アン・シャーリーという名の、ちょっと様子がいい男子 作:るきのるき
マリラの机から、ダイアナちゃんと貴婦人ごっこをするために、きらきらした紫水晶のブローチをかっぱらったおれ、アン・シャーリーは、きらきらした波の湖にかかる、木の橋までそれを持っていった。きらきらしたところできらきらしたものを見たら、もっときらきらするんじゃないか、という考えである。
紫水晶をつまんで、太陽にかざしてみたら、それはもう信じられないぐらいのきらきらさ。世界がうす紫になったというか、水晶の中の紫の世界が垣間見えたというか。
と思ったら、やっぱりおれの手が滑って、きらきらぽちゃん、と、紫水晶は湖に落っこちた。
なすすべもなく、湖に沈んでいく、紫のかたまりをおれが見ていると、1メートルはありそうな魚の黒い影がその上を覆って、きらめきは消えた。
うわーっ、どうすんだよこれ、こんなの原作には聞いてないぞ、とおれはあわてた。
橋は馬車なども通るため木の板はぼろぼろで、馬車の車輪が落ちないよう、すこしだけ欄干が設けられている。おれは上着と下着を脱いで、パンツ一丁になってその欄干を飛び越えようとしたら、誰かの両腕がおれを羽交いじめにした。
「待った待った待ったぁぁぁ。いってぇ何があったか知らねぇけど、早まった考えだけはおやめなせぇ」
「いーやもう、許しちゃおかない。勘弁できねぇ。あのフナの野郎をとっ捕まえるまでは、おれは地の果て、海の底まで追っかけてって………」
「なんだ、ドリアン・スティングレイか。だったら助けるんじゃなかった」と、女子っぽい声は言った。
「コーデリア・フィッツジェラルドだよ。どこも合ってないだろ。またの名はアン・シャーリー」と、おれは答えた。
声の主は、孤児院で一緒だった、その正体は貴族令嬢のリリ・マスカット(原作にはありません)で、なんかおしゃれというより、金がかかっている髪型と、服と、靴だった。おれが本気を出したら背負投げで湖に投げ込むことぐらい簡単だったんだはずである。おしゃれ服のリリちゃんが湖に落ちてるところを見てみたかったけど、とりあえず動きは止めてみた。
「アン、のところは合ってるじゃねぇか」
なんで江戸っ言葉(こ)使ってるのかは不明である。
「助けて、リリちゃん」
「いいや、さっさと飛び込んじまえ」
そのスタイルではさぞ歩きにくいだろうと思ったら、その後ろに貴族令嬢が乗りそうな、やはり金がかかっている馬車があった。
「舞踏会の行きか帰りなの」と、おれは聞いた。
「アメリカとの商談で、親父に正装で行くよう言われてたんだよ」
そう言うとリリちゃんは、くるっと無駄に一回転して、手にした扇子をパチンと畳んで、扇子でおれを指した。
「聞いて聞いてリリちゃん」と、おれは涙目で事情を説明した。
「するってぇと、何かい、そのブローチがあれば、アンは死ななくてもいいんだな」
「いや別に死ぬつもりじゃなかったけど。日曜学校のピクニックには行けなくなることは間違いないね」
「いい気味だわ、ほほほ、と、この俺が言うと思ったか。心配するねぇ、俺っちにまかせろってんだ」
「嘘」
「ただし条件がある」と、リリちゃんは再び扇子を広げて、おれの耳元にささやいた。
「あんたと友だちに」と、おれは言った。
「しー、しー、しー。私って、下僕や取り巻きはいくらでもいるんだけど、実は……いなくってさ、それが。困ったときに助けてあげる、それが友だちだよね」
「わかった。まかせとけ」
「助けられる割にはえばるのかよ」
リリちゃんはちょこちょこと馬車に戻り、中くらいの大きさの宝箱を持ってきた。
「今日、アメリカ人から手に入れたばかりの奴だ」
宝箱の中には、大小さまざま、色とりどりの宝石が入っていた。