ハリーポッターと留学者   作:クリスマスは終わらない

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のんびり投稿


世界の雪解け

 東京都、霞が関の合同庁舎のすぐ近くの雑居ビルに、日本国魔法省がある。聖マンゴのようにマグルの建物に擬態している。中に入ると巨大なオフィスビルのようにいくつもの部署があり、魔法で動くエレベータが何基も動いていた。そのなかの治安維持部は闇祓いと同じように軍事的性質を持つ部門であった。

 治安維持部の会議室では、一人の少年の前に、一人の男が座っていた。つい先日、弱冠12歳で二等戦闘魔導師に昇格した新田寛(ニッタヒロシ)は、目の前のボスである広沢部長に呼び出されていた。

 

「知っての通り、ソビエトはじき崩壊する。ウクライナとベラルーシ支部もソビエト人民魔法局に対して反旗を翻した。非魔法行使者たちの政権はより、求心力と国民の統制ができなくなる」

「左様ですか。東西冷戦が、終わると」

「そうだ。ウラジオストクから東ベルリンの空白地帯は消えると、情報部も外務部も読んでいる。すなわち、魔法院優勢の時代も終わるとみていい」

 

 非魔法行使者(マグル)の国家間のにらみ合いは魔法使用者たちも例外ではなく、日本魔法省の動員能力では十分に対応できなかった。五十年ほど前の先の大戦で疲弊しきった魔法省に、冷戦下の抑止力を維持できなかった。そこで伝統的な魔法行使者である魔法院が復権した。大戦参戦の火付け役にも拘わらず、血を流さずに済んだ彼らは戦後、魔法省を凌ぐ武力を有していた。その後彼らは半ば特権階級として税制の優遇や利権を確立していた。平安から続く名家が集う魔法院は一定の質を持つ戦闘魔導師を抱え込み、量も質も、魔法省を優越していた。しかし冷戦が終わることで、北方に割いていた人員を本州にくまなく再配置でき、あくまで特例として認めてきた特権も減らすことができる。

 

「彼らには善き愛国者であるべきだ。そう思うだろう?」

「はい。あくまで三権を有しているのは、我々魔法省です。パワーバランスは我々に戻る必要があります」

 

 広沢は満足そうにうなずき、彼を呼び出すことになった本題に切り出す。

 

「わずか12歳で二等になったのは誇らしい。私たちは君にとても期待している」

「恐縮です。まだまだ勉強が足りない私を評価していただけるとは」

「いやいや…それで、君を呼んだ理由は先のようにソビエトがかつてほど脅威ではなくなることと関係している。君は英国について何か知っているかね?」

「はい。いいえ、それほどでは」

「戦力の確保が最重要の命題ではなくなった今、君には留学をしてもらいたいのだ。これは左遷ではなく、君たちのような存在が栄達するための試みといっていい」

 

 優秀な人材が魔法院に引き抜かれる中、魔法省は理科学部を使って、国際魔法使い機密保持法に抵触するギリギリのラインで非魔法行使者たちと共同で、戦力増強に関する研究をしていた。寛はその中でも最高の評価を得た存在であり、魔法省治安維持部は、彼の成績に沿って育成カリキュラムを年次改訂している。

 

「私がイギリスにですか?確か闇祓いが、我々にあたる存在だったかと」

「いやいや、君には魔法院のマホウトコロと同じような教育機関に、留学生として過ごしてもらう。同じ西側としても都合がよかろう。ボーバトンにも送るつもりだが、向こうはさして乗り気ではなくてね」

「左様ですか」

「君の留学の結果によってはさらなる留学生を送り込むかもしれない。気張ってくれ」

「わかりました。最善を尽くします」

「ああ。詳細は追って連絡する。話は以上だ」

「はい。失礼します」

 

 寛は一礼した後、部屋を後にした。一人残った広沢は呟く。

 

「パイが配られた」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

*****

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 八月半ば。夏日が続く東京では、人々の意識の一部がコンクリート・ジャングルに溶かされていた。広沢に再び呼び出された寛は、英国側の副校長が説明に来るとのことで、魔法省に向かっていた。扇子を仰ぎながら寛は考えていた。

 

(質で劣る我々に部長は箔をつけたい…だがそれ以上に何かがしたいのだろう。特段僕たちに肩入れをしているとは思っていなかったが…ソビエトが崩壊することで、世界のパワーバランスは崩れる。少なくとも欧州はこれまでのモンロー主義から脱却するのかもしれない…いろいろ考えても、僕らに選択肢などない、やるしかないんだ)

 

 昼休みがもうじき終わるであろう、オフィスに戻っていく官僚たちを尻目に四車線道路を横断する。いらだちを覚えるのは湿った暑さだけだろうか。そう独りごちながら歩みを進めた。

 

 

 

 

 いつもの会議室ではなく、外務部の応接間に向かった寛は、扉をノックした。

 

「入りたまえ」

「失礼します」

 

 中に入ると、上座に老齢の女性とハンカチで汗を拭く男性が二人、下座に広沢部長と外務部部長がいた。魔法省はスーツが普通だが、英国側の関係者は古めかしいローブ姿だった。ソファーには山高帽が立っている。伝統があるのだろう。そう思いながら寛は挨拶をする。

 

「お待たせいたしました。はじめまして、新田寛です。よろしくお願いします」

「はじめまして。国際魔法協力部のエディン・キーガンだ」

「ホグワーツ魔法魔術学校の副校長を務める、ミネルバ・マクゴナガルです。よろしくお願いします」

 

 鋭い目と凜々しい表情の彼女は想像以上にしっかりと握手をした。厳格な老教師という印象はおそらく間違っていないのだろうと寛は思った。

 

「キーガン氏は英国魔法省の外交担当だ。今留学プログラムの英国代表者だと考えてくれ。マクゴナガル氏は紹介通りホグワーツ校の副校長で、受け入れ先責任者を務めている」

 

外務部長が紹介をする。キーガンはやや恰幅がよく、柔和な笑みをたたえる人だった。キーガンが口を開く。

 

「本邦としても、ソビエトの瓦解は新たなる時代の幕開けだと考えています。そのような中で、今回の申し出は大変喜ばしいものです。ホグワーツに関してはマクゴナガル氏に説明をしていただくのがいちばん良いかなと思っていますが…」

「わかりました。それでは早速。ホグワーツは約9から10世紀の間に開校された学校です。英国に住む11歳以上の魔法使いを対象に入学者を募っており、その大多数が本校に入学します。ミスター・ニッタは12歳ですが、カリキュラムが大幅に違うこと、そもそもの魔法体系が異なることを踏まえて1年生と同じ学年での留学を考えています。いかがですか?」

「入学学年に関しましては、私自身としては異論はありません。部長方はいかが思いますか?」

「私としてもその方向で良いのかなと」

「広沢部長と同意見ですな」

「わかりました、そのように手配をいたします。もう少し本校の説明を。わが校は全寮制で、4つの寮に分けられます。入学式の時点でどこの寮に組み分けるかを決めますので、現時点ではどこになるかは不明です」

「先んじて組み分けることは難しそうですか?」

「魔法契約により、振り分けシステムはホグワーツの新年度でしか起動しません。ですので、予め決めるということは不可能になります」

「承知しました。新田はそれでいいか?」

「はい」

「次に教材について。杖を有している場合はそちらをお使いになって構いません。ただし魔法体系が異なる性質上、もしかすると魔法の行使ができないかもしれませんが、その場合の補てんはできませんのでご了承を。また、教科書や薬学のための鍋などは指定されたものを使っていただきます。また、学生服はローブとなります。杖を含めたこれらはダイアゴン横丁に揃っています」

 

この後も1時間ほど説明が続き、いくつかの質疑応答を終えた後、寛の留学を双方が最終合意した。

 

 

 




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