Re:Nyanster 〜刺突から始まる猫人転生日記〜   作:パンダ三十六か条

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遅くなりました!


5日目 若人よ。喰って喰って強くなれ。

アイルー転生……五日目

 

ついに、俺も狩りに出かける事になった。

 

本来ならば何匹かで班を作って狩りをしなくてはならないのだが、一緒に来ることになった奴らを説得して先に行かせることに成功した。二足歩行するとはいえ所詮は猫。結構規律にはルーズな奴らだった。

 

俺はまず自衛手段の用意をする事にした。

 

成り上がりのためのアイテム入手。それには長い距離を移動しなくてはならない。その過程でジャギィに出くわしたら俺は一瞬で死んでしまうだろう。

 

だから、これは仕方のない事なんだ。

 

「うええ……気持ち悪りぃ。吸喰能力で忌避感は消えるはずなのに……」

 

生き残るため、強くなるには必要な事なんだ。だから……食え! 食うんだ! ニャー郎ーっ!

 

『能力名【悪臭】のラーニング完了』

 

俺はあの素材を食べていた。モンスターを追い払うために使うアイテムのこやし玉の素材、モンスターのフンを。

 

モンスターのフン。複数のモンスターが混ざり、腐り、酷い臭いを放つようになった末にできた素材である。フンが積もり積もった地点で採取できる、こやし玉の材料となる素材だ。

 

ここは元々砂場だったのを、アオアシラやブルファンゴが掘ってトイレとして使っていた所らしい。

俺達の居住区が近くに出来てから、アイルーはここにフンを捨てるようになり、それが牙獣種のフンと混ざって酷い臭いを発するようになったようだ。

 

そのせいでこの地点にはあまりモンスターがこない。

なかでもジャギィは狗竜という別名の通り狗のように鋭い嗅覚を持つため、悪臭の酷いこの地域には全くやってこないらしい。

なんせ、アイルーの俺ですらここにいるだけで息苦しいのだ。もし俺の転生先がジャギィだったら地獄を見る羽目になっただろう。

まあ、この臭いのおかげで安心してフンを捕食ができるのだから、気にしないことにしよう。

 

口直しに、近くに生えていた青い果実を幾つか口の中に放り込む。

 

『能力名【属性やられ無効化】のラーニング完了』

 

…………あれ?

能力名から察するに、この果実はウチケシの実だったらしい。そういえば、ゲームでもこの地点でウチケシの実を採取できたような気がする。

 

にしても、序盤でこの力を得ることが出来るとは思わなかった。属性攻撃の無効化はジンオウガなどの強い敵と戦う時はかなり使えそうな力だ。

これから行くところにいる敵にも、かなり有効な力になるだろう。手に入れられて良かった良かった。

 

 

********

 

 

この世界はモンスターハンターの世界だが、ゲームでは無い。俺はその事実を今、思い知った。

この世界は、ゲームの世界をベースにしている。ゲームで見覚えがある地形が存在し、ゲームの世界と似た所に採取ポイントがある。

 

そう、似ているだけなのだ。ゲームと現実が全く同じなんて事は無く、世界観がリアルになったことによって、この世界は所々にズレ(・・)が発生している。

 

エリアとエリアの間に出来た新たな地形、ゲームよりも広くなったエリア、本来の場所以外でも採取できるようになっているアイテム、トカゲやカラスなどのゲームでは見られなかった動物達。etc……。

 

そして、最大の変更点はエリアという括りがなくなっていることだろう。

ゲームなら、エリアが変わればモンスターは追ってこない。しかし、これは現実だ。普通にどこまで行っても諦めない限りモンスターは付いてくる。

 

つまり、エリアとエリアの間の境界線が無くなり、括られてた檻の中に閉じ込められていた者たちが外に出てくるのだ。

 

「シャーっ!」

 

「うわっ、デカい! デカいよこの虫!」

 

だから、本来ならいないはずのコイツがいることも、不思議ではないのだ。

 

オルタロス。モンハン3rdの世界にいる虫モンスター。

見た目は巨大な蟻。食った物を腹に溜め込んで運ぶ習性を持つモンスター。基本的にこちらが攻撃しない限り何もしてこない温厚な奴である。

攻撃方法は噛みつきと酸。地味に嫌な感じのモンスターである。

 

これが、自分の目の前に出現している。

……うん、無理。実物大のアリ怖い。虫のアップの写真でさえ駄目だというのに、巨大な虫と戦うなんてできるわけがない。虫だから肥やし玉の匂いも普通に平気なので、追っ払うこともできない。更に、コイツは昆虫の硬い甲殻を纏っているため、こちらのの攻撃がまったく通らない。本当、無理ゲーにも程がある。

 

とりあえず、「物理攻撃は駄目でも火なら効くんじゃね?」と思ったので、【蜘蛛の糸生成】で相手を拘束し、【爆竹生成】で作った爆竹を投げつけて着火させて全身をジワジワと熱して見たところ、なんとか倒すことができた。俺の初めての獲物がオルタロスになるなんて驚きである。

焼けている肉の匂いを嗅いでいたら我慢できなくなり、つい頭だけ食べてしまった。オルタロスの肉は酸味が強く、とても刺激的な味だった。

 

『能力名【大顎】のラーニング完了』

『能力名【蟻の筋力】のラーニング完了』

 

【大顎】は使うと、口が4つに分かれて縁にギザギザな歯が生えて、どこぞのゾンビウイルスの感染者や脳を乗っ取る人食い生物のようなビジュアルになった。大きな物を食べる時に使えそうな力である。

【蟻の筋力】は筋力に補正をかける力らしい。使ってみると、残ったオルタロスの身体を発泡スチロールのように持ち上げることができるようになった。

 

どちらも後々役立ちそうな能力である。これからはオルタロスを見つけたら優先的に狙うようにしよう。

 

 

 

さて、邪魔な敵は倒せた。

今、俺が入るのはエリア6にある滝の前である。

【気配察知】を使ってみたところ、この先に危険な生物はいないようだった。先ほど手に入れた【蟻の筋力】を使って無理やり水を掻き分けて、俺は奥のエリアに進んだ。

 

目の前に広がったのは、どこまでも広い空間。

滝を通して入る、幻想的な光で照らされる大空洞だった。

 

エリア8。ジャギィやブナハブラなどが出没する、モンスターのフンや骨などを採取できる地域。

奥に進んでいると、俺の【気配察知】に強い反応が引っかかった。見てみるとそこにあったのは大きな地面のくぼみ。そして、その中心に鎮座する楕円の球体。

 

「……あったぞ。竜の卵」

 

竜の卵。このエリアに住む大型モンスター、リオレイアの産んだ卵。一個でユクモポイント1200zと交換できる、下位クエストでは最高の納品アイテムだ。

渓流の中でもかなりの強者であるリオレイア。子供の火龍一体分のエネルギーを圧縮したその卵は、栄養満点だ。

 

この卵は普通の生物にとって、ただ腹を満たすためだけの物にしかならない。こんな物を狙うくらいならガーグァなどを狙った方が良いだろう。

 

だが、【吸喰能力】を持つ俺は違う。

【吸喰能力】は、食った力を自らに取り込む力で、食った怪物の分の力がどんどん加算される力でもある。喰えば喰うほど能力が増えるだけでなく、身体能力も上昇していく力。すなわち、食った分の力をそのまま足し算して強くなる力なのだ。

それ故に、俺にとってこの卵は最高のアイテムだ。なんせ、喰えば火龍の力をそのまま取り込むことができるのだから。

俺は【大顎】を使って口を拡張し、卵を一気に咀嚼した。

 

食べた瞬間、俺の口の中に溢れたのは強烈な旨味だった。

無添加のエサを食べて育つ鶏の卵は黄身の味がしっかりしていて美味いとはよく聞くが、竜の卵はまさにそんな感じだった。

噛んだ瞬間に口の中で弾けた黄身は、まるでシチューのように濃厚。白身はあっさりしているのに黄身の味に打ち消されるようなことは無く、それを優しく包み込んでいる。殻は食感と、噛めば噛むほど溢れる旨味で口の中を楽しませてくれる。

はっきり言って、前世で食ったどんな卵よりも美味しかった。さすがドラゴンの卵である。味すらも規格外だった。

 

一体どのくらい俺は卵を味わっていたのだろうか。

何分か、何秒か、それとも何時間か。味を楽しんでいたせいで時間感覚が完全に麻痺していた。

そろそろリオレイアが帰ってくるかもしれない。そう思った俺は、卵をゆっくりと飲み込んだ。

 

 

『【竜毒投与(ヴェノム)】のラーニング完了』

 

『【猛毒耐性(トレランス・ヴェノム)】のラーニング完了』

 

『【火属性攻撃】のラーニング完了』

 

『【焔火の息(ドラゴンブレス)】のラーニング完了』

 

『【炎熱耐性(トレランス・フレイム)】のラーニング完了』

 

『【威嚇咆哮】のラーニング完了』

 

『【竜鱗生成】のラーニング完了』

 

『【竜尾攻撃】のラーニング完了』

 

『【竜爪攻撃】のラーニング完了』

 

『【風起こし】のラーニング完了』

 

『【大器晩成】のラーニング完了』

 

『【■■■■】のラーニング完了』

 

 

 

なんでだよ!

思わずそう叫びそうになったが、ここがリオレイアの巣だと思い出し慌てて口を閉じる。

いや、なんで卵一つで能力を一気に12個も得てるんだよ。しかも、何だ【■■■■】って。明らかにヤバい能力じゃないか。

 

……まあ、得てしまったものはしかたがない。【■■■■】と、【大器晩成】に関してはよく分からないが、他の能力は使えそうである。

 

 

 

 

とりあえず、今日はもう集落に帰ることにした。能力の検証は明日からの課題である。

ちなみに、残っていたオルタロスの胴体は、腹一杯だったので集落の大人にわたしておいた。どうやら甲殻を剥いで防具の材料にするらしい。

 

 ヤケに眠かったので、さっさと寝転んで眠ることにした。地面での睡眠も、アイルーに転生してからの五日間ですっかり慣れてしまっていた。人間、意外と逞しいものである。

 

 

 

【レベルが規定値を突破しました。

特殊条件≪■火龍捕食≫≪特異行動≫をクリアしているため、【猫人長(ドスアイルー)亜種(バリアント)】に【存在進化(ランクアップ)】が可能です。

 【存在進化(ランクアップ)】しますか?

 ≪YES≫ ≪NO≫】

 

 

 

あれ? これって……?

眠かったのでとりあえず《Yes》を選んで寝た。


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