① SETSUNAリスナー参加型対戦・レビュー配信
「よー、ジュンヨウだ。今日は参加型SETSUNA。初心者から上級者まで歓迎。
ライン越えた煽り・中傷は俺が直々に斬るんでよろしく」
「誰が保護者だ。……今日は騒がしくなるぞ」
画面端。
観戦席用の小さなウィンドウに、かぐやのアバターがぴょこんと現れる。
「かぐやっほ~♪かぐやだよー!」
「今日はぁ、お師匠の華麗なる戦いを特等席で見に来ました~♪」
「実況席じゃねえんだから大人しく見てろよ」
「え~?」
不満そうに頬を膨らませるかぐや。
コメント欄が一瞬で草に埋まる。
「ほら、さっさと始めんぞ。初心者から来い。眼帯は付けたまんまだから、萎縮すんなよ」
転送。
夜の川上ステージ。
崩れかけた橋と篝火。
「あ、ここかぐやと最初にやったとこだ」
「お前が自爆したとこな」
対面に現れたのは、槍を持った初心者プレイヤー。
『よ、よろしくお願いします!』
「おう、そんな緊張すんな。一本やって慣れろ。楽しまなきゃ損だぞ」
相手が突進。
リーチ任せに一気に距離を詰めてくる。
「お、悪くねえ」
「ただ、」
刀の切っ先が槍を逸らす。
「その踏み込みで逃げ道潰してる」
瞬間。
斜め前へ踏み込む。
相手の脇を抜けるように斬撃。
桜の花弁が夜風へ舞う。
『あ、あぁ~……!』
「今のな、前出る時に右足流れてたろ」
例に自分のアバターを動かしながら解説する。
「突進ってのは強いけど、軸ズラしで対応されやすい。あと槍はリーチ長ぇんだから、
慌てて距離詰めんでいい。同じタイミングで相手も踏み込んできたら対応がムズくなる」
『なるほど……!』
「でも思い切りは良かった」
『ありがとうございます!』
「はい次。二本目な。今の忘れんなよ」
『はい!』
次の対戦者が転送される。
今度は双剣使い。
見るからに中級者。
開幕からステップが鋭い。
「お、経験者」
「この人ちょっと強そう」
「見りゃ分かる」
開始直後。
相手が低空ステップから斬り込む。
速い。
「お」
火花が散る。
左手の刀で受け、もう片方で即座に反撃。
しかし相手も躱す。
「悪くねえな」
「うわ今の避けたぁ!?」
「隣がうるせえなぁ」
双剣使いが連続攻撃。
斬撃。
フェイント。
回り込み。
それを最小限の動きだけで躱していく。
「焦りすぎ」
「っ!」
「二回目のステップ、癖になってるぞ」
踏み込みに合わせて刀の峰で足を払う。
倒れた相手の胸元を踏みつけ、身体を制し。
トドメの斬撃。
『くっそぉ~……!』
「惜しかったな。攻め筋はかなり良かった」
『マジすか!?』
「ただ、ステップ後に毎回左入ってたろ。あれ癖。上手いヤツほど癖狩られるぞ」
『うわマジだ……』
「あとフェイントもっと増やせ。読み合い強ぇタイプなんだから、素直に振るの勿体ねえ」
『ありがとうございます!』
「はい次ぃ」
「ジュンヨウ、休憩しなくて平気?」
「まだ余裕」
「つよ~い♪」
「はいはい」
次の相手が転送される。
大剣使い。
見るからに重量級。
「おぉ、ロマン武器」
「ジュンヨウそれ苦手じゃない?」
「苦手ってか、事故ると死ぬ。事故んねえけど」
開始。
直後に大剣が振り下ろされる。
風圧が頬を掠めた。
当たり判定ギリギリでの回避。
「おっと」
「うわぁ今の痛そう!」
「当たりゃあな」
二撃目は振り落とした後の斬り上げ。
後退ではなく前進を選ぶ。
間合いの内側へ。
「大物は懐潜り込まれっと弱ぇんだよ」
懐へ潜り込み、大剣の死角へ身体を滑り込ませる。
片手の刀を捨て、大剣の柄を掴んで動きを止める。
斬撃、さらに蹴りで追撃。
近すぎて使い難いもう片方の刀も捨てて、素手で格闘。
「今の人、振り方めっちゃ良かったのにね」
「悪くなかった。ちゃんと圧あったし」
捨てた刀を肩へ担ぐ。
「でも大剣は『当てるぞ』って気迫出すぎると読まれるし、軌道も変えにくい。特に溜めはな」
『勉強になります……!』
「怖がらずもっと振れ。大剣使いが遠慮したら終わりだ」
『はい!』
「あとは武器に固執すんな。間合いに踏み込まれたらいっそ捨てちまえ」
『かぐやちゃんとの初戦でやってたやつですね!』
「当然だろ。対戦ゲーで手抜きは失礼だ」
「かっこつけちゃってぇ♪」
「茶化すな」
「でも、ジュンヨウが楽しそうだとかぐやも楽しいんだ」
一瞬。
ほんの少しだけ、反応に困って黙ってしまった。
そのリアクションにコメント欄がざわつく。
「……次行くぞ次」
「逃げた?」
「るっせぇ」
夜の川上に、再び転送の光が走った。
② マシュマロ・コメント雑談配信
「よー、ジュンヨウだ。今日は雑談兼マロ消化。重い相談送ってきたヤツは知らん、
今日はかぐや居るから空気が湿っぽくなんねえ気がする」
画面の左端にかぐやのアバターが現れる。
「かぐやっほ~♪かぐやだよー」
「うるさいとはなんだ!」
「事実だろ」
「むぅ~!」
コメント欄が草で流れる。
「はいはい、マロ読むぞ」
ウィンドウを操作。
一件目のマシュマロが表示される。
『いつも来てくれる常連リスナーさんとの距離感が分かりません。
どこまで踏み込んでいいんでしょうか』
「あー……」
ジュンヨウが椅子へ深くもたれかかる。
「距離感なぁ」
「結論から言うと、『踏み込みすぎんな』だな」
「仲良くなるのは良い。常連ってのは配信支えてくれる存在だし、覚えてもらえんのも嬉しい」
「でも、配信者とリスナーって『友達』とはちょっと違ぇんだよな」
「近ぇ空気は作れる。つーか作った方が楽しい」
「ただ、『近い』と『遠慮がない』は別モンだ」
コメント欄がゆっくり流れる。
「勘違いすると、どっかで絶対しんどくなる」
「配信者側も、リスナー側もな」
「来てくれるヤツを大事にすんのは大前提」
「でも、『全員に応えなきゃ』って考え始めると、そのうち壊れるぞ」
少しだけ間。
「だからまあ、『配信に来た時は全力で楽しませる』。それ以外は背負い込みすぎない」
「俺ァそのくらいで良いと思ってて、実践してるつもり」
「あと、常連だからって甘やかしすぎんな」
「ライン越えたヤツは普通に叩き斬れ。ヤチヨに報告しろ」
「実際斬ったしね」
「お前が焚き付けたからだろうが、反省してんのか?」
「えへへぇ♪」
「?」
「どうした?」
「なんか、う~ん?指、固くなってない?」
「」
「え~!?かぐやに内緒の話!?いろPに聞くぞ~!?」
「あいつにも言ってねえよ、はいそんじゃ次な~」
次のマシュマロ。
『常連さんが来ないと、不安になります』
「あー……それも、分かる」
ジュンヨウが視線を少し落とす。
「なんだかんだ、毎回来るヤツって目に付くからな」
「今日は居ねえな、とか普通に思う」
「ただ、それで『俺なんかしたか?』『俺の所為か?』って考え始めると泥沼だぞ」
「仕事かもしれんし、学校かもしれんし、寝落ちかもしれん」
「配信って、『来たい時に来れる場所』くらいがちょうど良いんだよ」
「来れなかったことに罪悪感持たせると、逆に離れやすくなる」
「……あとまあ」
少しだけ言葉を切る。
「いつでも来たいときに来りゃいい」
「帰ってくる場所がある、って思ってもらえりゃ十分だろ」
コメント欄の流れが、一瞬だけゆっくりになる。
「ジュンヨウってたまにそういうこと言うよね」
「うるせぇな」
「でも、かぐやもそれ思ってるよ?」
「……は?」
「ジュンヨウといろPがいるとこが、かぐやの帰るとこだもん」
一瞬。
完全に言葉が止まる。
代わりにコメント欄が爆速で流れ始めた。
「……お前さぁ」
「んへへぇ♪」
「急にそういうこと言うな、ったく」
─照れジュンヨウいただきました 1000ふじゅ~ 白玉あんみつ かぐや ジュンヨウ二推し
「なんで居ついてんだ白玉」
「なんか俺のマロ配信っていっつもこんなん」
③ 雑料理配信
「よー。夜食に虚無メシ作るぞオメーら」
配信画面には、狭いキッチン。
シンク横に積まれた洗い物。
そして、最近配信でも着けるのに慣れてきた仮面。
ラップに包まれた冷凍うどんを片手で掲げた。
「本日の主役、うどんくんでーす」
「夜食なんざ手間暇かけるもんじゃねえんだよ。洗い物増えた時点で負け。
一秒でも早く食えりゃ勝ち」
冷凍うどんをどんぶりへ放り込み、レンジへ突っ込む。
「包丁?いつも通り使うわけねえだろ」
「敵だろ、夜中は」
レンジ待ちの間、冷蔵庫を開ける。
「卵、バター、めんつゆ、粉チーズ」
机へ並べる。
「以上」
「お、正解者いるじゃん。古参か?」
レンジが鳴る。
熱々のうどんへバターを落とし、卵を割る。
そこへめんつゆを適当に回しかける。
「全部目分量。測るの面倒」
黒胡椒と粉チーズを思ってる三倍ぶち込む。
「で、混ぜる」
湯気が立ちのぼる。
卵が熱で半熟状に絡み、バターが麺へ艶を出す。
「完成。なんどリピったか分からん虚無釜玉バターうどん。もうリスナーも材料常備してるだろ」
「何度も言うけどポイントはバターいっちゃん先な。後だと温度下がって溶け残る」
椅子へ座り、そのまま啜る。
「……あー、これこれ。外さねえよな」
「楽だしうめえ。夜食はこういうので良いんだよ」
その時。
ガチャ、と部屋のドアが開く。
コメント欄がざわついた。
ポコッと画面の左端に狐のアイコンが増える。
声出しをしていないため、コメント経由でしか会話のできない隣人いろPだ。
『また炭水化物だけ食ってる』
「うわ出た。タンパク質も入ってますぅ~」
『野菜は?』
「ほうれん草入れようか迷った。茹でる面倒が勝った」
『駄目じゃん』
「夜食に栄養バランス求めんなよ」
『せめて冷凍のネギくらい入れなよ……』
箸を止める。
「……あー」
立ち上がり、冷凍庫を開ける。
「あるわ」
「面倒だった」
冷凍のネギを雑にぱらぱら投入。
再び混ぜる。
「はい健康食。うわちょっとぬるくなった」
『あとチーズ入れすぎ』
「うるせぇな」
『塩分』
「医者か?」
『あんたが不健康寄りなの』
「オメーが言えんのかって」
コメント欄が笑いで流れる。
うどんを啜りながら、面白くなってしまって少しだけ笑った。
「……でもまぁ、こういうの一人で食ってる時よりマシだな」
一瞬。
コメント欄が静かになる。
『はいはい湿っぽくしない』
いろPのコメント。
『で、そのうどん何点?』
少し考えて。
「夜中に食うなら95点」
『高っ』
「洗い物増えねえからな。どんぶりと箸で済む。割り箸にすりゃどんぶりだけ」
コメント欄。
ジュンヨウは少しだけ間を空けて、
「……誰かと食ったら100点」
沈黙。
そしてコメント欄が爆発した。
『じゃ、100点じゃん』
いろPのコメントが即座に流れる。
「採点早ぇよ」
苦笑しながら、最後のうどんを啜った。
「……ま、こんなもんだろ」
『わたしのは?』
「食うのかよ」
『半分でいい』
「図々しくなってきたなお前。もうねえから作るわ」
『ヤチヨ!?!?!?!??!?』
「あ~やっべガチ勢が反応した」
④ ガチ料理配信
「よー、ジュンヨウだ。今日はちゃんと作る上、コラボだ」
配信画面に映るのは、いつものキッチン。
狭い。
だが、向こうの部屋よりはまだマシだった。
あっちはかぐやの配信用リングライトや小物、ぬいぐるみ。
果てはトーテムポールで床面積が死んでいる。
「というわけで、今日はこっち使う。向こう狭ぇんだよ」
画面の端。
画角の外からエプロン姿のかぐやが、ぴょこんと顔を出した。
「かぐやっほ~♪今日はタンシチュー担当のかぐやだよー!」
「俺が夏野菜グリルとパンナコッタ担当。あとバゲットは買ってきたやつリベイクな。
流石に生地捏ねるスペースはねえ」
『隼斗の部屋でパン生地発酵させたら終わる』
ポコッと現れた狐のアイコン。
配信に映らないようにカメラの後ろにいる、いろPのコメントが流れる。
「それはそう」
「絶対ぶつかってひっくり返すもんねぇ」
「誰の小道具で部屋が狭くなってると思ってんだオメー」
小言を無視してかぐやが笑いながら鍋を覗き込む。
コンロの上では、既に大鍋が静かに煮えていた。
本来なら赤ワインを使うところだが、未成年なのでそこは代用。
料理酒とぶどうジュース、そこにバルサミコ酢を合わせて風味を寄せている。
「結局未成年だと、アルコールが使えねえんだよな。ワインが使えないのが地味に痛い」
「みりんとか料理酒は何とかなるけど、ワインはね~」
香味野菜。
牛タン。
長時間煮込まれた濃厚な香りが、画面越しに伝わってきそうだった。
「こっちは昨日から仕込んでる。かぐやが丸一日コトコト煮込んだタンシチュー」
「ねぇ~、お肉ほろほろなんだよぉ♪」
木べらでそっと持ち上げる。
タンが重力だけで崩れそうになる。
コメント欄がざわついた。
「まだ完成じゃねえよ。煮込みは最後で雑になると全部死ぬ」
ジュンヨウは淡々と作業を進める。
ズッキーニ。
パプリカ。
茄子。
アスパラ。
かぼちゃ。
彩りの良い夏野菜を、一定の厚みで切り分けていく。
「一昨日道の駅行ったら色々と安かったからな、買い込んできた」
トントントン。
包丁の音が小気味良く響く。
「火の通りズレると食感終わるからな」
オリーブオイル。
塩、胡椒、軽くハーブ。
鉄板へ並べ、オーブンへ滑り込ませる。
「野菜は焼くだけでも十分うめえ」
「ジュンヨウ、野菜焼くの上手だよねぇ」
「水分飛ばしすぎねえの意識してるだけだ」
別の台では、グラスへ流し込まれた白い液体が冷蔵庫から運ばれてくる。
「で、こっちは苺のパンナコッタ、これも俺担当。苺も安くてな、あといろPの好物だったから」
『言わんでいい』
赤い苺ソース。
白いパンナコッタ。
綺麗に二層で分かれている。
「そんな難しくないぞ、ゼラチンの溶け残りだけ注意と、あとキチンと濾せば」
「ジュンヨウって顔に似合わず器用だよね~」
「顔に似合わずは余計だろ」
オーブンが鳴る。
取り出した夏野菜は、表面に綺麗な焼き色が付いていた。
ジュゥ、と油が音を立てる。
「よし」
最後にタンシチューを深皿へ。
とろり、と濃厚なソースが流れる。
傍らに焼き立て風のバゲット。
夏野菜のグリル。
デザートの苺のパンナコッタ、彩りのミントを添えて。
配信画面とは思えない完成度だった。
「……まあ、こんなもんだろ」
「絶対『こんなもん』じゃないよぉ」
かぐやが早速バゲットを千切りながら言う。
「ほら、冷める前に食うぞ」
タンシチューへバゲットを浸す。
ソースを吸ったパンが崩れる。
口に入れた瞬間、熱で舌が焼けそうになる。
それでも、濃厚な旨味が全部持っていった。
「……あー、うめぇ」
珍しく、素で気の抜けた声。
かぐやもタンを口へ運び、目を丸くする。
「ん~~~っ!!!」
両手で頬を押さえてぶんぶん首を振った。
「やっっっっっば……!お肉とろけるぅ……!お野菜も美味しい!」
『旨い』
「あ、ヤチヨだ」
『ヤチヨ!!!?!??!?!?!?!?』
「毎回、メシよりこっちのリアクションの方がデケエんだよな」
⑤ ゲリラカラオケ歌枠
「よー。近隣住民との不可侵条約維持のため、本日はカラオケからお送りします」
安っぽい照明。
少しだけ古いカラオケボックス。
机の上にはドリンクバーのメロンソーダ。
壁には微妙にズレたポスター。
ジュンヨウがマイクを軽く叩く。
ボフッ
「……よし、生きてるな」
「前に家で歌ったら、隣の壁ドンがサビと同期したからな。あのアパート、もはや打楽器」
エコー調整。
マイク音量。
少しだけハウリング。
キィィン――
「悪い悪い」
マイクを遠ざけ、咳払い。
「今日はアニソン縛りでいく。懐かしめ多め。まず『月光花』」
イントロ。
静かに目を閉じる。
──悲しげに咲く花に──
──君の面影を見た──
低めの声。
少し掠れた響き。
普段の軽口が嘘みたいに、真っ直ぐだった。
コメント欄の流れが一瞬だけ止まる。
──大好きな雨なのに──
──何故か今日は冷たくて──
抑え気味。
けれどサビで一気に伸びる。
狭い部屋の空気を、そのまま押し広げるみたいに響く。
最後の音が消える。
マイクを少し離し、ジュンヨウが息を吐く。
「……はい」
氷がカラン、と鳴る。
「俺ァ親の影響だな。昔のアニソン結構流れてたし」
メロンソーダを一口。
「次、『今宵、月が見えずとも』」
イントロが流れた瞬間、ジュンヨウの雰囲気が少し変わる。
さっきより熱量が強い。
──今宵、月はどこを照らすの?──
──厚い雲に覆われた空──
テンポに合わせ、指先でリズムを刻む。
──旅人気取りでいたいくせに、迷い道回り道が嫌いで──
──雨風凌げる屋根の下で、グーグル検索で世界を見る──
一気に押し上げる高音。
荒さもある。
けれど、それが妙に刺さった。
ラスサビ。
マイクを握る手に少しだけ力が入る。
──今宵、月が見えずとも──
音が切れる。
数秒。
誰もコメントを打たなかった。
それから一気に流れ始める。
「いや普段は配信者だからな?」
苦笑しながら椅子へ沈み込む。
「ずっと配信テンションとか普通に疲れるわ」
「……まあ、歌はあんま誤魔化し効かねえからな」
少しだけ静かになる。
「ゲームとか雑談より、その時の調子とか気分、普通に出るし」
「なんだその空気、んで別にアイツの影響とかねえわ」
「単純にBLEACHの曲が好きなだけだわ。『乱舞のメロディ』とか『ALONES』も良いよな」
そんな風に笑いながら、次の曲を入れる。
「よし、じゃあ次はちょいネタ寄りにすっか」
「お、リクエストか?」
予約画面。
表示された曲名に、コメント欄が爆速になった。
「じゃ、『うまぴょい伝説』いきまーす」
「次『Redo』入れっから」
⑥ メン限ギター練習弾き語り
「……よし、音乗ったな?」
メンバー限定配信。
普段より少しだけ静かなコメント欄。
通知を見て飛び込んできた常連達が、ゆっくり集まり始める。
「かぐやは遊び行ってる。いろPは夏期講習。よって今日は久々に一人」
机の端。
窓から差し込む柔らかい光と、小さなスタンドライトだけが部屋を照らしている。
普段より暗い。
その分、落ち着いた雰囲気に見えた。
ジュンヨウは胡座をかきながら、膝へアコギを乗せる。
黒い仮面。
ラフな部屋着。
少しだけ眠そうな声。
「なんか久々だな、こういう静かなの」
「まあメン限くらい、ゆるくやるか」
軽く弦を鳴らす。
ジャラン。
マイク越しに、生音が柔らかく響いた。
「今日は適当に弾き語り。曲も気分。ミスっても知らん」
コードを確認するように指を動かす。
それから、ぽつり。
「……じゃ、まず『アカシア』」
軽快なカッティング。
さっきまでの雑談みたいな空気が、少しだけ変わる。
──透明よりも綺麗なあの輝きを確かめに行こう──
普段の歌枠より近い。
息遣いまで聞こえる距離感。
カラオケの時みたいな張った声じゃない。
もっと近くて、力の抜けた歌い方。
部屋でそのまま、鼻歌でも歌っているみたいな温度だった。
──あの輝きを──
──君に会えたから見えた──
──あの輝きを確かめに行こう──
Cメロを歌いながら、少しだけ笑う。
力を入れすぎない。
けれど妙に耳へ残る。
そうしてラスサビ。
──君がいることを君に伝えたい──
──そうやって始まったんだよ──
最後のコードが静かに消えた。
「……はい」
「メン限はこういうので良いんだよ」
ギターを軽く鳴らしながら、コメント欄を見る。
「歌枠より疲れねえし」
「まあ、今日は誰も居ねえからな」
ぽつり。
少しだけ静かになる。
「最近ずっとうるさかったし」
「違ぇよ」
苦笑。
「ただまあ、家に帰って静かなの久々だなってだけ。こういう時間も大事だけどな」
ジャラン。
今度はゆっくりしたアルペジオ。
「……次、『カブトムシ』」
爪弾く音が、静かな部屋へ溶ける。
──あなたが死んでしまって──
──あたしもどんどん年老いて──
少し掠れた低音。
飾っていない。
だから余計に刺さる。
コメント欄の流れが、自然と遅くなる。
──生涯忘れることはないでしょう──
声を張らない。
叫ばない。
ただ静かに歌う。
それだけで、十分だった。
曲が終わる。
数秒。
誰もコメントしなかった。
ジュンヨウは少しだけ視線を逸らし、照れ臭そうに鼻を掻く。
「……なんだその空気」
「メン限で湿っぽくなんのやめろよ」
笑いながら、気の抜けたコーラを一口飲む。
炭酸の抜けた甘ったるさ。
「でも弾き語りって、普通の歌枠より誤魔化し効かねえんだよな」
ギターの弦を指で軽く弾く。
「カラオケだと勢いで持ってけるけど、ギター一本だと全部出る」
「……まあ、嫌いじゃねえけど」
少しだけ笑う。
そのまま次のコードを押さえる。
「よし。じゃ、次はちょい明るめで行くか」
予約も何もない。
スマホで歌詞を見ながら、適当に弾き始める。
「bump被っちまうけど、『天体観測』」
ギターの音が、静かな部屋へ広がった。
お気に入り登録いただいた方々ありがとうございます。
とても励みになります。
【更新頻度についてアンケート】読んでいただきありがとうございます。現在は 0:00 / 8:00 / 12:00 / 16:00 / 20:00 の1日5話更新を行っています。今後の更新ペースの参考にしたいため、よろしければ投票いただければと思います。
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① 今のまま(1日5話・時間分散更新)
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② 1日5話一括更新(5話分まとめて更新)
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③ 1日の更新話数減、時間分散更新
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④ 1日の更新話数減一括更新