今日も世話を焼く   作:ディアーリーズ

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コメンタリーが尊すぎるんだよな。
追加カットはまだ見れてませんが。

そして本日から復活上映!
私は日曜日にScreenXで、水曜日にMX4Dで見に行く予定です。


Ex.隼斗が世話を焼かれる日

朝、リビングに降りてきた隼斗の顔色が、明らかにおかしかった。

 

「おはよ……隼斗?」

 

真っ先に気づいたのは、手持ち無沙汰でダイニングテーブルについていたかぐやだった。

今朝はキッチンにヤチヨが立っていたので、おとなしく座って待っていたのだ。

 

「顔、赤いよ。大丈夫?」

「……そ、うか?」

 

隼斗が答えながら、少しふらついた。

 

「そうかじゃないよ、ふらついてるじゃん!」

 

かぐやが近づいて、額に手を当てる。

 

「……熱い」

「大袈裟、だろ」

「大袈裟じゃないよ。これ、絶対熱ある」

 

ヤチヨが騒ぎを聞きつけて、キッチンから飛んできた。

 

「隼斗、どうしたの?」

「なんでもねえって」

「なんでもなくないよ!かぐやが気づくくらい顔真っ赤だよ!」

 

彩葉もダイニングに現れて、隼斗の顔を覗き込んだ。

 

「……熱、あるね」

「お前らまで」

「寝て」

 

かぐやが短く、しかし有無を言わせぬ口調で言った。

それに彩葉も続ける。

 

「今日は仕事の予定も全部リスケするから。寝てて」

「いや、今日は企業との打ち合わせが……」

「あんた、10年前の夏の日、無理して倒れた私になんて言ったか覚えてないの?」

「…………」

「彩葉、研究所に連絡しといてね」

「うん。私も今日はおやすみにするね」

 

彩葉が即座に頷いた。

 

「かぐやが気づいてくれて良かったね」

「……なんだよそれ」

 

隼斗が少し戸惑ったように言った。

 

「かぐやって、妙に鋭いとこあるから」

 

彩葉が少し硬い表情で答える。

その言葉に、ヤチヨが微笑みながら続けた。

 

「私たちも、かぐやが気づいたらすぐ動くようにしてるの」

「……そうなのか」

「……昔、彩葉が倒れたとき、すごく怖かったから」

「だから、次のときはその前に気づけるようにって思って」

 

隼斗はバツが悪そうに、かぐやから視線を逸らした。

 

「……分かった。おとなしく寝とくわ」

「病院は?行けそう?」

「そこまでじゃねえよ。一日休んどきゃ十分」

「でもぉ」

「明日まで長引いたら行くって」

「約束ね?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

自室のベッドに横たわる隼斗を、三人が取り囲んでいた。

 

「……なんか、こうやって見られてると落ち着かねえんだが」

「我慢して」

 

かぐやが体温計を渡す。

 

「測って」

「測ったって」

「もう一回」

「さっき測ったばっかだろ」

「念のため」

 

圧に負けた隼斗が、渋々もう一度体温計を脇に挟む。

 

「……ね、ホントに病院行かなくて大丈夫?」

 

かぐやが、先ほど圧をかけた張本人とは思えないほど心配そうな顔をする。

いつも元気にピンと立っているアホ毛も、心なしかしょんもりしている。

 

「大丈夫だって。寝てりゃ治るから、お前らは普段通りに」

「そういう問題じゃないよ」

 

彩葉が静かに言った。

 

「ちゃんと看病させて」

「させてって、お前ら病人を看病したことあんのかよ」

「あの頃の彩葉のとき以外、無い!」

 

かぐやが胸を張って即答した。

 

「無いんかい」

「ヤッチョは……あるとは言えないかなぁ。色々経験してきたけど、FUSHIの体だったし……」

「私も無い……けど、一般的な看病なら出来るでしょ。医学知識もあんのよ、こちとら」

「……不安だわ~」

「いいから寝てて!今日は全部かぐやたちでやるから!」

 

バサッと布団を掛けられながら、不安そうな表情を隠そうともしない隼斗。

 

ピピッと鳴った体温計は、『38.2℃』を表示していた。

 

「凄い熱あるじゃん」

「彩葉、隼斗ちゃんと見ててね」

「もちろん、しっかり見張っときます」

 

水で濡らしたタオルを絞り、隼斗の額に置きながら、彩葉が答える。

 

「冷却シートで良くないか?」と考えつつも、熱で頭がぼんやりしている隼斗は口を挟まない。

 

部屋のドアがパタンと閉まる音を聞きながら、隼斗はそのまま眠りに落ちた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「まず、消化に良いもの作ろう」

 

ヤチヨがキッチンに向かう。

 

「かぐや、手伝って」

「うん!かぐやが一番に気づいたから、責任持ってやる!」

 

二人でおかゆを作り始める。

 

「隼斗がいつも、鶏団子のスープとか作ってくれてたよね」

「あれ、優しい味だったよね」

「今日はおかゆにしよう。もっとシンプルに」

 

米を研いで、土鍋に入れる。

 

「水の量、これで合ってる?」

「多分」

「多分で大丈夫かな」

「大丈夫大丈夫」

 

しばらく煮込んでいると、いい匂いが漂ってきた。

 

「……できた、と思う」

「味見しよう」

 

ヤチヨが味見する。

 

「……薄味かも」

「隼斗の口に合うかな」

「病気のときは薄味の方がいいって聞いたことあるから。出汁は利いてるし」

「そうなんだ」

「疲れたときも濃いものは重いでしょ?」

「確かに!」

 

できあがったおかゆを、丁寧に器に盛る。

 

「……じゃあ、隼斗に持っていこう!」

「うん」

「あ」

「どうしたの?」

「梅干しとか、卵とか入れたほうがいいかな」

「いるかな?」

「隼斗、病気でも梅干し食べるかな」

「聞いてくれば?」

「寝てるよ?」

「じゃあ……」

 

二人が顔を見合わせる。

 

「……勝手に入れるのはやめよう」

「うん」

「でも溶き卵は入れよっか」

「栄養要るもんね!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「隼斗、おかゆできたよー」

「……ん」

 

寝息を立てていた隼斗が、薄く目を開ける。

 

「食べられそう?」

「……食う」

 

隼斗が起き上がろうとすると、かぐやが慌てて肩を支える。

額に乗せられていた濡れタオルがベッドに落ちた。

 

「ゆっくり!」

「いや、自分で起きられるって」

「でも熱あるんだから!」

「……お前ら、俺を何だと思ってんだ」

「病人」

「病人でしょうが」

「病人でしょ!」

「声揃えて言うなよ……」

 

熱のせいか、ツッコミのせいか、頭を押さえる隼斗。

 

おぼんに乗せられたどんぶりとれんげを前に、小さく「いただきます」と手を合わせる。

れんげを手に取ろうとした隼斗に、かぐやが待ったをかけた。

 

「待って!!」

「声でかい……あたまにひびく……」

「かぐや、ボリューム絞って」

「あ、ゴメン……。ね、隼斗。食べさせてあげる!」

「…………」

「その『えぇ~……』って顔やめれる?」

「いや、待て。俺、自分で食えるから」

「ダメ」

「なんでだよ」

「病人だから」

「さっきからそればっかだな……」

 

かぐやがれんげを手に取る。

一口分のおかゆを掬って、隼斗の口元に差し出した。

 

「はい、あーん」

「…………」

「あーん」

「……」

「隼斗?口開けないとツッコむよ?」

「……これ、絶対やらなきゃダメか?」

「ダメ」

 

隼斗は諦めたように口を開いた。

 

「……あちっ」

「あ、ゴメン!」

「ちゃんと冷ましてあげないと」

「そうだね!」

 

かぐやが、れんげですくったおかゆにふーふーと息を吹きかけ、冷ます。

 

普段なら気恥ずかしさで止める隼斗も、そこまでの元気はないようで。

 

「はい、どーぞ!」

「……ありがとよ」

 

素直に差し出されたおかゆを、隼斗が口に運ぶ。

ゆっくりゆっくり咀嚼する。

 

「……どう?」

「……うん」

「どう?」

「うまい」

「ほんと!?」

「ホントホント」

「よかったぁ……」

 

胸を撫で下ろすかぐやとヤチヨ。

 

「……ただ」

「……ただ?」

「ちょっと薄い」

 

「「…………」」

 

「そこは言わなくていい!」

「ちゃんと味見したんだから!」

「病人食は薄味がいいんでしょ?」

「優しい味で助かる」

「じゃあいいじゃん!言わなくても良いじゃん!」

 

先ほどとは打って変わって、かぐやとヤチヨが「んがー!」と怒る。

彩葉は笑ってはいけないと思いつつも、笑いを堪えられない。

三人のリアクションをよそに、隼斗はというと。

 

「あ」

「え?」

「だから、あ」

 

大きく口を開けている隼斗。

雛鳥を思わせる様に、三人が呆気に取られていると。

 

「食わせてくれんだろ、だから待ってるんだけど」

「……え?」

「……どうした?」

「いや……隼斗が素直……」

「病人だからな」

「さっきまで嫌がってたのに」

「もう諦めた」

「じゃ、じゃあ、あーん」

「ん」

「…………」

「…………」

「……なんで黙るんだよ」

「いや、なんか……」

「かぐや、恥ずかしくなってきちゃったの?」

「食わせる側が照れるなよ。……もう自分で食うぞ、冷めちまう」

「ダメ」

「なんでだよ」

「さっき『食わせてくれんだろ』って言ったじゃん」

「……言ったけど」

「じゃあ最後まで」

「……はいはい」

 

素直になった隼斗の口に、かぐやがおかゆを差し出す。

隼斗はおかゆを咀嚼し、飲み込むが、三人をジト目で見つめている。

 

「なに、どうかしたの」

 

彩葉が隼斗の視線に気づいて声をかけた。

 

「……いや、お前ら俺が食い終わるまでずっとここに居んのかなって」

「居るよ」

「おかゆ零したりしたら大変でしょ?」

「かぐやは食べさせなきゃだし!はい次ね、あーん!」

「さいですか……」

 

諦めたような顔で、差し出されたれんげを大人しく口に運ぶ隼斗だった。

 

おかゆの器を空にし、食後に常備薬を飲んだ隼斗が「ふう」と小さく息をついた。

 

「……ごちそうさま」

「おそまつさま~!」

 

かぐやがにっこりと返す。

空になった器とおぼんを、ヤチヨが微笑みながら受け取った。

 

「……ちょっと眠くなってきた」

「薬飲んだでしょ。少し眠くなる成分が入ってるやつだから、それもあるかもね」

 

彩葉が言った。

 

「寝ときなよ。起きたら少しは楽になってるはず」

「……そうするわ」

 

隼斗が目を閉じる。

数分もしないうちに、寝息が聞こえ始めた。

 

「……寝た」

 

かぐやが小声で言う。

三人はそっと寝室を出て、リビングに移動した。

 

「はあ……」

 

彩葉がソファに座り込み、大きく息を吐いた。

 

「なんか、思ったより疲れた」

「かぐやも~」

 

かぐやも隣に座る。

 

「初めての看病、緊張したね」

「うん。何が正解か分からないまま、とりあえずやるしかなかったし」

 

ヤチヨがお茶を三人分淹れて戻ってくる。

 

「おつかれさま」

「ありがとう」

 

三人でしばらく、ぼんやりとお茶を飲んだ。

 

「隼斗、いつもこんな気持ちで私たちの世話してたんだね」

 

かぐやがぽつりと言った。

 

「大変だったんだ、これ」

「うん」

 

彩葉も頷いた。

 

「見えないところで、色々気を配ってくれてたんだなって、改めて分かった」

 

三人がリビングでしばらく休んでいると、彩葉のスマホが震えた。

 

「あ、これ研究所からの確認メール。いくつか今日期限のがあったんだ」

「大丈夫?」

「うん。在宅でできる範囲だから。ちょっとリビングでやってていい?」

「もちろん」

 

彩葉がノートPCを開いて、静かに作業を始めた。

 

「じゃあ、かぐやは晩ご飯の準備しておくね」

 

かぐやが立ち上がる。

 

「隼斗の分は、また消化に良いものにしよう」

「うん、お願い」

 

ヤチヨが頷いた。

 

「私は、隼斗のそばにいるね」

「うん、お願いします」

 

彩葉はキーボードを打ちながら言った。

三人が、それぞれの持ち場に散っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

寝室では、隼斗がまだ寝息を立てて静かに眠っていた。

ヤチヨが枕元の椅子に腰掛け、そっと様子を見守っている。

しばらくして、隼斗が薄く目を開けた。

 

「……ん」

「あ、起きた?」

 

眼鏡をかけ、読書をしていたヤチヨが、パタンと本を閉じて優しく声をかける。

 

「……ヤチヨ、か」

「うん。彩葉は仕事、かぐやは晩ご飯の準備してる」

「そうか」

 

隼斗がゆっくり体を起こそうとする。

 

「無理しないで、まだ寝てて大丈夫だよ」

「……いや、少し楽になった」

「本当に?」

「ああ」

 

ヤチヨが額に手を当てる。

 

「……熱、少し下がってるかも」

「だろ」

「良かった」

 

ヤチヨが安堵の表情を見せた。

 

「水、飲む?」

「もらう」

 

コップを受け取って、隼斗がゆっくり飲む。

 

「……ありがとな」

「どういたしまして」

 

しばらく、静かな時間が続いた。

 

「……なあ」

 

隼斗がぽつりと言った。

 

「もしかしてなんだけど」

「うん」

「ずっとそばにいてくれたのか」

「うん」

「悪いな、付き合わせて」

「付き合ってるんじゃないよ」

 

ヤチヨが静かに首を振った。

 

「私が、そばにいたいと思ったの」

「……そうか」

 

隼斗が少し目を細める。

 

「小さい頃に熱出した時、母さんがそばにいてくれたこと思い出した」

 

ヤチヨが微笑んだ。

 

「これからも、ずっとそばにいるから」

「大袈裟だろ」

「大袈裟じゃないよ~」

 

 

 

 

 

 

 

 

「ところで、その眼鏡は?義体だし視力は……」

「伊達メガネ~。かわいい?」

「かわいい」

「んえ゛っ」

「普段とちょっとイメージ変わる」

「待って待って」

「『知的』って雰囲気で、本開いてるのが似合う」

「ストップ~!熱で朦朧としてるでしょ~!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

リビングでは、彩葉がノートPCに向かって静かにキーボードを打っていた。

 

「……よし、これで最低限のメール返信は終わったかな」

 

小さく呟いて、手を組んで背を伸ばす。

キッチンからは、かぐやが晩ご飯を用意している物音が聞こえてくる。

 

「……あ」

 

小さな声。

 

「やば」

 

続けて、また小さな声。

 

「かぐや、大丈夫?」

 

彩葉が声をかける。

 

「……だ、大丈夫、大丈夫」

 

かぐやの声が、少しだけ上ずっていた。

彩葉がキッチンを覗くと、かぐやが出汁の入った鍋を前に、少しぼんやりしていた。

 

「……かぐや?」

「あ、うん。なんでもない」

 

慌てて手を動かし始めるが、計量スプーンを取り落とした。

 

「……」

「かぐや」

 

彩葉が近づく。

 

「なんか、いつもより手つき危うくない?」

「……そう、かも」

 

かぐやが少し俯いた。

 

「なんか、落ち着かなくて」

「……そっか」

 

彩葉が優しく言った。

 

「隼斗が体調崩したとこ、初めて見るもんね」

「……うん」

 

かぐやが小さく頷いた。

 

「いつも隼斗がみんなの調子悪いのに気づいて、動いてくれてたから」

「まさか隼斗自身がこうなるなんて、考えたこともなかった」

「……」

「大丈夫だって分かってても、なんか、ちょっと手が震える」

 

彩葉がかぐやの肩に手を置いた。

 

「私も、正直まだちょっと落ち着かない」

「彩葉も?」

「うん。でも、隼斗のためにちゃんと美味しいもの作ってあげたいでしょ?」

「……そうだね」

 

かぐやが深呼吸をした。

 

「よし。今日は隼斗の分、また別のおかゆと、あと茶碗蒸し作ってみよっかな!」

「茶碗蒸しか。おいしそう。私の分も作ってくれる?」

「もっちろん!かぐやちゃんにお任せ!」

 

ハイテンションに返した後、かぐやは自分に言い聞かせるように呟いた。

 

「隼斗のために、ちゃんとできる」

 

しばらくして、卵と出汁を丁寧に合わせていく。

最初の危うい手つきとは違い、少しずつ落ち着きを取り戻していった。

 

「……できた」

 

蒸し器から取り出した茶碗蒸しは、綺麗な仕上がりだった。

 

「良かったぁ、ちゃんとできた」

「うん。かぐや、普段はすごく料理上手だもんね」

「今日はちょっと、手元がおぼつかなかったけど」

 

かぐやが少し照れくさそうに笑った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

夕方になって、かぐやが隼斗の自室に顔を出した。

 

「隼斗、起きてる?晩ご飯、そろそろできるよ」

「ああ、ありがとな」

「今日はおかゆの続きと、茶碗蒸し作ったよ」

「茶碗蒸しまで作ったのか」

 

かぐやの顔を見た隼斗が、少し怪訝な顔をした。

 

「……なんかあったか?」

「え」

 

かぐやが一瞬固まった。

 

「……分かっちゃう?」

「熱で多少ぼーっとしてても、お前らのことならそれくらいは分かる」

「……ちょっとだけ、動揺してた。隼斗が体調崩すの、初めて見たから」

 

かぐやが正直に言った。

 

「なんか、いつもと逆で、どうしたらいいか分からなくて」

 

隼斗が少し目を細めた。

 

「……悪いな、心配かけて」

「謝らないで。かぐやがちゃんとやりたかっただけだから」

「……そうか」

「腕によりをかけたからさ、ちゃんと食べてね!」

「おう」

「ここ持ってくる?それとも、下に降りる?」

「……持ってきてくれた方が、助かるな」

「りょーかい!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

夕食を終えた隼斗は、薬を飲んでまた静かに目を閉じた。

茶碗蒸しは丁寧な味付けで、隼斗は「うまいな、これ」と一言だけ言って完食した。

かぐやはそれを聞いて、ほっと胸を撫で下ろしていた。

 

彩葉の仕事も一段落し、三人がリビングに集まって夕食を取る。

 

「今日、一日看病してみて、どうだった?」

 

彩葉が聞いた。

 

「大変だった。……特に最初、手が震えて」

 

かぐやが正直に答える。

 

「隼斗が体調崩すの、本当に初めてで、どうしていいか分からなくなった」

「私も、内心はまだ落ち着かない」

 

彩葉が言った。

 

「でも、隼斗の役に立てて嬉しかった」

「私も、同じ気持ち」

 

ヤチヨも頷いた。

 

「明日には、もう治ってるといいね」

「うん」

 

その日は珍しく、静かな食卓だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ん」

 

隼斗が目を覚ますと、朝の光が差し込んでいた。

体を起こしてみると、明らかに昨日より体が楽になっている。

 

「……熱、下がってる、か?」

 

リビングに顔を出すと、三人がソファでうとうとしていた。

 

「……おはよう」

 

隼斗が声をかけると、かぐやが真っ先に目を覚ました。

 

「あ、隼斗。大丈夫?」

「……ああ、だいぶ楽になった」

「本当に?」

 

かぐやが慌てて近づいてくる。

 

「熱測って」

「もう大丈夫だって」

「測って」

「……分かった分かった」

 

昨日と同じように、渋々脇に体温計を挟む。

 

ピピッと音を鳴らした体温計を見ると、36.8度まで下がっていた。

 

「良かったぁ……」

 

かぐやが心底安堵した表情を見せた。

 

彩葉とヤチヨも目を覚ます。

開口一番、隼斗の体調を伺った。

 

「隼斗、平気?」

「治った?」

「治った。ありがとな。お前らのおかげだ」

「良かった~!」

 

かぐやが飛び上がった。

 

「夜、代わる代わる見てたんだよ」

「知ってる」

 

隼斗が少し照れくさそうに言った。

 

「体調悪かろうと、起きるたびに誰かがそばにいたのくらい気づける」

「当たり前じゃん」

 

かぐやが微笑んだ。

 

「隼斗が一番最初に気づいてくれるの、かぐやも見習おうって、ずっと思ってたから」

「……そうか」

 

隼斗がしばらく黙って、三人の顔を見た。

 

「……ありがとな」

「「「どういたしまして」」」

 

三人の声が、朝の光の中で重なった。

 

「今日は無理せず、一日ゆっくりしてよね」

 

「おやすみの連絡はもう入れてあるから」と、彩葉が念を押す。

 

「分かってる」

「本当に?」

「本当に」

「……ちょっと信用できないんだけど」

「なんでだよ」

 

かぐやが笑いながら言った。

 

「だって隼斗、彩葉に言う割に自分もすーぐ無理するし」

「……否定できねえ」

「今日だけは、大人しくしててね」

 

ヤチヨが微笑む。

 

「じゃないと、また看病することになるよ」

「それは勘弁してほしいけどな」

「そう?私たちは楽しかったけど」

「楽しかったのかよ」

「うん。隼斗の世話焼けるの、新鮮で良かった!」

 

かぐやが言うと、彩葉とヤチヨも頷いた。

 

「今度からは、たまにはこっちにも甘えてね」

 

かぐやが言った。

 

「かぐやが一番に気づく係なんだから!」

「……気が向いたら、な」

 

隼斗が少し照れくさそうに答えた。

 

リビングには、穏やかな朝の光が差し込んでいた。

 

 

 

 




クニマル水産さん、評価いただきありがとうございます。

孤月さん、感想いただきありがとうございます。

お気に入り登録、ここすきをしていただいた方々もありがとうございます。
とても励みになります。

活動報告の方でネタの募集も始めておりますので、ご一読いただければと思います。
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