NRと言う名の未界域   作:まにゅま

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turn2 まさかそのデッキかよ

NRの対戦配信があると聞いていた水曜日がきたが、デッキは急造だった。

悠斗も楽しみにしていたのだが、社会人の忙しさには波があり、間が悪くビッグウェーブに飲まれてしまった。

仮に自分が伝説のフィッシャーマンなら乗りこなす事ができたんだろうが、生憎凡骨サラリーマンの枠組からガッチリ抜け出せず、勤労に勤しんでいた。

そのため満足できるデッキを組むことはできず、デッキを組むための情報を集めることもできていない。

幸いこの配信で使われる対戦ルームは件のNo Richesではなく、NRであれば特にレギュレーションはないらしい。

そういうことならばと以前イベントで使用したメガリスを引っ張り出してきた。

これならリハビリは必要だろうがどうにか使うことはできるだろう。

 

一戦、二戦、三戦……。

 

思ったよりあっけない。

危なげなく、立て続けに勝利した。

この間の大会は競技っぽく見えたが、先程対戦したデッキはどれもカジュアル寄りな印象だ。

そしてやはりと言うべきか、フルパワーで戦うメガリスは、多少ミスをしてもそれを取り返して余りある圧倒的な力を秘めている。

しかしこの対戦会、本来作成したNRのデッキを見せ合い楽しむための場なのでは……?

悠斗は自分がまるで荒らしのような存在になっているのではと不安になってきた。

 

「これデッキ選びミスったか? 大会と配信の参加者層は違うのかもな……ん?」

 

連戦連勝につき次第に悠斗の卓に着く相手はいなくなってしまったことから、デッキを変えた方がいいだろうかと悩み始める。

卓を離れようとした時、あるプレイヤーが悠斗に対戦を申し込んできた。

 

相手の名は

 

“Atto”

 

先日見た第2回真佐杯の優勝者だ。

Discordのサーバー内でも何度も名前が上がっていた。

本人の素性は知らないが、彗星のごとく現れた新星らしい。

 

きっと強い人なんだろう。

 

だが、悠斗はどこかで舐めていた。

そもそも自分が使っているのはあのメガリスだ。

今日も連戦連勝しており、イベント時に使っていた感覚は既に取り戻した。

自分はランクマ勢ではあるものの、スタンダードルールでリリースからずっと環境デッキを使用している。

それに、プレイングだって長年積み上げてきたものがあるのだ。

 

悠斗は挑戦的な笑みを浮かべた。

 

「チャンピオン、胸を貸してもらおうか。」

 

コイントスで後攻が決まり、初手を確認する。

 

「悪くないな」

 

展開はできるし、相手の妨害があったとしても貫通できる程手数もある。

 

問題は相手だ。

 

対戦開始と同時に、相手のフィールドへ1体のモンスターが現れた。

あれは決勝の動画で見た気もする。

アンデット族。

さらに墓地へカードが送られる。

こちらがカードのテキストを確認するよりも早く、また別のモンスター。

度重なる墓地効果。

どこまでも連なるサーチ効果。

現代遊戯王に通ずる先行展開。

思わぬ先行展開の滑らかさに魅入ってしまう。

どこがゴールなのかはさっぱり分からないが、増えていく墓地にサーチで入れ替わる手札。

明らかに何かを狙っていた。

 

「すげぇ……」

 

悠斗は思わず息をついた。

この展開は洗練されている。

操作に一切のラグがなく、無駄を感じさせない。

まるで、細い配線が全部どこかで繋がっているみたいだ。

カードの織り成す奔流が、綿密な準備によって整えられた盤面が、遂に花を開く。

その切り札の着地は力強く、美しくもあった。

 

「儀式……召喚」

 

現代遊戯王において手札消費が激しいことによりあまり使われなくなった召喚方法。

新規実装カードに至っては、正規の儀式召喚をしないテーマすら存在する。

ところが、このNRでは最前線で活躍していた。

次の瞬間、フィールド中央に禍々しいヒーローが召喚される。

 

ドス黒いオーラ。

敵を屠らんとする真紅の眼光。

静かな殺意と圧倒的な威圧感。

 

《リヴェンデット・スレイヤー》

 

演出エフェクトが弾けた。

 

その背後で、墓地のカードがさらに光りだす。

 

「まだ……まだあるのか?」

 

展開は終わっていない。

墓地から別のモンスター。

さらに除外。

また墓地効果。

 

悠斗は徐々に理解する。

この展開、一枚一枚は弱いのだろうが、全てが繋がっている。

 

墓地へ送られること。

除外されること。

儀式素材になること。

 

その全てが次の動きへ変換され、幾重にも重なる準備となる。

 

やがて展開が止まり、盤面が完成する。

 

場にはスレイヤー、伏せカード、フィールド魔法。

 

しかし、度重なるサーチにより相手の伏せの検討もつく。

おまけにAttoの手札はゼロ。

展開が早くテキストの確認が追いつかなかったが、展開の終了後、すでにターンはこちらに返された。

ターンの制限時間を消化しているのを横目で見ながら方針を決める。

相手がここからどう動いてくるのか分からない。

妨害があるのか、あのスレイヤーが何をするのか。

こういう時はシンプルだ。

こちらも強い動きをするしかない。

 

「落ち着け。相手のモンスターはスレイヤーのみ。手札は無し。つまり、突破すればこっちの勝ちだ」

 

戦い方の分からない相手と戦うのはいつ以来だろうか。

抑えきれない興奮を理性で抑えつけ、勝つために最善の道を探る。

 

悠斗は展開をスタートし、妨害があるなら使うであろう場所にフックを垂らしてみる。

 

相手は動かない。

 

であればその筋から展開を進め、高打点の最上級モンスターを用意する。

 

「これでも……動かないか」

 

遊戯王で勝つには相手のライフポイントを削りとる必要がある。

ライフポイントの減少はこちらのモンスターの攻撃力に依存する。

原始的ではあるが、遊戯王において攻撃力の差というのはそのまま勝敗に直結する。

そして、こちらの打点だけであれば相手のスレイヤーを超えている。

つまり、妨害があるのであれば、きっと戦闘時に使えるのだろう。

悠斗とて、ただそれを指を咥えて受ける必要もない。

 

「さて、これは通るか?」

 

最後の展開は最も通したかったカード。

これまでこちらの釣り針に尽く食いつかなかった相手だが、あの長い展開が見かけ倒しということもないだろう。

 

最初に用意した釣り針は展開のキーポイントである“メガリス・フール”。

NRの大会で優勝するような相手だ。No Richesで使用できなくても、NRの顔であるメガリスの展開くらい把握しているだろう。

このキーポイントに妨害を当てられたとしても、なお展開を続けるだけの手数が初手にあった。

しかし相手は不動。

 

次に用意した釣り針は高打点モンスター。

スレイヤーの打点は2400。上級モンスターとは言え、高打点を並べられるこちらにとってはそれ程苦しい数字ではない。

しかしここでも微動だにせず。

 

できればこれらに引っかかり妨害を使ってもらった上でこちらの最後の展開を通したかった。

 

最後の展開は盤面の多面破壊。

メガリス最大の脅威である“メガリス・ベトール”

 

スレイヤーを含む相手の場を全て破壊することで突破できれば、相手の手札は皆無。

リソース差で勝つ事ができるだろう。

 

しかし、ここまで不気味にも思えるほど沈黙を貫いた相手は最終的なベトールの着地を看破していた可能性が高い。

 

「となると、相手の妨害はこちらの破壊効果を無効化するものに加えて、高打点にもビビらないことから戦闘破壊耐性……か? 分かんねぇが、流石にこっちの破壊効果を何回も無効化できるほどチートじゃないはずだ。それに、破壊だったらもう1回手段がある」

 

そう、こちらにはベトールの破壊効果が無効化されたとしても、もう一度別の手段で破壊効果を使うモンスターを出すことができる。

 

「つまり、無効系の妨害であればスレイヤーは突破できるはずだ。さぁ妨害があるなら打ってみやが……れ?」

 

今日このデッキを回して覚えた手癖で破壊対象を選んでいく。

相手の伏せ、フィールド魔法、そしてスレイヤー……

 

「スレイヤーが……選べない?」

 

バグかと思ったが、マスターデュエルのバグ報告は実装されているカードの種類、処理の複雑さを踏まえても驚くほど少ない。

つまり、スレイヤーを破壊対象に選択できないのはルール上の仕様なのだろう。

慌ててスレイヤーのカード説明を読んでみても、何のヒントも得ることはできない。

 

「くそっ……スレイヤーの効果には書いてねぇ。どうなってやがる!」

 

謎の対象耐性を持ったスレイヤーに困惑しつつも、幸い選択できないのはスレイヤーだけであり、他の盤面は一掃することに成功した。

相手の手札は無し、場は対象耐性を持ったスレイヤーのみ。

となれば、こちらにはスレイヤーを超える打点がある。

 

「どういう理屈か分からねぇが、こっちが打点で勝ってる以上、戦闘はさせてもらうぜ」

 

効果破壊が叶わなかったスレイヤーだったが、バトルフェイズに移行し攻撃を試みる。

刹那、これまで沈黙を貫いてきた相手が動く。

相手のスレイヤーが効果を発動した瞬間、こちらの最上級モンスターが除外された。

 

「はぁ!? そんなんアリかよ!」

 

思わず椅子から身を乗り出しスレイヤーを指さす。

フリーチェーンでモンスターを除外するなんて効果、メガリスにも無い無茶苦茶なギミックだ。

動揺も収まらない中、攻撃に失敗した悠斗はリソースを供給する永続罠を伏せてターンを返す。

その瞬間、こちらのエンドフェイズにまたしても相手が動き、こちらの罠が除外された。

 

「おいおいおいおいチートだろこんなもん!」

 

どういうカラクリか分からないが、リヴェンデット・スレイヤーの能力は確認できた範囲で少なくとも以下の3つ。

 

対象耐性。

フリーチェーンでのモンスター除外。

フリーチェーンでの魔法・罠除外。

 

メガリスの強みは範囲破壊と打点、途切れないリソースだ。

その破壊の対象にならず、打点とリソース札は除外されてしまった。

 

返しのターン。

 

スレイヤーの効果により、こちらのモンスター、フィールド魔法が除外される。

 

「相手ターンだけじゃなくて自分のターンでも除外効果を使えるのかよ……」

 

Attoはバトルフェイズに入り、スレイヤーが拳を振るう。

演出エフェクトと共に、自分のライフポイントが削られていく。

 

「……なんだこれ」

 

悠斗は無意識に呟いていた。

 

相手の動きが読めない。

初見殺しと言えばそうかもしれないが、仮に初見でなかったとして、このモンスターを倒せただろうか?

 

悠斗のライフがゼロになる。

敗北し、静かなBGMだけが流れる。

 

「対戦ありがとうございました」

 

アイコンの横に表示された無機質な挨拶。

そこから感情を読み取ることはできない。

 

悠斗は少し迷ってから、NRサーバーに質問をしてみた。

 

「本日はありがとうございました。初めての参加でしたが、とても楽しかったです。1点聞きたいんですが、みなさん、何でそんな色々なカードを知ってるんですか?」

 

数分の沈黙。

 

それから書き込みが1つ。

発言の主は“Atto”本人だった。

 

「知らないカードを探すゲームですからね、NRは」

 

その瞬間だった。

悠斗の胸の奥で、何かが動いた。

 

試合後、十人近くいたボイスチャンネルに参加をした。

そこではなんと、先程の悠斗とAttoの対戦リプレイが流れていた。

Attoはそれほどのビッグネームだということなのだろう。

 

「だからそのルート、そこで妨害打ったら思うツボなんだって。手札見ただろ。」

 

「じゃあそれを見越して妨害打たなかったわけ?」

 

「いや、そもそも展開通されてもスレイヤーは突破されないから動く必要ないでしょ」

 

「先行展開通されたら負じゃんもう」

 

「対策が無くはないけど細いよな」

 

「いやそんなん入れたらメガリスの初動率下がることない?」

 

「スレイヤーの突破手段無く事故をお祈りするより良くない?」

 

悠斗は息を呑む。

ここでは誰も“テンプレ”を使っていない。

 

皆、自分で考えている。

自分で掘っている。

未開拓の地を。

 

 

その時、一つの発言によりチャット欄が急に加速した。

 

『第3回真佐杯 エントリー開始きたぞ!!』

 

『うおおお』

 

『ヴェンデットどうする?』

 

『絶対増える』

 

『今回は海外勢来るらしいぞ!』

 

チャットの温度が上がる。

誰かが新カードの画像を貼る。

誰かが「これから寝れねぇ」と呟く。

 

悠斗は黙ってその空気を見ていた。

不思議だった。

つい先日まで、ランクマに飽きていたはずなのに。

遊戯王の楽しみ方すら忘れかけていたのに。

 

今は、この意味不明な界隈のことが気になって仕方ない。

デッキ編集画面を開く。

検索欄にカーソルを合わせ点滅させる。

 

悠斗は少しだけ迷い、それからキーボードを叩いた。

 

「ヴェンデット」

 

検索結果に、見慣れないアンデット達がずらりと並ぶ。

その中央で、禍々しいヒーローが鈍く光っていた。

 




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