今日も世話を焼く   作:ディアーリーズ

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13話

『みんなのためにわんわんお!忠犬オタ公で~す!今日も元気に~?職務果たしちゃいます!』

 

ツクヨミの公式ニュース番組、『NEWS TUKUYOM↑!!』の放送が始まった。

内容はヤチヨカップ特集。

 

『暫定四位までは公式を要チェキ!君の推しはいるかぁ?ではでは、トップスリー!』

 

四位までは立ち絵紹介だけ。

だがトップスリーに入った途端、扱いが露骨に変わった。

スライドでの紹介に加え、コメントまで付くようだ。

 

『三位!癒し系アイドル、湯雲ぬくみ!』

―ぬっくん!ゆっくりしたおしゃべりが癒される~!お風呂中や寝る前にどうぞ!

 

『二位!ハイスぺエルフ、テレリリ・ティートテート!』

―通称テテテ!マルチリンガルで資格オタク!最近ワインにはまってソムリエ資格ゲトだって!

 

『そして~!下馬評通り独走状態だ!

 堂々第一位、ブラックオニキス!』

 

ツクヨミ内のビリヤード場で、黒鬼の三人がプレイしている様子が映し出された。

「当然だな」

「俺帰って良~い?」

「まだまだ、応援よろしくぅ!」

 

最後に、帝がカメラへ向かって軽く指を振った。

 

『もはやこの三人で決定か~?

 ちな圏外だけど、ランキング爆上げ中のチームがいるんだよねぇ~、みんな知ってる?』

 

画面に映し出されたのはかぐやいろPチャンネルのアーカイブ。

フィルムのように初配信、ペットボトルバズーカ配信、かぐや争奪KASSEN選手権のサムネイルが表示されている。

……しれっと俺も映っちまってんなぁ。

 

『まだまだ番狂わせ、期待しちゃいます!』

『ヤチヨも楽しみにしてるよ~』

『『イェーイ!』』

 

と、オタ公とヤチヨの二人がハイタッチをして、ニュース番組が終わった。

ツクヨミ内にしてもいやに高級感のある家具に囲まれていて、落ち着かないが。

……で?

天下の黒鬼様が、わざわざ俺なんか呼び出して何の用だよ。

 

「さすがかぐやちゃん。ずいぶん推されてんな」

「……なんで急に声掛けてきたんだ?」

 

目の前にいるのは、帝アキラ。

さっきニュースで見たばかりの、ブラックオニキス――通称『黒鬼』のリーダー。

そいつに呼び出され、ツクヨミ内の黒鬼のプライベートハウスで顔を突き合わせている。

ビリヤード中じゃねえのかよ。

……ああ、収録か。

 

「いやなに、俺かぐやちゃん推してるし?

 なんか推しの近くに知り合いのライバーいるし?話でも聞かせてもらおうか、と思ってな」

「……嘘じゃあねえみたいだが」

 

大仰に手を広げながら、帝が言う。

その動きに上手く紛れ込ませているが、一瞬だけ視線が逃げた。

右上。

何かを誤魔化そうとするときに、その癖のあるヤツを俺は知っている。

 

「いろP」

「っ」

「当たりか」

 

ぼそっと呟くと、帝の目がスッと細められた。

 

「そりゃ気になるだろ。着ぐるみのプロデューサーなんてよ。

 しかも演奏も作曲も、ゲームまで出来る凄腕だ」

「俺相手に腹芸やっても意味ねえのは分かってんだろ?」

 

暫く無言の時間が続いた。

先に音を上げたのは、帝。

 

「はぁ~ったく、お前ホンットやりにくいわ。なんで目線だけでそこまで読めんだよ」

「いつかのオフイベの楽屋でも、人狼で勝てたことなかったろ?」

 

乃依と俺が狼だった時は酷かったな。村全滅だった、と笑う。

どっから話したもんかな、と帝がその赤い髪を掻きながら悩んでいる。

 

「あーそうだな。まず俺の本名を明かしたほうが良いか」

「良いのかよ。天下の帝アキラ様が、個人勢の配信者に本名開示なんてしちまって」

「お前の信用を得るにはそれが手っ取り早いと思ったんだよ」

 

ウィンドウを操作する帝。

ピピっと、メッセージの受信を告げるSE。

受信ボックスを開くと案の定、目の前の相手からの送信だった。

 

開くと、そこには画像ファイル。

───免許証?

 

そこに載っている写真と、名前を見て。

一瞬で分かった。

声を掛けてきた理由が。

 

「俺の名前は、酒寄朝日」

 

アイツに似た黒い髪と、その苗字。

以前から脳裏を掠めていた既視感が一気に繋がった。

 

「酒寄彩葉は、俺の妹や」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「えぇ……学費も生活費も自分でバイトして賄って、

 その上で成績トップを維持するためにエナドリ漬けで勉強して、

 さらにかぐやちゃんのプロデューサーやってて、とうとうこの前倒れた……?」

「並べ立てるとエグいよな、状況知らなかったのか?」

「じいちゃんから仕送り渡してるって聞いてたけど、

 その様子だと手を付けてなさそうってくらい……」

 

……どうやら本気で知らなかったらしい。

頭を抱えてテーブルに突っ伏している。

 

「……じゃあ次、こっちから聞くぞ。

 なんで『いろP』が酒寄……ややこしいな、『酒寄彩葉』だって分かった?」

「……かぐやちゃんのデビュー曲、『私は、わたしのことが好き』のメロ。

 あれ、昔父さんと作ってたやつだろ」

 

……なるほど。

 

「そのエピが出てくるってことは、本当に兄貴らしいな」

「信じてなかったのかよ」

 

疑うだろ、そりゃ。

 

「で?」

「あ?」

「妹の状況を知った上で、お前はどうしたいんだよ」

 

眉根を寄せて難しい顔をする帝。

 

「本音を言えば、実家に送還したいが……」

「毒親のところへか?」

「容赦ねえな」

 

俺の母親でもあるんだぞ、と苦笑する帝。

世間一般的に見りゃ間違いなく毒親の部類だろ。

 

「話聞いてる限り正論で叩き潰してくるモラハラじゃねえか。

 やりたいことは分かるが致命的に相性が良くねえだろ」

「返す言葉もない」

 

「自立しろ」って突き放して、食らいついてきたら良し。

無理ならそのまま囲っとく、ってタイプだろ。

 

「だから実家に送還は本当に最終手段。

 彩葉の自立心とかを打ち壊して、今度こそ修復不可能になりかねない」

「同意見だ」

「次点は俺のところで面倒見る、でもこれもおそらく彩葉が拒絶するだろ。

 だから結論としては現状維持が最適になっちまう」

 

……うーん。

 

「詰んでねえか?」

「そうなんだよ」

 

俺から仕送りしても絶対使わないだろ、あいつ。と帝。

特に確執の無い祖父からの仕送りも手を付けてないくらいだからなぁ。

 

「自分を置いて家出てった兄からの仕送りなんて使わねえだろうなぁ」

「ちょいちょい刺すの止めねえ?」

 

いや、同じ妹持ちの兄としてちょっと理解できないって言うか。

事情があるのは頭で分かったけど感情が納得できないって言うか。

 

「せめてそのセキュリティ皆無のボロアパートからは引っ越してほしいんだがなぁ……」

「その話、かぐやもしてたぞ」

「流石かぐやちゃん」

「そうなると、俺が関われなくなるけどな」

 

隣人、って言うのが一番太い接点だし。

 

「お前っつう情報源は維持しておきたいな。倒れた時も助けてくれたんだろ?」

「ほぼかぐや。俺は指示しただけ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……結局、どうすんだよ」

 

俺がそう聞くと、帝はソファに深く座り直した。

赤い髪を掻き上げながら、天井を見る。

 

「正直、手詰まり感はある」

「だろうな」

「俺が直接助けようとすると拒絶される。金も受け取らない。実家に戻すのは論外」

 

帝はそこで一度言葉を切った。

そして、ふっと笑う。

 

「――なら、外堀から埋めるしかねえだろ」

「は?」

 

帝の前に半透明のウィンドウが展開される。

慣れた手付きで操作しながら、奴は口角を上げた。

 

「人気が出りゃ、案件も企業もスポンサーも寄ってくる。環境も変わる。選択肢も増える」

「……」

「だったら、一番手っ取り早いのは『話題』だ」

「お前、なにするつもりだ?」

「知名度を届けてやるんだよ、かぐやいろPに」

 

ウィンドウを操作し終えて、表示を消す帝。

 

「ランキング一位の黒鬼から正式にコラボ申し込み。断る理由ねえだろ?」

 

こいつ、完全に理解した上でやってやがる。

黒鬼が真正面から絡んできた時点で、もうお祭りだ。

かぐやいろPの知名度は、一気に跳ね上がる。

 

ツクヨミのメッセに着信。

表示された名前を見て、思わずため息が出る。

 

『かぐや』

 

嫌な予感しかしねえ。

 

「もしもし――」『隼斗!!!!!!!!!!!』

 

通話に出ると、耳がイカレそうな大声が響いた。

 

「うるっっっっさ」

『黒鬼から挑戦状来た!大物釣れたあ!よっしゃぁー!!』

「おーそうか」

『かぐやが負けたら帝と結婚とか書いてあるけど、負けなきゃいいもんね!』

「は?」

『KASSENだから隼斗出せないの痛いけど!彩葉と真実と受けて立つよ!』

「お前人をポケモンみたいに、いやちょっと待て結婚てなんだ」

『そうと決まったら練習!!じゃあね隼斗!』

「いや切るな話を……切りやがった」

 

……まあいい、目の前の犯人に聞けば済む。

 

「おいなんだ結婚って」

「いやー、かぐや姫と帝だし?」

 

ノリかよ。

 

「でも、絶対話題にはなるだろ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『注目のイベントが始まります!

 王者ブラックオニキスが異例の速度でのし上がった超新星かぐやいろPに宣戦、そして求婚!』

『帝のファンダムは一時騒然としましたが、おそらくノリで言ってるだけだと思いま~す』

 

オタ公、正解。

 

『運命を掛けた神戦が今始まろうとしていぃ~ます!』

 

ノリノリだな琴のヤツも。

 

「保護者のジュンヨウさんは、参戦しなくていいの?」

「KASSENじゃあな、SETSUNAなら黒鬼全員斬り倒してんだけど」

「お兄ちゃん、無双ゲーとかでも頭痛そうにしてるから……」

 

隣の観戦席に座る綾紬が悪戯っぽい顔でからかってくる。

反対側の席に座る鶫が言うように、情報量の多いゲームは向いてねえんだよな。

KASSENは大量のミニオンが出てくる。

俺は目が良すぎて、無意識に全部追っちまう。

結果、眼精疲労と酷い頭痛で長時間プレイができねえ。

 

『どもっす~。実況の乙事照琴と~……?』

『解説の忠犬オタ公で~す!』

『ヤチヨカップの結果発表も残り一時間ですよね?』

『この勝負の結果次第では、かぐやいろPの逆転も……?』

 

スクリーンに表示されたかぐやいろPの現在順位は『43位』。

全然あるよな。

そもそもゼロスタートでこの伸びようが異例も異例。

黒鬼と絡んで結果残せば、今まで見られてなかった層にも届く。

というか、それが帝の狙いだし。

 

『ルールはSENGOKU、3vs3の三番勝負!』

『黒鬼はまだですかねぇ?』

 

ステージには既にかぐや、着ぐるみ姿のいろP、そして助っ人のまみまみの姿がある。

こらかぐや、得物に足掛けてガラ悪く立つんじゃない。

お前の着物、丈短いんだから。

……諌山、限界化してねえ?

もしかして黒鬼推しか?

 

『来ました、黒鬼です!』

 

かぐやが犬DOGEと遊び始めようとしたとき、ステージ上方の岩壁が爆発した。

砕けた岩の隙間から、虎バイクに乗った黒鬼───帝、雷、乃依の三人の姿が見える。

しかも何故か、巨大な鬼型エネミーと戦いながら。

 

帝は虎バイクに乗ったまま鬼へ突っ込み、衝突寸前で跳躍した。

……いやだから虎バイクってなんだよ。

 

空中で棍棒型の鞘から刀を抜く。

目にも止まらねえ速さで巨大鬼の体が切り刻まれていく。

常人には見えてねえんだろうが、俺の目には全部映ってる。

次の瞬間、鬼の残骸が光へと弾け、ステージ上空に花火が咲いた。

 

『黒鬼!ご来臨ーーー!!!』

 

爆発的な歓声に迎えられ、黒鬼の三人が登場した。

相変わらず派手な演出が好きだな、とちょっと呆れる。

 

「どーも~。対戦受けてもらってありがと」

 

と、帝が軽く頭を下げる。

 

「あのっ、わ、わわ私、ふぁふぁ、ファンでっ」

 

と、両手を組んだ諌山が帝に話しかけた。

やっぱ限界化してんな。

帝は諌山を一瞬見やると───あ、あれユーザーネーム確認してんな?

 

「まみ。悪いけど、今日は手加減できない」

 

と、キザったらしく指を鳴らしながらウィンクを飛ばした。

 

「はっ、な……名前ぇ……」

「「あっ」」

 

クリティカルヒット。

諌山のアバターは止まる直前の独楽のようにクルクルと回りながら倒れていった。

……えっ。

 

「なあ、諌山ってもしかして」

「うん。……帝推し」

「やっぱり?」

 

隣の綾紬に確認を取ると、大正解。

これ、開始までに諌山復帰しなかったらどうすんの?

 

「真実?……真実!?」

 

駆け寄ったいろPが諌山に声をかけるが、反応はない。

おいかぐや、アバターについてるおにぎり毟るな。

食うな。

味しないからって吐き出すな。

……メロンパンまでいくな!

 

「そして俺の姫、かぐやちゃん!」

「どぅらぁ!帝ぉ!勝負だ!!」

 

普段は垂れているアバターのうさ耳をぴんと立てて威嚇するかぐや。

 

「へへっ、前傾姿勢可愛すぎ」

「ううっ」

 

その威嚇をものともせずに向かってくる帝に、ちょっと腰が引けている。

 

「俺が勝ったら、結婚してくれんの?」

 

あ?

 

「んな、わけ、ねえっだろ!!」

 

いろPが一瞬で愛用のキーボードブーメランを装備。

分割することもせずに二人の間に割って入り、その刃を振るった。

帝も瞬時に反応して飛び退き、その刃は空を切った。

 

「こわっ!」

「彩葉がダメって言ってる!たぶん隼斗も!」

「あっ、バっ、バカ!あんた何回言ったら……!」

「てか真実大丈夫?」

 

そのやり取りを見る帝の目。

その目を見て、ああ、と思った。

あれはもう、『黒鬼の帝アキラ』じゃない。

妹を見守ってる兄貴の目だ。

 

いろPが諌山のアバターに近づき、様々なグルメの写真を見せていく。

タコライス、チキンビリヤニ、牛丼、タンシチュー、苺のパンナコッタ。

……最後の二つ俺らの配信のヤツじゃねえ?

 

「ダメだ、起きない」

 

普段はそれで起きんのかよ。

 

「普段はあれで起きるんだけどね」

 

と、隣の綾紬。

マジなのかよ。

 

「えぇ~!三人居ないとぉ……あっ、そうだ!」

 

目を輝かせたかぐやがウィンドウを操作している。

瞬間、ピピっとメッセージの受信を告げるSE。

 

慣れた手つきで開くと、そこにはかぐやからのSOS。

……仕方ねえか。

 

「綾紬、ちょっと行ってくるわ。鶫のこと頼む。

 あと、今度コーデの相談乗ってくれ。これもう使えんくなるから」

「えっ?」

「お兄ちゃん!?」

 

Yesの表示を選択すると、観客席からステージに飛ばされた。

突然現れた地味な黒い着流しにハットの男に、観客席が騒然とする。

 

……これで、この変装も終わりか。

なんだかんだ気に入ってたんだけどな。

 

ハットで顔を隠しながら、着流しに手を掛ける。

実際にはショートカットで着替えてるだけだが、この方が配信映えするだろ。

 

着流しを剥ぎ取って自分のアバターを完全に布に隠す。

上空に着流しを投げ捨てると、そこには───

 

『ななな、なんとぉ―!!

 思わぬトラブルにより人数が欠けてしまったかぐやいろP!

 そこにタイマン最強のハヤブサ、JunY0uが参戦だぁあ!!!』

『まあ居ない方が違和感ありましたよねー』

 

「たか、ジュンヨウ……あんた……」

「お姫様に頼まれちゃあな」

「いや、でも……SENGOKUなんだよ?」

「それがどうしたよ、さっさと終わらせりゃいい話だ」

 

酒寄が俺の身体を気遣うが、いらねえ気遣いだ。

 

「隼斗ぉー!」

「だから、名前……もう良いや手遅れだ」

 

跳びついてくるウサギを制して帝に目線を送る。

 

「えぇ~?ジュンヨウが入んの?」

「悪ぃな、結婚させる気はサラサラねえんだわ」

 

なんかムカつくし。

言いながら、上空を見る。

着流しを空に投げ捨てた瞬間。

なにかが一瞬だけ箱の形を取って、でも空中でほどけるように消えていった。

……玉手箱?

 




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