よろしくお願いします。
第四回真佐杯。
トーナメントは進み、第4回戦を迎えようとしていた。
実況の真佐まつりが現在の進行を確認し、準決勝の組み合わせが発表される。
Atto vs きぶんしだい
箱木宝明 vs モリンフェン/バスター
コメント欄も盛り上がり、流れる速度が増していく。
『Attoさんまた残ってるぞwww』
『次こそAttoさんの対戦卓選んでくれ! 俺達に何のデッキを使ってるのか見せてくれ!』
『これでヴェンデットだったら笑う』
『Yutさんもしのびたるとさんもヴェンデット使ってたからマジでありそうww』
『ヴェンデット死んだんちゃうんかい!』
『いや流石にAttoさんとは言え今のヴェンデットで全勝は無理があるでしょ』
『ってかknoxさんいつの間にか負けてるやんけェ!』
『ちらっと配信卓に映ってたけどNadiaと同じ星遺物オルフェ使ってたな』
『ボスステに寝返ったんかknoxゥウ!!?』
『あーYutさんNadiaに負けちゃったのか』
『流石に星遺物オルフェはキツかったか』
『ワンチャンあるかと思ってたんだけどなぁ』
『ってか箱木さんのノイドラビュあれヤバくない?』
『The☆NRって感じの罠デッキ』
『シナジーが美しすぎる』
『NR新しいデッキ開拓されすぎだろwww』
悠斗は真佐まつりの進行を聞きながらコメント欄を眺める。
まさか自分の名前が出てくるとは思わなかったが、そう言えば自分の対戦が配信卓に選ばれていたことを思い出す。
「後でアーカイブを見直すか……っと、まずは目の前の事に集中だ」
第4回戦は、残念ながらAttoもしのびたるとも配信卓に選ばれることはなかった。
配信卓に選ばれたのは箱木宝明vsモリンフェン/バスター。
Attoも、しのびたるとも必ず勝ち残るはずだ。
悠斗はあの2人の強さを、そして、あの2人と共に作ったデッキを信じている。
そのために今自分ができること。
それは、2人が対戦するデッキの生きた情報を伝えることだ。
インフェルノイドラビュリンスのメカニクス、採用札、デッキ枚数から逆算した各カードの採用枚数、ヴェンデットが目指すべき先攻盤面……。
どれもヴェンデットを知り尽くした悠斗にしかできないサポートだ。
悠斗は静かに始まった対戦を、息を殺して見守った。
「箱木さん……あんたのデッキは、俺と戦ったときみたいなヴァエルの一発芸なんかじゃなかった。インフェルノイドラビュリンス、今なら分かる。これは紛れもない傑作だ。じっくり研究させてもらうぜ……俺達のスレイヤーの為にな」
画面の向こうで、準決勝が始まる。
敗者トーナメントの第4回戦。
しのびたるとは静かに深呼吸をした。
対戦相手はYutに勝利したNadia。
所属はBoss Stageで、使用デッキは星遺物オルフェゴール。
「よろしくお願いします」
チャットを送る。
Nadiaから短い返信が来る。
「Hi」
これがネイティブの挨拶なのだろう。
「これNice to meet youとか言わなくて正解だったな……恥かくとこだった」
思わず呟き、1人吹き出していた。
「ふふっ……Attoさんだったら何て挨拶するんだろ。あの人なら英語とか話せてもおかしくないよな。YutさんはNice to meet youとか打ってそう」
しのびたるとにとっては顔も知らない2人だが、もう何年も一緒に遊んできた友達のようにも思える。
その友達の1人であるYutが先程言っていた情報を纏めると、星遺物オルフェゴールの強みは“物量”と“妨害”。大きく分けるとこの2つだ。
物量に関しては正直どうしょうもない。
今のヴェンデットにオルフェゴールのリソースを削ぐような墓地メタは無いし、妨害と言ってもモンスター除外を付与したスレイヤーのみ。
これに関しては事故を願うしかないのかもしれない。
あのオーケストリオンも厄介だ。
リンクマーカーの先にいるモンスターを無力化することができ、理論上は全てのモンスターゾーンから好きな場所のモンスターを無力化できる。
そして、妨害。
分かっている範囲では、妨害は汎用除去札と星遺物に眠る深層の2種類だ。
汎用除去札は引かれたら仕方がない。
何とかケアできるように立ち回るしかないだろう。
一方で深層はサーチが効く。つまり、相手がきちんと展開できていれば、あるという前提で戦う必要がある。
ただ、妨害に使われる深層は永続罠だ。
スレイヤーに魔法・罠除外の効果を付与すれば、深層の発動にチェーンして除外することで、深層の妨害を防ぐことが可能となる。
これらの情報から、しのびたるとは先攻で目指す盤面として、デモリッシャーを絡めた対象耐性を付与する展開を外した。
深層を除外しなければスレイヤーが無力化され、モンスターを除外しなければオーケストリオンに無力化される。
つまり、モンスター除外+魔法・罠除外を付与したスレイヤーを用意する意外に勝ち目はない。
勿論、先攻で上振れてラビオンアース+モンスター除外を用意できればそれだけで勝てる確率はかなり高そうだが。
「とは言えだよな。徳を積むと言っても、僕はAttoさんほど家中の掃除をしたわけでもないし……ククッ、ダメだ。思い出しただけで笑えてくる。部屋の掃除って言ったら普通ゲームする部屋だけだと思うでしょ」
しのびたるとはひとしきり楽しんだ後、対戦の方針を決めて画面に向き直った。
「ふぅ……よし、やるか。よろしくお願いします」
敗者トーナメント第4回戦が、幕を明けた。
コイントスは裏。
後攻だった。
「そう甘くはないよな……さて、Nadia、どう来ますかね」
Nadiaはノータイムで魔法を発動する。
まるで引いたら使うと言わんばかりだ。
星遺物の醒存
「外したりしません? ……まぁしないですよね。墓地に落ちた4枚は……うわぁ」
しのびたるとは苦笑した。
やはりと言うべきか、醒存はNadiaの想いに応えるように星遺物カードにヒットして手札に加わり、5枚めくった内、残りの4枚が墓地に送られる。
怒涛の展開が始まるのを眺める。
聞いていた通りの理不尽な物量。
Attoが環境の到達点だと評価したのも納得だ。
Nadiaが用意した盤面は奇しくもYutの時と同じもの。
「Nadiaのフィールドはオーケストリオンに伏せカードが2枚……か。Yutさんの時は機憶からジャックナイツを出し、深層でモンスター効果を2妨害って言ってたな。伏せカードが汎用除去札の可能性もあるけど、Nadiaは展開途中でわざわざ深層とセットじゃなきゃ意味がない機憶をサーチした。つまり、もう1枚の伏せが汎用除去札じゃなくて、深層だってことはバレバレだ。そこは救いかな」
妨害は見えている。
そして、オーケストリオンを処理しなければ、Yut同様しのびたるとに次のターンは無いだろう。
しかし、同じ盤面、タネが分かっていれば超えられる。
ここ数週間、長いようで短い間、しのびたるとはAttoを見ていた。
「あの人は傾向と対策、仮説と検証を怠らない。2度同じ負け方はしないし、勝つ確信を持つために妥協しない。あの人から勝ち方を教わった僕だって、当然そうする」
しのびたるとはスレイヤーを儀式召喚し、そのスレイヤーを崩して場にレヴナントとヘルハウンドを並べた。
しのびたるとが手を動かす度、Nadiaが時間をかけて逐一チェーンを確認する。
Nadiaは探しているのだ。
機憶で呼び出したジャックナイツと深層による妨害で、しのびたるとの展開を止める場所を。
盤面に貼り付くように目を凝らし、一つ一つにタイムをかける。
ゆっくりと、時間をかけながらしのびたるとのフィールドを確認しーーー
「無いでしょ? 止めるところ」
しのびたるとは不敵に笑った。
しのびたるとが用意した展開は、モンスターが場で効果を発動することがなかった。
そのため、Nadiaの妨害は意味をなさない。
Nadiaはしのびたるとの後攻展開を止めることができなかった。
しのびたるとはNadiaの弾道線をくぐり抜け、場のレヴナントとヘルハウンドを使用し、モンスター+魔法・罠除外のスレイヤーを儀式召喚を通した。
「オーケストリオン、さようなら」
スレイヤーの効果でオーケストリオンを除外。
そこでもNadiaのチェーン確認が入るが、深層を発動したらスレイヤーの効果で除外するだけだ。
しのびたるとの読みは当たり、オーケストリオンの除外も通る。
バトルフェイズに移行し、がら空きとなったNadiaのどてっ腹をスレイヤーが殴りつける。
3割程のライフポイントを削り取った後、しのびたるとはNadiaへターンを返した。
「ここまでは上出来だ。後は、この妨害だけで防ぎきれるかどうか」
しのびたるとはモンスター+魔法・罠除外を付与したスレイヤー、墓地のボーンによる破壊耐性に全てを賭けた。
Nadiaはカードをドローし……そして、動きが止まった。
「何だ……? 何かを確認してるのか……?」
Nadiaは動かない。
あれほどこのデッキを使いこなしていたNadiaだ。
展開方法で悩んでいるわけではないだろう。
デッキに入っているカードの効果も当然把握しているはずだ。
しかし、しのびたるはその間が恐ろしく、冷たい汗が頬を伝うのを感じた。
突然の思わぬ勝機。
Nadiaは引いたカードを見つめ……盤面を見て、そして気が付いた。
それは、採用したカードに意図しない役割が生まれた瞬間だった。
当然、Nadiaは大会に向けてあらゆる仮想的と戦ってきた。
しかし、その中にヴェンデットはいただろうか?
誰もが研究を止めた、堕ちた王が敵になると思っただろうか?
答えは否。
Nadiaはここで初めて、採用したカードが想定していたよりも遥かに強力に使えることに気が付いた。
そしてその興奮が、沸き立つ肌が、テキストの確認と共に強くなっていくのを感じていた。
「ようやく沈黙が終わったか。さて何を見せてくれる……? っておい! まさか、そのカードはッッ!?」
Nadiaが召喚したカード。
“魔導騎士ギルティア-ソウル・スピア”
召喚時に高スタッツモンスターを、対象を取らずに除外する能力を持つモンスター。
しのびたるとのスレイヤーを完全に無力化することができるカード。
そして、擬似的に星遺物モンスターをサーチする効果も持っている。
Nadiaは汎用除去、デッキの潤滑油程度にこのカードを捉えていた。
しかし、今この現状において、これ以上のカードは無かった。
「スレイヤーのモンスター除外は、特殊召喚されたモンスターにしか使えない……つまり、ギルティアの効果に対して僕のスレイヤーは無力だ……」
しのびたるとはこのカードを知っていた。
第3回真佐杯
環境はヴェンデット1色と予想されたあの大会で、しのびたるとは勝鬨デッキを持ち込んだ。
全てはこのギルティアに可能性を見い出したことがきっかけだった。
コアによる対象耐性、付与による妨害、破壊耐性の全てを貫く槍。
その姿はまさにギルティアーソウルスピア。
「その僕が、まさかそのカードに刺されるとは……」
自らがヴェンデットを倒すために辿り着いた矛。
それは、採用されたデッキや経緯は違えど、しのびたるとを貫いた。
無ずすべもなく除外されるスレイヤー。
そして、しのびたるとのライフポイントを削る物量は、オルフェゴールにとって造作もないことだった。
0になっていくライフポイントを見つめ、しのびたるとは呟いた。
「負け……か。僕も、あなたみたいな景色を見てみたかったです……Attoさん」
画面に浮かぶ敗北の文字から、しのびたるとは目が離せなかった。
気持ちに区切りを付け、しのびたるとは通話に戻った。
「お疲れ様です」
通話にいたのは悠斗だけだったが、ほとんど同じタイミングでAttoも入ってきた。
「お疲れ様です」
「しのびさん、Attoさん、お疲れ様でした。結果はトーナメント表を見ましたが……しのびさんは残念でしたね」
「そうですね。まぁ悔しいですが、仕方ないです。後はAttoさんに託します」
「たるとさんは負けでしたか……どんな対戦になりましたか?」
しのびたるとはAttoに情報を共有する。
Yutからもたらされた情報と、それを踏まえた対策。その結果を。
「途中までは上手くいっていたんですが……手札から出てきたのは、ギルティアーソウルスピア」
「うわぁ……」
Attoの声が引きつる。
「それって、しのびさんが第3回真佐杯で勝鬨に入れてたやつじゃないですか?」
「そうです。ヴェンデット対策で真っ先に思い浮かぶカード。それが、星遺物オルフェゴールにも入っていました。ヴェンデットメタではなく汎用除去+星遺物のサーチとしての採用だとは思いますが」
「これは……厳しいですね」
「Attoさん、ギルティアって対策できるんですか?」
しのびたるとは聞いた。
自分が負けなかった方法はあるのかと。
「無くはないです。ヴェンデットチャージを伏せておき、ギルティアの除外に併せて発動すればスレイヤーをサクリファイスエスケープできるので、スレイヤーの墓地効果からまだ繋がります」
「でもそれって……」
「そうです。付与スレイヤーを崩すので妨害は無くなりますし、何よりデッキからヴェンデットモンスターを呼び出すチャージは自分のターンに展開で使いたいので、重ね引きが必要になるでしょう」
「厳しいですね」
「最も、ギルティアが3枚投入されていた場合でも、後攻1ターン目で引く確率は4割程度……半分以上は引かれない形になるので、そこが勝負かもしれません」
「賭けじゃないですか」
「確率ですよ。しかも分の良い。半分以上は引かれないんですから」
その答えはいかにもAttoらしかった。
引かれたら負けるが、引かれなければ勝つ可能性がある。
そして、引かれるかどうかは数字で見て判断する。
数字は根拠になり、根拠は自信になる。
「勉強になります」
「自分を納得させる材料を並べてるだけですよ」
「それで、Attoさんはどうだったんですか?」
そこでAttoは一瞬口をつぐむ。
しのびたるともトーナメント表を確認していたが、Attoは勝利していたはずだ。
「まぁ……勝ちました」
「歯切れが悪いですね。勝ち方ですか?」
「そうですね。今回も先行ラビオンアースでした」
そう言うAttoにしのびたるともYutも総突っ込みを入れた。
「「いやいやいやいやいやいや」」
「これがこのデッキのプランとは言え……自分でもびっくりです」
「「いやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいや」」
しのびたるとも悠斗も言葉を見つけられない。
確かに今の環境にマッチした戦術に基づいた構築をしたものの、それを引き寄せる圧倒的な運。
「いや……まぁ、狙っていた展開と言えばそうなのか。今のヴェンデットの構築で先行ラビオンアースだけをみるなら確率は低くない」
「そうですね、実際たるとさんもYutさんも、負けたのは稀代の新デッキ。つまり、環境外からの刺客です。それ以外のデッキにはきちんと勝てている」
「確かに言われてみればそうですね。僕達が負けたのは星遺物オルフェゴールにインフェルノイドラビュリンス。ただ、Attoさんの次の相手はその新デッキです」
「はい、Yutさん。今の準決勝、箱木さんが対戦卓だったようですが、何か分かったことはありますか?」
Yutは一つ息を吸い、対戦卓で見たもの、そこに加えられた考察を共有していく。
「はい。まず僕の結論ですが……このデッキに勝つのは難しいと言わざるを得ません」
第四回真佐杯。
決勝まで進んだそのトーナメントの組み合わせが指し示す意味は、堕ちた王と新時代の邂逅。
トーナメント表に残る名前。
Atto
その積み上げた実績に、今大きな影が這い寄ろうとしていた。