アン・シャーリーという名の、ちょっと様子がいい男子 作:るきのるき
4回をはじめるころには、ほぼ盛夏の太陽は、グラウンドを熱光線で焼き尽くすぐらいの暑さになっていた。さっさと試合終わらせて打ち上げとかしたくなる。というより、おれたちのチームもシンキバ(ギルバート)のチームも、水分補給のため、と飲み物をせっせと摂取している(アルコールは含まれない)。へべれけになったら、野球なんてバカバカしくてやってられるか、みたいな気分になりかねないし、どちらのチームも未成年が多いからそうなってしまう。
4回裏はシンキバチームの攻撃。
せっかくベンチで盛り上がっていたんだけど、守備につかないといけないのがつらい。
名投手だったプリムラ(プリシー)は、おれが水道の蛇口につないだホースから、水をシャワーみたいに浴びて、くてくてとレフトに向かう。
代わってピッチャーはおれ、バーチャル世界ではアン・シャーリーである。
キャッチャーは、おれの代わりに元気っ子女子、昔だったらお転婆と言われただろう小学生のクルミ(ステイシー先生)。野球は小学校高学年になると、続けていてもプロとかあまり狙えないし、本気でプロ目指してる子に悪いから、と女子バスケットに切り替えたらしい。したがって、経験はそれなりにある。
そこをお願いして、一人だけ、つまりシンキバ(ギルバート)だけでもいいから、と、おれは投げさせてもらうことになった。
キャッチャーはダイチ(ダイアナ)でもよかったんだけど、ダイチは首を横にふるふるさせて、おれの球を受けられるのはクルミだけ、と固辞した。
とりあえず、5球ほど投球練習をしてみたけど、早さと音の迫力が違う。プリムラの時速150キロの剛球には及ばないけど、120キロぐらいはあるので、草野球検定準1級は余裕だろうか。
その球を見たシンキバは、すこし緊張しながらバッターボックスに立った。雑なホームランではなく、確実にヒットを狙うポーズである。
おれは、ふっ、と口の端に余裕の笑みを浮かべて第1球を投げた。
大暴投。
クルミは思い切り背伸びをしてキャッチした。
そうなんだよ、おれはバッターがいるとうまく投げられないし、暴投ボールを取れるのはクルミだけだ。
逆にシンキバのほうに余裕を与えてしまった。
「ほらほら、ちゃんと投げろよ、このにんじん野郎!」と、シンキバは大声で言った。
たしかにリアルのおれも髪の毛の色は赤褐色だけど、別に三つ編みにしているわけじゃないし、身長はアン・シャーリーの倍、はいいすぎだな、1.5倍? ぐらいはある。
「がんばれ、アン!」と、1塁のダイチ(ダイアナ)は同じぐらいの大声でおれを応援した。
「あのときと同じだ!」
いやいやいや、なんでそんなこと言うの。そこは「あのときと違って、お前には仲間がいる!」だろ、って教えましたよね。
2球目のおれの猛速球は、狙ったようにシンキバのヘルメットに当たり、アン・シャーリーがギルバートに石板(タブレット)アタックをかけたときと同じ、じゃないな、その3倍ぐらいの勢いだったので、シンキバは半回転して倒れた。
やったね、アン、とダイチは言うけど、故意死球だと退場、とかになるんじゃないかな、そんなに喜びすぎないでくれ。