無事Blu-rayは届きましたが、到着したのが20時過ぎかつ翌日から旅行というスケジュールだったためキャラコメは週明けまでお預けです……。
夕方。
タワーマンションのインターホンが鳴った。
「はーい」
かぐやがぱたぱたと玄関へ向かう。
モニターを確認すると、そこに映っていたのは真実だった。
そして、その両脇には――小さな双子。
「あ、真実だ!」
かぐやが嬉しそうに玄関を開ける。
「お邪魔しまーす」
真実が少し申し訳なさそうに笑った。
「今日は本当にごめんね。急にお願いしちゃって」
「いいよー!」
かぐやが双子へ手を振る。
「今日はここでお泊まりだよ!」
「ほんと!?」
「ここでねるの!?」
双子が目を輝かせる。
「そうだよー!」
「わーい!」
「おとまり!」
二人が靴を脱ぎながら、嬉しそうにリビングへ駆けていく。
「こらこら、走らないの」
真実が後ろから声を掛ける。
「だいじょうぶ!」
「ちゃんとあるいてる!」
「それ、走ってるのとあんまり変わらないだろ」
隼斗が呆れた顔で言った。
「「じゅん兄ちゃん!」」
双子が一斉に隼斗のところへ駆け寄る。
「おう」
「きょうなにするの?」
「そうだなぁ……」
隼斗が腕を組む。
「飯食って、風呂入って、寝る」
「それだけ?」
「子供はそれで十分だろ」
「やだー!」
「もっとあそびたい!」
「はいはい」
隼斗が苦笑する。
「そしたら遊ぶのは飯までな」
「「わーい!」」
「ありがと、隼斗くん」
真実がほっとしたように笑う。
「まあ、事情が事情なんだろ?」
「うん……」
「だったら気にすんな」
隼斗が双子の頭を軽く撫でる。
「今日んとこは俺らが見とくから」
「……ありがとう」
真実は少しだけ安心したように息を吐いた。
「じゃあ、二人とも。お兄ちゃん、お姉ちゃんたちの言うこと、ちゃんと聞くんだよ?」
「「はーい!」」
「良い返事」
隼斗が笑う。
「それじゃ、行ってくるね」
「「いってらっしゃーい!」」
四人に見送られながら、真実は玄関を出ていった。
扉が閉まる。
「……よし」
かぐやが双子を見る。
「なにして遊ぶ?」
「かくれんぼ!」
「げーむ!」
「意見割れたぁ!」
かぐやが頭を抱える。
「じゃー順番にやろ!最初かくれんぼで、その次ゲームね!」
「「わーい!」」
彩葉が苦笑した。
「私はその間に夕飯の準備するから、誰か一人くらい隼斗を見張っといて」
「俺をなんだと思ってんだ」
「子供よりはしゃぐときあるから」
「……否定できねえのが腹立つなぁ……」
そんなやり取りをよそに、双子はすでに部屋の中をきょろきょろ見回している。
「じゃあ、かくれる!」
「十数えるからね!」
「いーち!」
「にー!」
「さーん!」
「おい、隠れる前に始めるな」
隼斗が苦笑した。
その日のリビングは、いつも以上に賑やかだった。
テーブルの下。
ソファの陰。
カーテンの裏。
ありとあらゆる場所を使って隠れる双子を、かぐやが必死に探し回る。
「どこだー!」
「いないよー!」
「そこじゃない!」
「えー!?」
「……そこ、足見えてるぞ」
「「えっ」」
隼斗の一言で、カーテンの裏から二人が顔を出した。
「みつかったー!」
「兄ちゃんすごい!」
「いや、丸見えだからな」
「すごーい!」
「褒められてねえんだけどなぁ……」
そして彩葉の作った夕食を終え、リビングで食休みを挟んでいた。
双子はお腹を叩いて満足そうにしている。
「お風呂、どうしようか」
彩葉が時計を見る。
「一人ずつ入ってたら、結構時間かかるよね」
「双子ちゃんもいるしねぇ」
ヤチヨが考える。
「近所の銭湯、行っちゃう?」
かぐやが即座に手を上げた。
「さんせーい!」
「せんとう?」
「せんとうってなに?」
「おっきなお風呂!みんなで一緒に入れるよ!」
「他の人もいるから、あんまりはしゃいじゃ駄目だよ。とくにかぐや」
「心外!?」
双子の目が輝く。
「おっきなお風呂?」
「そう!」
「いきたい!」
「いくー!」
隼斗も頷いた。
「じゃあ決まりだな」
「「やったぁ!」」
「やったー!」
「「かぐ姉、はしゃいじゃダメだよ」」
「なんだとぉ!?」
こうして四人と双子は、近所の銭湯へ向かうことになった。
「タオル持った?」
「もった!」
「着替えは?」
「もった!」
「石けんは?」
「「……」」
双子が顔を見合わせる。
「忘れた?」
「「……うん」」
「まあ、銭湯なら売ってるだろ」
「備え付けもあるよ~」
「アレルギーとか無いって聞いてるし、それで大丈夫だろ」
銭湯の暖簾が見えてきたところで、かぐやが双子の前にしゃがみ込んだ。
「ねえねえ、お風呂どうする?」
「どうするって?」
「お兄ちゃんと一緒に入る?それとも、お姉ちゃんたちと一緒に入る?」
双子が顔を見合わせた。
「「……」」
しばらく悩む。
「かぐ姉ちゃんたちと入るのも楽しそうだけど……」
「でも……」
二人がもう一度顔を見合わせる。
そして。
「「じゅん兄ちゃん!」」
見事に声が揃った。
「……おう、良いぞ」
隼斗が特に驚いた様子もなく答える。
「かぐや、ちょっと寂しそうな顔してるけど」
彩葉が横目で見る。
「べ、別に!寂しくないもーん!」
「そういうことにしとこっか」
ヤチヨが微笑みながらフォローした。
「じゃ、双子は俺と一緒に男湯な」
「「よろしくおねがいしまーす!」」
「……次があったら、かぐやたちとだからね!」
「寂しいんじゃねえか」
「寂しくないもーん!」
「はいはい」
脱衣所で着替えを済ませ、隼斗と双子は男湯へ。
浴室へ入るなり、双子は目を輝かせる。
「おっきい!」
「おふろひろーい!」
「走るなよ、転ぶぞ~」
隼斗が声を掛ける。
「「はーい!」」
返事だけは妙に良かった。
洗い場に並んで座る隼斗と双子。
「頭、洗うぞ」
「「はーい」」
隼斗がシャンプーを手に取り、双子の頭を順番に洗っていく。
「目、閉じてろよ」
「「とじてる!」」
「ちゃんと閉じてないと、染みて痛いぞ?」
泡立てたシャンプーで、頭皮まで丁寧に洗っていく。
「気持ちいい……」
片方の子が、とろんとした声を漏らした。
「寝るなよ。まだ洗い終わってねえから」
「ねむくない……」
「……絶対眠いだろ、それ」
隼斗が笑う。
もう片方の子も、目を閉じたまま大人しく身を任せている。
「よし、流すぞ」
シャワーで丁寧にすすいでいく。
「目、開けて大丈夫か確認しろよ」
「「だいじょうぶ!」」
「よし。そしたら身体は自分で洗えるか?」
「「あらう!」」
「えらいぞ。その間に兄ちゃんもぱっぱと洗っちまうから」
双子が身体を洗い、隼斗も手早く身体を流す。
そして、三人そろって浴槽へ向かった。
大浴槽の一角には、少し深くなっている場所があった。
「そこ、深いから気をつけな」
「「え?」」
片方が足を踏み入れた瞬間、身体がすっと沈む。
「「わっ」」
「ほ~ら、言わんこっちゃない」
隼斗がすぐに手を伸ばし、身体を支えた。
「大丈夫か?」
「びっくりしたぁ……」
「言っただろ、深いって」
もう片方の子も慎重に近づいてくる。
「ここ、ふかいの?」
「ああ。お前も気をつけろよ」
「うん」
隼斗が二人の身体をしっかり支える。
「ふわふわする!」
「おもしろい!」
「暴れると危ないから、静かにな」
「「はーい!」」
「いい返事だ」
しばらく、隼斗に支えられながら双子は湯の感触を楽しんでいた。
「兄ちゃん、次あっち!」
「おう。転ぶなよ」
三人は内湯を出て、露天風呂へ向かった。
扉を開けた瞬間、夜の空気が頬を撫でる。
「わあ……」
双子が同時に空を見上げた。
「ほし、みえる!」
「きれい!」
「おー、本当だ」
隼斗も空を見上げる。
夜空には、いくつもの星が瞬いていた。
「あれ、なんてせいざ?」
「わかんない」
「……詳しくは分かんねえけど、あれは多分はくちょう座だな」
「はくちょう?」
「あそこを星で繋げると、翼を広げた大きな鳥に見えるんだ」
「見える!」
「あれが特徴的な形だな」
双子は並んで、空を見上げる。
「と、なると……あれがわし座だな」
「わし?」
「おじいさん?」
「違う違う、鳥の鷲。あっちの星を繋げると、翼を広げた鷲みたいに見えるんだ」
「ん~~~?」
「みえた!」
「ホントか?」
隼斗が少し笑う。
「わし座の一番明るい星、あるだろ。あれが彦星さんな」
「たなばたの?」
「そ。で、はくちょう座の一番明るい星と彦星さんを繋げて、三角形になるように探すと……」
隼斗が夜空を見回す。
「……あっちだな」
天の川を挟んだ向こう側。
青白く輝く星を指差す。
「あれが織姫さん。こと座の一番明るい星だな」
「へー!」
「ことざ?」
「ん~……わかっかな……」
隼斗が少し考える。
「竪琴っていう楽器があってな。その形をもとにした星座だ」
「「わかんない!」」
「そっか。分かんなくても良いぞ」
「あれがおりひめさんとひこぼしさんなんだ」
「んー、なんか、あいだにいっぱいひかってる」
「それが天の川。織姫さんと彦星さんは、七夕にだけ会えるって言われてるんだ」
「「え~、なんでぇ~?」」
「それは帰ったら、お母さんに聞いてみ」
双子は説明を聞きながら、夜空を見上げている。
しばらくして、片方がぽつりと呟いた。
「ほしって、こんなにきれいなんだ」
「ま、普段はあんまり夜空を見上げたりしねえもんな」
「「うん」」
三人で、静かに星を眺める。
「……なんか、おちつくね」
「うん」
双子がぽつりと呟いた。
「そうか。その感じ、大事にしときな」
隼斗が静かに答える。
言葉と湯気が夜の空気へ、ゆっくりと溶けていった。
風呂から上がった隼斗と双子は、休憩室のベンチに並んで座っていた。
「いろは姉ちゃんたち、まだかな」
「女湯の方が時間かかるからな」
「なんで?」
「女にゃ色々することがあるんだとよ」
隼斗が自販機を見る。
「お前ら、なんか飲むか?牛乳なら普通のとフルーツとコーヒーがあるぞ」
「フルーツ!」
「コーヒー!」
「そしたら俺は飲むヨーグルトにしよっと」
隼斗が自販機で三人分の飲み物を買う。
「はい」
「ありがとう!」
「ちべたーい!」
三人でベンチに並んで座り、飲み物を口にする。
「きょう、楽しかった!」
「そうか」
「じゅん兄ちゃんといっしょに入れてうれしかった」
「……そっか」
隼斗が少しだけ照れくさそうに視線を逸らしながら、双子の頭を雑に撫でた。
しばらくして、女湯の暖簾から彩葉、かぐや、ヤチヨが出てきた。
「お待たせ」
「遅ぇぞ。俺はともかく、こいつらもいるんだから」
「ゴメンって」
彩葉が苦笑しながら近づいてくる。
「楽しかった?」
「うん!!」
「じゅん兄ちゃんとおふろ入って、あたまあらってもらって、おほしさまも見たよ!」
「星?」
かぐやが首を傾げる。
「露天風呂があってな」
隼斗が説明する。
「へえ、いいなぁ」
「時間帯で男女入れ替わるらしいから、今度四人でも来るか」
「行きたい!でも今はその前に~」
かぐやが休憩室の自販機に駆け寄る。
ふじゅ~PAYのバーコードを読み込ませると、ガコンと音を立てて瓶が出てきた。
「ングッ、ングッ、ングッ、プハ~!生き返るぅ~!」
かぐやが腰に手を当てながら、瓶のコーヒー牛乳を飲む。
「じじぃか、お前は」
「だって気持ちいいんだもん!」
双子も牛乳を飲みながら、満足そうに笑っている。
「おいしい!」
「つめたい!」
「そりゃ良かったな」
隼斗も笑った。
夏とはいえ、帰り道にはもう暑さも和らいでいた。
風が吹けば、涼しさがすっと通り抜けていく。
タワーマンションへ戻ると。
「今日はもう寝ようか」
彩葉が時計を見る。
「「えー……」」
双子が不満そうな顔をする。
「まだ寝たくない」
「まだあしょべる」
「でも、もう眠そうじゃん」
ヤチヨが笑う。
「「まだ!」」
「さっきから目パチパチしてるぞ」
隼斗が指摘する。
「してない!」
「こすってる」
「してなぁい!!」
「はいはい」
かぐやが笑った。
「じゃあ今日は特別!」
「「なぁに?」」
「みんなで寝よう!」
双子の顔が一気に明るくなる。
「みんなで?」
「うん!」
「ここで?」
「そう!」
「やったー!」
「ほんとに?」
「ほんとほんと!」
隼斗がため息をついた。
「まあ……今日くらいならいいか」
「「やったぁ!」」
双子が大喜びする。
「じゃあ布団持ってこよう!」
「「手伝う!」」
あっという間に、リビングの床へ布団が並んでいく。
「ここがいい!」
「こっち!」
「隣がいい!」
双子が自分たちの場所を決めようとして揉め始める。
「はいはい」
隼斗が布団を整える。
「お前らは隣同士な」
「兄ちゃんは?」
「俺?」
「となり!」
「……しょうがねえな」
「兄ちゃんこっち!」
「こっち!」
「あーこらこら喧嘩すんな。しょーがねえな」
隼斗が双子の真ん中に布団を敷く。
「かぐ姉ちゃんは?」
「ここ!」
「ヤチ姉ちゃんは?」
「ここだね」
「いろは姉ちゃんは?」
「私もここ」
あっという間に、リビングいっぱいに布団が並んだ。
「なんか修学旅行みたい!」
かぐやが楽しそうに言う。
「お前、何でも修学旅行にするな」
隼斗が苦笑する。
「でも、みんなで寝るの楽しいよね」
ヤチヨも笑う。
双子はすでに布団へ潜り込んでいた。
「ふかふかー!」
「きもちいい!」
「ほら、はしゃぎすぎると寝られなくなるぞ」
「はーい」
「……おやすみ!」
「さっきまで眠くないとか言ってたくせに」
「「いひひひ♪」」
双子が顔を見合わせて笑う。
その笑い声につられて、四人も笑った。
やがて照明が少し落とされる。
エアコンの静かな風が、リビングをゆっくりと巡っていた。
双子の寝息が聞こえ始める。
「……寝たね」
彩葉が小声で言う。
「うん。疲れてたのかな」
ヤチヨも小さく頷く。
「今日はいっぱい遊んだからねぇ」
かぐやが双子の寝顔を見て、そっと頭を撫でる。
「楽しんでくれたかなぁ?」
隼斗が小さく呟いた。
「そりゃ楽しんだだろ」
「……うん」
「じゃあ、俺らも寝るか」
「「はーい」」
静かな返事。
いつもの四人だけだったリビングには、双子の小さな寝息が一つ、また一つと重なっていた。
少しだけ狭くなった布団。
少しだけ賑やかな夜。
それでも、不思議と心地よい。
「……こういうのも悪くねえな」
隼斗が小さく呟く。
誰かが返事をすることはなかった。
ただ。
両隣の布団から、双子の寝言が小さく聞こえた。
「「……にいちゃん……」」
「……ん?どうした?」
寝ぼけた声だった。
声を掛けたが、返事はない。
寝言か、と隼斗は少しだけ笑って。
「……おやすみ」
そう呟くと、静かに目を閉じた。
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