アン・シャーリーという名の、ちょっと様子がいい男子 作:るきのるき
おれとダイアナは、スリッパもはかず素足で、その晩泊まっているジョセフィンおばさんの部屋に近づいた。
おばさんは2階の奥の部屋にいて、明かりがないと廊下と階段を通るのは無理だった。
階段を登る途中で、おれはつまづいて、手に持っているろうそくを落として派手な音を立てたので、しょうがないなあアンは、とダイアナが先頭を交代した。
階段を登りきったところの済にろうそくを立てて、おれたちはしだいに闇が濃くなる廊下を進んだ。
奥の部屋のドアの前で、おれはしー、しー、しー、と三方に合図をしたあと、ダイアナが足を押さえる、おれが首を占めるという手順を確認して、音がしないようにゆっくりとドアを開けると、一気にベッドへ走りより、おれは首の近く、ダイアナは足の近くにのしかかった、はずが。
「いないよ、おばさん」と、ダイアナは困惑したようにおれに言った。
おれはデュヴェの中に手を入れて、ダイアナに言った。
「まだあたたかい。そんなに遠くまでは行っていないはずだ」
すると天井のほうから声がする。はじめは含み笑い、それが嘲笑から高笑いに変わった。
「ふふふふふふ…………わはははは。お前らの考えること、このジョセフィンはとっくにお見通しだよ」
はっ、と気がついて後方のななめ上をみると、黒装束のアサシン、じゃないかな、ニンジャふうの服を身につけたババアが、天井の梁に足をかけておれたちを逆さまに見下ろしていた。
おれとダイアナは、腰につけていたクナイと長脇差を手にして近づこうとしたのだが。
「いてててて、何だよこれは、足元になにか、画鋲のようなものが巻かれている」
「やだもー、クソババア、余計なことをしやがって」と、ダイアナは怒りながら言った。
クソババア、というのは言いすぎで、キャラ設定的には「おばさま」のはずなんだけど、そのときのダイアナはすこしリアルキャラが混じっている」
ジョセフィン婆さんは、ひらりと、とかふわふわと、という平凡な「りと」系形容詞ではなく、くるどさ、と一回転して腰を沈めて着地した。足はスパイク的なものを履いているので平気のようである。
「あいててて」
ただし、着地の際にカッコつけて三点着地をしたので、片手にマキビシが刺さってしまったらしい。
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このマキビシは鉄製じゃなくて、由緒ただしいヒシの実なんだ、と、ジョセフィンは説明して、電気式ポットでわかしたお湯でおれたちにヒシ茶をふるまってくれた。
「あっしはシャーロットタウンでニンジャ学校をやっているんさね」
一人称はあっし。
原作では、ジョセフィン婆さんはプリンス・エドワード島随一の都会であるシャーロットタウンに住んでいて、すごく裕福な生活をしている、ということは書かれているけど、なにをやって暮らしているかは不明である。
結婚して、ツレの相手から遺産相続した、という話も聞かないから、この婆さんに関しては二次創作がやり放題なのは、アメリカに渡って大金持ちになったハモンドさん、昔アンをこきつかったハモンドさんと同じ。
しかし、ニンジャ学校。アサシン養成機関とは。確かに需要はありそうだな。
殺す覚悟のある人間は、殺される覚悟もあるから、どんなときでも備えている、とのこと。
ダイアナは、目をきらきらさせて、息をはあはあさせて婆さんの話を聞いている。
「わたしもその学校に入りたい!」と、ダイアナは言ったけど、婆さんは首を横に振った。
才能はあるかもしれないけど、まず基礎訓練。毎日アボンリーからシャーロットタウンまで、駆け足で通い続けてみな。
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その距離は片道約40キロ。マラソンのオリンピック選手なら、あるいは真のニンジャならそのくらい楽勝なんだろうけど、おれは1日、ダイアナは3日であきらめた。