Re:Nyanster 〜刺突から始まる猫人転生日記〜   作:パンダ三十六か条

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前々回残りはあと3回といったな。あれは嘘だ。

長くなりそうなので分割させていただきます。


34日目・夜の部前半 今ならどんな敵にだって負ける気がしない

ジンオウガ

モンスターハンター3rdにおける主役とも言えるモンスター。抜群の身体能力と強力な雷属性攻撃により何人ものハンターを血祭りにあげてきたモンスターで、「無双の狩人」という異名を持つ。

雷光虫という虫と共生関係にあり、彼らの天敵であるガーグァから守る代わりに戦闘時はその力を借りて戦う。

ゲームでのジンオウガはそんなモンスターだった。確かユクモ村の近くに住み着いたジンオウガに様々なハンターが挑んだが倒せた者はいなかった、という設定だったはず。

 

 

今、俺の目の前にいるジンオウガは、まさしく「無双の狩人」にふさわしい威厳を放っていた。今まで戦ったモンスターは全員雑魚だったのかと感じさせるほどの気迫。遠くから見ただけなのに、本能がガンガン警報を鳴らしている。地雷を踏んだせいで一応前足に傷を負っていたが、特に

俺が比較的冷静さを保っていられるのは、【誇り高き猫将軍】のおかげだ。

単独行動の心得を得る【独り身の戦闘】、強い敵と戦う度胸を得る【命知らずな心】、リーダーとしての風格を得る【群の長】、一匹の獣としての誇りを得る【獣の誇り】、好戦的になる【闘争心】、食欲などの自らの本能を抑え込む【禁欲者】。

 

これら6つの精神関係系能力を統合した結果生まれた【誇り高き猫将軍】は、アイルーの頂点に立つ者としての誇りを俺に与えている。そのおかげで俺は強い相手の前でも恐怖に飲まれるような事はなかった。

 

 

 

 

【焔火の息】【爆炎の息】

どちらも威力か高すぎるので使いどころに困っている能力だったが、今回はこの2つを【調合】で更に強力にする。

強い相手であるジンオウガだが、俺の高い隠密スキルのおかげで俺には気づいていない。今は強い攻撃を当てる絶好のチャンスだ。

俺は一気に腹にエネルギーを集中させると、そのまま吐き出した。

 

 

猛火の竜息(バーニング・ドラゴンブレス)

 

 

口から発せられた巨大な火球。当たったら大ダメージは避けられない一撃。ジンオウガは途中でそれに気づき避けようとしたが、うまく避けられずに炎が後ろ足に当たった。

攻撃の手は緩めない。俺は【外骨格着装】などで完全防備になった後、武器を取り出して一気にジンオウガの元へ近づく。

 

「■■■■!」

 

俺に向かって飛びかかってくるジンオウガ。雷を発生させ、雷撃を付与した脚を叩きつけてくる。俺はそれをかわしながらもリオレイア戦で使った【広範囲攻撃】と【4連突き】の同時使用による全身刺突攻撃を発動。これは一瞬ににしてリオレイアに大きなダメージを与えた技だった。

 

だがそれはジンオウガの肌に小さな傷しか残していなかった。【広範囲攻撃】は一度にたくさんの箇所を攻撃できる優れた能力だが、その分力が分散し攻撃の威力が下がるというデメリットがある。堅牢な肌を持つジンオウガにとって、今の攻撃は虫に刺されただけに等しい。

しかし、この攻撃中俺はジンオウガに何十発、何百発もの攻撃を叩き込むことができた。それにより【練気技】の効果で攻撃力が大きく上昇する。

 

 

 

ジンオウガが動きを止めて身構える。それはジンオウガの技の一つである『回転尻尾なぎ払いサマーソルト』の構えだった。

相手のかなり近くにいるのでかわすのが難しい。そう判断した俺は【黒猫の強靭な肉体】と【黒き猫竜の尾攻撃】を発動。増強しビキビキと音を立てる尻尾を振りかざし、更にそこに【4連突き】を重ねがけして相手に突き刺す。ジンオウガの身体を黒い槍が貫いたかと思うと、その傷口を3つの見えない槍が再びえぐった。

とっさに自分の出せる最大威力の攻撃。その攻撃を叩き込んだ瞬間俺の体が中を舞う。どうやら無理やり押し切られてなぎ払いを発動されたようだった。相手の強い尾攻撃に飛ばされた俺は、そのまま地面に叩きつけられる。とっさに腕をクロスしてガードはしたのだが、外骨格を見てみると攻撃を食らったところが大きくへこんでいた。すぐさま腕の部分を展開しなおす事で損傷箇所は治ったが、【形状記憶】を掛けていた鎧すら歪めるその威力に俺は驚いた。

 

 

通常時でもここまで強い……。もしこれが超帯電状態になったら、多分一撃で死ぬ。

そう思っていたら、突然ジンオウガの動きが止まり体についていた虫が光り出す。体からエネルギーが舞い散り、辺りの雷光虫が集まり出す。それは正しく帯電行動の始まりだ。

 

俺はアイテムボックスからある物を取り出して、ジンオウガに向かって投げつける。着弾した瞬間、そこからは煙が発生していた。

毒煙玉。毒の煙によって相手を毒状態にするアイテム。ジンオウガにはそこまで効果は高くないので、使ってもあまり意味は無い。そもそもこのアイテムを狩猟に使う事が少ない。

 

だが、それはあくまでジンオウガに対してのみの話だ。

煙に包まれた途端、ジンオウガの周りの光が消えてまとっていた雷も消える。ジンオウガは突然消えた虫達の姿に驚き、周囲を見渡していた。

 

毒煙玉の使いみちは主に虫系モンスターの討伐だ。防御力が低い虫系モンスターは倒すと砕け散ってしまう、という問題がある。が、毒煙玉は使うと相手を無傷で倒して剥ぎ取りすることができる。この世界で毒煙という物は虫にとって何よりも強力な武器になる。

この世界はゲーム寄りな面も多いが、現実だ。ゲームの中ではダメージを与えられなかった存在にもダメージは与えられる。木も切り倒せる事からそれは確認済みだ。だからこそ、ジンオウガの周りを飛んでいる雷光虫にもダメージを与えられる。

 

毒煙玉を吸って死んだ雷光虫は地面へ落ちる。死んだ死骸はアイテムボックスにささっと回収して、雷光虫を剥がされたジンオウガと相対する。これで警戒しなくてはならないのはジンオウガの桁外れな身体能力だけで良くなった。俺には【絶縁体】もあるから、通常時の電気くらいなら多分問題はない。

 

俺は【風起こし】を発動させる。本来なら威力の低いこの攻撃だが、それはもはや単体で使った場合の話。斬撃、打撃、貫通など様々な攻撃の威力を上げる能力【武器攻撃威力上昇】により攻撃性を底上げし、【5属性攻撃】【火属性攻撃】で強力な火属性を付与する。

熱風が巻き起こる。それだけで草が切り裂かれて燃え、石が飛ばされて焼け、木が切り倒されて炎上する。周りは乾燥し、息苦しさと暑さが満ちる。

これで、ここは俺のリングになる。火属性耐性の高い俺はここに居てもダメージをほとんど受けない。だがジンオウガは砂漠や火山などのエリアには出てこない事から察するに、こういう熱い環境が苦手なはず。後はジリジリと削っていけば良い。虫達も煙を嫌ってここを立ち去るだろうし、こちらにより有利な環境になる。

ダメ押しに相手に【粘液の唾】をぶつけて属性耐性を減少させ、自分は【体温調節】で身体を冷やすのも忘れずに行う。【興奮物質生成】で疲れも取っておこう。

 

 

 

 

 

 

今の俺は、生まれた頃と比べてかなり強くなった。

リオレイアからラーニングした【大地の女王】による陸上での身体能力向上と、【武芸百般の心得】によって与えられた戦闘のセンス。これにより今の実力はハンター並みになった。

剣の腕に関しても【刀剣の心得】で大体の使い方はマスターしているし、【職業・狩人】【職業・重剣士】により刀剣に威力補正がかかっているので文句なし。

 

ここまで来るのに何体ものモンスターを食べた。何人もの人を食べた。モンスターになったせいかストレスは何も感じない。相手を殺す事をためらったりしない。自分の欲望のままに突き進む事を疑問にも思わない。

おかしいとは思っていた。いつから自分はこんな化け物(モンスター)になったのだろう。この世界に来てから? モンスターを食べてから?

もしかしたら俺は気づかなかっただけで、この世界に来る前から化け物の心を魂に宿していたのかもしれない。モンスターになったこの体は、肉体が心の様子に近づいた結果なのかもしれない。

 

 

 

だけど、そんな事はもう良い。今の俺はモンスターだ。捕食(たべ)て、悪食(たべ)て、快食(たべ)て、飽食(たべ)て、共食(たべ)て、雑食(たべ)て、飲食(たべ)て、過食(たべ)る。そんなモンスター。

相手を喰らうことで自らの血肉として取り込み、相手の能力も知識も全てを得る。来るものは拒まずに喰い、去る者は追って喰う。そんなモンスター。

 

そうすれば俺は強くなれる。喰えば喰うほど強くなり、いずれは古龍をも越すだろう。そうすれば俺に歯向かえる者はこの世界にはいなくなる。俺がこの世界の王になれる。

王になったら何をしようか。まずはこの世界の厄介な存在を全員殺そうか。この世界にはまだ見ぬモンスターもたくさんいる。おそらく強力なモンスターもたくさんいるだろう。危険分子は殺さなくてはならない。俺の危険に繋がるから。俺には逆らえる奴は全員この世に不必要だ。

 

 

 

「あっひゃっひゃっひゃっひゃ! あっひゃっひゃっひゃっひゃ!」

 

笑いが止まらない。精神が高ぶって、気持ちがハイになっている。体は冷えてるのに心の熱は収まらない。

鬼人化のせいだろうか。疲れをごまかすために投与した興奮物質のせいだろうか。なぜだか今は力が漲っていて、どんな敵にだって負ける気がしない。

 

さあジンオウガ。見せてもらうぞ、お前が俺に無様に負ける所をな。


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