アン・シャーリーという名の、ちょっと様子がいい男子 作:るきのるき
これからみなさんには、野球をやってもらいます、と作者は言った。
確かに野球は、殺したり指したり死んだり盗んだりするから、十分に涜神的で、ルキフェルが楽しみそうなスポーツである。レイプしたりはないだろうけど。
「おもしろそうだな。で、勝ったほうはどうなる。なんかもらえるのか」と、バーチャル世界のギルバート、リアルではシンキバが聞いた。
「人生……はすこしスケールが大きすぎるので、リアルをあげよう」と、作者は言った。
勝ったチームには、わたしの他の物語に出演できる権利をやるよ。
それってなんかおかしくないか、とおれは聞いた。「他の物語」というなら、この世界はリアルじゃない、ってことにならないかな。
あ、と作者はすこし黙ったけど、気にするな、と答えられた。
*
わたしの物語にはふたつのテーマしかないんだと思いねえ、と、作者は以前言ったことがある。
・ヒトはどう生きるべきか
・この世界はリアルなのか
「それはつまり、このくだらない世界でどのように生きるべきなのか、ってことだね」と、おれは聞いた。
「くだらなくないよ! リアルであろうとなかろうと、その世界でヒトはできるかぎり一生懸命生きなければだめ、ってことだよ」と、作者は力説した。
*
「いっくよー」と、クルミ(ステイシー先生)はおれ(アン・シャーリー)を相手にキャッチボールをはじめた。
父親が息子に教えるものの3つのうち2つは、自転車の乗りかたとキャッチボール。
あとひとつは、なんだろうね、将棋とか釣りとかあるらしいんだけど、将棋って、父親に勝つレベルになると、お前に教えることはもう何もない、とすねてしまって相手してくれなくなるんだよ。
公園でのボール遊びは、禁止されているところが多いので、ダイチ(ダイアナ)とクルミ(ステイシー先生)が通っている学校の校庭を借りて練習をすることにした。
「息子が父親に教えてもらうことの、もうひとつはドラム」と、あまり試合には関係のないルキフェルは、勝手に校庭の隅っこで具現化したドラムを、スタタッ、ドン、と叩いた。
それは……ドラ息子というしゃれなのか。しゃれはともかく、楽器なんかいいかもね。
何回か見本を、ダイチ(ダイアナ)とクルミが見せたあと、ダイチはおれにボールを渡して、やってみろ、と言って交代した。
校庭はそれなりの広さがあるので、ダイチはほかのメンバーを相手にノックして守備の特訓である。順番で守備とボール投げをして、直射日光が暑くなりすぎたらバッティングセンターで打撃練習。
しかし……勝てる気がしない。
メンバーはおれたち三人のほかは、タコ(プリムラ/プリシー)、厨二病の中学生(ナナミ/ニャンシー&ナンシー)、お姉ちゃんのミノワ(名前のない侍従)に対してやる気だけはあるシナノ(貴族のリリちゃん)、それから、異世界喫茶のアイドルメイドである白猫と黒猫、あと強力だと思われる助っ人がいると聞いていたけど。
「ルキフェルは参加しないんだな」と、おれは聞いた。
「ヒト相手に野球は、かなり手加減しないと無理なんだよね。大陸ぶっこわせるぐらいの悪魔とか堕天使、普通にいるからね」
ためしに一球投げてみろよ、とおれがボールを渡すと、ルキフェルは頭より高く片足をあげたので、土ぼこりが渦を巻いて上空に広がった、
投げられたボールは、ぐぐぐ、と地面にもぐり、ほわ、とクルミのグローブにおさまったときには、もはやボールではなくただのゴムの引きちぎられた皮だけになっていた。
「誰も打てないだろ」
「それ以前にストライクゾーンを通ってないよ。悪魔だからといって魔球は禁止!」と、クルミはかなり本気で怒った。
ところで、サンダーボールとかもできるの、とおれが聞くと、あー、神のいかづちボールは、神とその眷属しか投げられないね、魔球じゃなくて神球だから、とのことである。
それでも、シンキバ(ギルバート)との正式試合がはじまるまでには、なんとか形になってきつつはあった。