NRと言う名の未界域   作:まにゅま

4 / 4
毎週月曜日の昼12時に更新します。
よろしくお願いします。


第二章 第3回真佐杯
turn4 敗北者から挑戦者へ


第3回真佐杯当日。

大会主催者の真佐まつりによる配信のコメント欄は熱気に包まれていた。

大会前に、今大会の見どころとしてヴェンデットの紹介を行っている。

コメント欄もヴェンデットに関する話題で持ちきりだ。

 

『ヴェンデット何人いる?』

 

『絶対多い』

 

『もう環境終わってる』

 

『ミラー地獄だろこれ』

 

コメントが高速で流れていく。

悠斗は静かにモニターを見つめていた。

構築画面には、自分のヴェンデット。

この数週間、毎日のように回し続けたデッキだった。

最初は全く理解できなかった。

今でも完璧ではない。

そもそも、このデッキを完璧に回すことができると胸を張って言える日はくるのだろうか。

高校生の時にショップ大会に出ていた頃を思い出す。

 

「この緊張感……懐かしいな」

 

興奮と緊張が同居し、脳内をこれまでの準備が駆け巡る。

手足の末端は力が入らなくなり、鼓動が速くなる。

 

「ふぅーー……」

 

深呼吸を1つ。

目を閉じ、数巡の後、目を力強く開く。

大会前のルーティン。

長らく忘れていた、集中の儀式。

 

「不思議なもんだな……あの時から時間が経ってないみたいだ。とっくに成長して大人になったっていうのに」

 

自嘲気味に笑いながら、Discordのミュートをオフにする。

通話画面では、ぽん酢がいつものように騒いでいた。

 

「いやー絶対ヴェンデット祭りだろこれ!」

 

「ぽん酢さんも使う側ですよね」

 

ぽん酢が笑う。

 

「だって楽しいじゃん! 強いし!」

 

画面の向こうでは、knoxが静かにデッキ構築を見直していた。

先行展開、リソース確保、ヴェンデットミラー。

何度も繰り返してきた対戦。

Knox研究会のメンバーは先行展開だけでなく、事故った時にどうするか、長期戦でも安定して戦えるか、あらゆるパターンを練習してきた。

第2回真佐杯でAttoという名の怪物が見せたヴェンデットという怪物は、今や皆の共通言語になっている。

 

「正直、もう俺達とAttoにそこまで差は無いと思うんだよな」

 

ぽん酢は言った。

通話が少し静かになる。

 

「まあ、分からなくはないです」

 

悠斗は同意した。

そのくらい、ここ数週間で密度の高い時間を過ごしてきた。

 

「構築かなり詰められてるし……って言っても自由枠なんてほとんどないけど」

 

今のヴェンデットの研究はかなり進んでいる。

第2回の頃とは違う。

皆、“どうやって回すか”を理解した。

だからこそ、悠斗達以外のプレイヤーも握るデッキが偏り、今大会はヴェンデットだらけになっている。

 

「まぁでもさ、今回で分かるだろ」

 

自信満々に、といった様子のぽん酢。

 

「何がです?」

 

「Attoが人間かどうか」

 

通話が笑いに包まれる。

 

「お互い同じデッキを握れば残りは運と実力です」

 

「Knoxさんの言うとおりだ。俺たちの研究成果見せてやろうぜ」

 

その時だった。

配信コメントに一言。

 

“Attoです。本日はよろしくお願いします”

 

一瞬だけ、空気が止まる。

悠斗は配信画面を見た。

アイコン。

名前。

今もガヤとして行われているDiscordのNRサーバーの通話には当然入っていない。

チャットも打たない。

ただ、大会の配信者にコメントで挨拶しただけ。

なのに悠斗の、いや、恐らくは参加者全員の空気が少し変わった。

 

「……来ましたね」

 

knoxが小さく呟く。

その声には、緊張とも高揚ともつかない熱があった。

事故への恐怖、裏打ちされた練習量、knox研究会の様々な感情を乗せて大会が始まった。

 

参加人数、40名程度。

 

様々なデッキを組みたがるビルダー気質の高いNRであるが、やはり今回の目玉はヴェンデット。競技色がより強くなったことで参加人数が絞られたのだろうと予想する。

 

一回戦。

悠斗は勝利した。

相手もヴェンデットだった。

ミラー。

数週間前なら、大いに慌てふためいただろう。

悠斗は先行展開しか把握していない浅いプレイヤーではない。

knox、ぽん酢、monoと積み上げてきた密度も他のプレイヤーに劣りはしないだろう。

墓地の枚数。

除外。

相手の盤面と自分のリソース。

自由枠が無いからこそ把握できる相手の息切れ。

相手の“次のターン”が見える。

先行で完璧な動きさえされなければ、悠斗にも抗うチャンスは絶対に来る。

数ターンのやり取りの後、勝利した悠斗はDiscordへ戻った。

 

「お、Yutさん、どうだった?」

 

ぽん酢は嬉しそうに聞いてきた。

トーナメント表で確認しているだろうに……ただ、誰だって勝利報告はしたいものだ。

プレイヤー心理を読み取って気を使ってくれたのだろう。

 

「なんとか勝てました」

 

「ミラー?」

 

「ミラーでした」

 

「だよなぁ!」

 

ぽん酢が笑う。

 

「今日ヴェンデット何人いるんだよマジで!」

 

「ぽん酢さんとknoxさんは?」

 

「トーナメント表見りゃ分かんだろ!」

 

「じゃあ何で僕には聞いたんですか!」

 

 

二回戦

対戦相手の名は……“Guest”。

悠斗の喉が鳴る。

気管が狭まり、一瞬の強張りの後、ゆっくりと唾液を飲み込む。

心臓が高鳴り、手のひらがじんわりと汗ばんだ。

トーナメントプレイヤーがよく行う名前隠し……このプレイヤー名はknoxだ。

当然、悠斗はKnoxだということを知っている。

Discordの通話からやや気を使ったようにぽん酢が言う。

 

「うわ、当たったか」

 

「早いですね」

 

悠斗は深呼吸する。

怖くないと言えば嘘になる。

knoxは強い。

それは研究会へ入って、嫌というほど理解した。

ただ回せるだけじゃない。

判断の速さ、妥協するライン、何を残すか、何を切るか。

全てに無駄が無い。

明らかな運の上振れを除けば、悠斗の勝率は決して高くない。

 

だからこそ、全力でぶつかるのが面白い。

 

今日は練習ではなく、一発勝負の真剣勝負。

大事なのはどっちが強いかじゃない。

強い方が勝つ。それだけだ。

深呼吸をし、目を閉じ……目を開ける。

よし、今の自分には画面がよく見えている。

 

「対戦、よろしくお願いします」

 

そう言って通話を切った。

きっと画面の向こうでは、knoxは涼しい顔しているんだろうな……。

何となくそう思った。

それなら、今からその顔の余裕を消してやる。

 

「さぁ……いこうか」

 

コイントス。

悠斗は後攻となる。

 

「……よし!」

 

初手を見る。

悪くない。

むしろ強い。

先行なら間違いなく勝っていた。

しかし、そんなたらればをカードゲームで言っても仕方がない。

今できることを全力でやるだけで、後はknoxの上振れが来ないことを祈るのみ。

Knoxが展開を開始し、悠斗は盤面を見つめる。

飽きるほど見た最強展開は……来ない。

 

「よし……よしっ!」

 

悠斗は一息付き、相手のサーチ札、墓地を頭に叩き込んでいく。

knoxの盤面は最低限の付与に加え、リソースの確保を重視した布陣。

最低限の妨害は完成されていることから、こちらのコアを含めた最大展開は確実に防がれる。

ということは、がっぷりよつだ。

この勝負、より上手い方が勝つ。

 

「ターン貰いますよ。Knoxさん」

 

悠斗は動き始める。

墓地を肥やし、儀式を準備する。

ここ数週間、何度も練習したルート。

レベルを変更した、対象耐性を付与するコア。

儀式を発動したタイミングでknoxに除去される。

 

ここまでは予定調和、約束組手だ。

 

モンスターの除外効果を付与するレヴナントを巻き込んでの儀式召喚を行い、knoxのスレイヤーを除外する。

しかし、相手のスレイヤーは除外効果に対してサクリファイスエスケープを敢行。

 

ここも、想定通り。

 

ここまでは公開情報で、幾度も繰り返された序盤の動き。

しかし、既知の領域はここまでだ。

序盤に定石を組み合い、無限に可能性が広がっていく将棋のように、ここから先は一手一手が勝利に、死に直結するプレイング重視の戦い。

社会人になり、遊び相手も徐々に減る中で、こんなヒリつく経験がまたできるとは思わなかった。

 

「感謝するぜ……Knoxさん、ぽん酢さん、monoさん。それから……スレイヤー、お前もだ」

 

深紅の眼光。

盤面のスレイヤーは不敵に笑っているような、悠斗はそんな錯覚を覚えた。

 

お互い一進一退の攻防。

致命傷を避けつつ浅い踏み込みで少しの優勢を確保し合う。

リソース手段が潤沢なデッキとは言え、デッキからサーチ対象がいなくなれば当然リソースが尽きる。

そして、後攻からシーソーで削りあう展開になっことこから、悠斗は一回分のリソースでリードしている。

 

「knoxさん……分かってるか? 俺は負けない戦いをしている。あんただってそうだ。その結果、デッキのリソースからして次のターンであんたは付与ができなくなる。そうすれば俺のスレイヤーが立ち続け、シーソーが一気に傾く」

 

先行で制圧しきれず、その後お互いにミスをしない。

コインの運命か、勝負の行方は確実に悠斗へ傾いている。

 

「さあ、そのサーチで最後の儀式魔法をサーチするんだ、Knoxさん。それで詰みが確定するだ…………何?」

 

興奮で手汗を握りしめ、半ば勝利を確信していた悠斗だが、ハンマーでガツンと頭を殴られたような衝撃を受ける。

Knoxがサーチしたのは、足掻くための儀式魔法ではなく……罠。

 

”ヴェンデット・リボーン”

 

ヴェンデット名称のカードは全てサーチが可能な関係上、当然全てのカードリストは確認している。

その中で、わずかな自由枠に採用するカードとして検討にも上がっていたカードだ。

 

このカードの効果は二つある。

一つ目は、墓地から儀式魔法を回収し、ヴェンデットモンスターの蘇生を行う効果

二つ目は、除外されたヴェンデットモンスターをデッキに戻し、ドローする効果。

 

悠斗は採用を見送ったカードだ。

理由としては、ヴェンデットは制圧に成功すればまず負けないからだ。

シーソーゲームになる場合は先行が事故を起こし、かつお互いがベストパフォーマンスを続けられるような展開になった場合だ。

そもそもミラーマッチ以外ではデッキパワーを押し付ければあらゆる勝ち筋が用意されている。

つまり、継戦能力を上げるより、展開を通すために妨害を除去した方が勝率が上がる……はずだった。

 

「嘘……だろ? 何でそのカードを……?」

 

このタイミング、お互いがリソースを削りあっているこの展開において、このカードの発動は悠斗にとって致命的だった。

罠であれば伏せたターンにヘルハウンド付与の効果で除外ができる。

 

しかし、knox研究会では暗黙にある結論が出ていた。

ミラーマッチにおいては、罠で妨害しないヴェンデットに対してヘルハウンド付与は必要なく、リンク値に回した方が強い。

 

つまり、この状況において、knoxのヴェンデット・リバースを止める方法は……ない。

それに、knoxも終盤の研究会でこのカードを採用したことはなかったはずだ。

それなのになぜ……。

 

「くそ……くそっ!!!」

 

同時刻、画面の向こうでknoxが微かに笑った。

それは嘲りの笑みではなく、リスペクトと共に驚きを込めた笑み。

 

「僕も大会でこのカードを入れる予定はありませんでした。この展開以外じゃ活躍できないから……。ただ、大会直前にこの展開になる未来が見えてしまった。Yut君、君達の成長がこのカードが必要になることを、僕に”信じさせた”」

 

結果、悠斗の試合展開は大きく外れ、なすすべもなく回復するKnoxのリソースを眺めることしかできなかった。

 

「畜生……。これが、本物の強者との差ってやつかなのかよ……!」

 

カード一枚。

たった一枚の採用が、この勝負を分けた。

あらゆる展開をシミュレーションしきった……いや、仲間の伸び代すらも読み切ったknoxの慧眼が、この試合の勝因だったと言える。

 

「これで……王手です」

 

knoxは迷わなかった。

除外。

リソース管理。

丁寧に、確実に、抗う悠斗の未来を削っていった。

そこに派手さは無く、まるで詰将棋のように最善手を指していく。

やがて悠斗のリソースが尽き、敗北した。

画面の向こうで、knoxが背もたれに体を預け、小さく拳を握ったことは誰の知る由もなかった。

 

「knoxさん、対戦ありがとうございました」

 

「ありがとうございました」

 

通話へ戻る。

ぽん酢が軽快に話し出す。

 

「いやー熱かったな!」

 

「……完敗です。Knoxさん、頑張ってください」

 

悠斗が苦笑する。

悔しかった。

これまでの人生に覚えの無い程、悠斗は悔しさを覚えた。

しかし、悔しさだけではなかった。どこか清々しくもあった。

knoxは強かった。

あの異様な雰囲気を纏ったAttoとは違う。

揺らがない堅牢な要塞を思わせる強さ。

まるで機械のような詰め筋。

常に最善手を引き当てる集中力と体力。

knoxは静かに言った。

 

「最後、一枚の差でした」

 

「流石です。僕はそこまで見えていなかった」

 

少しの沈黙……それから。

 

「これが競技です。次も負けませんよ」

 

その言葉に、悠斗は返事ができなかった。

数段は格上だと思っていた強者から、悠斗は認められた。

その嬉しさと、全力を出しても届かなかった勝利の遠さ。

悠斗の握った拳は様々な感情を含んでいた。

 

 

大会が進み、配信で途中経過を報告している。

順位表。

Atto、全勝。

ぽん酢も全勝。

knoxは相手のヴェンデットの先行展開に轢かれ一敗。

コメント欄は完全に祭りだった。

 

『ヴェンデットしかいねぇ』

 

『もうTier0だろこれ』

 

『規制待ったなし』

 

『これはこれで面白すぎる』

 

悠斗は順位表を見つめる。

当然のように全勝という玉座に鎮座する”Atto”。

この男と自分との差はどこにあるというのだろう。

少し前まで、誰も知らなかったテーマ。

それが今、Attoと共に環境の中心にいる。

無から王者へ。

王者から伝説へと未知を歩むその男の玉座の隣には、確かにスレイヤーが立っているイメージが浮かぶのだった。

 




NR週末大会(夜)のアカウント↓↓
https://x.com/norichesjp

NR毎日大会(昼)のアカウント↓↓
https://x.com/NoonRiches
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。