今日も世話を焼く   作:ディアーリーズ

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9話

そこから、ライバーかぐやとプロデューサーいろPのハチャメチャな快進撃が始まった。

二人のチャンネル名は「かぐやいろP」。

 

月から来たこいつは配信のことなど何もわかっていない。

だから思いついたこと、やりたいことを片っ端からやっていく。

後追い、パクリ、二番煎じ、気負い、照れ、不安。

そんなネガティブな言葉はかぐやの頭ん中には存在しない。

歌って、ゲームして、雑談して、同時視聴して、飯作って食って。

衝動のままに配信に放り込んでいく。

一貫性なんて言葉は、月の裏側にでも置いてきたらしい。

 

俺が手を出したのは、配信中の立ち絵にツクヨミのアバターを反映させることだけ。

それだけで、こいつの大袈裟なリアクションがそのまま伝わる。

始めたばかりのチャンネルで、登録者数は14人。

ヤチヨカップの現在順位は、8910位。

だが、切り抜きだけは妙な勢いで回っていた。

インプレが万単位で伸びた動画もある。

勢いのまま始めた即日デビューは、結果的には大当たりだった。

 

物珍しさで覗きに来た連中が、そのままコメント欄に居座り始める。

コメント欄が盛り上がってる配信には、なんとなく人が寄ってくる。

一回誰かが喋り始めると、他のヤツのコメントのハードルも下がる。

そうやって空気が回り始めたら勝ちだ。

その空気がさらに人を呼び、同接を押し上げていく。

 

ツクヨミじゃ、正式なステージは申請が必要だが、路上ライブくらいなら好きに出来る。

橋の欄干をステージに見立て、何度かライブの練習をしたかぐやは、伴奏を酒寄に頼みこむ。

酒寄はあくまでプロデューサー、表で目立ちたくないと固辞するも、じゃあとかぐやが取り出した狐の着ぐるみに閉口した。

 

初めての路上ライブは犬DOGEとお忍びモードのジュンヨウ()を含めても、観客はたったの6人。

……オタ公までいるのは、予想外だった。

なんでバレたんだ変装してんのに。

いつの間にか、周りには毎回人だかりが出来ていた。

最初は着ぐるみ姿で演出の花弁を撒く程度だった酒寄が、ついにショルダーキーボードで伴奏をし始めた。

それでもアバターを出すのは嫌なようで、着ぐるみ姿のままだったが。

 

しかもかぐやは、事故った初配信を逆手に取って、顔出しまでし始めた。

こいつの外見は贔屓目無しに美少女だ。

それが全力で騒いでるだけで、妙に目が離せない。

 

配信の切り抜きはその日のうちに上がり、拡散され、

「ライブで叫んでた金髪」が「なんかヤバい新人」に変わっていく。

気付けば、「かぐやいろPチャンネル」は俺の想像よりずっと速く広がり始めていた。

 

「ぐわー!これバッドエンドじゃん!!

 くそっ、許せねー!!!!」

 

同時視聴では、顔出しで猫耳ヘッドホンを投げ捨てながら暴れ回る姿がバズり散らかし。

 

そういう(生きていくうえで重要そうなこと)のどーでもいい!キッチリ片をつけ、忘れる!」

 

俺やヤチヨのやっているようなお悩み相談、雑談でリスナーのコメントをバッサリ切り捨てる姿が気持ちいいと評判になり。

 

「うっひょ~、芦花の言うとおりにメイクしたら自撮り爆盛~♪

 アップしちゃお~♪あっついでにぃ全然盛れなかったNGバージョンもアップ~♪」

「かぐやちゃん、素材が良いもんね~」

 

美容系インフルエンサーとして人気のある綾紬に教わったというメイクと自撮り。

華のある二人が絡んでりゃ、そりゃ伸びる。

 

「やったぁ、真実おすすめのお店のお取り寄せ届いた!

 緊急で動画回してま~っす。あとで隼斗にもお裾分け~♪」

 

グルメインフルエンサー、諌山仕込みの食レポも……おい、名前出すな。

旨かったけどアレ。

 

「ねぇ~隼斗~。かぐやのファンも増えてきたしぃ、そろそろコラボとか~……ダメ?

 配信外でのコーチングも結局やってくれてないしぃ~」

「あぁ~……コラボ、コラボなぁ……」

 

かぐやのライバーデビューから一週間。

現在のチャンネル登録者数は4万人を超え、ヤチヨカップの順位は3000位台を一気に突き破り、もう2000位台。

とんでもない快進撃だ。

もう「ジュンヨウの腰巾着」扱いされる段階じゃない。

……でもなぁ。

 

「ここまで一気に伸びた女ライバーと、ジュンヨウが絡んで燃えねえかぁ……?」

「だいじょーぶ!」

 

胸を張ってVサインまで突き出すかぐや。

 

「なにを根拠に……」

「だってもう告知してるもん!」

「は」

 

一瞬思考がフリーズしたが、それより先に指がSNSを開いていた。

まずエゴサに引っかかったのは、目の前の悪童の配信告知だった。

【神コラボ】かぐや&ジュンヨウ!最強のお師匠様をボコす!【SETSUNA】

#かぐやいろP #ジュンヨウ #JunY0u #KASSEN #SETSUNA のハッシュタグが並ぶ。

その下には、もうリスナーどもの反応が並んでいた。

だが、俺が懸念していたような炎上の反応ではなく。

 

─ジュンヨウ先生、月の問題児をよろしくお願いします

─絶対おもろいやつやん

─講義(物理)

─「あとで隼斗にもお裾分け~♪」←これ伏線だったのか

─ジュンヨウの本名バレがこんな軽いことある?

─あの距離感で今更炎上する要素ある?

─兄貴兼父親兼保護者みたいなもんだろあれ

─むしろ今までコラボしてなかったの意外

─前の配信で「ファン増えるまで禁止されてて~」って言ってたやつこれか

─マジで保護者枠じゃん

─ジュンヨウ、胃痛お疲れ様です

─ねえ「兄みたい」ってなに??? お兄ちゃんはウチのお兄ちゃんなんだけど???

─ツグちゃんもいます

─ツグちゃん絶対キレてるだろこれ

─やっぱ初路上ライブのときに犬DOGE抱えてたのジュンさんだったんじゃん!!

─「ボコられる配信」の間違いでしょ草

─ジュンヨウ今頃青ざめてそう

─いーやツグちゃんのご機嫌をどう取るか悩んでるね。五千兆円賭けてもいい

 

……とりあえず、最後のヤツに「いいね」を付けといた。

おいオタ公、初回から俺いたのバラすな。

今更だけど。

SNSだけじゃない。

トークアプリの通知も鳴りっぱなしだったが、全部無視だ。

誰から来てるかなんて、見るまでもない。

我が妹ながらここまで嫉妬深いとはちょっと思っていなかった。

お兄ちゃんはちょっと心配です。

……現実逃避は、ここまでにしておいて。

 

まるっきり予想外だ。

荒れるどころか、お祭り騒ぎじゃねえか。

 

普段からかぐやが配信で「隼斗」だの「お裾分け」だの喋り倒していたせいで、

かぐやリスナーも俺を身近な存在として認識していたらしい。

近所の兄貴か、保護者くらいの距離感で。

ジュンヨウとしての神秘性は、たぶんもう死んだ。

その代わりいつの間にか、「かぐやの保護者枠」に収まっていたらしい。

 

「……おい」

「へ?なぁに?」

 

スマホの画面を閉じ、目の前でドヤ顔している悪童をねめつける。

 

「お前、これわざとか?

 普段から俺の話をしまくって、コラボしても燃えない土壌を作った……とか」

「へ?なんのこと? 隼斗、自意識過剰~♪」

 

……天然だった。

こいつ、一貫性だけじゃなく、戦略とか計算も全部月の裏側に置いてきたらしい。

 

「はぁ……まあ、結果的に問題なさそうだから良いわもう。で?」

「で?」

「配信はいつからなんだ?」

「えっとね、あと15分!」

「ンな直前に共演者に了解取る馬鹿がいるかいるなここにィ!」

 

ああもう、このお姫様は!

俺の部屋からログインしてる時間も惜しい。

コラボだが、リスナーにはかぐや視点だけで我慢してもらおう。

立ち絵……いや、SETSUNAなら対戦画面でどうにかなるか。

ならそれは飛ばして……。

 

 

 

 

 

 

ああ、もう良いや。

配信にかこつけて、『お師匠様』の恐ろしさを骨の髄まで叩き込んでやろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「オラァそんな大振りが通ると思うなァ!小技当てて相手の体勢崩すか、意識外から奇襲しろ!」

「ジュンヨウに小技なんて当たんないじゃん!」

「だからってお祈りぶっぱに当たってやるほど甘くねえわ!」

 

二刀を連結した大剣でもって、かぐやの武器──竹を四本纏めたようなハンマーを受け流す。

ハンマー後部のロケットブースターが火を噴き、ギャリリリと耳障りな音と火花が散った。

受け流した後、一瞬武器を手放して回し蹴り。

ノックバックで距離を開けて、すぐに武器を構える。

視界の端で、コメント欄が盛り上がっている。

 

─大剣なんだ。アレ大物用じゃなかったっけ

─普段のSETSUNAじゃ二刀使ってるよな

─眼帯も外してないし、舐めプ?

 

「違ぇわ。コイツ相手に本気出すと配信にもコイツの為にもなんねぇんだよ」

「くっそぉ~!全っ然当たらん!」

「よく考えろ!その武器、ハンマー以外にもギミックあんだろ!使えるもん全部使え!」

 

─やっぱお兄ちゃんじゃん

─は?お兄ちゃんはウチのお兄ちゃんだけど?????

─うわでた

─初心者講習ってことか

 

「って言われてもぉ~……お?」

 

かぐやのアバター、そのうさ耳がピンと跳ねた。

……なんか思いついたな。

 

「来いよ、俺からは攻めねえ。全部対応してやるよ」

「言ったなぁ~!」

─攻めねえ言うたけど、この人カウンターが一番得意なんすよ

─しかも見てから合わせるやつな

─しっ、かぐやちゃんなんかやるみたいだから

 

言うや否や、ハンマーの柄が折れ曲がり、先端へ接続される。

竹を束ねた土台部分の底がパカッと開いた。

横へ展開した十字パーツ。

あれはレティクル──照準器か!

 

─変形武器はロマン

─でも使いこなすのムズいんよ

 

「行っけぇ~!」

 

トリガーを引く。

電撃を纏った砲弾が打ち出された。

電磁砲か、弾が速い!

避けるにはタイミングが悪い───が。

 

「舐めんな!」

 

大剣を横に構え、滑らせるように砲弾を逸らす。

砲弾と大剣が散らした火花が視界を埋めた。

 

「意表は突かれたが、これだけじゃ」

「ダケなわけあるかぁ!」

 

声が近い!

大剣で視界が狭まった隙に、間合いを詰められてる!

だがそれにしても速すぎる、どうやって───

ちらっと見えたのは、噴射炎!

 

「考えたな!」

─乗ってる!?

─そら速いわ

─この勢いのまま突っ込むのか!?

 

ハンマーの竹部分に飛び乗り、ロケットブースターを点火!

攻撃力を底上げするためのギミックを移動に使ったのか!

面白ぇ!

 

「行っくぞぉ~~~!!!!!」

 

速い!

大剣じゃ重い、二刀にするには間に合わねえ!

─────なら

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぇ?あぶべっべべべっべ!?!?!??!」

 

K.O.

 

ハンマーごと、ステージ端っこの崖に突っ込んだかぐや。

自損ダメージでHPが消し飛んだ。

崖にはコミカルに、大の字とハンマーの形に穴が開いている。

……ちょっと待て、こんな速度で俺に突っ込むつもりだったのかお前。

 

 

 

 

 

 

 

 

「はれぇ……い、いま何が起きたのぉ……???」

「おう、説明してやるよ」

─お願いします

─傍から見ててもなんのこっちゃだったわ

─なにしたかはわかるけど、あの一瞬でそんな判断できる???

─実行できんのもあたおかの部類

 

とはいっても、難しいことはしていない。

武器を使っての対処は間に合わない、なら使わなければ良いだけの話。

大剣を捨てて、身軽になって。

突っ込んできたハンマーに体を投げ込んで、側転の要領で受け流した。

その結果、攻撃をスカされたこと。

プラス、一瞬とはいえ俺の体重が乗ったせいでブースター制御をミスって、そのまま崖にドーン。

 

「と、いうワケだ」

─えぇ……(ドン引き)

─コイツ片目なんすよ

─両目だったらどうなっちまうんだよ

─そもそも接近を見逃さないと思われる

「くっそぉ~!良いアイディアだと思ったのにぃ!」

 

地団太を踏んで心底悔しがるかぐや。

 

「いや、良い発想だったぞ?」

「はぇ?」

「使えるもん全部使えって言ったからハンマーのギミック使ったし、

 意識外から奇襲しろっつったから弾で目くらまししてる間に近づいてきたんだろ」

「……うん。……なんか行けるかなって思って、やってみた」

「なんも間違ってねえじゃねえか。

 むしろこんな爆速で教えたこと吸収されてんのはコーチ冥利に尽きるわ」

 

ポンポン、と頭を撫でてやる。

触覚は無いのに、うさ耳がくすぐったそうにぴこぴこ揺れる。

 

「ま、勝てなかったワケだけど」

「むきぃー!!!もっかい!もっかいやる!次はかぐやが勝つ!!」

「かっかっかっか」

─マジでただの兄妹

─てぇてぇ

─俺、かぐやちゃんガチ恋でさ。ジュンヨウのアンチしにこの配信見に来たんだよ。……こんなん見せられたらさ……推すしかないじゃん……

─こうしてまた一人、オタクが沼に落ちた

 

 

と、こんな具合で。

俺だけが杞憂していたかぐや&ジュンヨウのコラボ配信は。

……まあ、少なくとも炎上には発展しなかった。




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