NRと言う名の未界域   作:まにゅま

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第一章 低レアリティの怪物
turn1 またそのデッキかよ


雨が降っていた。

窓ガラスを細かく叩く水音がやけに大きく部屋に響く。

佐倉悠斗は、薄暗い部屋でモニターの光をぼんやりと見つめていた。

画面中央には敗北演出。

白い文字で、“DEFEAT”。

 

[Yu-Gi-Oh! Master Duel]

 

原作が週刊少年ジャンプに連載されていた漫画であり、作中に登場したカードゲームを商品化したところ大ヒット。

世界各地で親しまれており、時代が進んだ今、デジタルゲームで世界中のプレイヤーと遊ぶことができる。

物心ついた時から兄の影響で遊んでいた遊戯王だったが、社会人となった今、遊び相手はもういなくなってしまった。

そんな中リリースされたゲームということもあり、悠斗はなつかしさと共に、紙の遊戯王を引退してから発売された、知らないカードで遊ぶことに心を躍らせながらゲームをダウンロードした。

そこから約一年。

悠斗は著しいモチベーションの低下を覚えつつ、しかし、かつて楽しんだコンテンツから離れるのも寂しくマスターデュエルを続けていた。

 

「……またか」

 

乾いた声が漏れる。

右手は無意識にマウスを動かし、リプレイ保存を押すこともなく対戦履歴を閉じた。

相手のデッキは、また同じだった。

初動札。

手札誘発。

あらゆる妨害。

制圧。

 

数時間前からほとんど変わらない対戦内容。この後何時間やっても変わることはないのだろう。

今日だけじゃない。

ここ数か月ずっとそうだった。

悠斗は椅子にもたれ、天井を見上げる。

部屋の隅には、大学時代まで使っていた紙のカードが几帳面にストレージに入れられている。

あの頃はもっと楽しかった気がする。

カードショップで、誰も使っていないカードを見つけた時。新規のカードが発表された時。

 

「これ、実は強くね?」

 

と友人と騒いだ。

意味不明なコンボを回して、成功率三割でも笑っていた。

でも今のマスターデュエルは違う。

定期的に新テーマが実装される。

しかし、新テーマと言っても、既に紙のカードで販売されているカードだ。

理想の構築もコンボも既に答えが出ている。

つまり、発表から数時間後には動画サイトに最強構築がずらりと並ぶのだ。

 

「このカードは三枚必須」

「このルートが最適」

「ここで誘発ケアが正解」

 

正解が早すぎる。

もちろん競技ゲームとしては自然なのだろう。

皆、勝つために研究しているし、その先の努力で勝つための楽しみだってある。

悠斗自身もある程度まではそうだった。

だが最近、ランクマッチを回していて思う。

自分は“対戦”をしているのか。

それとも、“答え合わせ”をしているのか。

もっと手前の、カードを組み合わせる楽しさや、新たな発見による興奮はどこへいってしまったのか。

鬱屈としながらも、やはり負けるのは悔しい。

もはや惰性に近い感覚でランクを上げるために再戦にカーソルを合わせる。

しかし、クリックを押す前に脱力感が襲ってきた。

 

「今日はもうやめだ……。何か面白くねぇ。」

 

コンテンツとして遊戯王は大好きだ。

今でも飲みに行く友人と自分を繋げてくれたのは遊戯王だし、世界大会を目指してショップ大会を駆け回った時の青春をくれたのも遊戯王だ。

そんな遊戯王を心から楽しめていない自分にうんざりしつつ、何か楽しめるきっかけはないかと思いSNSを眺めることにした。

途中から無意識にスクロールしていく画面だったが、ある投稿で手が止まる。

悠斗は過去のデッキから現在に至るまで、大体の環境デッキは把握している。

しかし、その投稿に映っている大会の決勝戦と思しきその試合で使われていたデッキは名前程度しか知らなかった。

片方は「花札衛」。これはアニメにも出てきていたはずだ。

カードをめくって大型シンクロを出していくデッキだっただろうか。

対するは「ヴェンデット」。

アメコミ風のアンデットヒーローが描かれており、このテーマに関しては覚えがない。

興味をそそられ見ていたが、先行制圧が花形の現代遊戯王にしては珍しく、ターンを応酬し、最終的にライブラリアウトで決着の付いたその勝負には、悠斗の知っているカードはほついにとんど登場しなかった。

気になった悠斗は投稿に貼り付けられたリンクから、動画投稿サイトの大会のアーカイブに飛んだ。

 

「えーと何だこりゃ……真佐杯?」

 

見たことも聞いたこともない大会名。

大会の概要を読むに、大会名は主催のVチューバーの名前から取っているらしい。

大会名の他にも、その概要には多くの情報が乗っており、悠斗が知らないデッキが決勝で戦っている理由もそこにあった。

 

「NR……ねぇ」

 

マスターデュエルには実装されたカードにレアリティが決められている

レアリティが高いほど入手するコストが高くなる。

レアリティのヴァリューはUR>SR>R>Nとなっており、当然強いカードやテーマの核になるカードはレアリティが高くなる。

その内のNとRしか使用しないレギュレーションが所謂NRだ。

そんなレギュレーションともなれば、デッキのパワーは著明に落ちることだろう。

先ほどの決勝戦の決着もライブラリアウトだ。

きっとこのパワーの低さが要因なんだろう。

 

「こんなんおもろいか?」

 

純粋な疑問が口を付いてくる。

わざわざパワーを落としてカジュアルルールで遊ぶことは否定しないし、実際悠斗も紙で友人と遊んでいた時はカジュアル寄りのプレイヤーだった。

しかし、大会ともなれば競技的な遊び方が必要になる。

カジュアルのレギュレーションを持ち出して競技をするということに、そもそもの矛盾を感じてしまう。

 

「それにあれだろ、NRって前にフェスであったよな。メガリスの一強で大会になんのかよ。」

 

マスターデュエルの初期、まだ資産の揃い切らないプレイヤーが多かったためか、デッキの作製コストの低いNRレギュレーションでのイベントを公式が開催したことがあった。

その時は「メガリス」というテーマが圧倒的なパワーを誇り、メガリスか、メガリス以外かというレベルだったはずだ。

紙での評価に応じて付けられるゲーム内のレアリティだが、SRやURのキーカードが使えないことから歯抜けのテーマが多い中、テーマ全体のレアリティが低いことにより、普通にテーマデッキとして戦うことができたというのがメガリスの強さの要因だった。

新しい楽しさを発見できたマスターデュエルならではのイベントだったことは覚えている。

しかし、明らかなメガリス一強環境であり、先ほどの決勝戦にメガリスは出ていなかった。

やはりカジュアル勢のデッキ発表会か……と思ったが、どうやらそうでもないらしい。

 

「No Riches。のーりっちーず? で合ってんのか?」

 

英語の成績に自信はなかったが、NRの頭文字を使って付けた名前なのだろう。

洒落てるなと思いつつ、概要を読み込んでいく。

 

「えーと、海外サーバーで作製されたNRのレギュレーションってことか。 っえ、海外でもまだNRとかやってんのか」

 

NRフェスが開催されたのはリリースから間がないころだったはず。

そうなるとこの物好き達は1年弱NRで対戦していることになる。

しかも、NRという特殊レギュレーションの中で使用するレギュレーションだ。

物好きという言葉では足りないかもしれない。

ただ、これで決勝戦にメガリスがいなかった理由が分かった。というのも、メガリスのキーカードがこのNo Richesでは禁止されているためだ。他にもメタルフォーゼなど、言われてみれば強そうなテーマが規制されている。

中には何でこのカードが? というのもあったが、遊戯王とは本来そういうものだ。

特定の使い方をされることで化けるカードはいくらでもあるし、きっとその類なのだろう。

そうなると、カジュアル勢のデッキ発表会という評価は正さなければならないだろうか。

きっと規制された中で最も強いテーマのぶつかり合いだったのだろう。

 

アーカイブの概要にはディスコードのリンクも貼り付けてあった。

久々に訪れた遊戯王の未知にそそのかされるようにそのリンクを開く。

 

「300人……うっそだろ。多すぎじゃね?」

 

確か先ほどの大会の定員は64人だったはずだ。

思いもしなかったサーバーの人数に驚いたが、64人規模の大会が満員になる程人気なのであれば納得もできた。

時刻は0時。

明日も仕事だと思いつつ、サーバー内をぶらついてみる。

すると、小さなコミュニティだと思っていたNRが、かなり活発であることが分かった。

ボイスチャットも埋まっているし、雑談や遊戯王の掲示板では様々な意見が交換されている。

 

『ヴェンデット無理だろこれ』

 

『いや初動細そうじゃね?』

 

『ヴェンデットTier1ある?』

 

「……なんだこれ」

 

悠斗は思わず呟いた。

先ほどの大会から日が経ってないこともあってか、相手のライブラリアウトで優勝した「ヴェンデット」というテーマの議論が活発に交わされていた。

どこの世界に大真面目にヴェンデットの強さを議論しているコミュニティがあるだろうか。

ヴェンデットがNRの中でどのくらい強いのかは見当もつかないが、悠斗はこの空気を知っていた。

 

これは、“答え”をなぞっている人間の会話ではない。

 

皆、自分で考えている。

かつて自分も魅了された、デッキを作っていく過程を楽しんでいる。そんな印象だ。

 

『水曜日の配信で試してみるか』

 

結論の出ない議論に終止符を打つ形で、誰かがそう言っていた。

何やら、真佐杯を主催したVチューバーが毎週水曜日にNRの対戦配信をしているらしい。

夜も更け次第に更新の途絶えていったサーバーを眺めながら、NRに興味の引かれた悠斗はカレンダーを見た

 

「明後日……いや、もう明日か。水曜日は参加してみよう。」

 

数時間前の鬱屈した気分は鳴りを潜め、NRで強いカードは何があったか考えながら、数時間後にやってくる仕事に備え眠りにつくのだった。

 




第2回真佐杯の様子↓↓
https://www.youtube.com/live/HGH4IexiqEk?si=TGYA_1v41zOwqJqt

NR週末大会(夜)のアカウント↓↓
https://x.com/norichesjp

NR毎日大会(昼)のアカウント↓↓
https://x.com/NoonRiches
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