アン・シャーリーという名の、ちょっと様子がいい男子 作:るきのるき
予定されていた打ち合わせの時間よりすこし早くついたため、先生とダイアナは庭でボール遊びをしている。
ステイシー先生が学校で教えたボール遊びは、原作ではただの「ボール遊び」としか書かれてなくて、具体的にどのようなものかは不明。
高畑勲版のアニメではラウンダーという、ドッジボールに似た遊びということになっている。バスケットボールはカナダ起源なんだけど、アンが子どものときにはまだできていない。カナダの夏の国技はラクロス(冬の国技はアイスホッケー)で、もうその時代には一般に普及している。
ラクロスの起源は、カナダ先住民の部族同士で戦われた(文字通り!)競技で、数千人がひと月ぐらいでガチ戦闘をしたらしい。
ダイアナとステイシー先生がやっていたのは、どこかのアメリカ人がホテルの娯楽室においていった、野球のグローブとボールによるキャッチボールだった。
けっこう見ているとふたりともなかなかうまい。前世、じゃなくてリアル世界では多少の経験があるんだろうと判断できる。
それなりのグローブはひと組しかなかったので、おれはふたりが遊んでいる間にホテルの内部探検でもこっそりしようと思った。
どうせ子どもだから、従業員が働いたり食事をしているバックハウスに紛れ込んでも、間違えました、と言えば許してくれるだろう。
*
ホテルのロビーから、赤い絨毯が敷かれている廊下を通って、複数のエレベーターが置かれているホールに向かい、最上階の展望室まで行ってみようかと待っていると、1台が開いて、中から白い双子の、アボンリーでは見かけない小ぎれいな子が出てきた。おれ、つまりバーチャル世界のアン・シャーリーよりはすこし小さいくらいの子。
なんだここは、オーバールック・ホテルなのか。
※こういうのにあまり注釈がつかないのは、長くなりすぎないようにという作者の趣味です。スティーヴン・キングの小説、というかスタンリー・キューブリックの映画『シャイニング』に出てきたホテルね。
「おひさしぶりです、アン・シャーリー」と、そのひとりが言って、淑女風の礼をしたので、おれも思わず、あ、どうも、と挨拶をしたけど、見覚えはない。
「標的がアン・シャーリーであることを確認しました」と、もうひとりは言った。
とたんにおれは背中に、たぶん頭突きをくらって前のめりに倒れた。
それからさらに、バスケットボールを数回ぶつけられたので、振り向いてみると赤い服を着た別の双子が、にやにや、じゃなくてにっこにっこ、と、無邪気に笑っている。
「おねーちゃん!」
「お姉さま!」
とふたりは言った。
誰なんだよこいつら。