アン・シャーリーという名の、ちょっと様子がいい男子 作:るきのるき
外でダイアナと一緒に、ネコを蹴飛ばしたり木登りをしたりという、いかにも小学生男子がしそうなことをして遊んで家に戻ってみると、案の定レイチェル・リンド夫人がいた。話の順番としてはすこし違うんだけど、そういうもんだと思っていただきたい。
「ガリガリだね。おまけにそばかすだらけで赤毛」と、リンド夫人は言った。
ここで注意したいのは、リンド夫人の美的感覚としては「がりがり」なのが筆頭で、赤毛なのは比較的どうでもいい、って思ってることだ。
この時代、赤毛差別があったのでは、なんて思ってる人もいるかもしれないけど、スコットランド系移民が多いプリンスエドワード島での赤毛率は10%ぐらいなので、住んでる国・地域によっては「差別」はあったにしても、アンは別にそんな目には会っていない。そうね、率で言うと、左利き、ぐらいの割合。えー、あんた左手で箸持って、右手で本読めるんだ、すごいね、というのはあっても、それで差別はないし、あの悪夢のような『アンという名の少女』でもそんなところはない、はず。自信がないのは、あまりにアレなんで最初の10分で見るのやめちゃったから、伝聞情報だけどね。
「何言いやがるこの丸太ん棒め、ぶくぶく太りやがって! おまえなんかおれの大学の近所の女子高生だろ、それもソフト部の!」と、おれはお約束通り怒った。ここで怒るのは、落語『大工調べ』の演者によると、その場面で、家賃を払えなかった与太郎の代わりにその一部を払った大工の棟梁が、長台詞で大家をののしるのは、「演じていて気持ちがいいから」だそうである。
ただどうもアンの体だと、なにしろ11歳だから、むかむかすると同時に涙も出てくるので、おれは2階に行って、泣きながら身体トレーニングをして、ふといいことに思いついた。
まず、窓のカーテンを引き剥がして、手で紐状に切る、それを撚っては縫い、撚っては縫い,撚っては縫い……。としているうちに、のぞみのものができたので、寝ることにした。
とりあえず、マリラには、リンド夫人にはちゃんと謝っておく、とまず言って、出来あがったジャイアント・キリングである石投げ紐、スリングに、小川で拾ったリンド夫人の握りこぶしほどもある石をつけ、ぐるぐるぐる、と回して、紐の片方を、ぱっ、と離すと、ひゅん、と音速の速さで石は空を飛び、空中できら、っと光って消えた。
「大気圏突入成功、やった!」
しかしこれを実践で使うと、リンド夫人がどうなるかはわからない。思った以上に効果がありそうで、子供の武器としてはやはりやめておこう。素直に謝らないと、マリラに悪いというより、マリラを怒らせたらけっこうこわいからね。
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「このたびは、ほんとうに、もうしわけ、ありません、でした! ほんとうの、ことをいって!」
日本風土下座の姿勢でお詫びをしているつもりが、リンド夫人に、それはただの腕立て伏せ、と指摘された。最近は腕立て伏せには自信があったので。
「もっとちゃんと、普通に謝れよ」と、レイチェルちゃん、たぶん中身はリアル女子高生に言われたので、おれは、右下を向きながら「悪かったな」と欧米スタイルでボソっと普通にあやまり、それならこちらも許してやるわよ、私のほうも悪かったんだしぃ、と相手もツンデレ風に答えた。本当はアンはこの場では饒舌に、いかにもアン・シャーリー風にやるんだけど、本当のこと言ってごめんなさい、は原作でもほぼそんなこと書いてあるので各人確認してみてくんねえ。
とかなんとかしているうちに、おれがスリングで投げた石が、リンド夫人の頭蓋骨を直撃し、おれは、大気圏と再突入成功、と、腰に手を当ててステップダンスをしていたら、腕組みをして片足を、とんとん、としているマリラがいるのに気がついた。
「そういうのだめ。昨日の朝からやり直し」と、マリラに言われたので、おれはしぶしぶやり直した。
しかしこの仮想世界の大気圏ってけっこう低いんだな。