NRと言う名の未界域   作:まにゅま

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よろしくお願いします。


第四章 第4回真佐杯
turn11 開戦


第四回真佐杯当日。

 

ヴェンデットの規制後初めての、そして、今の研究チームとして挑む初めての大会。

 

大会開始一時間前。

 

 

「緊張してます?」

 

「まぁ、それなりに」

 

悠斗の問いにしのびたるとが答える。

 

「なので、昨日は部屋を掃除しました」

 

「あはは。僕もです。」

 

悠斗もしのびたるとも、笑いながらも分かっていた。

今日の雰囲気は前回の大会とはまるで違う。

 

これまで積み上げた全てが結果になる日だ。

 

前回の大会も、悠斗は全力で準備をした。

しかし、前回から今回の真佐杯までの間に、悠斗は勝つためにする準備の深さを知った。

優勝するために必要な閾値の高さを感じた。

 

第四回真佐杯。

真佐まつりによる配信画面のコメント欄。

参加者も次々と集まってくる。

 

知っている名前。

知らない名前。

久しぶりに参加するプレイヤー。

 

コメント欄も盛り上がっていた。

 

 

『ヴェンデットの規制エグかったなwww』

 

『規制後使ってみたけどさすがに回らんかった』

 

『次の環境デッキは何かな』

 

『おいAttoさんいるぞ』

 

『やっぱ別のデッキ使っても強いのかな』

 

『ってか何か今回ボスステ勢多くね?』

 

 

悠斗は画面を見ながら息を吐く。

 

今大会はダブルエリミネーションで開催されている。

例え一回負けても敗者側のトーナメントから勝ちあがることで、勝者側のトーナメントとの決勝で戦うことができる。

つまり、二敗するまでは優勝のチャンスがあるということだ。

 

悠斗は定刻になり発表されたトーナメント表を確認した。

順当に勝ち抜けば、3回戦で悠斗はしのびたるとと対戦することになる。

 

しかし、その更に手前の相手で悠斗は嫌な予感がしていた。

 

悠斗の一回戦の相手。

 

 

”箱木宝明”

 

 

真佐杯直前に規制後のヴェンデットを試していたプレイヤー。

 

対戦部屋では頻回に姿を見せ、環境のあらゆるデッキを試している。

特定のデッキを偏って使用している印象もなく、所謂“顔メタ”の通じる相手でもない。

 

以前箱木宝明が対戦部屋でヴェンデットに入れていたカード。

 

 

“儀式魔人・デモリッシャー”

 

 

このカードこそが今回悠斗達が用意した構築の核。

秘策であった。

悠斗はAtto、しのびたると突き詰めた構築を共有して持ち込んでいる。

 

 

その中で繰り返し回し、刻んだ強み。

新ヴェンデットの解体新書。

悠斗は対戦前に改めて今回の構築を振り返る。

 

 

デモリッシャーは手札や場からだけでなく、墓地から除外することで儀式召喚の素材にでき、儀式召喚したモンスターに対象耐性を付与する効果をもっている。

 

つまり、禁止カードに指定されたヴェンデット・コアと同じように、デモリッシャーはスレイヤーに対象耐性を付与することが可能だ。

 

 

(ただ……コアの代用なんてそう安く手に入るわけじゃない。デモリッシャーを採用したヴェンデットには明確な弱点が三つある)

 

 

一つ、スレイヤーへの付与は、レベルの関係でモンスター除外か魔法・罠除外のどちらかしかデモリッシャーと同居できない

 

そのため、対戦相手がどのデッキを使用しているか分からない一回戦は特に付与をする種類の見極めが必要となる。

 

 

二つ、デモリッシャーへのアクセス率が悪い

 

ヴェンデットネームのためアクセスが豊富だったコアとは異なり、デモリッシャーのサーチカードはNRに存在しない。

デモリッシャーを3枚投入したとしても、初手に引くことが可能な確率は約33%。

 

 

(そんな確率じゃ、対象耐性は上振れに期待するしかない。Attoさんはそんな不安定な構築は目指さない)

 

 

デモリッシャーにアクセスする確率を少しでも上げるため、今のヴェンデットに採用する必要となったカード。

 

 

“魔サイの戦士”

 

 

魔サイの戦士は墓地に送られた際、デッキからデモリッシャーを墓地に送ることができる。

これにより、規制後のヴェンデットは再びスレイヤーに対象耐性を付与できるようリペアされた。

 

 

(俺達が最後までこだわったのはデモリッシャー、魔サイの戦士の枚数。より自信を持ってデッキを持ち込むために、一枚単位で初動の計算をしていった……もう何回初手から数えたのか分からないくらいだ)

 

 

そして三つ目の弱点は、自由枠の圧迫

 

元々コア1枚で担っていた役割を、デモリッシャー+魔サイの戦士で補うことになる。

そのため、僅かな自由枠を更に圧迫した。

 

 

(更に、禁止となったバースによって継戦能力も低下した。だから俺達は、より短期に決着をつけるためにサブプランを強化した)

 

 

“No.97 龍影神・ドラッグラビオン”

 

 

スタンダードでは何かと悪用されることの多いこのカード。

ランク8で対象耐性を持った高スタッツのエクシーズモンスターである。

 

NRというプールのカードパワーとしてはそれだけでも強いが、ドラッグラビオンはNoエクシーズモンスターをエクストラデッキから特殊召喚することができる。

NRにおいてドラッグラビオンから呼び出せる最も強力なモンスター。

 

 

“No.92 偽骸神龍 Heart-eartH Dragon”

 

 

ハートアースドラゴンは戦闘では破壊されず、ターン終了時に相手フィールド上のカード全てを除外する効果を持っている。

 

 

(つまり、NRにおいて先攻でランク8を出された場合、ハートアースドラゴンを処理できない時点で敗北になる)

 

 

ヴェンデットはこれ程まで強いランク8を出しやすいのに、何故これまで主力にしてこなかったのか。

 

それは、ヴェンデットミラーにおいてはハートアースドラゴンの除去が容易だったからだ。

 

しかし、そのヴェンデット無き今、罠デッキが多いと予想される今大会では、猛威を奮うことが期待された。

 

アンデット族の汎用サポートであるアルグールマゼラは、アンデット族の破壊耐性だけでは無く、ランク8を出す素材としても活躍していた。

しかし、このマゼラもまた、規制の改訂により制限カードに指定されている。

 

そこでランク8の素材として新たに採用されたカード。

 

 

“覇蛇大公ゴルゴンダ”

 

 

フィールド魔法が発動されている時、手札・墓地から場に出せるレベル8のモンスターだ。

展開の途中でフィールド魔法を経由するヴェンデットはゴルゴンダの要件を容易に満たすことができる。

 

 

 

(纏めると、今回のヴェンデットは失った強みをリペアし、失った継戦能力を短期決戦で強引に突破していくことで勝っていくデッキだ)

 

 

デッキ構築に正解は無いが、悠斗にはこれが最適解だと思えていた。

 

Attoが読んでいた環境の分布にも説得力があり、この戦い方は理に適っている。

しのびたるとや悠斗もまた、Attoと同程度にこのデッキを使いこなせるレベルに達していた。

 

 

 

Discordで最後に短いやり取りをする

 

「悠斗さん、たるとさん。1回戦頑張りましょう。また後で」

 

「はい、Attoさん。また後で」

 

「健闘を祈ります」

 

地道に積み上げた数字の山。

裏打ちされた練習量。

その自信を持って、悠斗は第一回戦へ向かう。

 

 

「始まる前は緊張してたけど……席に着いたら不思議と落ち着いていくな」

 

 

箱木宝明とチャットで挨拶を済ます。

コイントスが行われる。

 

 

いつものルーティンで目を閉じ……そして開けた。

 

 

対戦開始だ。

 

 

「今日もよく画面が見えてるぜ……箱木さん、よろしくお願いします」

 

悠斗がヴェンデットを使う上で最も緊張する瞬間は、対戦の初めかもしれない。

コンボデッキの宿命。

事故を起こしたら即負けかねないからだ。

 

悠斗は緊張の面持ちで初手を見る。

 

「ふぅ……悪くない」

 

遥か昔のように感じる、ヴェンデットを初めて使った時。

その時ならなら悩んだだろう。

どのルートを取るか、どこで妥協するか、何を残すか。

 

だが今は違う。

 

視界に入った瞬間。

展開が見える。

 

「Attoさんの読みでは今大会は罠デッキが多い。マジェスペクターも要注意だ。」

 

声に出し、自らに言い聞かせるようにして初手からゴールを導き出していく。

 

「完璧な手札じゃないが、デモリッシャー+ヘルハウンドはいける。墓地のボーンでスレイヤーの破壊耐性もある。これで勝負だ」

 

悠斗が用意した盤面。

 

NRの汎用リンク2モンスター、コードブレイカー・ウイルスソードマン。

そして、デモリッシャーでの対象耐性に加え、魔法・罠除外を付与したスレイヤー。

 

「さて箱木さん、俺はこれで勝負します。」

 

悠斗は落ち着いていた。

その展開にミスは無く、初手から繰り出せる組み合わせの中で最も環境に適した盤面。

 

 

ここがスタートライン。

ここからが対戦だ。

 

 

ターンが移り、箱木宝明が動き出す。

初手から繰り出されたモンスター。

 

 

“インフェルノイド・デカトロン”

 

 

「インフェルノイド……だと?」

 

 

そのモンスターを悠斗は知っている。

 

しかし、NRにおいて、そのモンスターを採用したデッキを悠斗は知らなかった。

Attoが紹介した環境デッキにもその存在は無く、テーマ内でどのカードがNRなのかも分からない。

 

「こっちの妨害は魔法罠だけ……。つまり、箱木さんのモンスターを使った相手の展開を止める札はない。冷静に見極めろ」

 

落ち着けと自分に言い聞かせ、デカトロンの効果を確認する。

 

召喚時にインフェルノイドモンスターを墓地へ送り、その効果をコピーする能力。

デカトロンによって落とされるモンスターがキーとなるだろう。

 

果たして、悠斗はデッキから落とされたモンスターに戦慄した。

 

 

“インフェルノイド・ヴァエル”

 

 

自己蘇生効果を持つインフェルノイドの最上級モンスターの1体。

ヴァエルの効果はいくつかあるが、悠斗を戦慄させた効果はただ1つ。

 

 

戦闘終了後、場のカードを1枚除外する。

 

 

この効果は、“対象を取らない”上に、“破壊もしない”。

 

 

スレイヤーは墓地へ送られることで後続を確保する。

例えやられても、次の展開に繋げることができる。

 

しかし、ヴァエルが悠斗の場のウイルスソードマンと戦闘を行うことで、その戦闘の終了時に除外効果が起動する。

つまり、スレイヤーを維持することも、スレイヤーを墓地に送ってリソースを確保することも、そのどちらも叶わなくなる。

 

 

そして、その動きを今の悠斗が止める術は……無い。

 

 

「インフェルノイド……ヴァエル」

 

 

墓地から蘇生されたそのモンスターを、悠斗は見ていることしかできなかった。

 

箱木宝明にとって、ヴァエルの採用は、ヴェンデットを仮想的としたものではないだろう。

数ある選択肢の1つに、ピンポイントで悠斗の盤面に刺さるものがあってしまったというだけだ。

 

 

悠斗の指先から感覚が無くなっていった。

 

 

この一ヶ月、悠斗はこのヴェンデットと向き合った。

コミュニティを失い、志を同じくする仲間と出会い、そしてコミュニティが形成された。

 

悠斗に居場所をくれたデッキ。

そのデッキを勝たせようと悠斗は努力した。

 

 

インフェルノイド・ヴァエルは、悠斗達が築き上げた研究の全てを一蹴した。

 

 

無ずすべもなく除外される悠斗の相棒。

あれほど強大に、支配的に思えたアンデットのヒーローは、環境外からの刺客によっていとも簡単に除外された。

 

 

「何で……何でだよ!!」

 

 

悠斗は拳を握る。

モニターを睨む。

 

 

努力した者が必ずしも報われるとは限らない。

 

 

それが世の常だということは、これまでの人生から悠斗は嫌というほど知っている。

 

ただ悠斗は、お世話になったAttoに、しのびたるとに、そしてスレイヤーに、勝ったと報告がしたかった。

 

ただ、それだけだった。

 

 

「……畜生ォ……」

 

 

爪が食い込むほど握りしめた拳はほどかれ、虚ろな目でモニターを見つめる。

悠斗に次の展開ができるだけのリソースは、既に無い。

 

時間も、熱量も、たった1ターンに全てをオールインして掴み取りに行った悠斗の勝ち星は、僅か1枚のカードによって阻まれたのであった。

 

 

 

 

試合終了後。

悠斗は通話へ戻った。

 

悠斗が対戦にかかったターン数は僅か。

2ターン目以降はドローゴーに近い展開となったため、Attoもしのびたるともまだ対戦中のようだ。

 

「2回負けるまでは大会は終わらない。俺が優勝するなら、きっとまたインフェルノイドと戦うことになる……」

 

悠斗はインフェルノイドのカード情報を読み込み、どのカードが採用されているのか目星を付けていった。

 

しばらくして。

 

「悠斗さん、今終わりました」

 

Attoは探るように普段よりやや低い声で通話に入ってきた。

 

「Attoさん、お疲れ様です。どうでしたか?」

 

「何とか勝てました……悠斗さんは?」

 

「僕は負けてしまいました」

 

はははと乾いた笑いで悠斗は返した。

しばらくの沈黙。

Attoが言葉を返すよりも早く、しのびたるとが通話に入ってきた。

 

「お疲れ様です、勝ちました」

 

「たるとさん、おめでとうございます!」

 

「しのびさん、ナイスです!……僕は負けました!」

 

するとまた再び僅かな沈黙。

しかし、次の対戦が始まるまでの時間は限られている。

悠斗は強引に気持ちを切り替え、必要な情報を共有していく。

 

「2人とも気を使ってくれるのは嬉しいですが、優勝以外はどこかで負けます。僕は大丈夫です。それよりも、2人の耳に入れておきたいことがあります。」

 

悠斗は対戦した箱木宝明がインフェルノイドを使用していたこと、デモリッシャーを付与したスレイヤーが突破されたことを話した。

 

「なるほど……。インフェルノイドですか。デッキ自体は何度か見たことがありますが、大会に持ち込めるレベルで完成したものは知りません。新しい構築かもしれませんね」

 

「Attoさん、対策はありそうですか?」

 

しのびたるとが鋭く質問をする。

 

「たるとさん、Yutさん。今聞いた情報だけだと、箱木さんのインフェルノイドは純構築のように思えます。もしそうなら、自分の場に残すモンスターを付与スレイヤーのみにすることで対応可能です。ヴァエルはスレイヤーの攻撃力を超えられず、攻撃をしなければ除外効果を使用できません」

 

「なるほど……」

 

悠斗はただただ感心した。

傾向と対策、今ある情報を統合して答えを出す。

味方として戦うには、Attoはあまりにも心強かった。

 

「ただ……」

 

「何です?」

 

歯切れの悪いAtto。

数週間の付き合いでも、Attoがこう言い淀む時がどういう内容なのか見当がつく。

 

「Attoさん、推測でも構いません。教えて下さい」

 

「Yutさん……。では、ここからは僕の推測です。インフェルノイドはその事故率から、デッキとしての完成度は高くありませんでした。とは言え、デカトロンがデッキの全インフェルノイドにアクセスできるのはかなり強力です。たた、僕が知る限り、デカトロンをサーチする方法はありません。もしそれを箱木さんが見つけていたのだとすると……発見では生温い、革命になり得ます。それ程パワーを秘めたテーマです」

 

「詳細な採用に関しては更に配信卓に映らないと分かりませんね……。Attoさん、ありがとうございます。Yutさん、勝ち続けさえすれば、また僕たちで戦えます。引き続き頑張りましょう。情報ありがとうございます!」

 

第2回戦のアナウンスと共に、しのびたるとは早口で要件を伝え通話から退出していった。

 

「たるとさんの言う通りですね。僕もYutさんと戦えることを楽しみにしています」

 

「ありがとうございます。Attoさんと当たったらハイパー上振れで勝たせてもらいます」

 

Attoは声を上げて笑う。

 

「いやいや、実力で勝って下さい。それくらいの力が今のYutさんにはありますから。……では、僕も2回戦行ってきます」

 

そう言ってAttoも通話から退出した。

1人残った悠斗の胸にまた火が灯るのを感じ、敗者トーナメントの対戦相手を確認する

 

 

「……Attoさん、そりゃリップサービスが過ぎますって。僕はまだ、実力じゃあなたに叶いません」

 

 

悠斗も通話を切る。

次の対戦の席に着いた。

 

 

対戦前に宙に舞うコインを見つめる。

 

 

「ただ……ただ、勝ちたい気持ちなら! Attoさんにだって、しのびさんにだって負けません。上振れでも何でも、勝ちは勝ちだ!」

 

 

悠斗の気持ちに呼応してか、コイントスは先攻を示す表面が金色に輝いていた。

 

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