よろしくお願いします。
第四回真佐杯。
Atto対箱木宝明に決着が付いた後も、配信の熱は冷めていなかった。
『Attoさん負けた!?』
『いやむしろあの規制でここまで戦ってるの怖すぎんか』
『インフェルノイドラビュリンス優勝ありそう』
『いやでもまだNadiaがいる』
『敗者側の決勝戦が始まるぞ!』
『ってかNadiaさんの対戦相手のげんだって誰?』
『さっきknoxさんって判明してたぞ』
『またあいつwww』
『knoxさん頑張れ!』
『星遺物オルフェミラーか』
『ここまで残るってことはやっぱあのデッキ本物だな』
実況の真佐まつりも興奮し、声に熱が入る。
「さあ! 敗者トーナメント決勝です! Boss Stage所属、Nadia! 対するは、第1回真佐杯優勝、第2回、第3回準優勝、knox! その奪われた玉座、今回こそ奪還なるか!?」
悠斗は掌にじんわりと汗をかく。
この対戦の勝者がAttoと戦い、勝者は箱木宝明の待つ決勝へと返り咲くことができる。
残っているプレイヤーは全員実力者。
使用デッキは新時代の到達点。
「使用デッキは……両者とも星遺物オルフェゴール!」
「始まりましたね」
悠斗が呟く。
「はい。見ましょう」
Attoは先程までの激戦にやや疲労の色が見えたが、落ち着いていた。
先行で動いたのはNadia。
手札交換を行い、伏せカード2枚でターンを返す。
「これは……事故でしょうか?」
「たるとさん、まだわかりません。そもそも、このデッキは初動が安定していないように見えます。今のところ判明している初動は醒存と召喚権から動き出せるスクラップリサイクラーのみ。醒存もリターンは大きいですが、外したら手札を一枚損するだけです」
「つまり、動き始めれば最強ってことですか?」
「はい、僕の印象は、今のところそうなっています」
「というか、そもそも何でKnoxさんが星遺物オルフェゴール使ってるんでしょう?」
悠斗はNRコミュニティに属してから日が浅い。
Knoxのことはそれなりに知っているつもりだが、Knoxを取り巻く環境は知らない。
「そうですね……彼もきっと、負けず嫌いなんだと思いますよ」
「Attoさん……何か嬉しそうですか?」
「おっ、たるとさん鋭いですね」
「誰だって分かりますって」
やれやれと笑うしのびたると。
悠斗はAttoの言った意味が分からず、しばらく考え込むのだった。
後攻でKnoxはスクラップリサイクラーを召喚するも、Nadiaが深層と機憶を発動し、デッキから正面に場に出されたジャックナイツにより初動が無効化される。
「これは……初手に醒存も無し、頼みのリサイクラーの初動もつぶされたか。苦しいな、Knoxさん」
ぽん酢はソファーに座り、ハイボールの入ったタンブラーを傾ける。
対戦を見ながら、真佐まつりの実況に耳を傾けながら、ヴェンデット規制後のKnoxとのやり取りを思い出していた。
あの時もこのくらい静かで、このくらい涼しい月の綺麗な夜だった。
『ヴェンデットも規制されちゃったし、Yutさんも最近見なくなっちゃいましたね……Knoxさんはどうするんです?』
『そうですね……既存の環境デッキは正直どれも50歩100歩というところでしょうか』
『それじゃ、次の真佐杯は相当面白くなりそうじゃん!』
『……? 何でですか?』
『デッキの強さが一緒なら、上手い奴が勝つってことでしょ』
『まぁ、そうですね。そうなれば僕が優勝すると思います。ただ……』
『ただ?』
『先日、Boss StageのOceanからある誘いを受けました』
『Oceanって言ったらBoss Stageの優勝常連じゃんか。最近はDestiinyも勝ってるみたいだけど』
『時差の都合で日本人は中々参加できませんが……というか、ぽん酢さんはこっそり参加してるみたいですね。Boss Stageでも優勝できていないみたいですが』
『うるせぇ! 敵情視察だっての!』
『はぁ、そうですか。でも、実はBoss Stageの大会にも出てきてない……いわゆる、とっておきのデッキをOceanが開発しているらしいんです。その研究に誘われました。どうやら真佐杯に合わせて調整しているようで、僕を誘ったのは日本の環境についての情報収集も兼ねてるんでしょう』
『おぉ! そりゃ楽しそうだ……って、何で真佐杯? Boss Stageでいいんじゃ?』
『それはきっと、悔しいんでしょうね。第1回真佐杯において、僕は日本で研究された花札を使って優勝。その後Boss Stageでも優勝しました』
『花札意味わからん強さしてたもんなぁ。最初に使ってたのってまつりさんだっけ?』
『そうです。真佐さんの花札をブラッシュアップし続けました。そして、第2回』
『……俺たちは、いや、NR界はバケモノと出会った』
『はい。花札どころではない、規制のかかっていないメガリスでさえ勝てるか分からないデッキが誕生しました。その後、僕はヴェンデットを使い、またBoss Stageで優勝しています』
『なるほどな……つまり、真佐杯優勝デッキがBoss Stageで優勝している以上、日本の研究が実質世界一になってるってわけか』
『恐らくそう考えているんだと思います。Oceanはとても温厚なんですが……内にはきっと熱いものを抱えているんでしょう。あんな見え見えの負けず嫌い、そうはいないでしょうね』
『Knoxさんが人のこと言えるわけ?』
『どういう意味ですか?』
『いや……まぁ、いいや。Boss Stageでびっくりするようなデッキ完成させてきてくださいよ』
『はい。そういえば共同研究者にNadiaという新入りもいるそうでーーー』
「あの時のKnoxさん、楽しそうに話してたな。ふふっ……本人に言ったら否定するんだろうけど」
タンブラーを傾け、ぽん酢は静かに笑う。
画面では依然knoxは劣勢だ。
真佐まつりの実況がやけに大きく響く。
『Knoxさん! 長考の末、伏せカード1枚でターンを返しました!』
「……前に俺が今回の真佐杯に出れなくなって愚痴ってた時も、きっとこのデッキを開発してる頃だったんだろうな。Oceanも真佐杯に出られなくなって荒れてるとか言ってたか」
『Nadiaがカードを引き、盤面にモンスターを増やしていきます! これはこのターンに決着がついてしまうのか!?』
「第3回真佐杯……Attoさんに二連覇された時、Knoxさん、あんたは準優勝じゃ満足できなかったんだよな。あの大会じゃ、Knoxさんは直接対決こそしてないけど、研究で俺たちは明確に負けてた。その相手にリベンジする機会もなく、ヴェンデットは規制によってこの舞台から姿を消した……いや、実際には何故か今生きてるんだけどさ」
『Knoxさん! たった一枚の罠でNadiaの猛攻からかろうじて生き残った! 何という胆力! 何という冷静さでしょうか!』
「Attoの使うヴェンデットという、最強の相手にリベンジする機会を失ったあんたは、次の最強を求めた。いつか規制がなくなったヴェンデットに、あの怪物が使うバケモノにすら勝てるように前に進んだ。それも、海を渡るくらい進み続けたんだ」
『Knoxさん! 何とか反撃するも、Nadiaの妨害に阻まれ思うような攻撃ができない! 形勢はひっくり返ることなく、Nadiaにターンが渡っていきます!』
「Attoさんが現れるまで、Knoxさんは常に最強だった。なんなら、俺は今でもあんたが最強だと思ってる。勝ちたい相手を超えるために海まで超えて強くなろうとするあんたほどの負けず嫌いを、俺は知らない。だから……きっと、この対戦の負けの愚痴はすげぇ長いんだろうな」
『Nadiaの猛攻により、Knoxさんのライフは0を刻みます! 敗者側のトーナメントが決着しました! これより、勝者側のトーナメントで敗北したAttoさんとの決戦を……』
対戦が決着すると同時に、ぽん酢の画面の上にディスコードの通知が来る。
誰からのメッセージかは確認するまでもない。
「まぁ……普段は俺が色々聞いてもらう側だ。今回は何時まででも付き合ってやるさ」
笑いながらスマホを手に取るぽん酢。
タンブラーから澄んだ氷の音が聞こえた。
長期戦を見据えたぽん酢は、ウイスキーと炭酸を持ってきてからスマホを操作するのだった。
勝者
Nadia
コメント欄が爆発した。
『Nadiaきたあああ!』
『Boss Stage!』
『星遺物オルフェ強すぎる』
『knoxでも止められない』
『ぶっちゃけ先攻勝負みたいなとこあったな』
『AttoとNadiaどっちが強いんだ!?』
トーナメント表が更新され、真佐まつりの実況が響き渡る。
「お待たせしました!」
「敗者トーナメントファイナル! Atto vs Nadia!」
コメント欄が再び流れ始める。
『Atto頑張れ!』
『ヴェンデット見せてくれ!』
『日本勢舐めさせんな!』
ディスコードの通話は、Knox敗戦のショックもありつつやや沈んだ空気となっていた。
「さて……次ですね」
Attoが静かに言った。
「Attoさん、方針は?」
「Yutさんとたるとさんの情報から、大筋は確定しています。先行ならラビオンアース+モンスター除外を付与したスレイヤー。後攻なら、たるとさんのルートを辿ります。……それじゃ、行ってきます」
悠斗としのびたるとは頷き、Attoを見送った。
「「頼みます!」」
固唾を飲んで見守る中、ファイナルへの切符を賭けた対戦が始まった。
Attoは先行を取り、初手を確認して動き始める。
最初に出てきたモンスターは下級ヴェンデットであるレヴナント。
「まぁ……そう上手くはいかないよな」
悠斗は悔しそうに呟いた。
「そうですね……これは、デモリッシャー+モンスター除外の付与でしょう」
「最低限……ってところですか」
「だと思います。ただ、これだって後攻の星遺物オルフェゴールを相手するには十分強力です。」
「そうですね。ここからNadiaはどう攻めてくるか。オーケストリオンで無力化してくる前にスレイヤーで除外できますし、ダークアームドのような除去効果にはデモリッシャーで対象耐性が付与されている」
悠斗としのびたるとは身を乗り出し、徐々に早くなる心臓の鼓動を感じていた。
『全部あのコインのせいです。というか先行で深層と機憶を素引きしてるってどういうことなんですか。あれって本来サーチして揃える妨害なんですよ。こっちは後攻で手札が6枚あるくせに醒存引けないですし。スクラップリサイクラーの初動に合わせて生きる妨害なんて都合がよすぎますよ。醒存でスタートした場合にその妨害なんてほとんど意味ないですからね。しかも次のターンNadiaは醒存トップで引いてヒット、オルフェゴールが墓地に落ちて展開がスタートなんてふざけてますよね。どうやって勝てって言うんですか』
『うはwwwKnoxさん餅ついてwwあっ、違う落ち着いてwww』
『ぽん酢さん、僕のこと舐めてます?』
『いやいや、いまAttoさんの対戦いいところなんだからちょっと待っててよ』
『付与スレイヤーですね。僕も一応見てはいますよ』
「さぁAttoさんは付与スレイヤーでターンを返していくゥ!! この真佐まつり、かつてない程盛り上がる会場と共に熱くなっています!!」
『コメント欄流れるの速すぎィ!!!』
『Nadiaなら超えてきそう』
『当然のように対象耐性付いた付与スレイヤー用意できるのヤバない? もうちょい規制しとく?』
『うおおおおおおおお』
悠斗が、しのびたるとが、ぽん酢が、真佐まつりが、コメント欄が、NRに熱中するプレイヤーの誰もがその対戦にくぎ付けになっていた。
Nadiaがドローした。
静かに、モンスターを召喚した。
そのモンスターを見て、誰もが息を呑み、心臓が大きく拍動し、困惑し、理解し……少しだけ笑った。
“ギルティアーソウルスピア”
『「『「あっ…………」』」』
全員があんぐりと口を開ける中吹き飛んでいくスレイヤー。
無抵抗に殴られ続けるAtto。
「おのれギルティアアアアアアァァァァ!!!!!!!!!」
閑静な住宅地に響く成人男性の声。
隣の部屋で息子と眠る妻が飛び起き、その叫び声の主が説教されたことは想像に難くない。
「「えぇ……」」
通話に残されている二人も、どうAttoを迎えればいいのか頭を抱えるのだった