遥かな刹那を希求する   作:甘朔八夏

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1.女の子に銃ぶっ放すのたのしい

 

 

上空100メートル。ビルの壁を走っている。ぶっ飛ばされた勢いのまま、俺は身体を真横にして窓を蹴っている。超能力でも魔法でもない。諸君、当然の摂理として重力は俺を下に引っ張るのである。つまり勢いがなくなった途端、

 

「……落ちるに決まってるよなぁぁぁぁ!!!」

 

死ぬ!いくら俺が丈夫だけが取り柄の健康優良児だったとしてもさすがに上空100メートルから落ちたら死ぬ!

 

「——(はるか)ぁ、ボクのこと、使っちゃいなよ。ボクの体を、モノみたいに、乱暴に」

 

「じゃあ遠慮なく《加圧(アッドプレッシャー)》ッッ!!」

 

ドッ、と極限まで圧縮された凄まじい爆風が銃口から吹き出る。反作用でぶっ飛ぶ身体は、クソでかいガラスを割ってビルの中に転がり入った。

 

「ちょっと、女の子のYESサインをそんなにぞんざいに扱うのはどうかと思うな。ドギマギしてよ」

 

「ドキドキはしてるよ!生死の境でな!!」

 

地面を強く押して跳ね起きる。たった今俺が割った壁の穴に、俺を追うように小さな何かが入ってきた。爆弾だと認識した途端、落雷のように真っ白になる視界。爆風に吹き飛ばされる…ことはない。俺は武器(かのじょ)を構えていて、足はきちんと床を踏んでいる。

 

「——リズ」

 

「はいはい、遥の仰せのままに♪」

 

()()()()()()()吹き荒れる突風。突風なんて生やさしいもんじゃない。放たれたそれは空気の津波。風圧の核爆弾。

俺たちを爆ぜ飛ばすつもりだったであろう爆発はその風によって一瞬で鎮火。リズの暴風は勢い衰えず、隣のビルまで届いて壁面に隕石みたいなクレーターを作った。

 

俺は反動で数メートル後退する。足と擦れた床は摩擦熱で真っ黒に焦げていた。

 

 

「ああ!埒が開かない!敵!どこ!」

 

「遠距離でこんなに強力な攻撃ができる子は、きっと本体が弱いんだろうねぇ。見つける方法は大体予想できるかな」

 

「マジで!?教えてくれ!」

 

「このあと1時間遥の体好きにさせてくれるならいいよ」

 

「自分で考えるわ」

 

 

この爆発の威力に加えて極めて短いインターバル。そこに正確な追尾能力(ホーミング)なんていくらなんでも盛りすぎだ。

 

 

「えー!?じゃあ30分!30分でいいよ!」

 

 

何かカラクリがある。特に威力。爆弾のサイズとあまりに釣り合ってない。

 

 

「無視するなら勝手に言っちゃうからね!ちゃんと約束守ってよ?敵の秘密はね——」

 

「だああ、もううるせえな!俺の体どうするつもりだよお前は!」

 

「まず裸にひん剥いて」

 

「もういい」

 

 

不満げな声は無視して前方に集中。またもや正確に俺へ向かって飛んでくる爆弾を、今度は爆発前に接近して掴んだ。

 

「!——有った」

 

読みどおり、爆弾に付いていたのは極細の糸。これはいわば充電コードだ。爆発の直前まで燃料を注ぎ続けることで威力を底上げしていたのだろう。つまりこの糸の先には、

 

カッ。

 

手の中の爆弾が眩い光を放つ。

 

「うわちゃあっ!」

 

慌ててぶん投げたが間に合わず、手首から先が真っ黒焦げになってしまったぜ。やっぱりこの爆弾の威力やばいっすね(小並感)。

 

 

「……遥、怪我したの?」

 

ぞわりと背筋が粟立つ。彼女のこの声は、何度聞いても慣れる気がしない。まずい。早く終わらせないと、()()()()()

 

「ね、お仕置きする?ボクがしていいって事?」

 

「あー…うん、そうだな」

 

リズの声はひどく嬉しそうだ。彼女は俺が弱ることを望むから。俺が彼女に頼らざるを得なくなることを待っているから。

 

「とりあえず接敵な」

 

「りょーか〜い♪」

 

銃口を真下——ビルの床にぴったりつける。俺は身構えた。

 

「《過圧(オーバープレッシャー)》」

 

 

破裂。世界の破裂。武器のサイズと全く釣り合わない圧倒的な威力。そこに一切のカラクリは無い。それが彼女が特別たる所以だから。

 

 

何十階に位置するこの場所から、地上一階まで綺麗に穴が空いた。穴どころじゃない。ビルはもはや、内部が空洞のハリボテとなっていた。

 

 

空洞へ飛び込み自由落下。豆粒のように見える地上一階には、あまりの大爆音に、思わず様子を見にビルへ入ってきてしまった敵さんの姿が。口をあんぐり開けてる。「どういうことなのよ」って顔してる。

 

「どういうことなのよ!?」

 

あ、言った。気持ち分かるわー。マジで意味わかんねえよな。こいつと戦わないといけない敵がいつもかわいそうだもん。

噂をすれば影。そのとき俺が小脇に抱えていた銃が、凄まじい蒸気を噴き出し始めた。

 

「ボクのご主人を傷つけた女狐に、おしおきたーいむ♪」

 

蒸気が晴れる。俺の隣には、黒と赤褐色を基調とした外套に身を包んだ長い髪の女がいる。彼女の右腕は、

 

俺が持っていた銃そのものだった。女——リズはアメジストの瞳を爛々と輝かせ、銃口に空気を圧縮する。

 

「あはっ、たのし〜」

 

暴力だった。

ビルを破壊し、爆弾の爆風さえも消し飛ばす一撃がたった一人を狙って放たれる。

 

圧倒的な空気の弾丸は、地面のコンクリートを粉々にするだけでは飽き足らず、地下十数メートルまで垂直堀りをしてやっと消えた。

 

「……リズさんや。加減ってもんご存じ?」

 

「失礼な、してるよー!回転属性つけてたから、仮に人に直撃してもすぐに吹き飛ばされるようになってたし。死ぬことはないよ!……なのに、結局助けちゃうし」

 

じとっとした顔でこっちを見てくるリズ。ごめん、お前が加減できるなんて微塵も信用してなかった。とはいえ俺の判断は正解だと思う。俺にお姫さま抱っこされたままの、顔面蒼白な敵さんに声をかける。

 

「戦闘終了、だな。捕虜になってもらうがいいか?」

 

その子は、がくがくと頭を縦に振った。

 

 

 

 

ーー

 

 

 

 

「ご苦労!後は我々が締めておく」

 

 

毎度のことながら、ゆるふわな見た目に合わないハキハキした声で上官が言い放つ。へぇどうも、と無礼な礼をする俺と、話を全く聞かずに練りあめを練っているリズ。

 

上官はそんな俺たちを一瞥して、満足そうに頷いた。俺は知っている。大人用のチェアにちょこん、と座る上官の写真が部下たちの間で高く取引されている事を。

 

 

「ああ、()()()()()()()()殿!新しく解析完了した『骨董(アンティーク)』の件で尋ねたい事があるのだが……」

 

何かを思い出した上官がリズを呼び止める。しかし彼女は練りあめを白くする作業に夢中だった。

ちょんちょん、と彼女の肩をたたく。

 

「おいヴォイドブリーズどの。呼ばれてるぞ」

 

「つーん」

 

「……はぁ。リズ」

 

「はい!ボクに何か用事?」

 

「上官が呼んでる」

 

「えっ、リァムちゃんどうしたの?」

 

 

軽やかに上官———冷泉(れいぜい)リァムの隣まで移動したリズ。俺たちのやり取りを見ていた上官は、ぽかんと開けた口をすぐに閉じて苦笑した。

 

「君たちは本当に仲が良いな」

 

「上官の目は節穴ですか?」

 

「いやぁ、隠してるつもりでもボクたちのラブラブ具合ってバレちゃうんだね」

 

「ラブラブしたことなんて一度も無いだろ」

 

「じゃあ今が記念すべき一回目〜」

 

「ちょっ、」

 

ぎゅ。リズのやわらかい体重がじんわり俺の身体に預けられる。やわらかい体重ってなんだ。しかしそうとしか表現できない。少しひんやりしたリズの身体が、俺の身体と触れ合うことで熱を持っていく。二人の体温が一緒になっていく。心地よい包容感にすべてを委ねたく

 

 

「危ない!!!」

 

俺は飛び退くようにリズから離れた。

いくら気の知れた相棒とはいえ、思春期男子にこの所業は拷問がすぎる。荒い息を吐き切って、なんとか呼吸の正常化を目指す。

 

 

「……硝子音(がらすね)。「するな」とは言わんが、そういうことは個室でな」

 

「たしかに。遥、行こ?」

 

「行かないし、しない!リズはともかく(ともかくってなに!?ねえ!)、上官は茶化すのやめてくださいよ!知ってるでしょう?

 

俺がこいつに堕とされたら実質俺は死ぬってこと」

 

 

 

 

———『骨董(アンティーク)』。

俺たちの扱う武器の総称であり、各「特区」の研究と技術の結晶。通常は基地が解析、実用化するものであるが、(ごく)まれに現代科学では解明できない、特別な力を持った『骨董』が発掘されることがある。

 

その中の一つが、俺の相棒・ヴォイドブリーズなのである。

 

 

彼女は超高層ビルを一発で瓦礫に変える爆風を放てる。

彼女は一瞬で巨大な真空を作れる。

彼女はなぜか擬人化できる。

 

 

自我を持ち、常識外れの力を持った彼女が「()()」と言われる所以。

それは、ヴォイドブリーズに身も心も屈服した使用者は、身体の所有権を彼女に奪われるから。

 

現在の彼女は、本体が武器ゆえ色々と縛られている面があるらしい。最たるものとしては、擬人化したリズの右手は銃であり、そこを人間の手にすることはできないようだ。

 

つまりニンゲンの体を手に入れて完全なる自由の身に、って魂胆だ。

 

 

「俺はまだ自分の人生を謳歌してえよ!」

 

「ぐー、手ごわい。せっかく遥の好みだっていう、純真な女の子の態度取ったのに……」

 

「甘いな、リズ。お前にはまだ白いワンピースと麦わら帽子が似合わない」

 

ちっちっち、と指を振っていると、横から刺さる哀れみの目。

 

「硝子音、気の毒になぁ……。その若さで生涯独身が確定するなんて」

 

「俺の理想そんなに高いですか!?」

 

「ううむ、高いというか……」

 

「ご主人、妄想と現実は分けないと」

 

「ぐふっ」

 

妄想の具現化みたいな奴から正論言われるのムカつく……余計ダメージ入るし。リズは胸を抑える俺の背中をさすりながら、むん、と自慢気に胸を張った。

 

「屈服するかはさておき、ボクを選んどきなよ! 遥のこと、大好きなのはホントだよ? 一体化したい……ごほん、食べちゃいたい……じゃなくて、ボクのものにしたい……くらい、遥が好きだよ」

 

「目が怖えよ」

 

獲物を狙う猫のようにガン開きになった瞳孔。真っ黒な穴のような瞳から俺は目をそらした。結局本性ごまかせてないじゃんお前。

 

もう疲れたので上官に「リズに話があるんでしょう」と思い出させて、まだひっ付いてこようとするリズをしっしっと上官の方へ追いやる。

 

リズが帰ってくるまで30分くらいだろうか。貴重な完全一人時間だ。何しよ。

 

「待て」

 

自室に帰ろうとした俺を、上官が呼び止めた。

 

「後で私の部屋に来い」

 

「え、なんでですか?」

 

意図がわからず尋ねると、上官は呆れたようにジト目を作った。

 

「手。まさか忘れてるのか?」

 

あ。そういえば爆発で真っ黒焦げだったわ。てへぺろ。

 

 

 

 

ーー

 

 

 

 

「入れ」

 

ノックしようとした寸前、勢いよく扉が開いた。

 

「む?なにぼーっと立ってるんだ?」

 

上官の格好はリラックスした部屋着……というか、もふもふパジャマだった。私服かわいっ。普段のゆめかわな軍服でさえ、一応自重してるんだよなこの人。

 

オフの上官をカメラに収め、同僚に売り捌いて一儲けしたいところだがぐっと我慢。さすがにバレたら殺される。

 

パステルカラーの壁紙、でっかいユニコーンのぬいぐるみ。その可愛らしい雰囲気をぶち壊す、テーブルの上に山積みになった、対象特区調査資料『骨董』研究資料戦闘後処理資料資料資料資料。

 

 

「……肩、お揉みしましょうか?」

 

「なんだ藪から棒に。そもそもお前の手が使えないから呼んだんだろうが」

 

「座れ」と言って、上官は自分の隣をぽんぽん、と叩く。いまさら恥ずかしがってもしょうがないので、俺はその、夢の国のお姫さましか寝ることを許されなさそうなベッドにおとなしく腰掛けた。

 

「硝子音……この傷忘れてたって、お前やばいぞ」

 

上官の小さな手が俺の真っ黒焦げの手のひらを観察する。「ほっといたら壊死だな、これは」

 

「うげー、そんなひどかったんすかこの怪我」

 

「一目瞭然だと思うがな……まあいい。すぐ治してやる」

 

 

上官は自身の瞳と同じ色の、綺麗な水色の手袋(ガントレット)を装着する。これが上官の『骨董』。

 

「動くなよ」

 

小さく開かれた口が、かぷりと俺の指先を()んだ。

 

んむんむと動く唇をなんとなく観察していると、視線に気づいた上官がジト目だけをこっちに向けて「じろじろ見るな」と訴えかけてきた。

 

指示通りそっぽを向く。が、処置を受けてる側からすると口唇(リップ)音だけ聞こえる方が恥ずかしいのである。

 

上官の両手が俺の真っ黒焦げの手を包む感触。ひやり、と手全体に冷たさが広がったかと思うと、上官の口が俺の指から離れた。

 

「こっちを向くことを許可する」

 

さすが上官。俺の手は元通りに完治していた。

 

「違和感はないな?」

 

「ええ、完璧です」

 

「ならば戻ってよし」

 

 

途端にそっけなくなって俺から視線を外す上官。彼女の意識はすでに山積みの資料へ注がれている。

 

「……今度二人でご飯食べに行きません?奢りますよ」

 

「いらん。建設的な話をするならばヴォイドブリーズ殿を連れてこい」

 

手厳しい。まあ俺より金持ってるであろう上司に「奢りますよ」は舐めてるか。フラれた俺はおとなしく去ることにする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

誰かが部屋をノックする。

 

「リァム、私私」

 

上官———冷泉リァムはため息をつく。軍服を羽織ってから入室を許可すると、小柄なリァムとは対照的に、見上げる長身に巨大なハンマーを(かつ)いだ少女が部屋へ入ってきた。

 

「やっと帰ってきたか」

 

「うん、ただいま。怪我しちゃったから治して」

 

リァムが出した患者専用の椅子にどすんと座り、少女は深い切り傷のついた手の甲をリァムに差し出した。

 

リァムは再びため息をつくと、手袋(ガントレット)をつけた両手で少女の手を包む。ひとたびドライアイスのような煙が広がると、少女の手の傷は完治していた。

 

「ありがと」

 

嵐のように去っていく部下に、三度目のため息を漏らす。リァムはやっと落ち着いて、先の戦いの事後処理業務に取り組み始めた。

 

 

 

 

 

ーー

 

 

 

 

 

俺、硝子音(がらすね) (はるか)には誰にも言えない秘密があった。

 

一度消滅した基地を建て直した初期メンバーである? 知ってる人は知ってる。戦闘終了後の決め台詞を考えたノートを作ったことがある? そんなの皆してる。……してるよな?

 

 

 

「あ、おかえりー」

 

自室へ戻ると、リズがリラックスした表情で俺を迎えてくれた。

 

「ねえねえ遥、この漫画の反対側持っといてくれない?ボクの手じゃ持ちにくくて……」

 

リズの片手は銃になっている。そりゃあ持ちにくいだろう、と仰せのままに手を貸した。

 

リズはご機嫌だ。「めくってー」との声に従って次のページをめくると、それだけで嬉しそうにふふー、と笑う。

 

 

 

絆されてしまいそうになる心を強く律した。

 

リズは「呪物」だ。

俺とは比較にならない力を持った兵器。にも関わらずリズが無理やり俺の身体を奪おうとしないのは、リズがあくまで『骨董』であり、武器に縛られているから。すなわち、使用者(おれ)の本気の命令には逆らえない。

 

だから拒否されないように、拒否できないように、リズは俺を主人と見たて、ひどく好意的な態度をとる。誘惑は冗談でしか行わない。俺を堕とそうとしているのだと思う。

 

リズは俺から求めてくるのを待っている。無理やり迫るのは、俺の好みに大きく反していて拒否されると思っているから。

 

 

俺は異性の好みを、「純真無垢で白いワンピースと麦わら帽子が似合うような、花が咲くように儚く笑う人」と公言している。

 

おかげで基地内での評価は拗らせ少年(笑)だが、このイメージを俺は決して崩してはいけなかった。

 

 

 

誰にも言えない秘密。

 

俺の本当の性癖は、「超肉食女子に有無を言わさず抵抗もできず食いつぶされる」ことである。

 

 

 

「次のページ!」

 

隣でリズが、ぱっと花が咲くように笑う。絶対にバレてはいけない。

 

 

……へえ。へえ!遥って、ホントはこんなの好きなんだ。なぁんだ、我慢する必要なかったんだぁ。んー?「(いや)」? えへへ、「いや」だって!嬉しいな、そんなに誘ってくれるなんて。大丈夫。大丈夫だよ。ぜんぶボクに任せて、()()()()()を楽しんでね♡

 

 

 

もしバレたら俺は、彼女に食いつぶされて死ぬ。

 

 

 

 

 

 

反響があれば続けようかな、くらいの軽いノリの作品です。あなたも愛が重い子最高と言いなさい。

 

 




反響があれば続けようかな、くらいの軽いノリの作品です。あなたも愛が重い子最高と言いなさい。
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