よろしくお願いします。
第一回戦が終了し、途中経過が配信で表示される。
配信コメントは依然盛り上がっていた。
『第一回戦の配信卓に映ってたのはマジェスペクターvs破械ラビュリンスだったね』
『他の選手どんなデッキ使ってんだろ』
『しばらくヴェンデット一強だったからなぁ』
『ってかAttoさん勝ってるぞww』
『流石のAttoさんも今回はヴェンデット使ってないでしょ』
『knoxさんも勝ってるな』
『強い人は何使っても強いってことなんだろうなぁ』
『Nadiaはボスステージ勢か。早くも負けちゃったみたいだね』
1回戦を突破した者、敗者トーナメントに移った者。
環境の変遷を鋭く読むコメントも散見される。
第2回戦の開始が告げられた後、悠斗はモニターに映る対戦相手を見ていた。
「よし……!」
コイントスは金色。
つまり先攻だ。
そして、画面右上には双眼鏡のマーク。
これは第三者によるリアルタイムでの観戦を意味している。
今大会においてプレイヤー同士での観戦は禁止されている。
つまり、このマークが示す意味は、自分が配信卓として主催者である真佐まつりに選ばれているということ。
トーナメントの仕様上、勝ち上がることで同時進行する対戦の数が減り、配信卓に乗る可能性は増える。
しかし、まだ第2回戦。
それも悠斗がいるのは敗者トーナメントだ。
この序盤で配信卓に選ばれるとは思っていなかった。
恐らく、真佐まつりはビッグネームが勝ち上がることを信頼しているのだろう。
彼らの使用しているデッキはトーナメントの終盤で披露しようという計らいか。
「そうか……今回は配信卓か。思えば大会で選ばれたのは初めてだな」
悠斗は普段表示されない双眼鏡のマークに若干の違和感を覚えつつ、不特定多数に見られているという僅かなプレッシャーを感じた。
「これがAttoさんやknoxさんが通ってきた道……やる気が出るってもんだぜ」
ニヤリと笑った悠斗はもう一度目を閉じ……そして開いた。
悠斗の眼差しが鋭く光る。
雑念を振り払い、相手との対戦に集中した。
先攻を取った初手を確認する。
刻々と減っていく持ち時間を気にしつつ、冷静に情報を処理していく。
「先攻は貰った。相手のデッキは分からない。俺の初手で作れる盤面は……」
はっとした。
この手札は……。
「ははっ……こりゃあ、いいエンタメになりそうだな」
稀にくる豪運。
悠斗はこのデッキを何百回回しただろう。
その確率は、悠斗達が共有したデータに照らし合わせると僅か数%。
しかし、その確率に、その可能性に今ここで気付けたのは、地道に回した背景があるから。
悠斗は多少時間を減らすことを厭わず、一手一手慎重に展開を進めていく。
効果を発動し、墓地を増やし、盤面を強化していく。
確実に紡いだそのルートの最後尾。
悠斗のクリックに呼応したそのカードは、登場と共に盤面を大きく揺らした。
「これで……最後だ!」
展開にミスは無く、見る者誰もが目を奪われた。
かつて環境を支配したヴェンデット。
厳しい規制により、環境から姿を消したヴェンデット。
今の悠斗が使うデッキは、全盛期のそれではない。
しかし、このテーマを愛するプレイヤーによる弛まぬ研鑽の末、構築は開拓され、展開ルートが整った。
悠斗がこの舞台で相手に叩きつけた展開は、その中でも最上の上振れーー。
「おいおいおい、こいつはまた……」
ぽん酢はスマホを通して配信を見ていた。
家庭の都合で第4回真佐杯に出場することは叶わなかった。
そのことを通話で長々と愚痴を聞かされたknoxが、途中からマスターデュエルを開いていたことは言うまでもない。
ぽん酢は大会の配信を見ながら洗い物をしていた。
その配信卓には、かつて研究を共にした友人が映っていた。
第3回戦真佐杯後、ヴェンデットが規制され、knoxやぽん酢が参加していた研究会は実質的に解散した。
その後徐々に対戦部屋に姿を現さなくなった友人。
monoからは、NRを引退したわけではないと聞いていた。
knoxからは、彼が本当に強者であるならば、また戦える時が来ると言われていた。
ぽん酢は、その友人の動向が気になってはいたものの、仕事に加え、一歳になろうかという娘の世話で手一杯でもあった。
ぽん酢は自分が好きなNRを、友人がまだ好きでいてくれていることが嬉しかった。
そんな中始まった対戦。
ぽん酢の友人、Yutは先攻を取ってからしばらく動かなかった。
まさか回線が……?と古傷を抉られるような心配もつかの間、Yutはゆっくりと動き出した。
Yutが最初に出したモンスター。
堕ち武者
一ヶ月前、本気でヴェンデットを回し続けたぽん酢にとっても馴染みの深いアンデット族のカード。
そこから連鎖していく展開は、ぽん酢が知っているものもあれば、知らないものもあった。
一手一手を確かめるように、決して間違えることのないように進んでいくYut。
「何を狙ってる……? ランク8か?」
確かに、ランク8はヴェンデットミラーでは活躍しない前提のカードであったが、後攻1ターン目で戦闘破壊耐性のあるハートアースドラゴンを確実に処理できるデッキは多くない。
罠デッキが増えているのであれば、その選択は環境にマッチしていると言えるだろう。
「次は……おい、嘘だろ? ここからスレイヤーも出るのか?」
Yutはランク8であるドラッグラビオンを出した後、ヴェンデットの展開を続けた。
ぽん酢は思わず洗い物をしていた手を止め、画面を見つめた。
Yutはその画面の向こうにいる。
今、Yutはどんな顔をしているのだろうか。
Yutはあれからどんな道を辿って、今そこに辿り着いたのだろうか。
その完成した盤面を見て、ぽん酢は全身に鳥肌が立った。
そして、思わず笑っていた。
「はは……ははは。やっぱりお前はすげぇ奴だぜ、Yut!!」
最後にYutが叩き付けたモンスターはハートアースドラゴン。
その盤面には、ドラッグラビオンに加え、モンスター+魔法・罠除外の効果を付与したスレイヤーが立っていた。
配信のコメント欄は爆発したように流れた
『うおおおおおおお!??!?』
『すげぇぇぇぇ』
『ラビオンアースまでは分かる、レヴハウンド付与!!?』
『規制意味なかっただろこれwww』
『いやいやいや、手札オールインだぜ。返されたら終わりだろこんなもん』
『どうやったら返されるんだよww』
『アイツ誰だ? Yut?』
『しばらく前にNRサーバーで熱心に質問してた人いましたよね。その人では?』
『問題児☆爆誕!』
ぽん酢は完成した盤面とコメント欄と眺め、呟いた。
「対戦中だから見てないだろうけど……。Yut、お前は今NR界に、その名前を轟かせたみたいだぜ」
洗い物を再開したぽん酢の顔には、満面の笑みが浮かんでいた。
悠斗は拳を握った。
対戦相手は突破不可能だと考えたのが、場にリバースカードを1枚伏せてターン終了。
その終了時、悠斗のハートアースが炸裂し、相手のリバースカードを除外。
返しのターンで総攻撃を仕掛け、相手のライフポイントを削り取った。
敗者トーナメント二回戦。
悠斗、勝利。
第一回戦は負けたが、まだ終わっていない。
完璧な上振れだった。
しかし、その上振れであることに気づけたことこそが、悠斗の、悠斗達の研究の成果であるとも言える。
VICTORYの文字と共に勝利が確定し、背もたれに体を預けた悠斗はしばらくの間動くことができなかった。
またしても悠斗が1番早く対戦を終わらせていたため、しばらくしてから通話へ戻っても誰もいなかった。
配信を付けると、悠斗の対戦後に別のプレイヤーの対戦が映されていた。
「オルフェゴール……か」
スタンダードでも人気のテーマで、墓地から除外を介して場にモンスターを供給し続けるテーマだ。
展開のゴールはNRにおいてかなり希少なリンク4モンスター。
“オルフェゴール・オーケストリオン”
除外状態のカードをデッキに戻しつつ、相手モンスターを無力化するエースモンスター。
しかし、オルフェゴールはモンスターを墓地に送るプロセスを踏まなければその強力な効果は使用できない。
その為のギミックだろう。
オルフェゴールを使用する、Nadiaという選手が採用していたカード。
“星遺物の醒存”
デッキの上から最大4枚を墓地に送ることが可能なカード。
オルフェゴールと星遺物はテーマとしての親和性が高い。
別テーマを無理やりドッキングさせた時に感じる違和感は一切感じなかった。
悠斗の後に選ばれたその配信卓では、醒存からオルフェゴールが墓地に落とされ、グングンと展開が伸び、その圧倒的な物量で相手を押し潰していた。
ボスステージからの参加者であるNadiaが、オルフェゴールを使用して暴れまわっている……。
「お疲れ様です」
悠斗が呆然として配信画面を眺めていると、対戦を終えたしのびたるとが通話に入ってきた。
「あ、しのびさん、お疲れ様です。」
「どうでした?」
「勝ちました。配信卓で超級の上振れを先攻で押しつけました」
「やりましたね。大会後にアーカイブを見るのが楽しみです。僕は、負けてしまいました。」
「しのびさんも……ですか。相手は何でしたか?」
「よく分かりません」
「……と言うと?」
「僕の考えた最強のデッキって感じでした。揃ったら勝ちみたいな。上振れ下振れが激しいデッキだと思います。何ならプレイヤー名もきぶんしだいでした」
「プレイヤー名がデッキを表している……?」
「どんなプレイヤーなのか、凄く興味が湧きました」
「まぁ上振れは仕方ないですね……。それはそれとしてですが……」
「どうしました?」
しのびたるとは怪訝そうに聞いた。
「今配信卓に映っているデッキを見てほしいです。これはオルフェゴール。星遺物と組み合わせて妨害も用意した型に思えます」
「配信を付けました……なるほど。展開力も、妨害もありますか」
そこへAttoが通話へ入る。
「お疲れ様です。先に言いますね。勝ちました」
「Attoさん!」
「何で当たり前のように勝ててるんだ…?」
「先攻ラビオンアース押しつけました」
Attoはそう言って笑っていた。
だが、その視線はトーナメント表に向いているよ。
「Yutさんは敗者トーナメントで勝ち、たるとさんは2回戦負けで敗者トーナメント落ちですか」
「はい。そこで、今しのびさんと情報を共有してました」
Attoは黙って聞いていた。
悠斗が上振れを押し付けたこと、しのびたるとが上振れを押し付けられたこと。
配信卓では敗者トーナメントではあるものの、ボスステのNadiaが星遺物オルフェゴールで暴れ回っていること。
「このオルフェゴール、どう思います?」
しのびたるとが聞く。
Attoは少し考えた。
「正確なことは分かりません」
いつもの返答だった。
「僕個人としては……」
少しだけ間を置く。
「強いと思います。オルフェゴールはNRでも元々かなり強いテーマでしたからね。構築の正解は見つかってなかったと思いますけど」
「……でもAttoさん、それって変じゃないですか?」
「何故ですか? たるとさん」
「インフェルノイドはまだ分かりませんが、オルフェゴールは見ている限り、かなり強そうです。そんなに強いデッキが新しくポンポン出てくるのって何か変だなって」
悠斗も確かにそうだと思った。
「そうですね……僕は第2回真佐杯からNRを始めました。たるとさんは?」
「僕もそうです。Yutさんも同じくらいだったはず」
ふーむと考え込むAtto。
やがて答えが出たように話し出す。
「第1回真佐杯までは、日本でNoRichesを使用した大会は開催されていなかった。つまり、NRで強さを求めればメガリス、それ以外はビルダーによるコンボ発表会の意味合いが強かったと思われます。」
「あーー……なるほど」
しのびたるとは納得したように呟くが、悠斗はイマイチピンとこない。
「しのびさん、何がなるほどなんですか?」
「Yutさん、今回は第4回真佐杯ですけど、これまでの大会を思い出して下さい。NRが競技として行われてから、強いデッキを作ろうと新しいテーマを考えたプレイヤーはいましたか?」
「あー……はは。確かにそうですね。」
Attoが何を言いたたいのか、悠斗も理解した。
第1回〜第2回は、チラホラ競技らしくないデッキも参加していた。
そこがNRの魅力でもあるかもしれないが、大会を重ねる毎に、参加者は勝ちに飢えてくる。
競技として成り立ち始めたNRだが、第2回から第3回にかけてはヴェンデット1色で、ヴェンデットが規制された第4回にしてようやくフラットに競技志向のデッキが考えられ始めたということだ。
「ってことはつまり、NRの研究を遅らせたのはある意味Attoさんなんじゃ……?」
「……。」
一瞬の沈黙。
「まぁ、ボスステージとの対戦があったりしない限り、海外との差なんていいんですよ。むしろ国内より研究の進んでいるボスステージすら破壊したデッキが誕生したことを誇りに思うべきです」
Attoも思うところがあったのか、やや早口であったのを悠斗は聞き逃さなかった。
「とは言え……今配信卓の対戦が終わりましたね。この“星遺物オルフェゴール”とでも言いましょうか。物量を揃える展開力、妨害、リソース循環。ぽっと出のデッキとは思えない完成度の高さです。1回戦は不運で負けたのかもしれませんが、ボスステージのNadia、彼は要注意ですね」
「インフェルノイドの箱木さんも勝ち続けてますね」
「もちろんそちらも強いです。しかし……そうですね、今見ている限りでは、この環境で作られた新デッキの到達点は、星遺物オルフェゴールかもしれません。敗者トーナメントから勝ち上がれるか、楽しみですね」
そう言うAttoは挑戦的で、とても楽しそうだった。
通話が終了し、各自準備に移る。
第2回戦が終了し、第3回戦が始まろうとしていた。
Attoも、knoxも、あの箱木宝明も勝ち上がっている。
悠斗は敗者トーナメントでの対戦者を確認した。
Nadia
NoRichesの総本山、ボスステージからの刺客。
星遺物オルフェゴールを携え、敗者トーナメントで猛威を奮う新時代のデッキ。
敗者トーナメントでは、悠斗がNadiaを止めさえすれば、次に進んだ時に当たるのが……しのびたると。
勿論、しのびたるとが勝ち上がればの話だが。
しのびたるととは、幾度となく調整で対戦した。
勝率は恐らく五分に近い。
お互いが前を走るわけでも、後ろから追いかけるわけでもない。
肩を並べてAttoに追いつこうとした仲間。
戦いたい。
悠斗はそう思った。
「ならまぁ……Nadiaさんには悪いけど、ここは勝たせてもらおう。新時代の到達点さん、対戦よろしくお願いします」
悠斗は自らに気合いを入れ、来たるべき決戦に辿り着くために目の前の大きな壁に挑むのだった。
その悠斗の表情もまた、挑戦的な、楽しそうな笑みを浮かべていた。