アン・シャーリーという名の、ちょっと様子がいい男子 作:るきのるき
もはや原作『赤毛のアン』とはまったく関係がなく、作者が「野球回のあるアニメは名作」という主張と、勝ったほうにはリアルをあげる、という約束をしたため、バーチャル世界の『赤毛のアン』の登場人物、およびリアル世界ではご近所のみなさんと、おれたちは野球をすることになった。
おれ、つまりアン・シャーリーチームとシンキバ(ギルバート)チームである。
試合日時は夏休みのとある一日。それまでにおれたちはぬるい特訓をして、なんとか形にはなった。
*
早朝の、まだ日が出はじめのくらいの時間なのに、すでに太陽はじりじりと暑く、複数のグラウンドがあるこの公営の草野球場では、他チームが試合をはじめていて、ボールに当たるバットの、こすーん、という音が聞こえている。
草野球では一般的には、プロや高校生が使う硬球ではなく、軟式野球用のボールなので、かきーん、という音はしない。バットに当たると遠くへ飛びそうな、ヒトに当たると痛そうな例の音ね。
おれたちのチーム名は「覿」。「覿面・てきめん」の「てき」で、黒いユニフォームというかTシャツは、白字で前面に印刷されている。
対するシンキバ(ギルバート)のチーム名は「譎」。「詭譎・きけつ」の「けつ」という字で、白いTシャツにちゃんと印刷されている。
覿……みる・あう・まみえる・しめす・あらわす
譎……いつわる・あざむく・かわる・そむく
と、漢和辞典に書いてあるとおりだ。
別に「嘘」と「現」でもいいような気がしたんだけど、作者が中学生時代に考えた名前なので、これ使って、と押しつけられた。いかにも中学生が漢和辞典を引きながら考えそうな名前である。
*
試合前のウォーミングアップの最中。
作者はベンチに座りこんで、タブレットとキーボードを見ながら困っているように見える。
「何を困っているんだ」
「いや、この試合の場面なんだけどさ、前に書いたテキストが見当たらなくて。どっかのフォルダにはあると思うんだけど、探すのが面倒くさくなったので、思い出しながら今から書いてるのよ」
え。
もう、リアルと非リアルの区別なんかどうでもよくなった。
「ちゃんと探してくれよ。テキストはクラウドに直接書いてるんだっけ。こんな環境の悪すぎるようなところで 接続が切れたらどうするんだ」
「今切れた」
「そうなの? 全然自覚ないんだけど。ただの字数稼ぎに空白入れてるとかじゃなああああああああああああああああああああああああああああああああ」
「なんか、このキーボードは「あ」のキーが、押すと戻ってこないで、押されっぱなしになるときがあるみたいだね。予備に持ってきた別のやつに変えよう」
どう見ても字数稼ぎである、というメタネタはともかく。
「覿」チームのメンバーだけは紹介しておこう。
1番セカンド・白猫
2番サード・黒猫
3番キャッチャー・おれ(アン・シャーリー)
4番ファースト・ダイチ(ダイアナ)
5番ショート・ナナミ(ナンシー&ニャンシー)
6番ピッチャー・プリムラ(プリシー)
7番レフト・クルミ(ステイシー先生)
8番ライト・シナノ(リリ令嬢)
そして9番センターは期待のルーキー、カナダ先住民の人である。
馬に乗って戦闘用及び日除けのメイクをして、戦闘用ラクロスのスティックをグローブの代わりに持っている。
今回の審判をつとめるルキフェルに、ああいうのでもいいの、と確認したら、魔法じゃないからよし、とのことだった。
ナナミ(ナンシー)だって、グローブの代わりに黒猫のぬいぐるみ(ニャンシー)だしな。
相手チームは、と作者に聞いたら、ごめん、今書いてるとこ、と言われた。