アン・シャーリーという名の、ちょっと様子がいい男子 作:るきのるき
その日、なかなか寝つけないおれはこっそり、足音を立てないようにして、1階にあるグリーン・ゲイブルズの裏キッチンに行った。ストーブを使って料理する仕組みも本当はあるんだけど、実際に使われているのは21世紀の日本人が使うのと同じようなキッチン。そこには電子レンジ、IHクッキングヒーター、冷蔵庫とそれとは別になっている巨大冷凍庫、と最新式の設備がそろっている。
おれは冷凍庫をあさって、日本のコンビニではどこにでもあるような、すこし高めのアイスクリームを手に入れて、昼間は食べられなかった21世紀っぽい味を堪能した。
夜中の11時にキッチンで食べるアイスクリームは最高、って、原作のアン・シャーリーも言っている。これは半分嘘ですけど、最高なのは間違いない。
「こら、アン・シャーリー! また勝手にキッチンに入り込んでなんか食べてる。それは私のアイスクリームだからね!」と、いきなり入ってきたマリラは、ぷんぷんしながら言った。
「ちゃんと言えば出してあげたのに。ただし……」
「あーはいはい、どうせ別料金なんだろ。ココイチかマルガメかよ」と、おれはアイスクリームを食べる手を止めないで言った。
「そんな食べ物屋は知らん」と、マリラは言った。食べ物屋だってことは知ってるんだな。
「でも、マシューのじゃなくてよかったよ。食べ物に関してだけは激おこだからね、あの人」と、マリラは冷凍庫を確認した。
「ど、どこが違うの?」
「アイスクリームの外箱に書いてあるだろ。「Mat」と「Mar」って」
わかりにくい! おまけに筆記体。ちなみに横棒がついてるのが「t」で、JRAのシンボルマークの、馬の顔みたいなのが「r」である。
「日本語で書いてあるやつも、たしかあったような……これだよ」と、マリラはおれに見せてくれた。
「マツ」と「マソ」。
どうせそんなことだろうと思った。日本人でもよく間違える例のカタカナだな。
困った、と作者はリアルタイムで考えた。
こんなことではなかなかギルバートを石板で殴るところまで話が進まない。
えーと、このあと、学校にダイアナと一緒に行って、小川で冷やした牛乳を、ぷはーっ、と腰に手を当てて飲んで、ダイアナの妹のミニー・メイが死にかけて、江戸前な大おばさんとあれこれあって、ていうかまだ、リンド夫人に「ちっこいね」とか言われて、むっ、とするところまでも行ってないじゃん。
とりあえず、レイチェル・リンドさんとの話はやっておかないとなー。