「てかどうすんの?作戦とか」
KASSENのスタート地点の幕営地。
ゲーム開始前の作戦会議時間に、着ぐるみの頭を揺らしながら酒寄が言う。
「俺は助っ人だからな、方針に口は出さねえ」
そもそも作戦提案出来るほどKASSENに詳しくねえし。
「せっかくだ。使ってみろよ、俺を」
JunY0uを使ってKASSEN出来るなんてレアだぞ。
と、かぐやを挑発する。
「ガーッといって、シュタタタター!!そんでバァーン!!」
ダメだ、作戦説明のつもりなんだろうが、擬音しかねえ。
俺が考えたほうがマシかもしれん。
『試合開始です!』
「結局作戦はほぼなしか、出たとこ勝負だな」
法螺貝の音が鳴り響き、ゲームが始まった。
かぐやは点火したジェットハンマーに、酒寄は巨大な黒いオオタカに乗り込んでトップレーンへ。
俺はというと灰色のオオタカに乗り込んで、ボトムレーンへ。
KASSENは櫓を取らないと始まらない。
櫓が置かれてるのは、トップとボトムの二レーン。
だから普通は、三人を二手に分けて上下を取りに行くのがセオリーなんだが───
オオタカの背からマップを確認すると、黒鬼の三人はそれぞれ別のレーンを進んでいる。
『おっほぉ、『トライデント』!トライデントっすねえ!黒鬼、それぞれ別々のレーンに!』
『複数の敵にも一人で応戦する必要があり、
相当な自信が無いとできないのがこの『トライデント』です』
「へぇ?」
思わず片眉を上げた。
俺と同じボトムレーンを進んでいるのは、乃依。
『これは完全に……』
「舐めプか?それとも、この間の借りを返しに来たか?」
どちらにせよその選択、後悔させてやるよ。
「っと、もう降りねえとな」
俺の乗っているオオタカは高速型ライド。
移動速度が速い代わりに、ある程度進むとミニオンどものヘイトを買う。
下を見ると大量のミニオンがわらわらと群がっている。
地面に降り立つ。
打刀を鞘に納めたまま、大刀を長銃形態へ変形。
ミニオンどもの頭をまとめて撃ち抜く。
こいつらは俺の事情込みで、数を増やされると面倒だ。
先に掃除する。
とはいえ無限沸きするのが厄介だ。
「二人は……帝相手か」
マップを見る。
トップで、もう帝と接敵してるらしい。
……いくら二人がかりとはいえ、それだけで勝てるほど帝は甘いプレイヤーじゃねえ。
あのデカい着ぐるみのままなら、なおさらだ。
『い……いろPが着ぐるみを脱いだ~!!』
「やるじゃん」
どうやらあのヒットボックスのデカい着ぐるみはやめたらしい。
大きな歓声が上がっている。
神社の参道を模した竹林の中の道を駆けながら口の端を吊り上げた。
さて、乃依はこのあたりのハズだが───っ!
右!
長銃形態の大刀を抜き打ち。
空中で弾丸と矢が衝突し、矢が俺の頬を掠めた。
弾かれた矢が竹に刺さる。
「相変わらず、ご挨拶だな」
射線の先へ目を走らせる。
参道を外れた先。
竹の間で、背中と足で身体を支え。
弓を構えている乃依がそこにいた。
立て続けに三本の矢が飛んでくる。
それぞれの狙いは頭、胸、足。
頭と足を狙った二本を、長銃形態の大刀で撃ち落とす。
残った一本を抜き放った打刀で上空に弾いた。
観客席のどよめきが聞こえる。
「位置割れてんだ、まともに撃って当たると思うなよ」
落ちてきた最後の矢を回し蹴り。
矢筈を蹴りつけ、射手にそのまま返却。
乃依は竹の間から身を離し、地面に下りていった。
さっきまで頭があった場所を、返却した矢が通り過ぎる。
『おーっと、衝撃の告白だー!帝といろPは兄妹だったーーー!?!?』
琴の大袈裟な実況が響く。
そこまで明かしたのか、どっちからだ?
……帝だろうな、酒寄にそれを公開する理由がない。
帝のヤツ、そこまでバラしたのか。
……いや、今はそれどころじゃねえ。
そう考え込んだ次の瞬間、乃依の姿が消えていた。
遠距離職の持つ隠密スキルだ。
最後のマップ情報では、櫓方向へ抜けていた。
後方からミニオンたちの雑踏が聞こえる。
ちっ、もう湧き始めたか。
湧いちまったものは仕方ねえ。
邪魔になる遠距離持ちだけを選んでヘッショ。
ウルトゲージをほんの僅か溜めながら、櫓の方向へ。
ミニオンを処理しながら櫓を目指す。
櫓を占拠するには、道中の中ボス『牛鬼』を倒す必要がある。
普段なら二刀を連結させて火力の上がった大剣で倒すエネミーだが、今回の相手は黒鬼。
ウルトを使って速攻キメたいところだが、まだまだゲージが足りねえ。
姿を消したままの乃依も気になるが───っ。
ズキっと目の奥を刺すような痛み。
ちんたらゲージ溜めてる場合じゃねえな。
『瞬殺~!!』
トップレーンの牛鬼が倒されたようだ。
倒したのは帝。
なおさら悠長にやってる場合じゃなくなった。
二刀を連結させ、ボス狩り用の大剣を構える。
この形態だけで使えるバフスキルも使用。
今出せる最高火力で、一秒でも早く牛鬼を倒す。
巨大なヤシガニの姿をした牛鬼が姿を現した。
牛鬼の右鋏が振り上がる。
叩きつけられたそれを、大剣で受けた。
「ッッッ!!ラァッ!!」
受け流した勢いのまま、右の鋏を斬り飛ばす。
直後に一瞬だけ武器の連結を解除。
大刀を長銃形態へ変形し、両目を撃ち抜く。
牛鬼が怯んだ。
二刀を再連結。
そのまま跳び上がる。
乃依が割り込むなら今のはずだが───考えを切る。
今来ねえんだったら、優先は牛鬼!
体重と落下の勢いを加え、牛鬼の頭部に大剣を突き刺した。
「……よし、落とした」
『ボトムレーンのジュンヨウも牛鬼を撃破!』
っ、今チカっとしたのは───鈍足の矢!
くそ、反応が遅れた!
『乃依の鈍足連射!JunY0u、ギリギリで弾いたが完全に縫い留められたァ!』
『猶予1フレームですが、止まりません!』
紫電を帯びた矢が次々に放たれる。
連結を解除。
咄嗟に掴めたのは打刀だけ。
なんとか弾けてはいるものの、状況を打開するには手数が足りない。
牛鬼を落とした分、ウルトは溜まってるが……。
せめて手に取ったのが大刀の方なら!
歯噛みしていると、一瞬。
ほんの一瞬、矢の雨が降り止んだ。
何故───しまった、櫓!
矢の雨の僅かな隙間越しに、櫓の方へ目を向けた。
紫電を纏った矢が飛んでいく。
ゴォオオン、と櫓の釣り鐘が響いた。
『乃依が櫓を占拠!』
「……ちっ」
櫓を取られた瞬間、降り続いていた矢の雨が止んだ。
乃依が櫓を取った程度で油断なんてしているわけがねえ。
相手が俺であるなら、そのまま潰しに来るはず。
追撃がねえ。
それはつまり。
『トライデントのまま、両櫓占拠でコールドです!鮮やかっ!』
『かぐいろジュンチームも悪くな~い!でも、強すんぎw黒鬼w』
一回戦は黒鬼の勝ち、俺らの負け。
ゲームが終わったため、幕営地に戻される。
そこにはリスポーンしていたかぐやと、酒寄の姿。
「てか実力差ありすぎだよ、ムリムリ」
階段の主柱に軽く体を預けながら言う酒寄。
その姿は、もう狐の着ぐるみ姿じゃなかった。
「すまん、俺の判断ミスだ。乃依をもっと警戒しとくべきだった」
「いや、高羽のせいじゃないって。二人がかりで帝を抑え切れなかったのは、こっちだし」
酒寄と俺が互いに目を伏せる。
その重い空気を吹き飛ばすように、かぐやは口を開いた。
「ねえ、なんで隼斗はボイチャ繋いでなかったの?」
「えっ」
「なんかそっち、全然声しないからさぁ。実況でしか分かんなくって」
……あっ。
「……忘れてた」
「「えっ?」」
「だから、忘れてたんだよ!KASSENやんの久々すぎて、ボイチャ繋いで良いってのを!」
目を逸らしながらヤケクソに言い放つ。
かぐやは腹を抱えて大爆笑、酒寄も顔を隠しながら耐えきれないとばかりに笑っている。
「『せっかくだ。使ってみろよ、俺を』……ぷぷっ」
やめろイジんな!
「オメーだって、帝と兄妹なんだってぇ!?」
「は!?ボイチャ繋いでなかったのになんで!?」
「実況されてたからに決まってんだろ!」
いや、知ってたけどな!
俺らのやりとりをよそに、かぐやは爆笑の最中になにかを思いついたのか。
空を見上げながら呟いた。
視線の先には……ステージ上空を回遊している、あのレプトケファルス。
「ねぇ、帝ってさ……」
『二回戦始まってブラックオニキス、当たり前のようにトライデント継続です!』
一回戦同様、かぐやと酒寄の二人はトップレーンへ。
俺はボトムレーンへ向かう。
『帝を見つけた、作戦通り仕掛けるよ』
「おう、こっちも乃依を見つけた。位置情報を送る」
今回はボイスチャットを入れている。
『かぐや姫は!?』
『月に帰ったよ……んっ!』
『はっ、冗談!』
帝とやり取りしている酒寄の声が漏れ聞こえる。
帝はかぐやを警戒している。
ハンマー職に隠密スキルはない。
だがマップ上では酒寄のすぐ近くにいるはずなのに、姿が見えねえ。
見えてねえ敵を放置するほど、帝は甘くねえ。
『かぐや、行けるか?』
『たぶん、こっからならイケる!』
さて、俺は俺の役割を果たさねえとな。
「来いよ、乃依」
橋の上で眼帯を外す。
両目を見開き、小高い丘の上に位置取った乃依を見据える。
俺の役目は、あいつの目を引き付けること。
出来るだけ派手に挑発して、俺以外が目に入らねえようにする。
鞘から抜いた打刀を橋に突き刺す。
大刀を長銃形態へ変形。
挨拶代わりの矢を撃ち落とす。
長銃形態の大刀を右肩に担ぎ、左手でちょいちょい、と小さく手招き。
矢の圧がほんの僅か強くなる。
……餌には掛かった。
だが、まだ足りねえ。
この程度だと、かぐやが撃ち落とされる。
長銃形態の大刀を足元へ落とす。
飛来した矢を、今度は撃ち落とさない。
手の速度を合わせ、素手で掴む。
掴み取った矢を一瞥。
「遅ぇな」
鼻で笑いながら、指先でくるりと弄ぶ。
そのまま橋の下へ投げ捨てた。
次の瞬間。
矢の密度が、目に見えて上がった。
「やっと本気か?」
見せつけるように嗤う。
乃依も笑っている。
だが、その目だけはまるで笑っていねえ。
OK、そのまま俺だけを見てろ。
地上のミニオンどもは、一定高度を超えた相手を迎撃しねえ。
つまり、それより上を通ればいい。
上空を回遊していたレプトケファルスから飛んだかぐやは、誰にも邪魔されずにボトムへ降って来れる。
一直線にマップを縦断してくる、無茶苦茶なお姫様を見ながらほくそ笑んだ。
『雷!ボトムレーン、フォロー!乃依がやられる!』
『よそ見してちゃ、ダメじゃない?』
帝と酒寄のやり取りが漏れ聞こえる。
だが、いまだ矢の雨は俺に降り続いたまま。
帝の声が耳に入らない程度には頭に来てるらしい。
「うおおぉおお~~~~~ぇい!!!」
あのバカ!
派手に着地しやがって!
かぐやは櫓へ向かう石段をハンマーで砕きながら着地した。
矢の雨が止んだ。
乃依の弓が櫓の方へ向けられる。
番えた矢の鏃に光が収束していく。
乃依の意識が、完全に櫓へ向いた。
それで十分だ。
目を離したな!
狙うのは、弓を持つ左腕───そして背中と頭!
足元へ落としていた大刀を蹴り上げる。
宙へ跳ねた長銃形態を掴み、そのまま引き金を引いた。
一射目。
乃依の左腕が、肘から先ごと吹き飛ぶ。
放たれかけていた矢が明後日の方向へ飛んでいく。
二射目。
振り向きかけた背中を撃ち抜いた。
吹き飛んだ左腕の付け根と背中から、流血代わりの花弁が舞う。
だが三射目。
撃つ直前に目の奥がズキリと疼き、狙いがわずかに逸れた。
乃依は咄嗟に頭を動かし、残った右腕で弓を盾代わりに引き上げる。
弓が砕け、破片が宙へ散った。
「っ───」
最後の一発だけ、防がれた。
だが、二発で十分。
「さっきのお返しだ」
「ぴえ~~~ん」
『JunY0uが乃依を撃ち取ったァ!』
乃依が花弁に溶けていく。
「いっけぇぇぇ!!」
櫓の上でかぐやがハンマーを振り上げた。
ゴォオオン―――!
釣り鐘の重い音が、戦場全体に響き渡る。
『かぐや、櫓を占拠!』
「よくやった!次行くぞ!」
「えへへへ、おうよ!」
だが、まだ勝負がついたわけじゃない。
道すがらミニオンを倒しつつ、黒鬼側の天守閣へ向かっていると。
ゴォオオン―――!
トップ側の鐘の音が鳴り響き、次いで実況が入った。
『帝、いろPを撃破!さらにそのままの勢いで櫓も占拠!』
『これでお互いに櫓を占拠した形になりました。どちらが先に大将落としを打ち込むかです!』
「彩葉やられちゃったの!?」
「そうらしいな」
『……ごめん』
ボイスチャットから酒寄の申し訳なさそうな声が聞こえる。
「ダイジョーブ!絶対取り返す!」
「こっちは王手掛けてんだ、オメーはそこで待ってろ!」
言いながらマップを確認する。
いましがたトップの櫓を占拠した帝が、高速で自陣の天守閣へ戻っている。
―――自陣直通のジャンプ台か!
「行け!かぐや!」
「やらせねえぞJunY0u!」
背後で階段を駆け上るかぐやの足音を聞きながら、二刀を重ねて帝の金棒を受け止める。
倒す必要はねえ。
時間を稼げればそれでいい!
帝の金棒が唸る。
横薙ぎ。
打刀で受け流す。
返す勢いのまま、振り上げ。
大刀で弾く。
間髪入れず、三撃目。
頭上から叩き潰すような本命の一撃。
「喰らえっ!!」
薄皮一枚で避ける。
金棒の棘が頬を掠った。
直後、振り下ろされた金棒が地面へめり込んだ。
地面から金棒を抜くために必要な僅かな時間。
その隙を見逃さず、右足で金棒を踏みつける。
棘が刺さってHPが減るが、関係ねえ。
「捕まえたぞ」
帝の目が見開かれた。
が、次の瞬間にはスッと目が細められる。
「忘れてんのか!?」
帝が金棒───金棒型の鞘から刀を抜き放つ。
解放された白刃が煌めいた。
「ンなわけねえだろ!」
地面にめり込んだ金棒を踏みつけたまま、前へ踏み込む。
勢いのまま、左足で蹴りこんだ。
思わずたたらを踏む帝。
背後でかぐやの声が響く。
「おぉおおっしゃあああああ!!」
だるま落としの形をした大将落としが、黒鬼の天守閣へと撃ち込まれた。
『なんと!かぐいろジュンチームが一矢報いる!かぐやの奇策がハマった~!』
『2Dマップに上下情報が無いことを逆手に取った攪乱です』
『メロンパンあげると乗せてくれるとか知らんかったw考えたこともなかったwおもすれっw』
『決着は三戦目へ!』
「イェーイ!」
上機嫌なかぐやが、「仲良しのヤツ」を求めてくる。
パン、パン、パン。
ハイタッチの音が三度、響いた。
「ん?」
三戦目への作戦会議時間、黒鬼側との映像通信が開いた。
『やられたよ、かぐやちゃん。でも、もし俺が二戦目で配置変えてたら?』
頬杖を突いた帝が不敵に尋ねる。
かぐやは手を後ろにやり、ちょこちょこ歩きながら答える。
「ん……帝も負けず嫌いっしょ?私だったら、勝ってるうちは絶ぇ対作戦変えないから~」
悪戯っぽい声と顔で、笑うかぐや。
「どう?配信のかぐやちゃんとは違ったぁ~?にひ」
『う~ん。新解釈の登場だ……かぐや道は深い』
かぐや道て。
顎に手をやって考え込む帝と、呆れた顔の乃依を最後に通信は切れた。
「あの、さ……ごめん。私だけ、足引っ張って……」
タイミングを待っていたのか。
酒寄が頭を下げた。
……は?
「足引っ張った?誰が」
「私だけ、帝を倒せてない……」
「オメーが帝止めてなかったら、かぐやは櫓取れてねえ」
「でも、負けたし……」
酒寄はぎゅっと着物の裾を掴んでいる。
「帝を抑えた価値がデケえっつってんだよ。俺じゃ多分こうはなってねえ」
「そうだよ!隼斗じゃたぶんこうなってない!」
「オメーは何を根拠に?」
かぐやのアバターの頭をぐりんぐりん撫ぜ回す。
「んわぁ~~~っ」とワケ分かんねえ声を上げるかぐや。
そのやり取りを見ていた酒寄が、ふっと小さく笑った。
「それによ、お前も成長したんじゃねえの?」
「えっ?」
「前のお前だったら、『他人に任せる』作戦なんて乗らなかったろ」
酒寄はきょとんとしたあと、一瞬だけ真面目な顔になって。
「……そうかもね」
とだけ、口から零した。
Chulainnさん、評価いただきありがとうございます。
化猫屋敷さん、tdzさん、感想いただきありがとうございます。
お気に入り登録いただいた方々もありがとうございます。
とても励みになります。
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