アン・シャーリーという名の、ちょっと様子がいい男子 作:るきのるき
やってやる。
やってやる。
殺ってやるっ!
ダイアナの一家を惨殺し、グリーンゲイブルズを全焼させた悪の権化、ギルバート・ブライス。
その男とこのようなところで再会するとは、と、おれ(アン・シャーリー)は、嘘設定にもとづく怒りと憎悪で深紅の虹彩を光らせて、バッターボックスに立っているシンキバ(ギルバート)と対戦することになった。
1球目は大暴投。
2級目はデッドボール。
倒れたシンキバに対して、1塁手のダイチ(ダイアナ)は、やった、と喜んでたけど、冷静に考えれば「にんじん野郎」とおれに言っただけである。
大丈夫だったか、と心配しておれは近寄ると、シンキバはふらふらと立ち上がり、いや、先に挑発したのはおれのほうだから、と、手を振りながら言った。
本当はいいやつかもしれない。グリーンゲイブルズを焼いたのは別の誰かだったかな。
「お前、ちょっと三つ編みにしてみないか、けっこう似合うと思う」と、シンキバは言った。
いきなりのBL展開ですか。次のバッターのレイチェル(リンド夫人)がおれたちを見る目がすこしおかしい。
球審のルキフェルは、別にひいき目とかそういうのじゃなくて、試合にそなえてのおれの練習風景を見ていたから、別に故意という判断はしなかった。
バッターがヒトでも猫でも、おれにはストライクは投げられない、と知っているようである。
バッターがいなければ、ちゃんとストライクは投げられるんだけども。
*
ピッチャーはおれに代わって、クルミ(ステイシー先生)となり、おれはキャッチャーに戻った。
「あたしは打たせるタイプだから、みんな覚悟してね!」と、守備陣に言っている。
確かに、クルミの球はとても打ちやすそうに見える。何球か見ているうちに、これなら自分にも、と思わせてしまうようなゆるさ。プリムラ(プリシー)の、絶望と深淵を垣間見させるような、魔球すれすれのものではない。
次のレイチェルは、よく見て3球目を打つ、というか当てて内野ゴロ。
2塁手の白猫は、ばつぐんの動体視力をもっているから、らくらく前足でキャッチすると、ボールをくわえて1塁まで走るけど、バッターより全然早い。
猫にボールはくわえられないだろって。おれのチームの猫はくわえられるから問題ないんだよ。
審判同士が話し合いの結果、守備も猫は禁止、ということになってしまった。
白猫と黒猫は、しょうがないので、喫茶店でバイトしているときの、女子中学生ぐらいのサイズのヒトの形で試合続行することになった。
動体視力は変わらないけど、うまく球を投げられるんだろうか。
次の打者のカイト(ハモンドさんの長男で第三段階レンズマン)は内野フライ。
昔はそういうのは直接取るんじゃなくて、一回地面に着いてヒットになった状態で、球を1塁・2塁に送ればダブルプレイが可能だったんだけど、それを考えたやつは頭が良すぎるため、内野フライはその段階でアウトになる(インフィールドフライ)というルールが作られた。
適用されるのは、ランナーが1・2塁あるいは満塁で、ノーアウトかワンアウトのときである。
今はワンアウト2塁なので、ショートのナナミ(ナンシーおよびニャンシー)が普通に取りそこなって1・3塁。グローブではなくて猫のぬいぐるみでキャッチしたけど、審判は何も言わなかった。
ここで一発打たれると2点は仕方ないかな、と思ってるところへ、4番バッターはミノワ(リリ令嬢の侍従)。
「待たせたな」と、ミノワはテンプレ通りに言った。
こういうときはなんて言うんだっけ、「ううん、今来たとこ」じゃなくって。
「待ちかねた」と、クルミは正しく言った。
太陽はどんどん登りつつあり、応援席の観客も日傘を広げて見守っている。
桂枝雀によく似たカスバート家の主治医、いやみな大塩平八郎じゃなくてアンドリュー先生、それにジョーシー・パイ…もいるはずなんだけど、ごめん、店の開店準備とかもあって、という通知が来ていた。
ジョーシー・パイはリアルでは、カフェ黒猫亭の店主。近所には早朝ジョギングのヒトとか早起きの老人とかもいるので、そういった人たちのために、いつも日の出から営業しているらしい。