アン・シャーリーという名の、ちょっと様子がいい男子   作:るきのるき

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11話 アン・シャーリー、きらきらした波の湖に向かって叫ぶ

「おれは、幼女が、好きだ!」と、おれはきらきらした波の湖に向かって叫んだ。

 

「もっと大きな声で!」と、マシューは御者席の上で横になりながら煽った。

 

 幼女とはペドフィリアの対象になる年齢層で、一般的には第二次性徴がはじまる以前、9歳から10歳前後ぐらいまでの女子のことをいう。日本だと小学校2年生ぐらいまでかな。赤毛のアンは、正確にはもう幼女とは言わないだろう。

 

「おれはっ、幼女がっ、好きだっ!」

 

「聞こえませーん。ラウダーだよ」と、マシューはさらに言った。

 

 引き続き、なろう系では微妙なエッジを攻めてる気はするが、別におれは幼女をレイプするわけでもないし、幼女をレイプすることを奨励しているわけでもないし、ましてや幼女をレイプする物語の登場人物でもない。レイプされる幼女なわけでは、さらにない。

 

 そもそも、赤毛のアンを養女にするマシューさん、別にそういう性癖を暗示している部分は、オリジナルの中には一切ないからね。ただ、女性恐怖症なため婚期をのがした老人だ、ってだけだ。ひょっとして妹が好きだった、とか、そういうのもないはずだよ。

 

 しかし、幼女好き(仮)のマシューじいさんに煽られてるうちに、確かにおれの声は大きくなっていった。そして、それにあわせて、夕景の中で黄金色にきらめいていた湖からは、灰色の泡が、特殊効果として使われるドライアイスの泡のように浮かび、薄闇色に変わると、数センチから数十センチ、中には1メートル近い大きさの魚が大量に、死んだ魚のような目をして浮いてきた。

 

「おれはっっ!」

 

 ぶくぶく。

 

「ようじょがっっっ!!」

 

 ぶぶくぶく。

 

「すきだあぁぁぁぁぁっ!!!」

 

 ぶぶくぶくぶく。ぐががっ。

 

 おれの全力の幼女愛に応えて現れたのは、全身が銀色の鱗におおわれた、おしゃれなダダ星人(確認してみたけど、あれは星人じゃなくてただの怪獣だった)のような怪人だった。大きな目と、大きな口の中の大きな牙をきらきらさせて、そいつは湖に浮かんだ魚を蹴散らしながらおれたちのほうにやってきた。

 

「カッパ?」

 

「プリンス・エドワード島にカッパがいるわけないだろ。あれは半魚人だね。この湖の主なのだ」

 

 おれは膝ががくがくと笑うのを感じながら、腰が抜ける寸前のところでかばんの中から、クロネコには好評だった日本産のニボシを半魚人に、こわごわと差し出してみた。

 

 ふん、と、鼻息を荒くしてそいつは、ニボシを叩き落とすとおれの手を握り返したため、おれは気を失ったようである。

 

     *

 

 気がつくとおれは、半魚人の腕の中で、お姫様抱っこのような形で抱かれていた。そんなに長い間ではなかっただろう。しかし、おれが不器用に結んだみつあみの半分は、伯爵令嬢であるリリちゃんが器用に結んだ半分と同じぐらいきれいに結び直されていた。

 

「マシュー、この半魚人さんはいい人なんだね!」と、おれは涙目で言い、マシューはうなずいた。

 

「でもって、幼女好き?」と、おれが聞くと、マシューは首を横に振った。

 

「ペドフィリアな成人男子を憎んでいるだけだ」

 

 あぶねー。

 

 実にあぶねー。

 

 おれがリアル世界の成人男子のままだったら、半魚人に殺されてるところだった。

 

 しかし、リアル世界に半魚人はいないし、半魚人のいる世界は仮想世界である。

 

「ひどいよ、じいさん」と、おれはマシューの背中をぽかぽかと叩き、マシューは笑いながら半魚人に、金貨型チョコレートを分けてやっていた。どうやらふたりは仲良しらしい。ちなみに、半魚人は海産物味のチョコレートだけは避けて捨てていた。

 

「幼女好きは嫌いだけど、幼女は好きなんじゃよ、こいつ」と、マシューは言った。

 

「そういうのおかしくない? 自分の中でどうやってその二つの好き嫌いを両立させてるの?」

 

「うーん……あっそうか、説明してなかったけど、きみ、この半魚人はレディなんだよ。ギルマンじゃなくてギルメイド」

 

「なるほど!」と、おれは納得した。

 

「名前はミリセントって言うんだ」

 

 またマニアックな名前だな。ユニバーサル映画、アマゾンの半魚人シリーズに出てきたギルマン(エラ人)のキャラデザインをしたミリセント・パトリック由来かあ。

 

 ミリセントさんは、腰の前、ヒトだったらおへそのあるあたりに両手を添えて、お見知りおきを、というようなポーズで挨拶をした。

 

「ちゃんと結婚していて、旦那はヒトで、シーフードレストランを経営してて、お二人のお子さんもきみと同じ学校に通うことになる」

 

 おれたちは手を振って別れた。

 

「これから4年間、うまくやるんだぞ」

 

「ええーっ、4年もここにいるの。それじゃおれ、年取っちゃうじゃん」

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