今日も世話を焼く   作:ディアーリーズ

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16話

「いと大義~☆」

 

ヤチヨカップの開催を発表した時のように、巨大な鳥居の上に浮遊するヤチヨがライトアップされる。

 

「と~っても楽しいKASSENでした!そしてたった今!ヤチヨカップの優勝者が決まったよ~!」

 

腕を突き上げて盛り上げるヤチヨ。

……で、うちのお姫様はな~んでいじけてるんですかね。

 

「だってぇ、あそこはかぐやがキメるはずだったのに~」

「高羽が助けてくれたんだから、感謝しなって。負けたら結婚だったんでしょ」

 

いや多分ノリだけどな、それは。

それはそれとして許さねえけど。

 

『ごめん、人が多すぎて合流できないかも』

『気にしないでくれ、鶫の面倒見ててくれてサンキュ』

 

綾紬からのメッセージに返信する。

まあこんだけ人がいりゃあ幾らツクヨミでも移動にも難儀するわな。

 

「ヤッチョとコラボる人を発表!」

 

手元に出現した巻物を開いたヤチヨ。

同時に夜空に巨大なスクリーンが表示された。

 

ツクヨミ中のユーザーたちの視線が、一斉にスクリーンへ集まる。

チャンネルアイコンとその上の棒グラフが伸びていく。

続けて、下位から一気に順位と名前が流れていく。

 

「どれどれ~?期間中に最もファンを獲得したのは~?」

 

ぐんぐん伸びていく棒グラフ。

かぐやいろPも、ブラックオニキスもまだまだ勢いは止まらない。

……何故か俺のチャンネルまで伸びてる。

こんな伸びるかね、最後にちょろっと美味しいとこ取っただけだぞ。

 

「まさかの!」

 

会場も配信コメント欄も、固唾をのんで結果を見守っている。

 

俺の緑色のグラフが伸び悩み、ついに止まった。

 

───第六位

JunY0u

新規獲得ファン数95万613人

 

……50位圏外からここまで跳ねんのかよ。

俺でこんだけ上がったってことは。

 

ついに、伸び続けている棒グラフは残り二本だけ。

かぐやいろPとブラックオニキス。

 

紫色のグラフの頂点に、帝のアイコンが笑っている。

黄色のグラフがそれに食らいついていく。

グラフの頂点のかぐやアイコンが、一瞬笑顔になった。

だが次の瞬間には突き放され、涙目になって画面外へと弾き飛ばされた。

 

かぐや本人はまだ膝を抱えたまま。

いつもより垂れた耳で、スクリーンを恨めしそうに見上げている。

 

「ヤチヨカップの優勝者は~?」

 

紫色のグラフの伸びが鈍った瞬間、黄色のグラフがそれをぶち抜いていった。

 

───第二位

ブラックオニキス

新規獲得ファン数101万4221人

 

「え、二位?」

 

隣で結果発表を見守っていた酒寄が驚きの声を上げた。

 

「ってことは……」

「かぐやいろP~!!」

 

スクリーンいっぱいに、満面の笑みのかぐやアイコンが表示される。

 

───第一位

かぐやいろP

新規獲得ファン数103万1683人

 

「めでたしや~!!」

 

ライトアップされたヤチヨと、その周りを煌びやかな魚たちが回りながら泳ぐ演出。

スポットライトが、かぐやと酒寄を照らし出す。

 

「へっ……み、ミスったのに?えっ……やっ、やっっっったあああああああああああ!!!!!!」

 

耳をぴんと跳ねさせたかと思うと、体いっぱいで喜びを表現するかぐや。

酒寄はというと。

 

「えっ?えっ、えぇ、え~!?!?」

 

口を開けて放心していた。

ようやく状況が頭に入ってきたのか、顔を真っ赤にして、信じられないと言いたげに目を見開いた。

両手を上げた降参みたいな格好で、ぐるぐる目を回している。

……あ、スポットライト俺まで浴びちまってら。

部外者はハケますかね――と、すごすごと群衆に紛れようとしたら。

 

「うわぁ~!彩葉ぁ!隼斗ぉ!」

 

捕まった。

 

「彩葉と隼斗のおかげだよぉ!」

 

両脇に俺と酒寄を抱えるように飛びついてきた。

顔が近ぇよ!

 

「いや、これは……かぐやがさ」

「お前ら二人の功績だろ、俺はなんもしてねぇぞ」

 

─いろPかっこよかったよね~!

─エイムの正確さ凄かった!

 

周りのリスナーが口々に賞賛の声を送る。

そうだそうだ言ってやれ、この期に及んで自己評価が低すぎんだコイツは。

 

─えー、でもエイムで言うならジュンヨウだろ

─あそこまで必死になってるジュンヨウ、見たことなかった!

 

いらんこと言わんでいい。

 

─えっ、いろPってかぐやの曲も作ってるの?マジ!?

─笑顔に惚れたんで、いろP推すわ!

 

最後のヤツ、ちょっと前に出てきてくれねえか?

ちょっと話したいだけだから。な?

 

い・ろ・P!か・ぐ・や!い・ろ・P!!か・ぐ・や!!

ジュ・ン・ヨー!

 

誰からともなくコールが始まった。

イベント会場全体に伝播し、熱狂が包み込んでいく。

俺の名前まで叫んでるヤツもいるが、今は違ぇだろ。

今日の主役はかぐやといろPの二人だろうが。

 

「一緒に歌いましょう!」

 

ほら、ヤチヨもああ言ってる。

 

コールが続く中、人だかりが割れた。

その間からは、雷を引き連れた帝が歩いてきている。

 

「完敗だ。おめでとう、かぐやちゃん、彩葉」

 

KASSENでまで負けちまったら、言い訳もできないな。

と、赤髪をくしゃりと掻きながら、帝がぼやく。

 

その帝に対して「イェーイ!」とピースサインを突き付けるかぐや。

フッ、と笑いながら眩しいものを見るように目を細めた帝は、顎に手を当てながら今度は酒寄に目を向ける。

 

「で?彩葉のお願いってなに?」

「えっあっ。んん……」

 

それを受けた酒寄は、ちらっとこっちを見て着物の裾を掴む。

え?俺?帝へのお願いに俺なんか関係あるか?

 

「ん……引っ越し、したくて。保証人になってもらえないかと……」

「家ごと買わなくていいの?」

「家ごと!」

「出たよ、成金発言……結構です!」

 

帝の軽口に反応したかぐやが挙手して身を乗り出すが、酒寄が後ろに押しやった。

あー……引っ越し、ね。

 

「……隼斗?」

 

酒寄に押し戻されたかぐやが、不意にじっと顔を覗き込んできた。

 

「ん?なんだよ」

「んー……ねえ、隼斗。隼斗は冷蔵庫、どのくらいの大きさが良い?」

「は?」

「だぁって、三人で引っ越すんだったらさぁ。今の大きさじゃ足りなくなるかなって」

「……はぁ?」

 

なに言ってんだ、コイツ。

てかその話、まだ生きてたのかよ。

 

「俺は一緒には行かねえって。前もそう言ったろ」

「えー!一緒いたほうが楽しいじゃんって前も言ったじゃん!」

 

真似すんなよ。

 

「あのな、一般常識で考えて、高校生の家族でもねえ男女は一緒には住まねえの」

「へーえ?うちの妹になんか不満でもあんの?」

 

と、帝が口を挟んできた。

うわ、めんどくせえシスコン。

 

「そういう話はしてねえよ。ってかコイツに不満があるならこの世の誰で満足できんだよ」

 

それを聞いた酒寄は、一瞬肩をピクッとさせたかと思うと、こちらを振り向く。

振り向いたその顔は、眉根を寄せて、とても寂しそうな表情で。

 

「……ジュン、高羽……ううん、隼斗は、私たちと一緒に住むんは、嫌なん?」

 

……方言まで出てんじゃねえか。

しかもここで名前呼びとか。

 

「嫌だとか、そういう感情論じゃねえ。世間体に問題があるってんだよ」

「……やっぱり、私とおると迷惑なんや。この間も倒れて、隼斗に迷惑かけたし……」

「オメーに問題があるワケでもねえっての!」

「……やっぱ嫌なんや。また隼斗に迷惑かけるかもしれへんし……」

「生きてりゃ誰だって迷惑くらいかけんだろ。だから、そこじゃねえんだって。

 ……あ、まずそこのお兄ちゃんが許さねえだろ。妹が男と同居とかよ」

 

助けを求めるように帝へ視線を送る。

頼む、何とかしてくれ。

目を向けると帝は死ぬほど不本意そうな顔で、言葉を絞りだした。

 

「……いや……お前なら……お前となら、良い……」

「ハァ?」

 

嘘だろ。

味方だと思ったら寝返りやがった。

 

「死ぬほど嫌だが、死ぬほど嫌だが!

 ……これまでの付き合いでお前の人柄は信用してんだよ。

 ……それに二人っきりじゃなく、かぐやちゃんも一緒なんだろ?」

「おうよ!」

 

かぐやが帝へピースサインを向ける。

二回も言うくらい嫌なら止めてくれよ。

 

「なら、俺にも思うところはあるが飲み込む。推しが男と同居ってのも飲み込む。

 ……お前が付いててくれれば無茶もしねえだろ」

「一緒いたほうが楽しいじゃん!ねっ、隼斗!」

 

こ、コイツ有言実行で外堀埋めてきやがった。

念を押すようにかぐやが畳みかけてきた。

~~~~っ……!

 

「はぁ~~~~~……。…………ここで即答は出来ねえぞ。仕送りを貰ってる身なんだこちとら」

 

長い長い溜息を吐く。

最後の抵抗で、明言はしなかった。

 

「ってことは……」

 

数秒の間、周囲の喧騒だけが耳に入る。

かぐやの目が、ぱちぱちと瞬いた。

 

「ぃぃぃやったーーーーー!!!」

 

かぐやの感情、二回目の大爆発。

跳びはねて、帝の隣にいる雷の肩を叩いて喜んでいる。

可哀そうだからやめなさい。

……あ、いや。なんか叩かれてんのに嬉しそうだなコイツ。

 

「あんなに喜びやがって、まぁだ決まっちゃいねえっつうのに。

 ……はぁ~……ベビーグッズなんか貰った直後に、女子2人と同居。

 ……どう話を切り出しゃいいんだ……?」

 

酒寄が隣に来て、くすっと笑った。

 

「ふふ、そんなこと言っちゃって。嬉しそうじゃん」

 

嬉しそう?

……そう見えてたのか。

言われて口元を撫でると、少し頬が上がっていた。

 

「あ~……ま、あの騒がしさに慣れちまうとな」

 

……そっか。

あいつらと離れるのが、寂しかったのかもな。

 

「じゃあ俺ら、ファンのとこ行くから」

 

帝はそう言って肩を竦めると、「保証人の連絡だけくれよ」とだけ残した。

そのまま雷と並んでログアウトしていく。

二人のアバターが青い羽根を散らしながら霧散した。

 

「てか彩葉~ほんとに引っ越し?隼斗と一緒に?」

「だって、かぐやどんどん物増やすでしょ、隼斗のとこにまで。

 じゃあ一緒に住んだ方が、効率良いし」

「よっしゃ~!」

 

と、かぐやがこぶしを突き上げた。

 

「さ~んにんっとも~!!」

 

上空から声が聞こえる。

見上げると、バサバサと着物をたなびかせたヤチヨが手を広げて降ってきた。

俺は慌てて身を引いたが、かぐやと酒寄の首に両手をひっかけるように着地した。

……首大丈夫か?それ。いやVRだけどよ。

いつもの等身じゃない、握手会のときみたいなちっちぇ版ヤチヨだった。

FUSHIまで降ってきたが、定位置のヤチヨの肩ではなくかぐやの頭に位置取っている。

 

「よ~きかなぁ~!」

「やるじゃねえか、まぐれに頼る天才ダナ!」

 

ヤチヨが称賛の声を送り、FUSHIが憎まれ口を叩いた。

かぐやは「んふ~」とにんまり口を歪めると、頭からFUSHIを転がり落した。

そのまま膝でFUSHIをリフティングする。

 

「あっ、やめろっ。ヤメテっ…怖いっ!」

「可哀そうだろ……」

 

空中でFUSHIをキャッチし、助けてやる。

手の中で「ハヤト…アリガト……」と蚊の鳴くような声が聞こえた。

そんなやり取りを困ったように見ていたヤチヨはぶるぶると首を振る。

 

「彩葉!かぐや!隼斗も!よく頑張った!」

「俺はいらんのでは?」

「いひひ~。いや……でも全然だめだった。どうしたら隼斗みたいに動けるの?

 ……ヤチヨもだけど」

 

KASSENのことか?

規定人数に満たなかった場合、お助けAIとしてヤチヨが人数の補填に現れる仕様がある。

それを言っているのだろうか。

 

「それはもう、日々の努力の玉藻の前というか~。気まぐれアメンボロードというか~?」

「作戦は良かったけどな、動きってなると慣れだろ」

「んん~…ヤチヨって、いっつもテキトーじゃない?」

 

ジト目でヤチヨを見つめるかぐや。

酒寄はというと、至近距離の推しに限界化している。

 

「えっん~……ヤチヨはね~、優柔不断で悪いやつなのです~…」

 

コミカルなエフェクトの涙を流すヤチヨ。

涙を引っ込めると、そのまま続けて言った。

 

「かぐやは、かぐやだから強いんだなって、ヤチヨは思ったよ」

「なんにも言ってないな~」

 

呆れた風に言うかぐや。

その様子を見ながら、ふと視界がグラっと歪んだ。

……あー、やばいか?

反射的に目元を押さえる。

 

「隼斗?」

 

酒寄が気付いたようにこちらを見る。

 

「ん?あー……ちょい目ぇ疲れたかな」

「大丈夫?」

「平気平気。まあ慣れねえ立ち回りしたせいだろ、寝りゃ治る」

 

実際、それだけじゃないんだが。

まあ、今ここで言うことでもねえ。

 

「俺もう先落ちるわ。ちっと頭回んねえ」

「えぇ~?」

 

不満そうに頬を膨らませるかぐや。

その横で、酒寄だけは少し不安そうな顔をしていた。

 

「……ちゃんと、休んでね。……あと、ありがと」

「おう」

 

軽く手を振る。

ログアウトウィンドウを開く直前、ヤチヨと目が合った。

 

あ、やべ、それで気が付いた。

FUSHI持ったままだ。

 

ヤチヨの肩に乗せてやる。

くすぐったそうにFUSHIは身を捩った。

何かを察したみたいに、ヤチヨは少しだけ笑う。

……気のせいか、少しだけ申し訳なさそうに見えた。

 

「隼斗、おつかれさま」

「ん」

 

視界が青い羽根に覆われていく。

最後に聞こえたのは、ヤチヨの声だっただろうか。

 

 




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