アン・シャーリーという名の、ちょっと様子がいい男子   作:るきのるき

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(番外29)アン・シャーリー(の中の人)、ギルバート(の中の人)と勝負する

 4回をはじめるころには、ほぼ盛夏の太陽は、グラウンドを熱光線で焼き尽くすぐらいの暑さになっていた。さっさと試合終わらせて打ち上げとかしたくなる。というより、おれたちのチームもシンキバ(ギルバート)のチームも、水分補給のため、と飲み物をせっせと摂取している(アルコールは含まれない)。へべれけになったら、野球なんてバカバカしくてやってられるか、みたいな気分になりかねないし、どちらのチームも未成年が多いからそうなってしまう。

 

 4回裏はシンキバチームの攻撃。

 

 せっかくベンチで盛り上がっていたんだけど、守備につかないといけないのがつらい。

 

 名投手だったプリムラ(プリシー)は、おれが水道の蛇口につないだホースから、水をシャワーみたいに浴びて、くてくてとレフトに向かう。

 

 代わってピッチャーはおれ、バーチャル世界ではアン・シャーリーである。

 

 キャッチャーは、おれの代わりに元気っ子女子、昔だったらお転婆と言われただろう小学生のクルミ(ステイシー先生)。野球は小学校高学年になると、続けていてもプロとかあまり狙えないし、本気でプロ目指してる子に悪いから、と女子バスケットに切り替えたらしい。したがって、経験はそれなりにある。

 

 そこをお願いして、一人だけ、つまりシンキバ(ギルバート)だけでもいいから、と、おれは投げさせてもらうことになった。

 

 キャッチャーはダイチ(ダイアナ)でもよかったんだけど、ダイチは首を横にふるふるさせて、おれの球を受けられるのはクルミだけ、と固辞した。

 

 とりあえず、5球ほど投球練習をしてみたけど、早さと音の迫力が違う。プリムラの時速150キロの剛球には及ばないけど、120キロぐらいはあるので、草野球検定準1級は余裕だろうか。

 

 その球を見たシンキバは、すこし緊張しながらバッターボックスに立った。雑なホームランではなく、確実にヒットを狙うポーズである。

 

 おれは、ふっ、と口の端に余裕の笑みを浮かべて第1球を投げた。

 

 大暴投。

 

 クルミは思い切り背伸びをしてキャッチした。

 

 そうなんだよ、おれはバッターがいるとうまく投げられないし、暴投ボールを取れるのはクルミだけだ。

 

 逆にシンキバのほうに余裕を与えてしまった。

 

「ほらほら、ちゃんと投げろよ、このにんじん野郎!」と、シンキバは大声で言った。

 

 たしかにリアルのおれも髪の毛の色は赤褐色だけど、別に三つ編みにしているわけじゃないし、身長はアン・シャーリーの倍、はいいすぎだな、1.5倍? ぐらいはある。

 

「がんばれ、アン!」と、1塁のダイチ(ダイアナ)は同じぐらいの大声でおれを応援した。

 

「あのときと同じだ!」

 

 いやいやいや、なんでそんなこと言うの。そこは「あのときと違って、お前には仲間がいる!」だろ、って教えましたよね。

 

 2球目のおれの猛速球は、狙ったようにシンキバのヘルメットに当たり、アン・シャーリーがギルバートに石板(タブレット)アタックをかけたときと同じ、じゃないな、その3倍ぐらいの勢いだったので、シンキバは半回転して倒れた。

 

 やったね、アン、とダイチは言うけど、故意死球だと退場、とかになるんじゃないかな、そんなに喜びすぎないでくれ。

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