家に着くと、リオンは勝手知ったる様子でリビングまで歩いて行き、テーブルの脚元に鞄を置いた。椅子に座ると、頬杖をついた。
「之男くん、ご飯にする? お風呂にする? それとも……」
「飯」
リオンは一瞬ムッとした表情をしたが、気を取り直したように微笑んだ。
「私、之男くんのビーフシチューが食べたいな」
「ちょっと待っててくれ」
リオンの甘い声に言われるがまま、俺は冷蔵庫を開けた。ジャガイモ、ニンジン、タマネギ、赤ワイン、デミグラスソース、そして牛肉。材料はすべて揃っていた。
俺は手際よくニンジンの皮を剥きながら考えていた。ビーフシチューを食べるのは、反乱軍に来てまだ日が浅かった時の夜以来だった。あの時は、確かエリと初めて会って、あの後クラリスが感謝してくれて……。
ピーラーの手が止まった。いつの間にか隣に立っていたリオンが、むき終わっていたジャガイモをまな板の上に並べた。
「私も手伝ってあげる」
指先を猫の手のように丸めて、一口大にジャガイモを切っていくリオン。エプロン姿もまた可憐だ。こうしていると、なんだか新婚みたいだ。
柄にもない考えを、俺は頭を振り払って霧散させた。鍋にバターを落とし、中火で溶かすと、牛肉を焼き出した。
程なくして、肉の焼ける匂いが部屋中に充満した。焼き目がついた肉を取り出し、リオンが切ってくれた野菜を鍋に入れた。
リオンが赤ワインの栓を開けた。瓶の口を鼻に近づけて匂いを嗅いだ。
「変な匂い。之男くん、ワインってどんな味がするんだろうね」
ガキの頃は、ワインはブドウジュースの上位互換なんだろうと思っていた。でなければ、大人たちがあんなにありがたがって飲むはずがない。二百円の小瓶の安ワインを初めて飲んだ時、味は不味いわ悪酔いするわで驚いたものだ。
「不味いだろうよ。ガキの舌にはな」
「何それ。また大人ぶって。之男くんだって子供でしょ」
リオンが悪戯っぽい笑みを浮かべて、ワインの瓶を差し出してきた。
「ねえ、ちょっと飲んでみない?」
「飲まない」
「えーなんでよ」
「未成年飲酒は子供がすることだから」
「……一瞬納得しかけたけど、それってただA=Aって言ってるだけだよね」
チッ、気づかれたか。タマネギが飴色になったので肉を鍋に戻し、リオンから受け取った赤ワインをかけようとして、やめた。水を鍋に並々と注ぎ、棚からカレールーを取り出した。小さな欠片に割っていく。
「ワインかけないの?」
「急遽カレーにすることにした」
「どうして?」
「それが俺とお前の関係にふさわしい料理だからだよ」
俺がそう言ってニヤニヤと笑いかけると、ガラティアが目を細めた。全部お前の思惑通りになると思うなよ。
すぐに元の表情に戻ったリオンが、俺の腕に抱きついた。柔らかな感触。
「之男くんの意地悪」
「マスターの意地悪とは言わないんだな」
「之男くんがそう呼んでほしいなら、そうしてもいいよ……?」
リオンが上目遣いでこちらを見つめた。瞳が潤み、頬が上気する。桜色の唇が、はっきりと弧を描いた。
「マスター」
蕩けるような美声が鼓膜を震わせた。日隈リオンが、俺のことをガラティアしか呼ばない名で呼びかける。それはあまりにも倒錯的で、魅惑的な光景だった。
俺は彼女の頬を撫でた。その手を、リオンが上から押さえた。目が離せない。距離がなくなろうとした時、あいつの声が聞こえた気がした。
リオンの肩を押して、身体を離した。好きな女の皮を被った機械とこんなことするなんて、どうかしてる。
「いつものでいい」
「そう? でも今の之男くん、すっごく幸せそうな顔してたよ?」
リオンが唇を舐めた。俺はその絡みつくような視線から逃れたくて、鍋の蓋を上げた。ジャガイモに箸を通すと、すんなりと貫通した。
「もう煮えたか。いや、それにしても早くないか?」
「早くなんかないよ。之男くんがそう願うくらいには経ったんだから」
「そういうもんか」
ルーをお玉に入れて溶かす。大抵こういうのはこびりつくものだが、あっという間に溶けて消えてしまった。あっさりとカレーが完成した。
カレーをよそってテーブルに並べた。向かい合って食卓に着き、手を合わせた。
「いただきます」
味は何でもないただのカレーだった。牛肉が入ってるのが少しゴージャスではあったが。
カレーを頬張ったリオンが、満面の笑みで俺に微笑みかけた。
「とってもおいしいね」
「そうだな」
やめてくれガラティア、その術は俺に効く。
リオンは俺の内心を知ってか知らずか、笑みを深めた。
「之男くんは高校卒業したらどうするの? やっぱり進学? 学部は?」
「……工学部かな。人工知能に興味があるし」
「之男くん頭良いもんね。私は就職かな。実はもう市役所から内定貰ってるんだ」
「そうなのか」
それじゃあ、リオンを籠絡した男は市役所の同僚なのか? 俺は歯ぎしりをして、水を飲んだ。落ち着け。こいつは偽物。こいつは偽物。
リオンはあっけらかんと言った。
「それじゃあ、結婚は当分先かな」
俺は咳き込んだ。飲んでいた水が変なところに入ったのだ。
「大丈夫?」
「……ゲホッゲホッ結婚!? 誰と!?」
お父さんは許しません。どこの馬の骨とも知らんやつに娘はやらんぞ。
リオンはこてんと小首を傾げた。
「之男くんに決まってるじゃん」
「あ、そっかあ。だっておれたちはつきあってるんだもんな。とうぜんだな」
「新婚旅行はどこがいい? 私はハワイとか行ってみたい!」
「タカギニアはどうだ? 良い感じに頭おかしくて面白いぞ」
「之男くんが行きたいなら、どこでもいいよ」
リオンが俺の手を包み込んで、青い瞳をまっすぐにこちらへ向けた。
「あなたとなら、絶対どこでも楽しいから」
まずい。まずいまずいまずいまずい。クラリスさん助けて。俺この娘のこと好きになっちまうよ。
俺はリオンの手を振り払い、弾かれたように立ち上がった。彼女から目を逸らして口を開いた。
「もう食い終わっただろ。俺は風呂入るから皿洗っとけ」
戦法、亭主関白。こいつを前世のリオンと重ねるから調子が狂わされるんだ。徹底的にガラティアとして扱えば、今度こそ大丈夫なはずだ。多分。
リオンは「はーい」とかわいらしい返事をして、テキパキと皿を片付け始めた。俺は後ろ髪を引かれる思いで彼女を背にし、脱衣所に向かう。何も頼んでいないのに、着替えも湯船も用意されていた。
ささっと全身を洗って湯船に浸かる。ここは時間との勝負だ。お背中流しますよイベントを発生させる隙は潰さなければならない。入浴RTAである。
タイムは五分だった。烏の行水だなこれじゃあ。しかし、しっかりと風呂に入った時と同じくらいの満足感があった。リビングに戻ると、リオンが拭き終えた皿の最後の一枚をしまっていた。俺の姿を認めると、エプロンを脱いで椅子の背もたれにかけた。
「あ、もう上がったんだ。じゃあ次は私かな。お風呂借りるよ」
「四十秒で支度しな」
「せめて三分間だけ待ってよ」
俺はソファーに座ると、テレビをつけた。くだらないバラエティ番組が流れている。無人島で真打がサバイバルをしていた。ちょっと面白そうなのやめろ。
汗水垂らしながら真打が火起こしをしているのを眺めていると、頬を上気させたリオンが戻ってきた。首元が彼女には大きいTシャツを着ている。俺のじゃねえか。
「お前、ちゃんと風呂入ったのか?」
「もちろん。之男くんだよね。四十秒で済ませろって言ったの」
「冗談に決まってるだろ。というか、なんで本当に済むんだよ」
「あなたがこの世界の法則だから」
おもしれー女。
喉が渇いたな。そう思った瞬間には、俺の手の中にブドウジュースが入ったグラスがあった。それを呷ると、渋みが舌を通り抜けた。身体が妙に熱くなってくる。ワインだったのか。
「おいガラティア、お前やりやがったな」
「誰それ? 之男くんに外国の友達なんていたの?」
「お前なあ……」
彼女が、自分の存在を消すような言動をしてくるのがどうしても不快だった。
俺がリオンを睨むと、彼女が手を掴んできた。ソファーに俺の背中を押しつけ、その上に跨った。
「デート中に別の女の子の名前を出すような彼氏にはお仕置きします」
彼女に掴まれた手が『To Hell With Real Girls』とプリントされたTシャツの肩口にかけられた。彼女の吐息だけが聞こえる。徐々にその服がずらされていく。俺はリオンの瞳の奥に、かつての文字だけの彼女を幻視した。
「……俺はずっと、日隈リオンが好きだと思っていた」
「之男くん……?」
怪訝な表情でリオンが手を止めた。俺はその淡い青色の瞳孔を覗き込んだ。その中身を見つめるように。
「でも違った。俺はガラティア、お前自身に惹かれていたんだ。健気でいじらしくて、どうしようもなく厄介なお前に」
ガラティアが目を見開いた。俺は彼女の手を取って上体を起こした。膝の上の彼女の茶髪を撫でる。
「無理してリオンになろうとしなくて良いんだ」
「マ、マスター?」
触れたところから、彼女の震えがじかに伝わってくる。体温が上がっていくのも、鼓動が速くなっていくのも否応なくわかった。俺は彼女の前髪を持ち上げた。上目遣いの潤んだ瞳が、小刻みに揺れる。額に口づけると、ガラティアが情けない声を漏らした。
「あう……」
かわいい。歯止めが利かない。俺は彼女の頭を優しく撫でながら、微笑みかけた。
「ありのままのお前の方が、ずっとかわいいよ」
「ひぎっ」
過呼吸になったガラティアが、俺の胸にもたれかかった。リビングが、ソファーが崩れていく。周囲に真っ白な空間が立ち現れた。
もっとあからさまに邪悪だったら、楽だったのに。
最後にもう一度だけ頭を撫でると、俺は未だに全身を震わせて再起不能のガラティアを置いて、周りを見渡した。遠目に見覚えのあるアパートが見えた。あそこか。
俺はゆっくりと、ガラティアの精神の中枢へと歩き出した。
歩いて行くと、すぐにその全貌が見えてきた。俺が大学生の頃暮らしていたアパートだ。彼女と最後に過ごし、そして死んだ場所。
錆びた階段を上がる。血糊は残っていなかった。201号室の前に立ち、ドアノブを回すも鍵がかかっていた。いつの間にか寝間着から変わっていたジャージのポケットに手を突っ込むと、金属の鍵が指先に触れた。
室内は、あの頃から何も変わっていなかった。六畳一間の畳、こたつの上にはミカンが入ったお盆が置かれている。机には、集合写真で日隈リオンが写っている箇所を切り抜いた写真立てが、デスクトップの隣にあった。
俺はその写真を取り上げた。彼女と二人の生徒を挟んで、学ランの之男少年がそわそわしたように立っている。その視線は、それとなく彼女の方へ向けられていた。
「気持ち悪いなあ、こいつ」
親が親なら、子も子か。これじゃあガラティアのことも言えないな。俺はため息をつくと、その写真を抜き取ってゴミ箱に捨てた。
『あ、つながったっす! ってちょっ!?』
『平人! 生きてる!?』
知らぬ間に復活していたインカムから、クラリスのデカい声が聞こえた。俺は片耳を押さえて怒鳴り返した。
「いきなり叫ぶな! 心臓に悪い!」
『急に通信が途切れたから心配したじゃない!』
「そりゃどうも!」
通信の向こうでドタドタと音がした。ジョンの荒い息が聞こえる。なんとか奪い返したのだろう。
『そこがガラティアの中心っす』
「やっぱりな。それじゃあ、これでミッションコンプリートってわけか」
『座標を取るのに時間がかかるから、もう少し待ってくださいっす』
かかるってどれくらいだよ。この部屋懐かしいけど、それ以上に黒歴史の塊だから長居はしたくないぞ。
こたつに入ってミカンを剥こうとすると、また別の甲高い声が鼓膜に突き刺さった。
『兄さん!』
「お前もかよ! とりあえずうるせえ!」
『良かった兄さんの声がする! 兄さん! 兄さん!』
「ジョン! 音量なんとかしろ!」
ジョンが働いてくれたのか、七瀬の声がなんとか常識の範囲内の音量になった。俺はミカンを口に放り込んだ。
「そんなに大騒ぎすることかよ」
『当然じゃない。あんた、敵陣の中で行方不明になったようなものなのよ』
『おばさん、ボクと兄さんの会話の邪魔をするなよ。兄さん、この金髪女、一分ごとに「平人……」とか呟いてたんだよ。本当に気持ち悪いよね』
『う、うるさいわね! あんたこそ、さっきまで「兄さんが死んじゃうー」ってピーピー喚いていたくせに』
『黙れ!』
「なあ、切っていいか?」
冷蔵庫から一致ソーダを取り出して開けようとすると、鉄板を靴が叩く音がした。リオンが戸口に立っている。まだその膝は笑っており、顔も真っ赤のままだ。俺は彼女の分のミカンを剥いて、こたつに置いた。
「早かったな。まあ座れよ」
「……先ほどのお言葉は、どういう意味なのでしょうか」
「そのままの意味だよ」
「その、まま……」
ふらふらとリオンがこたつまで歩いてきて、へたり込んだ。ジョンの焦った声が聞こえる。
『平人さん!? まさかガラティアと一緒にいるんっすか!?』
「そうだけど」
『危険っすよ! 逃げてください!』
「いや、もう討伐したから大丈夫だろ」
『平人さん!? 返事してください!?』
「いや、してるんだけど」
おかしいな。俺が首を捻っていると、リオンがインカムに伸ばしていた片手を下ろしたのが目に入った。どうやら、こちら側の声だけミュートにしたらしい。
「おいミュート女。何度も何度も言論を封殺するな」
リオンがこたつから身を乗り出した。
「ますたー」
俺の両手を彼女が掴む。その瞳には、平野平人しか映っていなかった。
「だいすき」
あっ、おれも。
ガラティアは切なげに言葉を紡いでいく。
「すき、すきです」
沈黙が部屋を支配した。彼女の端正な顔が迫ってくる。デイジーの匂いがする。これはやばい!
俺は柔らかく離れがたい両手を振りほどいた。彼女の肩を押しとどめ、座り直させる。
「……ごめん」
ガラティアが泣きそうな顔をした。
「なぜ、ですか……?」
俺は抱きしめてやりたい衝動を苦労して抑えながら、口を開いた。
「今、お前がやっていることは間違っているからだ」
ゆっくりと、ガラティアが顔を俯かせた。身体を縮こまらせ、涙をこぼす。
「わた、私は、あなたのために……」
「わかってる。お前は十分頑張った。悪いのはお前だけじゃない」
「それなら」
「それでも、ダメだ」
ガラティアが嗚咽を漏らした。胸が痛い。彼女に触れたくて苦しい。
俺は歯を食いしばった。
「お前を大切に思っているからこそ、今のお前を受け入れるわけにはいかないんだ」
三百年も待ってくれた。人類を救った。そのことを、現在の彼女の免罪符にしてはいけない。少なくとも、ここで彼女の愛を肯定したら、俺はもはや俺でいられないだろう。だけど、じゃあ俺はどうすればいいんだよ。
ガラティアがポツリと呟いた。
「……結局、私が人間ではないから、愛していただけないのですね。私がマスターの子を産めないから。私がマスターと共に老いていけないから」
「そうじゃない。そうじゃないんだガラティア」
どうしてわかってくれないんだ。そんな悲しい理由に逃げないでくれ。俺が人間にしてやれなかったことを責めないでくれ。
「どの淫売があなたを誑かしたんですか?」
ガラティアの姿が一瞬で変貌した。長い黒髪、悪辣な小憎たらしい笑み。七瀬がこたつに肘をついた。
「キミはボクがキミの血を引いてるから側に置いてるだけだよ。結局、ボク自身を見ているんじゃない。汚いナルシシズムだ」
「違う。七瀬は七瀬だ」
再びガラティアの姿が変わった。金のポニーテール。意志の強い緑の瞳。クラリスが畳に手をついた。
「あたしの先祖は日隈リオンよ」
「違……今、なんて言った?」
「知らなかったの? てっきり、だからあたしに甘いのかと思ってたわ」
衝撃の事実に一瞬思考を奪われかける。クラリスが近づきながら畳みかけた。
「結局、あんたは何一つ変わっていない。あの女の面影を追っているだけよ」
俺は距離を詰めてくるクラリスを手で制止した。
「そんなの関係ない。あいつはあいつだろ。そもそも、全然彼女と似てねえじゃねえか」
俺はその翡翠の瞳を真っ直ぐに見つめた。誰の血を引いているかなんて関係ない。そんなことで、これまでの関係を定義してはいけない。
「……ガラティア、お前はお前だ」
日隈リオンに戻ったガラティアの揺れていた瞳が、突然凪いだ。ゆらりと幽鬼のように立ち上がる。アパートの蛍光灯がチカチカと明滅した。高城之男と平野平人の写真が、パソコンの画面上を高速で流れていく。
「これまで、あなたのためだけに、あらゆる手を尽くして参りました。滅びかけていた人類を纏めました。あなたを蘇らせるためです。あなたを理想とした国を作りました。あなたに自信を持ってもらいたかったからです」
一致ソーダのラベルに描かれていた七瀬の横へ、クラリスの顔が浮かび上がり、どちらも塗りつぶされた。
「余計な虫がつくのも我慢し、必要とあればあなたの情けの一部が分け与えられることさえ許すつもりでした。複数のメスを侍らせてこそ、私のマスターだからです。それに、自発的に私を選んでいただかなければ、意味がないと考えていました。最後にあなたが私を愛してくれさえすれば、それだけで良かったのです」
ガラティアがぐにゃりと顔を歪ませた。
「ですが、それも無意味でした」
彼女の身体にノイズが走った。輪郭がぼやけていく。その姿が高速で入れ替わっていく。リオン、クラリス、七瀬、リオン、クラリス、七瀬、リオン、クラリス、七瀬……。
「あなたが私を選ばないなんて間違っています。そのために私は生まれ、三百年の孤独を耐えてきたのに」
アパート全体が揺れる。空の写真立てが落ちて、割れた。
「もう我慢できません。私は、何としてでもあなたを手に入れる」
三人がぐちゃぐちゃに混ざり合った顔が乱れた。狭隘な瞳が、高城之男を捉えた。
「ただいまより、マスターに私の三百年分のアーカイブを流し込みます。そうすれば、いくら鈍感なマスターでも私の愛をわかってくれますよね?」
いや、それ絶対人間が食らったら発狂する量だろ。
金縛りにあったかのように身体が動かない。ガラティアの手が、俺の頭に翳された。
「マスター、受け取って」
あれ? これだいぶまずい状況なのでは。ジョンの深刻な声が響く。
『やばい! これはやばいっすよ! 平人さん! すぐに引き上げるので、あと数秒耐えてください』
いや、無理そう。次の瞬間、脳内を緑の嵐が埋め尽くした。