次回の更新は来週の月曜日12時を予定しています。
よろしくお願いします。
“ 第3回真佐杯”
全試合が終了した。
ぽん酢vsAttoは衝撃の結末で決着し、Attoは決勝へと駒を進めた。
Attoの決勝の相手は破戒ラビュリンス。
バランスの取れた罠デッキだったが、Attoが先攻で繰り出したラビオンアースが炸裂し、そのまま次のターンにリーサルとなった。
配信のコメント欄は未だに流れ続けていた。
『Atto優勝おめ!!』
『ヴェンデット強すぎィ!』
『ぽん酢ホンマに惜しかった』
『実質決勝あそこだったろ』
『環境壊れたなこれ』
『もう壊れてる定期』
『ってかGuestってknoxかよ! 何だかんだ2位なのすげぇ』
悠斗は静かに順位表を見つめていた。
1位:Atto
2位:ラーメソ
2位:Guest
3位:しのびたると
その名前の並びを見ても、まだ実感が薄い。
本当に、一つの環境が生まれてしまった。
いや、環境の全てを壊したと言うべきだろうか。
2カ月前まで、誰も見向きもしなかったテーマ。
ヴェンデット。
それが今、NRの頂点にいる。
通話では、ぽん酢が相変わらず騒いでいた。
「いやーーーーー!! マジで回線だけは持ってねぇ!!」
「伝説作りましたね」
「回線までメタられる男。Attoさんの超絶盤外戦術」
笑い声。
空気は明るい。
ぽん酢は、確かにAttoへ届きかけた。
あの怪物を、あと一歩まで追い詰めたのだ。
悠斗はふと、準決勝最後の盤面を思い出す。
ぽん酢の圧倒的優勢。
そこまでは、皆同じ認識だった。
だが最後のターン。
Attoは、なぜか手札を減らしていなかった。
あの状況でなぜ……。
終盤あそこまで粘ってゲームを成立させていたAttoがあのタイミングで諦めたとは考えにくい。
悠斗が考え込んでいると、knoxが静かに口を開いた。
「……やっぱり気になりますね」
通話が少し静まる。
「もしかして、Attoさんの最後のターンですか?」
悠斗が聞く。
「はい。前のターンのサーチ札から、もう少し動くことはできたはずです」
knoxは意味深に答えた。
「Attoさん、ひょっとして、最後まで“何か”を探してたんじゃ……?」
そういう悠斗に、ぽん酢がまさかと笑う。
「いやいや、流石にあそこから返せる札なんて無かったろ!」
「……分かりません」
knoxは静かだった。
「少なくとも、僕はそう見えました」
悠斗の背筋に、少しだけ冷たいものが走った。
Atto。
誰とも群れない。
Discordや研究会にも来ない。
通話にも入らない。
孤高のまま、NRの頂点に君臨した男。
掴みかけたその輪郭が、また少しだけ曖昧になるのだった。
第3回真佐杯から数日後。
NR界隈はあるトピックが話題となっていた。
『AttoがNoteを更新した』
その夜、knox研究会のメンバーは数日ぶりにサーバーで落ち合った。
Attoが公開したnoteのタイトルは
「ミラーマッチのすすめ」
研究会のメンバーが集まったのを見て、悠斗が画面共有を始める。
「では、早速見てみましょうか」
「うおおおお」
「答え合わせといきましょう」
皆、興奮していた。
当然だった。
ここ数週間。
ヴェンデットの研究は、NR界隈の中心だった。
誰もが回し続けた。
だからこそ、その強さを引き出すことに全力を注ぎ、自分達もそこに到達した。
打倒すべき相手であると同時に、皆Attoに憧れていた。
そのAttoが更新したnoteを確認し、Attoとの細かい枚数差を確認するだけ。
その程度の認識だった。
最初にAttoが第3回真佐杯で使用した構築の画像が目に入り……そして、通話が静まりかえった。
悠斗は画面を見た。
数秒経ち、それから。
「……は?」
小さく誰かが呟く。
悠斗は目を見開いた。
“壊獣”
リストの中に、明らかに異物が混じっていた。
ぽん酢が乾いた笑いを漏らす。
「……いや、え? 何これ」
誰も答えられない。
knoxは無言だった。
悠斗は尚も構築を見つめる。
壊獣。
相手のモンスターをリリースすることで手札から相手の場に出すことのできるモンスター。
手札を消費して相手に最上級のモンスターを献上するカード。
よほどのギミックがない限り、NRで採用されることは殆ど無いカードだ。
しかし、その召喚時のリリースは対象も取らず、破壊もしない。
つまり、たった一枚で完全体スレイヤーを処理することが可能なカードだ。
3種類の効果を付与したスレイヤーは、ヴェンデットミラーにおいて、いや、他の全デッキを相手にしてもまさしく“完全体”だった。
対象耐性。
破壊耐性。
除外での除去。
皆、そこへ辿り着くために研究していた。
いや、そこへ“辿り着くだけで精一杯だった”
だがAttoは違った。
“完全体スレイヤーを、どう突破するか”
そこまで到達していた。
その事実に、悠斗は息を呑む。
違った。
自分達は、同じゲームをしていたつもりだった。
でも違う。
Attoだけ、最初から見ている場所が違った。
「……そういうことですか」
knoxが静かに呟く。
その声は、驚きよりも納得に近かった。
「僕達は、完成されたヴェンデットの力を120%引き出すことを目指していました」
誰も返事をしない。
「でもAttoさんは違った」
通話が静まり返る。
ぽん酢が小さく笑った。
「いやー……」
乾いた声。
「マジでキモいな」
皆が少し笑う。
だが、誰も否定できなかった。
さらにスクロールしていくと、他にも長い長い戦術の解説があった。
それは展開ルート。
名づけられたそれは、こう呼ばれていた。
“ジャジャルート”
悠斗は理解できなかった。
いや、正確には理解に時間がかかった。
壊獣なしに、“メインデッキを変更せずルートだけで”付与スレイヤーを超える。
そのルートは何度見返しても完璧で、相手のマストカウンターを用意しつつ、なおスレイヤーを超えていく。
通話が完全に止まる。
悠斗は画面を見つめた。
ここ数週間。
研究会は、ヴェンデットを回し続けた。
完成させたと思った。
ルートを最適化し、これ以上無い程ヴェンデットの破壊力を引き出したと思った。
だが、Attoは、その“先”を考え、そして到達していた。
ぽん酢がぽつりと呟く。
「……いや、どこまで先があるんだよ」
その声には、悔しさと、笑いと、興奮が全部混ざっていた。
悠斗は、準決勝の最後の違和感を思い出す。
リソースの温存。
あれは、“壊獣を探していた”のかもしれない。
わずかな可能性にかけ、背後に迫る敗北を感じながらも、それでもなお勝ち筋を離さなかった。
その可能性に気づいた瞬間、背中を嫌な汗が伝う。
もし回線が落ちなかったとして。
もしぽん酢があのまま怪物の喉笛に食らいついていたとして。
Attoは、それでもなお、逆転の可能性を残していたかもしれない。
「……俺達、本当に届いてたのか?」
ぽん酢が小さく言う。
誰も、肯定も否定もしない。
確かに届いていたと思っていた。
研究会の積み重ねは、間違いなくAttoへ迫っていた。
だが。
“届く”
と、
“超える”
は違った。
突きつけられた現実を前にして、悠斗はそう感じた。
knoxが静かに笑った。
「参りましたね」
悠斗はその声を聞いて、少し驚いた。
悔しそうではあったが、楽しそうでもあったからだ。
「正直、肩を並べたと思ってました」
通話が少し静まる。
「付与スレイヤーまでなら、完全に理解したつもりでした」
knoxは画面を見る。
壊獣、そしてジャジャルート。
「でも違いました」
悠斗はふと思う。
Attoは、一人で研究していた。
そして、一人だけで環境を次へ進めてきた。
この男には何が、そしてどこまで見えているんだろう。
ぽん酢が突然笑う。
「いや、でもさぁ」
皆が画面を見る。
「めちゃくちゃ面白いな! やっぱNRってさ!」
沈黙。
それから、誰かが吹き出した。
「それはそうですね」
「分かります」
「いやでもキモいよなぁ! 壊獣は」
通話が少しずつ明るくなる。
悠斗はその空気を聞きながら、静かにモニターを見る。
やっと追いついたと思った。
でも実際は、まだ先があった。
悔しさと同時に、“面白い”が来ている。
ぽん酢が笑う。
「いやー、寝れねぇなこれ」
「分かります。衝撃で落ち着きません」
「研究会第二部始まるか?」
「いや明日平日ですよ」
笑い声。その時だった。
NRサーバー全体への通知。
『No Riches New Regulation』
海外サーバー。名をBoss Stage。
No Richesの生みの親。
規制リストはBoss Stageの主要メンバーで検討され、プレ適応期間を経て、公式に発表される。
通話が止まる。
ぽん酢が笑いながら言う
「次から次へと……このコンテンツ、忙しすぎない? 面白すぎない?」
「本当ですね。どうなることやら……。恐らくヴェンデットに焦点の当たった規制。見てみましょうか。」
悠斗達は興奮も冷めやらぬまま、新しい規制を確認する。
環境を支配したヴェンデット
環境の番人であるNo Riches
多くのプレイヤーに愛されたヴェンデットというデッキは、これから幾度もの規制を経験し、幾多の研究を経て、様々な形に姿を変える。
その第一歩、ヴェンデットの初めての規制は、その拳で天を突いたスレイヤーを叩き落とすのに十分なものだった。
第3回真佐杯の様子↓↓
https://www.youtube.com/live/TSzKYDVDuio?si=momfLs9qlKLpu-Qp
NRヴェンデットのすすめ(ミラーマッチ編)↓↓
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