よろしくお願いします。
第三回戦。
悠斗はモニターを見つめていた。
対戦相手。
Nadia。
Boss Stage所属。
使用デッキ。
星遺物オルフェゴール。
「さて……」
悠斗は首を回す。
次に勝てば、しのびたるとと当たる可能性が高い。
それに加え、相手は新時代のデッキ。
その正体も知りたかった。
「よろしくお願いします」
チャットを送る。
返事は短かった。
「Hi」
初めて見るネイティブの挨拶。
英語の授業では毎回始まる時に長々と挨拶をしていた記憶があるが、本場の挨拶はこうも短いものなのか。
「Nice to meet youとか打たないでマジでよかった。恥かくところだったあっぶねぇ」
悠斗は予想外の盤外戦術を食らいつつ、いつものルーティンで集中し直す。
コイントスは……後攻。
「まぁさっきは運で大勝ちさせてもらったからな。コイントスはしょうがない」
悠斗は初手を見る。
完璧ではないにしろ、悪くはない。
儀式召喚するためのパーツは揃っている。
「十分だ」
先攻で盤面を作られたとしても突破の目はあるだろう。
目を凝らし、Nadiaの先攻を見守る。
Nadiaが最初に発動したカード。
星遺物の醒存。
「来たな……」
配信卓で見たカード。
デッキの上から5枚めくり、星遺物カードを1枚手札に加え、残りを墓地に送る。
めくった中から1枚でも星遺物カードにヒットすれば、手札の枚数を減らさずに墓地を4枚増やすことができるということ。
そして恐らく、星遺物カードのヒット率は構築段階で計算済みだろう。
Nadiaは思惑通り、星遺物カードを手札に加え、墓地を肥やす。
「何だこのインチキ効果……この強さでこれまで誰も見つけてなかったっておかしいだろ」
悠斗は独りごちる。
当然手札誘発など入っていないNRヴェンデットでは、相手の展開を黙って眺めることしかできない。
そして、醒存の一枚から全てが始まった。
オルフェゴールが落ちる。
墓地から除外し、効果を発動。
オルフェゴールを特殊召喚し、また効果。
また特殊召喚。
盤面が次々に増えていく。
墓地も増え、除外も増える。
オルフェゴールは、デッキも、手札も、墓地も、除外ですらもリソースとしてカウントされる。
展開が進む事に、デッキに集中していたリソースが分散されていくことで、扱える枚数の総数は増えていく。
Nadiaがリンク召喚を行い、巨大な機械の指揮者が現れた。
オルフェゴール・オーケストリオン。
悠斗はカードテキストを改めて確認する。
そして、顔をしかめた。
「コイツ本当にRなのか……?」
攻撃力3000の高スタッツ、効果破壊耐性、除外されたカードをデッキに戻しながら相手モンスターに対象を取らない弱体化。
誰がどう見てもそのテーマのエース級だ。
そして、除外まで利用するリソース循環。
これは半永久的にデッキが稼働することを意味している。
「おいおい……」
悠斗は苦笑した。
強い。
それはもう分かっていた。
だが、実際に目の前で動かされると印象が違った。
Attoは言った。
この環境の到達点かもしれないと。
その感想が一番近いのだろう。
その動きには、確かなパワーを感じた。
Nadiaの盤面はオーケストリオン、伏せカードが2枚。
長かったぜ1ターンが終わり、悠斗に返ってきた。
「行くぞ……!」
ここからだ。
ここで返せなければ、Nadiaのオーケストリオンに除外されたカードを回収し続けられ、展開が終わることなく物量で負ける。
相手の伏せは警戒すべきだが、生憎悠斗の手札に妨害を剥がしながら展開できる余裕は無い。
通れば逆転、通らなければ負け
シンプルな力勝負だ。
悠斗は展開を始めた。
逐一光る、Nadiaのチェーン確認にプレッシャーを感じる。
しかし意外にも、悠斗の展開が妨害されることはなかった。
デモリッシャー+モンスター除外効果を付与したスレイヤーを着地させることに成功したのである。
「ここまでは……通った?」
Nadiaは意外なほど静かだった。
こちらの動きを見張るように、画面越しでも伝わるような圧を放ちながらも、悠斗の展開中にNadiaが動くことはなかった。
「オーケストリオンには退場していただかなくちゃならない。スレイヤーのモンスター除外効果の発動はどうだ……? スレイヤーには対象耐性がある。生半可な妨害じゃ止められないぞ」
ここで通れば恐らく勝ちだが……しかしここで、Nadiaがスレイヤーの効果にチェーンした。
「いやまぁ、流石に何か妨害はあるよな……。ただ、対象耐性のあるスレイヤーをどうやって妨害するんだ?」
Nadiaが発動したカード。
“星遺物に眠る深層”
「何故このタイミングで……?」
星遺物に眠る深層
この永続罠には2つの効果がある。
1つ目は墓地の最上級モンスターを蘇生させる効果。
2つ目は場のジャックナイツモンスターと同じ縦列のモンスター効果を無効にする効果。
Nadiaの場にジャックナイツモンスターはいない。
よって、1つ目の効果しか適応されないはずだ。
「無効効果を使用して相手モンスターの妨害をするならジャックナイツモンスターがいなきゃならないが……?」
蘇生対象を選択したNadiaは、2枚目の伏せカードをさらにチェーンする。
“星遺物の機憶”
カードのテキストを読み、悠斗は愕然とした。
「ジャックナイツモンスターを、デッキから特殊召喚だと!?」
チェーンの逆順処理により、紺碧のジャックナイツがデッキからスレイヤーの正面に現れる。
そして、星遺物に眠る深層によりスレイヤーの効果が無効化された。
「展開力だけじゃなくてフリーチェーンの妨害かよ! しかもスレイヤーの対象耐性も突破できる妨害!?」
何より悠斗が驚いたことは、深層も、機憶も、星遺物カード。
つまり、サーチ手段が豊富にあるということだ。
オルフェゴールによる展開力
ジャックナイツの再現性のある妨害
それを支える星遺物
親和性の高い3つのテーマが完璧に噛み合った構築。
「これは……強いなんてもんじゃないだろ」
冷や汗を流しながら、悠斗は盤面をもう一度見返す。
Nadiaの場にはオーケストリオン、紺碧のジャックナイツ、星遺物に眠る深層。
「紺碧のジャックナイツか……」
悠斗はここで大きく時間を使う。
紺碧のジャックナイツは、フリーチェーンでこのターンにもう1度だけ空いている自分のモンスターゾーンに移動する効果を持っている。
当然、移動した先の縦列にいる悠斗のモンスター効果は深層により無効となる。
つまり、もう1度深層の無効効果が使用可能ということだ。
「ここで付与スレイヤーを崩しても……無駄か。この手札じゃ、もう1度妨害効果を超えてオーケストリオンを倒すことができない。紺碧のジャックナイツの守備力はスレイヤーと同じ。戦闘で突破することもできない」
悠斗は静かに、ゆっくりと、背もたれに背中を預けた。
「残る勝ち筋は……相手のミスと、回線落ちくらいか?」
悠斗はぽん酢の敗北を思い出し、苦笑する。
「勿論ターンが経過すれば逆転の芽は出るかもしれない。無駄な足掻きだと思われようが、最後まで付き合ってもらうぜ」
悠斗はそのままNadiaにターンを返す。
悠斗のスレイヤーは対象耐性を持ち、墓地の儀式魔法であるボーンを除外することで破壊耐性がある。
1〜2ターン耐えてくれさえすれば、手札を増やすこともできるかもしれない。
だが。
Nadiaの操る星遺物オルフェゴールは甘くはなかった。
スレイヤーの効果は深層により縛り付けられたまま、オーケストリオンを素材にリンク召喚。
強引にスレイヤーにリンクマーカーを向け、再びオーケストリオンが降臨する。
オーケストリオンの効果が発動し、リンク先のモンスターであるスレイヤーの攻撃力が0に変更された。
「ここまで……か」
残りはオルフェゴールお得意の物量であっさりと総攻撃力が8000を超える。
勝負は決し、悠斗のライフポイントがゼロを刻んだ。
モニターに表示される敗北。
悠斗はしばらく動かなかった。
悔しい。
悔しいが、悔しさだけではなかった。
「なるほどな……」
悠斗は天井を見上げる。
これが。
到達点か。
誰もがヴェンデットを倒そうとし、その功績を讃えられ、ヴェンデットは規制された。
かつて環境を支配した王。
その王を失った玉座へ、新しい挑戦者が座ろうとしている。
星遺物オルフェゴール。
新しい環境。
新しい研究。
新しい強者。
そして。
新しい王。
悠斗は環境の移り変わりを感じつつ、その新たな風に心地よさを感じていた。
しばらくして、悠斗はトーナメント表を確認した。
しのびたるとは敗者トーナメントで勝利、Attoも3回戦を突破し、準決勝へ駒を進めている。
悔しい。
またしても、悠斗は先に負けてしまった。
しかし、大会はまだ終わりではない。
悠斗の仲間が勝ち上がるために、自分が見たものや感じたことを共有する。
同じデッキを信じた仲間達が勝てる確率を少しでも上げるために。
悠斗は通話へ戻った。
しのびたるともAttoも既におり、お互いに情報を共有していた。
「お疲れ様です。残念ながら、Nadiaさんに負けました。」
「Nadiaさんですか……どうでしたか?」
悠斗は少し考える。
「細かいメカニクスは後程話しますが、総括すると強かったです。」
「まぁそりゃそうですよね。Attoさんからも高評価でしたし」
「僕のは印象としての評価でしたが……その評価を確定させましょうか。Yutさん、メカニクスの説明をお願いします」
オルフェゴールのリソース、物量、妨害、悠斗が見たものを伝え、事実を伝えきった後は私見を交えて考察を展開していく。
「そうですね……醒存で汎用の除去札が墓地に落ちたのなら、恐らくそのカードは3枚入っているでしょう。貴重な情報です。ありがとうございます」
「配信卓でも強かったですけど、何が強いのかが分かるとデッキの完成度に驚きますね……次戦うの嫌です僕」
「しのびさん。ファイトです!」
「勿論頑張ります。先攻上振れ期待しといて下さい」
「あはは。待ってます。そういえば、トーナメントで結果は確認しましたが、Attoさんは第3回戦どんな勝ち方だったんですか?」
「……先攻ラビオンアースです」
「2連続ゥゥ!?」
「僕もAttoさんから聞いてビビりました。まぁそうあれとデッキを組んでいるので狙い通りと言えばそうなんですけど……ただ、いくらなんでも徳を積みすぎじゃないですか?」
「そうですね……たるとさん、ただ、もちろん今回も僕は部屋の掃除はしました。きっとそれのおかげです」
「いやいや、僕も掃除はしましたけど、にしても運に差がありすぎじゃないですか? Attoさんひょっとして雑巾がけとかまでしたんですか?」
しのびたるとが冗談交じりに言う。
Attoは笑いながら否定した。
「流石に雑巾がけまではしてないですよ! 今回はリビングと寝室、仕事部屋と子供部屋とベランダの後に庭を……」
「「あっ、もういいです。ホントすみませんでした」」
「えっ、あっ……え? どうしたんですか2人とも」
「「調子こいてましたすみませんでした」」
悠斗としのびたるとは見事なシンクロを決めたのだった。
「はぁ……何だか若干気が抜けましたが、お陰で緊張はほぐれました。Nadiaとの対戦行ってきます。Attoさんは準決勝頑張って下さい」
「そうですね。相手はきぶんしだいさんなので、たるとさんの敵討ちをしてきます」
「はい、よろしくお願いします。ではまた後で」
「僕は応援してます! 2人ともファイトです!」
2人が通話からいなくなり、若干の寂しさを覚えつつ、悠斗は配信卓に映る箱木宝明の対戦を見始める。
「箱木さんのインフェルノイドには⋯⋯ラビュリンスも入っていたのか」
実況の真佐まつりが私見を交えつつ、デッキのメカニクスを解き明かしていく。
そして、戦慄を覚えた。
悠斗が戦った時のそのデッキは、インフェルノイドのみのギミックで、最短でスレイヤーを突破していた。
しかし、対戦卓で見たそのデッキは罠で粘り、相手のリソースを削ぎ落とし、ジワジワと首を絞めていくような強さを見せていた。
悠斗と戦ったあの時は、そのデッキの強さの鱗片にしか気付いていなかったのだ。
食い入るように画面を見つめ、思わず呟いた。
「おいおいおい……このインフェルノイドラビュリンス、こりゃ相当強いぞ……?」