

 

 クラリスが俺の肩を叩いた。振り返ると、うんざりした顔のクラリスが耳打ちしてきた。

 

「平人、前言ってたわよね。訊いてばっかりで不公平だって」

「言ったな」

「見せたいものがあるの。ちょっと来てくれない?」

 

 頷いて、二人で席を立つ。田上とエリが裏切られたような何か言いたげな顔をした。司教が反高城式敬礼をして立ち上がった。

 

「もう行ってしまわれるのですか」

「ああ、ちょっと用事があってな」

「そうですか。私も明日には発ちます。長く同じ場所に留まると、一致してしまいますさかい」

「何にだよ」

「あんさん方に、高城之男の加護があらへんことを」

「否定したさすぎて日本語おかしくなってるぞ」

 

 田上たちと別れて、クラリスのあとについていく。彼女が見せたいものとはいったい何なのだろうか。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
一言
0文字 一言(任意:500文字まで)
※評価値0,10は一言の入力が必須です。参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

読者層が似ている作品 総合 二次 オリ

魔法少女だけが戦う世界で、男が生き残る術とは? A.映画ボスを集めます(作者:火星人マーズ)(オリジナル現代/冒険・バトル)

『魔法少女マギアイリス』。それは人気がすこぶる高いアニメとして、名を馳せていたアニメタイトルであった。▼話としては、至極単純世界征服を目指す組織《ディスナンド》が、ミラクルパワーとかいう力を操る魔法少女によって倒される。そんな分かりやすい物語。▼だけど、そんな世界で生きることとなった身としてはたまったものではない。▼そんな世界に転生した男、須佐八雲は男である…


総合評価:3489/評価:8.37/連載:11話/更新日時:2026年06月05日(金) 18:37 小説情報

我、悪の科学者。ヒロイン魔法少女のコピーがやたら慕ってくるんだが(作者:ともとーも)(オリジナル現代/冒険・バトル)

悪の組織の悪の科学者の仕事と言ったら、主人公の魔法少女のコピーを作ることと決まってますからね。


総合評価:1685/評価:8.11/連載:4話/更新日時:2026年01月27日(火) 09:09 小説情報

悪徳領主に転生して死亡フラグを折るために勇者パーティを育てたら、激重感情を向けられて逃げられない件(作者:激重大好き)(オリジナルファンタジー/コメディ)

目が覚めたら、プレイしていた百合RPGの「序盤のやられ役」である悪徳領主ルシアンに転生していた。▼しかも、すでに悪魔と契約済みであり、このままだと勇者に倒されなくても魔力タンクとして悪魔に殺されてしまう完全な『詰み』状態。▼どうしても死にたくない俺は閃いた。▼「原作開始前の勇者たちを見つけ出し、俺が育てて悪魔を倒す。これしかない!」▼悲惨な過去を背負うはずだ…


総合評価:2222/評価:8.17/連載:6話/更新日時:2026年04月02日(木) 18:30 小説情報

ホビアニ世界の小物悪役キャラに転生したので、主役達の踏み台になったら全員病んだ。(作者:私の性癖を開示します。)(オリジナル現代/冒険・バトル)

▼ プラモデル販促のホビーアニメ世界のかませ役に転生した主人公が、主要人物達を片っ端から病ませる話です。▼ 純粋無垢な少女達が、愛に溺れて歪んでいく姿っていいよね!


総合評価:2793/評価:8.64/連載:1話/更新日時:2026年01月25日(日) 08:14 小説情報

時間が巻き戻ったので今度こそと死ぬつもりで助けたら、何故か生還して激重感情持たれるやつ(作者:イグアナ)(原作:Fate/)

タイトルの上から下まで殴り書きしました。


総合評価:3046/評価:8.65/完結:4話/更新日時:2026年05月31日(日) 13:54 小説情報


小説検索で他の候補を表示>>