「ねえねえ!制服着たい!」
夕食後のリビングで、かぐやが唐突に言い出した。
「制服?」
ソファーで寛いでいた彩葉が首を傾げる。
「うん!学校に通ったことないから、一回くらい着てみたいなって!」
「……確かにな。おめー、学校生活経験してねえもんな」
キッチンで洗い物をしていた隼斗が納得したように頷いた。
「私も、ちょっと興味あるな」
その隣で、洗い物を布巾で拭いていたヤチヨが控えめに手を挙げる。
「ヤチヨも?」
「うん。8000年生きてきたけど、学校の制服っていうのは、なんとなく気になってた」
それから、少しだけ間を置いて。
「彩葉と隼斗も着てたし」
小声で付け足した。
「じゃあ決まりだね!」
かぐやがぱっと顔を輝かせる。
「かぐやだけならともかく、ヤチヨには我慢させたくねえしなぁ」
「かぐやだけならともかくとはなんだぁ!?!?!?」
吠えるかぐやを無視して、隼斗もあっさり頷いた。
すると、ニヤリとかぐやが悪い笑みを浮かべて。
「あと、彩葉と隼斗も一緒に着てほしい!」
「え、私たちも?」
「嘘だろ」
彩葉と隼斗が、ほとんど同時に声を上げる。
「うん!四人で揃って着たい!」
二人が顔を見合わせた。
「……いや、俺たちもう良い歳だぞ」
隼斗がエプロンを外しながら苦笑する。
「俺らが制服着てたら、色々と事案になるやつだろ、それ」
「そうだよね……」
彩葉も苦笑しながら頷く。
「でも、ツクヨミでなら良くない?」
かぐやが食い下がった。
その隣で、ヤチヨが上目遣いで彩葉を見る。
「アバターだし、誰かに迷惑をかけるわけでもないし、ね?」
「……ま、まあ、それなら」
彩葉が少し考える。
「アバターの上での話だし、別に問題ないか」
「よし、決まりだね!」
かぐやが両手を上げて喜ぶ。
「マジでぇ~?」
隼斗だけが、いまだに納得しきれない顔をしていた。
四人がツクヨミにログインし、隼斗のプライベートハウスに集合した。
「じゃあ、それぞれ制服選ぼうか。セーラー服とかブレザーとか、確かツクヨミにもあったはず……」
彩葉がウィンドウを出現させ、慣れた手つきで操作する。
「え~っと、制服、制服と……あれ?」
アバターのエディット画面をスクロールしていた彩葉が、ふと手を止める。
「……うちの高校の制服だ」
「は?いやいや、たまたま似てるだけだろ」
そう言いながら、隼斗がエディット画面を横から覗き込む。
そして、眉を寄せた。
「……マジじゃねえか」
「え?これ、かぐやのキャラクリのときからあったけど……二人とも知らなかったの?」
かぐやも画面を覗き込む。
それから、不思議そうな顔で二人を見た。
彩葉と隼斗は、ゆっくりと顔を見合わせる。
そして、揃ってヤチヨにジト目を向けた。
「……ヤチヨ」
「なに?」
「これ」
「うん」
「なんであるの?」
「登録したから~」
「「なんで(だよ)!?」」
二人が揃って声を荒げた。
気が付いたら母校の制服が衣装として実装されていたのだから、それもそうだろう。
それも、少なくとも十年前から。
「だって……」
ヤチヨがコミカルに涙を流し、口元を袖で隠しながら。
「二人との繋がりを実感できるもの、いっぱい欲しくてぇ~……」
「「んぐぅ」」
彩葉も隼斗も胸を押さえながら俯く。
思ったより二人に刺さってしまったらしい。
ヤチヨは、しまった、とでも言いたげな顔で。
「あ、ち、ちなみにぃ~」
「ん?」
「彩葉の中学時代のセーラー服と、隼斗のブレザーと中学校の学ランも登録してあるよ」
「…………」
「…………」
「「なんで!?」」
「高校の制服は分かるよ!」
彩葉が顔を上げる。
「電柱からかぐやが出てきたの、高二の時だし!そのときも制服だったし!」
「中学時代は、つながりも何もねえだろ!?」
隼斗も食い気味に突っ込む。
「…………てへ」
「「てへじゃない(ねえ)!!」」
二人の声が、プライベートハウスに響き渡った。
「まあまあまあ」
かぐやが、両手を広げて間に割って入る。
「気持ちは分かるけど、結果オーライってことで!」
「結果オーライって、お前……」
隼斗がため息をついた。
「十年前からこっそり制服のデータ作られてたの、普通に怖いだろ」
「怖くないよ~ロマンだよ~」
ヤチヨがけろっとした顔で言う。
「ロマンで片付けるな」
「じゃあ、執念?」
「それもっと怖いやつ」
彩葉が半眼で突っ込んだ。
「……まあ、でも」
彩葉が少し表情を緩めた。
「悪い気はしない、かな。大事に思っててくれてたってことだし」
「彩葉……」
ヤチヨが少し嬉しそうな顔をする。
「でも中学の制服は別腹」
「それは別腹って言わねえ」
隼斗がすぐさま突っ込んだ。
「まあまあ、せっかくだから着てみようよ!」
かぐやが明るく仕切り直す。
「かぐやとヤチヨは、私の高校の制服で良い?」
「良い良い!」
「私も、それで」
彩葉がキャラクリ画面から、問題の高校の制服データを呼び出す。
白いセーラー服に、紺のリボン。
水色のプリーツスカートが静かに揺れた。
「わあ……!」
かぐやが先に自分のアバターに適用させて、目を輝かせた。
「これが、彩葉の制服……!」
「……なんか、不思議な感じがする」
ヤチヨも自分の姿に反映させながら、感慨深そうに言った。
「二人とも、似合ってるよ」
彩葉が微笑んだ。
「じゃあ、彩葉は?」
かぐやが聞いた。
「私は……中学の時のセーラー服、着てみようかな」
「さっきまで怒ってたのに?」
「見せられたら、ちょっと気になるでしょ」
彩葉が気恥ずかしそうに言いながら、ヤチヨの登録したセーラー服のデータを呼び出した。
紺色のセーラー服に、赤いリボン。
紺の吊りスカートに、学生鞄まで律儀に再現されている。
「わあ……!」
かぐやが感動したように声を上げた。
「彩葉、そっちのセーラー服も似合う!しかも鞄まである!」
「……そこまで再現しなくて良いのに」
彩葉が鞄の持ち手を眺めながら、少し気まずそうに呟いた。
「じゃあ、隼斗は?」
ヤチヨが聞いた。
「俺は……」
隼斗が少し考える。
「……まあ、せっかくだから、学ランにするか」
「おお!」
かぐやが目を輝かせた。
「見たい見たい!」
隼斗が、諦めたように学ランのデータを自分のアバターに適用させる。
黒い詰襟の学ラン。
金色のボタンが並ぶ、少し硬派な印象の制服だった。
「おお……」
かぐやが目を丸くした。
「隼斗、学ラン似合う!」
「中坊の頃、三年間着てたわけだしな」
「ま、着てた時はもっとガキだったけど」と、隼斗が苦笑しながら続ける。
「なんか、隼斗が学ラン着てるの新鮮」
彩葉が言った。
「そうか?」
「うん。ブレザーのイメージが強かったから」
「あー……そりゃそうか」
隼斗が学ランの襟元を見ながら言う。
「高校はブレザーだったしな」
「そうそう」
「学ランはなぁ……」
隼斗が、少しだけ嫌そうな顔をする。
「首回りが窮屈で、めんどくさかったんだよ」
「そこ?」
かぐやが首を傾げる。
「そこだよ」
「ボタン外すと『校則で~』って小言言われるしよ」と、隼斗は即答した。
「だから高校は、家から近くて、制服がブレザーのところ選んだんだよ。都立武蔵川」
「そんな理由で高校決めたの?」
彩葉が呆れた顔で肩を落とす。
「うちの高校、結構進学校なのに」
「制服って毎日着るもんだぞ。三年間、首を絞められてるみてえな服着んのヤだったんだよ」
「言い方」
彩葉が笑う。
「結局ブレザーもネクタイで首絞まるけどな。あっちは多少調節できるし」
「そこまで首回りにこだわる?」
「大事だろ」
隼斗は真顔で答えた。
「毎日のことなんだからよ」
「……まあ、それもそっか」
彩葉が苦笑する。
「まあ、結果的にはそんな雑な進路選びで良かったけどな」
隼斗が、何気ない調子で続ける。
「彩葉と、そっからかぐやと出会えたわけだし」
「…………っ」
彩葉の顔が、一気に赤くなった。
「な、なんで今それ言うの!?」
「事実だろ?」
「そうだけど!」
顔を赤くしている彩葉を置いて、隼斗が自分の学ラン姿を見下ろす。
「……こうやって久しぶりに着ると、なんか懐かしいわ」
「でしょ?」
少し頬を染めたかぐやが嬉しそうに笑った。
「制服って、なんか特別な感じするよね!」
「……まあな」
隼斗が小さく笑った。
「アバターだから、触覚切っちまえば窮屈もなにもねえしな」
「結局そこ!?」
かぐやが声を上げる。
「そこ大事だろ」
隼斗は真顔で返した。
「……でもやっぱ首詰まってる気ぃする。ボタン外せねえのこれ?前開けれる?」
「前開けてると不良っぽく見えちゃうよ」
「それはそれでカッコいいからアリ!」
「……あ、やっぱやめよ」
「どしたん?」
「……うちの中学、学ランのインナーがシャツじゃなくて、体操服でよ」
「忠実に再現されてるってコト!?」
「1-2はねえだろ。いや合ってんだけどよ」
「ヤチヨ……」
「∩∩?」
それから四人は、制服姿のままツクヨミの街を歩き始めた。
普段とは違う格好で歩いているだけなのに、なんとなく気分まで変わる。
「ねえねえ!」
しばらく歩いたところで、かぐやが三人を振り返った。
「学生っぽいことやろ!」
「雑ぅ~」
彩葉が思わず突っ込む。
「具体的にどんなんよ」
隼斗も聞き返した。
「遠足!体育祭!球技大会!文化祭!合唱コンクール!修学旅行!」
かぐやが思いつくままに指を折っていく。
「四人でできるかい」
彩葉が呆れたように肩を落とす。
「あと、体育祭と球技大会は制服じゃないし」
「えー……」
かぐやが不満そうに頬を膨らませる。
すると。
「やけに権力を持ってる生徒会」
ヤチヨが突然、指を一本立てる。
「校門前で服装チェックしてる風紀委員」
もう一本。
「生徒が出入りできる屋上」
さらに一本。
「謎めいた転校生の美少女~」
最後は、楽しそうに両手を広げた。
「ヤチヨのはアニメの学校あるあるじゃねえか」
隼斗が即座に突っ込む。
「え~、学校ってそういうものでしょ?」
「違うと思う」
彩葉も苦笑する。
「ちぇ~」
かぐやが頬を膨らませる。
そして――。
「あっ!」
何かを思いついたように、ぱっと顔を上げた。
「じゃあ写真撮ろ!」
「写真?」
「うん!」
かぐやが三人の方へ駆け寄る。
「四人で制服着てるんだよ?せっかくだから、記念に撮ろう!」
「それならまあ、いいんじゃねえか?」
隼斗も頷く。
「私も賛成」
ヤチヨが微笑む。
「じゃあ、どこで撮る?」
彩葉が辺りを見回す。
「学校っぽいところがいい!」
「そりゃまた難しい注文だなぁ」
隼斗が苦笑する。
「でも、ツクヨミなら探せばありそうじゃない?」
「……そしたら、少し探してみようか」
彩葉が笑った。
「ヤチヨ、なんかそれっぽい場所の心当たりとかねえの?」
「うーん、個別サーバにユーザが作った建築物とかになると把握しきれないからにゃ~」
「手当たり次第か。ま、たまにゃいいだろ」
「そういうあてどの無い散歩ってのもよ」と隼斗がつぶやいた。
四人は顔を見合わせる。
そして、制服姿のまま、もう少しだけツクヨミを歩いていくのだった。
嗤う道化さん、感想いただきありがとうございます。
お気に入り登録、ここすきをしていただいた方々ありがとうございます。
とても励みになります。
活動報告の方でネタの募集、こちらも活動報告でマシュマロ雑談の質問募集も始めておりますので、ご一読いただければと思います。
マシュマロ雑談の質問募集については期限を延長し10/25(日)とさせていただきます。