今日も世話を焼く   作:ディアーリーズ

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幕間─ジュンヨウの配信─after KGY

① SETSUNAリスナー参加型対戦・レビュー配信

「よー、ジュンヨウだ。今日は参加型SETSUNA。初心者から上級者まで歓迎。

 ライン越えた煽り・中傷は俺が直々に斬るんでよろしく」

 

─きた

─待機してた

─参加型うおおお

─今日は眼帯剥がす

─かぐやちゃん居る?

─保護者会はここですか

 

「誰が保護者だ。……今日は騒がしくなるぞ」

 

画面端。

観戦席用の小さなウィンドウに、かぐやのアバターがぴょこんと現れる。

 

「かぐやっほ~♪かぐやだよー!」

 

─いたぁ!!!

─うわ出た

─急に画面がうるせえ

─かわいい

 

「今日はぁ、お師匠の華麗なる戦いを特等席で見に来ました~♪」

「実況席じゃねえんだから大人しく見てろよ」

「え~?」

 

不満そうに頬を膨らませるかぐや。

コメント欄が一瞬で草に埋まる。

 

「ほら、さっさと始めんぞ。初心者から来い。眼帯は付けたまんまだから、萎縮すんなよ」

 

転送。

夜の川上ステージ。

崩れかけた橋と篝火。

 

「あ、ここかぐやと最初にやったとこだ」

「お前が自爆したとこな」

 

対面に現れたのは、槍を持った初心者プレイヤー。

 

『よ、よろしくお願いします!』

「おう、そんな緊張すんな。一本やって慣れろ。楽しまなきゃ損だぞ」

 

FIGHT!

 

相手が突進。

リーチ任せに一気に距離を詰めてくる。

 

「お、悪くねえ」

 

─褒められてる

─初心者に優しい

─なお相手は死ぬ

 

「ただ、」

 

刀の切っ先が槍を逸らす。

 

「その踏み込みで逃げ道潰してる」

 

瞬間。

斜め前へ踏み込む。

相手の脇を抜けるように斬撃。

 

K.O.

 

桜の花弁が夜風へ舞う。

 

─うっま

─今どうなった

─視点追えん

 

『あ、あぁ~……!』

「今のな、前出る時に右足流れてたろ」

 

例に自分のアバターを動かしながら解説する。

 

「突進ってのは強いけど、軸ズラしで対応されやすい。あと槍はリーチ長ぇんだから、

 慌てて距離詰めんでいい。同じタイミングで相手も踏み込んできたら対応がムズくなる」

『なるほど……!』

「でも思い切りは良かった」

『ありがとうございます!』

 

─褒め方が上手い

─育成ゲー始まった

─初心者が定着する理由分かるわ

 

「はい次。二本目な。今の忘れんなよ」

『はい!』

 

 

 

 

 

次の対戦者が転送される。

 

今度は双剣使い。

 

見るからに中級者。

開幕からステップが鋭い。

 

「お、経験者」

「この人ちょっと強そう」

「見りゃ分かる」

 

開始直後。

相手が低空ステップから斬り込む。

 

速い。

 

「お」

 

火花が散る。

左手の刀で受け、もう片方で即座に反撃。

しかし相手も躱す。

 

─おお!?

─今の反応した!?

─レベル高ぇ

 

「悪くねえな」

「うわ今の避けたぁ!?」

「隣がうるせえなぁ」

 

双剣使いが連続攻撃。

斬撃。

フェイント。

回り込み。

 

それを最小限の動きだけで躱していく。

 

「焦りすぎ」

「っ!」

「二回目のステップ、癖になってるぞ」

 

踏み込みに合わせて刀の峰で足を払う。

倒れた相手の胸元を踏みつけ、身体を制し。

トドメの斬撃。

 

K.O.

 

─つっっっっっよ

─なんで分かるんだよ

─今の癖読み!?

 

『くっそぉ~……!』

「惜しかったな。攻め筋はかなり良かった」

『マジすか!?』

「ただ、ステップ後に毎回左入ってたろ。あれ癖。上手いヤツほど癖狩られるぞ」

『うわマジだ……』

「あとフェイントもっと増やせ。読み合い強ぇタイプなんだから、素直に振るの勿体ねえ」

『ありがとうございます!』

 

─レビュー助かる

─ガチで勉強になる

─普通にコーチング配信なんよ

 

「はい次ぃ」

「ジュンヨウ、休憩しなくて平気?」

「まだ余裕」

「つよ~い♪」

「はいはい」

 

次の相手が転送される。

 

大剣使い。

見るからに重量級。

 

「おぉ、ロマン武器」

 

─来たな

─一撃マン

─当たれば勝ち

 

「ジュンヨウそれ苦手じゃない?」

「苦手ってか、事故ると死ぬ。事故んねえけど」

 

開始。

直後に大剣が振り下ろされる。

風圧が頬を掠めた。

当たり判定ギリギリでの回避。

 

「おっと」

「うわぁ今の痛そう!」

「当たりゃあな」

 

二撃目は振り落とした後の斬り上げ。

後退ではなく前進を選ぶ。

間合いの内側へ。

 

「大物は懐潜り込まれっと弱ぇんだよ」

 

懐へ潜り込み、大剣の死角へ身体を滑り込ませる。

片手の刀を捨て、大剣の柄を掴んで動きを止める。

斬撃、さらに蹴りで追撃。

近すぎて使い難いもう片方の刀も捨てて、素手で格闘。

 

61HIT!

 

K.O.

 

─近距離で完封した

─怖すぎる

─避け方おかしいだろ

 

「今の人、振り方めっちゃ良かったのにね」

「悪くなかった。ちゃんと圧あったし」

 

捨てた刀を肩へ担ぐ。

 

「でも大剣は『当てるぞ』って気迫出すぎると読まれるし、軌道も変えにくい。特に溜めはな」

『勉強になります……!』

「怖がらずもっと振れ。大剣使いが遠慮したら終わりだ」

『はい!』

「あとは武器に固執すんな。間合いに踏み込まれたらいっそ捨てちまえ」

『かぐやちゃんとの初戦でやってたやつですね!』

 

─やっぱ教えるの上手い

─褒めて伸ばすタイプ

─でも容赦はない

 

「当然だろ。対戦ゲーで手抜きは失礼だ」

「かっこつけちゃってぇ♪」

「茶化すな」

「でも、ジュンヨウが楽しそうだとかぐやも楽しいんだ」

 

一瞬。

ほんの少しだけ、反応に困って黙ってしまった。

そのリアクションにコメント欄がざわつく。

 

─あ

─今止まった

─照れた?

─ジュンヨウ???

 

「……次行くぞ次」

「逃げた?」

「るっせぇ」

 

夜の川上に、再び転送の光が走った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

② マシュマロ・コメント雑談配信

 

「よー、ジュンヨウだ。今日は雑談兼マロ消化。重い相談送ってきたヤツは知らん、

 今日はかぐや居るから空気が湿っぽくなんねえ気がする」

 

─きた

─雑談だぁ

─今日はかぐや居るのか

─もう嫌な予感しかしない

 

画面の左端にかぐやのアバターが現れる。

 

「かぐやっほ~♪かぐやだよー」

 

─いた

─かわいい

─もううるさい

─動きがうるさい

 

「うるさいとはなんだ!」

「事実だろ」

「むぅ~!」

 

コメント欄が草で流れる。

 

「はいはい、マロ読むぞ」

 

ウィンドウを操作。

一件目のマシュマロが表示される。

 

『いつも来てくれる常連リスナーさんとの距離感が分かりません。

 どこまで踏み込んでいいんでしょうか』

 

「あー……」

 

ジュンヨウが椅子へ深くもたれかかる。

 

「距離感なぁ」

─難しいやつきた

─永遠のテーマ

─わかる

 

「結論から言うと、『踏み込みすぎんな』だな」

「仲良くなるのは良い。常連ってのは配信支えてくれる存在だし、覚えてもらえんのも嬉しい」

「でも、配信者とリスナーって『友達』とはちょっと違ぇんだよな」

─あー

─まあそう

─線引き難しいよな

 

「近ぇ空気は作れる。つーか作った方が楽しい」

「ただ、『近い』と『遠慮がない』は別モンだ」

 

コメント欄がゆっくり流れる。

 

「勘違いすると、どっかで絶対しんどくなる」

「配信者側も、リスナー側もな」

─刺さる

─わかる……

─優しい言い方するな

 

「来てくれるヤツを大事にすんのは大前提」

「でも、『全員に応えなきゃ』って考え始めると、そのうち壊れるぞ」

 

少しだけ間。

 

「だからまあ、『配信に来た時は全力で楽しませる』。それ以外は背負い込みすぎない」

「俺ァそのくらいで良いと思ってて、実践してるつもり」

 

─良いなぁその距離感

─安心する

─ジュンヨウっぽい

 

「あと、常連だからって甘やかしすぎんな」

「ライン越えたヤツは普通に叩き斬れ。ヤチヨに報告しろ」

─出た

─物騒

─争奪KASSEN思い出すからやめろ

 

「実際斬ったしね」

「お前が焚き付けたからだろうが、反省してんのか?」

「えへへぇ♪」

─反省ゼロ

─かぐや楽しそうで草

─頭撫でられてぐりんぐりん動いてんの草

 

「?」

「どうした?」

「なんか、う~ん?指、固くなってない?」

「」

─あっ

─やべやべ

─ハイ次のマロ行こうか

 

「え~!?かぐやに内緒の話!?いろPに聞くぞ~!?」

「あいつにも言ってねえよ、はいそんじゃ次な~」

 

次のマシュマロ。

 

『常連さんが来ないと、不安になります』

「あー……それも、分かる」

 

ジュンヨウが視線を少し落とす。

 

「なんだかんだ、毎回来るヤツって目に付くからな」

「今日は居ねえな、とか普通に思う」

─あるある

─わかる

─配信者もそうなんだ

 

「ただ、それで『俺なんかしたか?』『俺の所為か?』って考え始めると泥沼だぞ」

「仕事かもしれんし、学校かもしれんし、寝落ちかもしれん」

「配信って、『来たい時に来れる場所』くらいがちょうど良いんだよ」

「来れなかったことに罪悪感持たせると、逆に離れやすくなる」

─優しい

─沁みる

─だから居心地いいんだろうな

 

「……あとまあ」

 

少しだけ言葉を切る。

 

「いつでも来たいときに来りゃいい」

「帰ってくる場所がある、って思ってもらえりゃ十分だろ」

 

コメント欄の流れが、一瞬だけゆっくりになる。

 

─あっ

─急に刺してくる

─その言い方ずるい

 

「ジュンヨウってたまにそういうこと言うよね」

「うるせぇな」

「でも、かぐやもそれ思ってるよ?」

 

「……は?」

 

「ジュンヨウといろPがいるとこが、かぐやの帰るとこだもん」

 

一瞬。

完全に言葉が止まる。

 

代わりにコメント欄が爆速で流れ始めた。

 

─あ

─止まった

─今の効いた

─ジュンヨウ???

─顔見えないのに動揺分かるの草

 

「……お前さぁ」

「んへへぇ♪」

「急にそういうこと言うな、ったく」

 

─照れてる

─レアすぎる

─照れジュンヨウいただきました 1000ふじゅ~ 白玉あんみつ かぐや ジュンヨウ二推し

 

「なんで居ついてんだ白玉」

─かぐやちゃんいるのに全然ジメッジメだったね

「なんか俺のマロ配信っていっつもこんなん」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

③ 雑料理配信

 

「よー。夜食に虚無メシ作るぞオメーら」

 

─きた

─飯テロの時間

─また深夜

─この時間にやるな

 

配信画面には、狭いキッチン。

シンク横に積まれた洗い物。

そして、最近配信でも着けるのに慣れてきた仮面。

 

ラップに包まれた冷凍うどんを片手で掲げた。

 

「本日の主役、うどんくんでーす」

─雑

─もう終わりが見える

─3分で終わりそう

 

「夜食なんざ手間暇かけるもんじゃねえんだよ。洗い物増えた時点で負け。

 一秒でも早く食えりゃ勝ち」

 

冷凍うどんをどんぶりへ放り込み、レンジへ突っ込む。

 

「包丁?いつも通り使うわけねえだろ」

─一人暮らしすぎる

─わかる

─洗い物敵視勢

「敵だろ、夜中は」

 

レンジ待ちの間、冷蔵庫を開ける。

 

「卵、バター、めんつゆ、粉チーズ」

 

机へ並べる。

 

「以上」

─終了

─料理名ある?

─虚無釜玉だろどうせ

 

「お、正解者いるじゃん。古参か?」

 

レンジが鳴る。

熱々のうどんへバターを落とし、卵を割る。

そこへめんつゆを適当に回しかける。

 

「全部目分量。測るの面倒」

─適当すぎる

─でも絶対うまい

─夜中に見るんじゃなかった

 

黒胡椒と粉チーズを思ってる三倍ぶち込む。

 

「で、混ぜる」

 

湯気が立ちのぼる。

卵が熱で半熟状に絡み、バターが麺へ艶を出す。

 

「完成。なんどリピったか分からん虚無釜玉バターうどん。もうリスナーも材料常備してるだろ」

─うまそう

─絶対好きなやつ

 

「何度も言うけどポイントはバターいっちゃん先な。後だと温度下がって溶け残る」

 

椅子へ座り、そのまま啜る。

 

「……あー、これこれ。外さねえよな」

 

─顔が見える

─仮面だけど表情が豊かすぎる

─幸せそうで草

─急に機嫌良くなるな

 

「楽だしうめえ。夜食はこういうので良いんだよ」

 

その時。

ガチャ、と部屋のドアが開く。

コメント欄がざわついた。

 

─あ

─来た

 

ポコッと画面の左端に狐のアイコンが増える。

声出しをしていないため、コメント経由でしか会話のできない隣人いろPだ。

 

『また炭水化物だけ食ってる』

「うわ出た。タンパク質も入ってますぅ~」

─保護者きた

─監視員だ

─怒られろ

 

『野菜は?』

「ほうれん草入れようか迷った。茹でる面倒が勝った」

『駄目じゃん』

 

─正論

─完全に母親

─栄養指導入った

 

「夜食に栄養バランス求めんなよ」

『せめて冷凍のネギくらい入れなよ……』

 

箸を止める。

 

「……あー」

 

立ち上がり、冷凍庫を開ける。

 

「あるわ」

 

─あるんかい

─入れろ

─なぜ最初に使わない

 

「面倒だった」

 

冷凍のネギを雑にぱらぱら投入。

再び混ぜる。

 

「はい健康食。うわちょっとぬるくなった」

 

─雑すぎる

─概念健康食

─でもちょっと色合い良くなった

─代わりに温度は下がった

 

『あとチーズ入れすぎ』

「うるせぇな」

『塩分』

「医者か?」

『あんたが不健康寄りなの』

「オメーが言えんのかって」

 

コメント欄が笑いで流れる。

 

─距離感おもろい

─これが日常かぁ

─ただの隣人か?これが

 

うどんを啜りながら、面白くなってしまって少しだけ笑った。

 

「……でもまぁ、こういうの一人で食ってる時よりマシだな」

 

一瞬。

 

コメント欄が静かになる。

 

─あ

─急に刺すな

─そういうとこだぞ

 

『はいはい湿っぽくしない』

 

いろPのコメント。

 

『で、そのうどん何点?』

 

少し考えて。

 

「夜中に食うなら95点」

『高っ』

「洗い物増えねえからな。どんぶりと箸で済む。割り箸にすりゃどんぶりだけ」

─そこ重要なんだ

─思想が一貫してる

─料理配信という名の生活配信

─あと5点は?

 

コメント欄。

 

ジュンヨウは少しだけ間を空けて、

 

「……誰かと食ったら100点」

 

沈黙。

 

そしてコメント欄が爆発した。

 

─あ

─言った

─おい

─深夜にやめろ

─ジュンヨウ???

 

『じゃ、100点じゃん』

 

いろPのコメントが即座に流れる。

 

「採点早ぇよ」

 

─即落ちで草

─もう家族なんよ

─てぇてぇ禁止

 

苦笑しながら、最後のうどんを啜った。

 

「……ま、こんなもんだろ」

『わたしのは?』

「食うのかよ」

『半分でいい』

「図々しくなってきたなお前。もうねえから作るわ」

─いいなぁ~ヤッチョも食べたいなぁ~

『ヤチヨ!?!?!?!??!?』

「あ~やっべガチ勢が反応した」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

④ ガチ料理配信

「よー、ジュンヨウだ。今日はちゃんと作る上、コラボだ」

 

─来た

─ガチ料理回

─虚無飯じゃないだと

 

配信画面に映るのは、いつものキッチン。

 

狭い。

だが、向こうの部屋よりはまだマシだった。

 

あっちはかぐやの配信用リングライトや小物、ぬいぐるみ。

果てはトーテムポールで床面積が死んでいる。

 

「というわけで、今日はこっち使う。向こう狭ぇんだよ」

 

画面の端。

画角の外からエプロン姿のかぐやが、ぴょこんと顔を出した。

 

「かぐやっほ~♪今日はタンシチュー担当のかぐやだよー!」

 

─いた

─エプロン!?

─かわいい

─料理配信始まったな

 

「俺が夏野菜グリルとパンナコッタ担当。あとバゲットは買ってきたやつリベイクな。

 流石に生地捏ねるスペースはねえ」

 

─現実的

─この部屋でパン捏ねは無理

─ちゃんと生活感ある

 

『隼斗の部屋でパン生地発酵させたら終わる』

 

ポコッと現れた狐のアイコン。

配信に映らないようにカメラの後ろにいる、いろPのコメントが流れる。

 

「それはそう」

「絶対ぶつかってひっくり返すもんねぇ」

「誰の小道具で部屋が狭くなってると思ってんだオメー」

 

小言を無視してかぐやが笑いながら鍋を覗き込む。

 

コンロの上では、既に大鍋が静かに煮えていた。

 

本来なら赤ワインを使うところだが、未成年なのでそこは代用。

料理酒とぶどうジュース、そこにバルサミコ酢を合わせて風味を寄せている。

 

「結局未成年だと、アルコールが使えねえんだよな。ワインが使えないのが地味に痛い」

「みりんとか料理酒は何とかなるけど、ワインはね~」

 

香味野菜。

牛タン。

 

長時間煮込まれた濃厚な香りが、画面越しに伝わってきそうだった。

 

─うわもう美味そう

─晩飯前に見るんじゃなかった

─飯テロ兵器

 

「こっちは昨日から仕込んでる。かぐやが丸一日コトコト煮込んだタンシチュー」

「ねぇ~、お肉ほろほろなんだよぉ♪」

 

木べらでそっと持ち上げる。

タンが重力だけで崩れそうになる。

 

コメント欄がざわついた。

 

─やば

─圧倒的暴力

─店じゃん

 

「まだ完成じゃねえよ。煮込みは最後で雑になると全部死ぬ」

 

ジュンヨウは淡々と作業を進める。

 

ズッキーニ。

パプリカ。

茄子。

アスパラ。

かぼちゃ。

 

彩りの良い夏野菜を、一定の厚みで切り分けていく。

 

「一昨日道の駅行ったら色々と安かったからな、買い込んできた」

─道の駅に行く系男子高校生

─行ってもソフトクリームとかなのよ

─てか普通は道の駅目的にして行かんのよ

 

トントントン。

 

包丁の音が小気味良く響く。

 

─手際良すぎ

─慣れてる

─料理男子ってレベルじゃねえ

 

「火の通りズレると食感終わるからな」

 

オリーブオイル。

塩、胡椒、軽くハーブ。

 

鉄板へ並べ、オーブンへ滑り込ませる。

 

「野菜は焼くだけでも十分うめえ」

「ジュンヨウ、野菜焼くの上手だよねぇ」

「水分飛ばしすぎねえの意識してるだけだ」

 

─さらっと言う

─料理理論勢だ

─急に料理番組になる

 

別の台では、グラスへ流し込まれた白い液体が冷蔵庫から運ばれてくる。

 

「で、こっちは苺のパンナコッタ、これも俺担当。苺も安くてな、あといろPの好物だったから」

『言わんでいい』

─まーた気軽にてぇてぇを摂取させてくる

─俺たちをどうするつもりなんだ

─オーバードーズだよ

 

赤い苺ソース。

白いパンナコッタ。

 

綺麗に二層で分かれている。

 

─オ、オシャレ~

─急にカフェ

─本当に男子高校生?

 

「そんな難しくないぞ、ゼラチンの溶け残りだけ注意と、あとキチンと濾せば」

「ジュンヨウって顔に似合わず器用だよね~」

「顔に似合わずは余計だろ」

 

オーブンが鳴る。

取り出した夏野菜は、表面に綺麗な焼き色が付いていた。

ジュゥ、と油が音を立てる。

 

「よし」

 

最後にタンシチューを深皿へ。

とろり、と濃厚なソースが流れる。

 

傍らに焼き立て風のバゲット。

夏野菜のグリル。

デザートの苺のパンナコッタ、彩りのミントを添えて。

 

配信画面とは思えない完成度だった。

 

─いや店

─ビストロじゃん

─コラボカフェやれ

─深夜にこれは犯罪

 

「……まあ、こんなもんだろ」

「絶対『こんなもん』じゃないよぉ」

 

かぐやが早速バゲットを千切りながら言う。

 

「ほら、冷める前に食うぞ」

 

タンシチューへバゲットを浸す。

ソースを吸ったパンが崩れる。

口に入れた瞬間、熱で舌が焼けそうになる。

それでも、濃厚な旨味が全部持っていった。

 

「……あー、うめぇ」

 

珍しく、素で気の抜けた声。

 

─顔見えた

─今のガチ

─幸せそう

 

かぐやもタンを口へ運び、目を丸くする。

 

「ん~~~っ!!!」

 

両手で頬を押さえてぶんぶん首を振った。

 

「やっっっっっば……!お肉とろけるぅ……!お野菜も美味しい!」

 

─リアクションで全部伝わる

─かわいい

─かぐジュンの作る食卓強すぎる

『旨い』

─いろPも食べてます

─一言なのがガチ感ある

─いいなぁ~ヤッチョも食べたいなぁ~

「あ、ヤチヨだ」

『ヤチヨ!!!?!??!?!?!?!?』

「毎回、メシよりこっちのリアクションの方がデケエんだよな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

⑤ ゲリラカラオケ歌枠

「よー。近隣住民との不可侵条約維持のため、本日はカラオケからお送りします」

 

─きた

─ゲリラ歌枠だぁ!!

─待ってた

─また急だな

─自宅で歌うな定期

 

安っぽい照明。

少しだけ古いカラオケボックス。

 

机の上にはドリンクバーのメロンソーダ。

壁には微妙にズレたポスター。

 

ジュンヨウがマイクを軽く叩く。

 

ボフッ

 

「……よし、生きてるな」

 

─その確認やめろ

─鼓膜警戒

─今日も危険配信

 

「前に家で歌ったら、隣の壁ドンがサビと同期したからな。あのアパート、もはや打楽器」

 

─草

─リズム隊おるやん

─ボロアパートが楽器化してる

─かぐやちゃんさぁ

─壁ドンセッションバトルで草

 

エコー調整。

マイク音量。

少しだけハウリング。

 

キィィン――

 

─耳ァ!!

─開幕兵器やめろ

─鼓膜死んだ

 

「悪い悪い」

 

マイクを遠ざけ、咳払い。

 

「今日はアニソン縛りでいく。懐かしめ多め。まず『月光花』」

 

イントロ。

 

静かに目を閉じる。

 

──悲しげに咲く花に──

──君の面影を見た──

 

低めの声。

少し掠れた響き。

 

普段の軽口が嘘みたいに、真っ直ぐだった。

 

コメント欄の流れが一瞬だけ止まる。

 

──大好きな雨なのに──

──何故か今日は冷たくて──

 

抑え気味。

けれどサビで一気に伸びる。

 

狭い部屋の空気を、そのまま押し広げるみたいに響く。

 

─え、待って上手っ

─好き

─急に本気出すな

─ギャップで風邪ひく

─これ無料で聴いていいやつ?

 

最後の音が消える。

マイクを少し離し、ジュンヨウが息を吐く。

 

「……はい」

 

氷がカラン、と鳴る。

 

─余韻がすごい

─選曲良

─世代出るな

─本当に高校生か?

 

「俺ァ親の影響だな。昔のアニソン結構流れてたし」

 

メロンソーダを一口。

 

「次、『今宵、月が見えずとも』」

 

─おお!?

─懐かしい

─絶対合う

─滲みだす混濁の紋章、不遜なる狂気の器───

─藍染もいます

 

イントロが流れた瞬間、ジュンヨウの雰囲気が少し変わる。

 

さっきより熱量が強い。

 

──今宵、月はどこを照らすの?──

──厚い雲に覆われた空──

 

テンポに合わせ、指先でリズムを刻む。

 

──旅人気取りでいたいくせに、迷い道回り道が嫌いで──

──雨風凌げる屋根の下で、グーグル検索で世界を見る──

 

一気に押し上げる高音。

 

荒さもある。

けれど、それが妙に刺さった。

 

─うっっっっま

─熱量えぐ

─めっちゃ感情乗ってる

─声張ると破壊力すごいな

─ライブ感ある

 

ラスサビ。

 

マイクを握る手に少しだけ力が入る。

 

──今宵、月が見えずとも──

 

音が切れる。

 

数秒。

誰もコメントを打たなかった。

 

それから一気に流れ始める。

 

─拍手

─888888

─良すぎた

─選曲神

─なんで普段ふざけてるんだこの男

 

「いや普段は配信者だからな?」

 

苦笑しながら椅子へ沈み込む。

 

「ずっと配信テンションとか普通に疲れるわ」

 

─でも歌ってる時かなり好き勝手やってるよな

─分かる

─普段より素っぽい

 

「……まあ、歌はあんま誤魔化し効かねえからな」

 

少しだけ静かになる。

 

「ゲームとか雑談より、その時の調子とか気分、普通に出るし」

 

─あ

─急に刺すな

─だから良いんだよ

─ところで月縛りだけどもしかしてかぐやちゃんの影響?

 

「なんだその空気、んで別にアイツの影響とかねえわ」

「単純にBLEACHの曲が好きなだけだわ。『乱舞のメロディ』とか『ALONES』も良いよな」

 

そんな風に笑いながら、次の曲を入れる。

 

「よし、じゃあ次はちょいネタ寄りにすっか」

─ジュンヨウって女性ボーカルは行けるの?

「お、リクエストか?」

 

予約画面。

 

表示された曲名に、コメント欄が爆速になった。

 

─待て

─おい

─温度差で死ぬ

─それ入れるの!?

 

「じゃ、『うまぴょい伝説』いきまーす」

 

─台無しで草

─知ってた

─安心したわ

 

「次『Redo』入れっから」

─温度差で風邪引くってぇ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

⑥ メン限ギター練習弾き語り

「……よし、音乗ったな?」

 

メンバー限定配信。

 

普段より少しだけ静かなコメント欄。

通知を見て飛び込んできた常連達が、ゆっくり集まり始める。

 

─きた

─メン限だ

─弾き語り!?

─珍しい

─今日は静かだな

 

「かぐやは遊び行ってる。いろPは夏期講習。よって今日は久々に一人」

 

机の端。

窓から差し込む柔らかい光と、小さなスタンドライトだけが部屋を照らしている。

 

普段より暗い。

その分、落ち着いた雰囲気に見えた。

 

ジュンヨウは胡座をかきながら、膝へアコギを乗せる。

 

黒い仮面。

ラフな部屋着。

少しだけ眠そうな声。

 

「なんか久々だな、こういう静かなの」

 

─わかる

─最近賑やかだったもんな

─たまにはこういうのも好き

 

「まあメン限くらい、ゆるくやるか」

 

軽く弦を鳴らす。

 

ジャラン。

 

マイク越しに、生音が柔らかく響いた。

 

「今日は適当に弾き語り。曲も気分。ミスっても知らん」

 

─そのスタイル好き

─ラジオ感ある

─もう雰囲気が良い

 

コードを確認するように指を動かす。

 

それから、ぽつり。

 

「……じゃ、まず『アカシア』」

 

軽快なカッティング。

 

さっきまでの雑談みたいな空気が、少しだけ変わる。

 

──透明よりも綺麗なあの輝きを確かめに行こう──

 

普段の歌枠より近い。

息遣いまで聞こえる距離感。

 

カラオケの時みたいな張った声じゃない。

もっと近くて、力の抜けた歌い方。

 

部屋でそのまま、鼻歌でも歌っているみたいな温度だった。

 

─距離近ぇ

─これ好き

─声がやばい

 

──あの輝きを──

──君に会えたから見えた──

──あの輝きを確かめに行こう──

 

Cメロを歌いながら、少しだけ笑う。

 

力を入れすぎない。

けれど妙に耳へ残る。

そうしてラスサビ。

 

──君がいることを君に伝えたい──

──そうやって始まったんだよ──

 

最後のコードが静かに消えた。

 

「……はい」

 

─良い

─空気が良い

─なんだろう、ずっと聴ける

─作業止まった

 

「メン限はこういうので良いんだよ」

 

ギターを軽く鳴らしながら、コメント欄を見る。

 

「歌枠より疲れねえし」

 

─そっちは暴れてるもんな

─温度差すごい

─今日はだいぶ素

 

「まあ、今日は誰も居ねえからな」

 

ぽつり。

 

少しだけ静かになる。

 

「最近ずっとうるさかったし」

 

─寂しそうにも聞こえる

─あ

─素直か?

 

「違ぇよ」

 

苦笑。

 

「ただまあ、家に帰って静かなの久々だなってだけ。こういう時間も大事だけどな」

 

ジャラン。

 

今度はゆっくりしたアルペジオ。

 

「……次、『カブトムシ』」

 

─うわ

─刺しにきた

─その声でそれはズルい

 

爪弾く音が、静かな部屋へ溶ける。

 

──あなたが死んでしまって──

──あたしもどんどん年老いて──

 

少し掠れた低音。

 

飾っていない。

だから余計に刺さる。

 

コメント欄の流れが、自然と遅くなる。

 

──生涯忘れることはないでしょう──

 

声を張らない。

叫ばない。

 

ただ静かに歌う。

 

それだけで、十分だった。

 

─だめだ好き

─なんでこんな刺さるんだ

 

曲が終わる。

 

数秒。

誰もコメントしなかった。

 

ジュンヨウは少しだけ視線を逸らし、照れ臭そうに鼻を掻く。

 

「……なんだその空気」

 

─いやその

─刺さる

─感情が

 

「メン限で湿っぽくなんのやめろよ」

 

笑いながら、気の抜けたコーラを一口飲む。

炭酸の抜けた甘ったるさ。

 

「でも弾き語りって、普通の歌枠より誤魔化し効かねえんだよな」

 

ギターの弦を指で軽く弾く。

 

「カラオケだと勢いで持ってけるけど、ギター一本だと全部出る」

 

─あー

─分かる

─だから今日こんな空気なんか

 

「……まあ、嫌いじゃねえけど」

 

少しだけ笑う。

そのまま次のコードを押さえる。

 

「よし。じゃ、次はちょい明るめで行くか」

 

予約も何もない。

スマホで歌詞を見ながら、適当に弾き始める。

 

「bump被っちまうけど、『天体観測』」

 

─うおおお

─それはズルい

─夏だ。真昼間だけど

 

ギターの音が、静かな部屋へ広がった。




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