今日も世話を焼く   作:ディアーリーズ

23 / 28
幕間─ジュンヨウの配信─after YCYCUP②

④ ガチ料理配信

「はい、じゃー今日は本格的に作りまーす」

─来たな飯テロ配信

─ガチだから再現しにくいんだよな

─飲食店コラボしろホントに

─おとーさんきょうのごはんなに~?

 

「だれがおとーさんだ。今日のご飯はうどんです」

─うどん!?

─おとーさん虚無釜玉じゃないよね

「違うぞ、きょうはぶっかけ」

─おっ、今日は再現しやすそうだぞ

 

「そしてこちらが事前に仕込んでおいたうどんの生地になります」

─話変わってきたな

─手打ちうどん!?

─まーた手軽に作れねえモンを

 

「ってわけで、今日はこいつに生地を踏ませます。ほら、ビニールの上から踏めよ」

「かぐやっほー!

 かぐや、美味しくなるように心の底から愛を込めて踏みまーす!よいしょ、よいしょ!」

─かぐやちゃんキター!

─踏まれたい(直球)

─手打ちうどん職人ジュンヨウ

─コシが強くなりそう

─かぐやが踏みました(生産者表示)

 

「踏まれたいってコメントした奴、こんどSETSUNAに呼び出しな」

─なにとぞ……なにとぞお慈悲を……

─慈悲はない

─しめやかに〇ぬがよい

 

「ついでに今回は付け合わせも作ります」

─おっ

─うどんの付け合わせって言うと

─天ぷらか!

 

「おっ、正解」

「天ぷら美味しいよね~。かぐやは海老ととり天が好きー。隼斗といろPは?」

─いろPおるんか!?

─好みがもう子供でニコニコしちゃう

 

「わたしはなすと舞茸……。舞茸ある?」

「あるぞ、俺はきす天とれんこん。

 れんこんって舐められがちな気がすんだよな。あいつはもっと評価されていい」

─(深く頷く)

─お前はれんこんのなんなんだ

─れんこん過激派

─大葉が好きです

 

「大葉も良いよな、天ぷらの中ではさっぱりいける。今回は用意してねえけど」

─大葉ないんかい

─かなしみ

「すまんね」

─にしても、いろPもいるの豪華すぎん?

─いうてかぐやのプロデューサーだし……

 

「そんじゃ、裏でいろPが製麺機でうどん切ってくれたんで。

 うどん茹でてる間に、天ぷら揚げてくぞ~」

─いつの間に

 

「先にかしわ揚げるぞ~。こいつだけは生焼け許されんからな」

「わ~い!」

─ぎゃああああ飯テロぉおおお

─揚げ物の音はいずれ癌にも効くようになる

─(個人の感想です)

 

「どんどん行くぞ、次は海老とキス」

「キス!?」

「魚だぞ」

「あっそっち」

「そっち以外ねえだろ今」

─キス!?

─キスって言った!?

─急に恋バナ始まった?

─Wow oh oh, yeah, yeah, yeah~♪

「なんだその連帯感。

 リクエストにはなかったけど、当然こいつらも要るよな。さつまいもとかぼちゃ~」

「隼斗わかってるぅ♪」

─ホバギ!?

─チョアヨー!?

─ホバギデルジバゼヨ!

─誰か翻訳しろ

「隼斗、なんかコメントが急に半角に」

「流せ流せ。いちいち真に受けんな」

─おい雑やぞ

─コメ欄とコミュせんかい!

 

「揚げモンしてんだから雑にもなるわな。

 最後、なすと舞茸行くぞ~。かぐや、うどんそろそろ上げて良いぞ」

─それはそう

─安全第一

─でもこっちにも構って♡

 

「……あ、やっべ」

「どしたん?」

「うどん茹ですぎたかもしれん」

─草

─職人でもミスるんだ

─人間だった

 

「俺をなんだと思ってんだオメーらは。まあ氷水でしめりゃこれ以上は伸びん。

 今日はぶっかけうどんだしセーフセーフ」

「ねっ早く食べよ!」

「せっかく揚げたてだし、熱いうちに食べたいんだけど」

「ネギとショウガと天かす要らんのかお前ら」

「「いるに決まってる(じゃん)」」

「息ピッタリかよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

⑤ ゲリラコラボ歌枠

「よー、ゲリラ。新居に移って壁が厚くなったから、今日は自宅から歌枠やる。

 ……隣にこいつがいるけどな」

「かぐやっほ~♪壁が厚くなった配信部屋からデュエットしちゃうよー!」

 

─自宅歌枠うおおお!

─壁ドンニキの呪縛から解き放たれたジュンヨウ

─かぐやちゃんとコラボ!最高か?

 

「んじゃまずは『革命デュアリズム』」

 

マイクの位置を調整し、イントロが流れる。

以前のカラオケボックスとは違い、自宅ならではのリラックスした空気。

曲は、二人の定番になりつつあるアップテンポなデュエット曲だ。

 

──伝説の朝に──

──誓った言葉──

──分かち合う声に──

──奇跡よ照らせ──

────革命をLet's shout────

────革命をLet's shout────

 

ハモリの息が、驚くほどぴったりと合う。

引っ越してから毎日、嫌でも顔を合わせているせいだろうか。

声の距離感が信じられないほど近い。

 

─うわ、ハモリの完成度高すぎ

─息ぴったりじゃん

─二人の距離感の近さが歌に出てて尊死する

 

「……はい、お疲れ。自宅だと時間気にしなくて良いの最高だな」

「ねー! 隼斗、次の曲はこれ歌お!」

「おま、これかぁ……。まあ……良いか、たまには」

──このイントロは!?

──男女デュエットの王道!?

 

──あー、恋の定義が分かんない──

──まず好きって基準も分かんない──

──要は恋してる時が恋らしい──

──客観?──

──主観?──

────エビデンスプリーズ!────

 

かぐやの弾けるようなキュートな歌声に、隼斗の少し低めで気怠げな、

だけど完璧にリズムを捉えた声が重なる。

原曲のコミカルな掛け合いが、二人の普段のやり取りそのまますぎて、

コメント欄の速度が計測不能なレベルに跳ね上がっていく。

 

─選曲神か!!!!!

─ジュンヨウがチューリングラブ歌ってるの心臓に悪い

─てぇてぇを通り越して脳が溶ける

─誰よその女!!私とは遊びだったの!?

─文字定期

 

──証明はいまも確度を増しているようだ──

──曖昧も除外して──

──最大の仮説を──

────いま、ふたりなら実証できそう────

 

しっとりと歌い上げ、テンションを上げてラスサビに突入する。

 

──証明しよう──

──証明しよう──

────シンプルなQ.E.D.────

 

最後まで完璧にノリきって曲が終了すると、

画面の向こうから拍手の絵文字が津波のように押し寄せる。

 

「……はい、お疲れ。二度とこれ選曲すんなよ」

「え~? めっちゃ楽しかったじゃん! ねー、リスナーのみんなもてぇてぇって大喜びだよ?」

「文字の言うことを真に受けんな。……あー、喉乾いた」

「じゃあ次、これね!」

「少しは休ませろよ」

 

苦笑いしながら入れられた曲名を見る。

ああ、でもサビまで俺の出番ねえな。

 

──あの日、見渡した渚を今も思い出すんだ──

──砂の上に刻んだ言葉、君の後ろ姿──

 

どこか切なく、胸を締め付けるようなピアノの旋律が静かに響き始める。

さっきまでのポップな空気から一転、配信部屋がまるで夏の夜の静寂に包まれたかのような錯覚。

 

─嘘でしょ……

─イントロだけで泣きそう

─打上花火じゃん……!!

─かぐやちゃんの歌い出しの透明感やばい

 

かぐやがマイクにそっと息を乗せるように、儚く、だけど確かな声量でAメロを紡いでいく。

普段のうるさいくらいの元気さが嘘のような、少女の切なさを帯びた歌声。

俺は手持ち無沙汰に麦茶を流し込みながら、画面の向こうでリスナーが「情緒が追いつかない」

「ゲリラで浴びていいセトリじゃない」と悲鳴を上げている様を眺めていた。

……おっと、サビ(出番)だな。

 

────パッと光って咲いた、花火を見ていた────

────きっとまだ、終わらない夏が────

 

サビに入った瞬間、二人のハモリが防音室の壁を震わせる。

『革命デュアリズム』のようなぶつかり合いではない。

お互いの声の輪郭を際立たせるような、綺麗に溶け合う重唱。

引っ越してから、いやかぐやが産まれてから毎日顔を合わせ、

互いの呼吸を掴んでいるからこそできる芸当だった。

 

─鳥肌たった

─ジュンヨウの低音の重ね方ズルすぎる

─これ新居の同じ部屋でマイク並べて歌ってるんだよね?

─声の距離感が近すぎててぇてぇを通り越して苦しい

 

……あれ、これ二番のAメロ全部俺だな。

 

──「あと何度君と同じ花火を見られるかな」って──

──笑う顔に何が出来るだろうか?──

 

男声パート特有の、低く、どこか語りかけるような独特の譜割り。

いつも通りの気怠げなトーンなのに、配信部屋の高価なマイクを通した俺の声は、

妙に耳元で囁かれているかのような生々しさを持って響いた。

自分で歌っておきながら、歌詞の言葉がほんの少しだけ胸の奥に引っかかる。

……こういう日、いつまで続くんだろうな。

 

─ジュンヨウソロ質感やばい

─こないだ手打ちうどんこねてた男の声か、これが

─リスナーの情緒も捏ね捏ねしてるぞ、まさにいま

─耳が幸せすぎて溶ける

 

────パッと光って咲いた、花火を見ていた────

────きっとまだ、終わらない夏が────

 

ラスサビ。二人の声が再び完全に重なり合い、感情を押し上げるように広がっていく。

切ない曲調のはずなのに、重なる音には確かな熱量があった。

 

────La La La La……────

 

最後のハミングが、長い残響を残しながら静かに消えていく。

ピアノのアウトロが完全にフェードアウトするまで、

コメント欄すら流れるのを忘れたかのように、一瞬の静寂が配信を支配した。

 

「……はい、お疲れ。……って、おい、もう満足しただろ。いい加減配信切るぞ」

「え~?まだまだ歌い足りないよ~!ねー、リスナーのみんなも──あ、みんな尊死してる」

「そら見ろ。文字をこれ以上いじめるな。ほら、終わり終わり」

 

楽しそうにキーボードを叩いて次を探そうとするかぐやの手を、強引にマウスから引き剥がす。

ブラウザの向こうでは、息を吹き返したリスナーたちが

「神配信だった」

「アーカイブ絶対残して」

「おとーさんありがとう」と大絶賛の嵐を巻き起こしていた。

 

「じゃあなオメーら、さっさと寝ろよ。お疲れ」

 

マウスを操作し、配信終了のボタンをクリックする。

画面が暗転し、新居の自室に本当の静寂が戻った。

 

自宅だと時間を気にしなくて良いのは確かに最高だが、隣から伝わってくる妙な熱気と、

さっきまで重ねていた歌の残響のせいで、どうにも喉が渇いて仕方がなかった。

 

「……ね、隼斗!今のめっちゃ上手くいったね!」

「あー。お前がテンポ走らなきゃ、もっと良かったけどな」

「もー! すぐそういう意地悪言うー!」

 

ぷんすかと怒る金髪を適当にあしらいながら、俺はポットから麦茶を注いだ。

まあ、楽しかったかな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

⑥ メン限ギター練習弾き語り

「……よし」

 

ポロン、と静かな音が鳴る。

 

画面にはゲーム画面じゃなく、

薄暗い部屋と、膝の上のアコギ。

 

タイトルは簡素。

 

【メン限】深夜のギター練習

 

─きた

─深夜弾き語り助かる

─今日は静かな枠だ

─この空気好き

 

「よー、ジュンヨウです。今日は普通にギター練習」

 

いつもより声が落ち着いてる。

 

「雑談もしつつ、適当に弾く。ミスっても笑うなよ」

─珍しく弱気

─保護欲出る

─今日は湿度高めだな

 

「なんだよ湿度って」

 

軽くコードを鳴らす。

 

ジャラン……

 

─音良……

─夜に沁みる

─ヘッドホン案件

 

「最近ちゃんと触れてなかったからな。指戻さねぇと」

─ライブ近いし?

─何か弾くの?

─意味深

 

「別に。単純に鈍ると気持ち悪いだけ」

 

そう言いながら、

ゆっくりアルペジオ。

 

「そんじゃ、米津玄師で『M八七』」

 

そのまま、

小さく歌い始める。

 

──遥か空の星が 酷く輝いて見えたから──

──僕は震えながら その光を追いかけた──

 

コメント欄が静かになる。

 

─……

─やっぱ歌うめぇな

─普段との温度差すご

─優しい声してんの腹立つ

 

──痛みを知る ただ一人であれ──

 

一曲終わる。

 

「……はい終わり」

─早い

─もっと聴かせろ

─アンコール

 

「まだ指あったまってねぇし」

 

苦笑しながら、

ギターを抱え直す。

 

「でもまあ、最近ちょっと忙しくてな」

─学校?

─配信?

─ライブ準備?

 

「……いろいろ」

 

少しだけ曖昧に返す。

その時。

 

ガチャ

 

「あっ、いた!!」

 

─出た

─乱入RTA

─金髪きた

 

「うわっ!?」

 

ガチで肩を跳ねさせる。

 

「お前ノックしろっつってんだろ!」

「だって電気ついてたし!」

「配信中!!」

「あっ」

 

コメント欄爆速。

 

─草

─事故

─かぐやちゃんだ

─深夜のしっとり返して

 

「えへ」

「えへじゃねぇ」

 

ちらっと画面を見るかぐや。

 

「ん?弾き語り?」

─あっ

─かぐや知らなかったんだ

 

「えっ、隼斗ギター弾けるの!?なんで今まで黙ってたの!!」

「いや別に言う必要なかったし、そもそも弾き始めたのもつい最近だし」

─急に触り始めたからアニメかドラマかに影響されたんかと

─実際ちょい前くらいから急によ

─かぐやちゃんのデビューと前後してくらい

 

「余計なこと言うなコメント欄!」

「えぇ~!今度伴奏してよ!いろPと一緒に!そしたら三人一緒じゃん!」

「っ……こうなるから隠れてやってたんだよ!」

─まあなるやろな

─いろPも最初は伴奏してなかったんだっけ?

─そそ、かぐやちゃんがメシで釣ったりジュンヨウがメシで釣ったりで

─ほな因果応報か……

 

「あっ!ていうかそのアコギ、かぐやのじゃん!勝手に使ってるんなら伴奏して!」

「オメーが俺の部屋に置いてって回収しねえから有効活用してんだろ!

 あとまだ人前でやれるレベルじゃねえ!」

─これどっちが悪い?

─うーん7:3でかぐや

─置いてった側が悪いか

 

「ギターの話は置いといて!」

「逃げた~」

「置い!とい!て!オメーは何しに来たんだよ」

「あっ、そうそう!ライブの曲クッソむずくてさぁ、隼斗に練習見てもらいたくって!」

「あ?歌か?」

「歌もだけど、振りも全然入んなくて!」

─おっ

─コラボライブのやつ?

─見たい!

 

「流石にダメだな、配信には乗せねえ」

「まあね~」

「ヤチヨになに言われっか分かんねえし」

 

「オメーらも、ライブで初見にしてえだろ?」

─わかってんじゃねえか

─それはそう

─演出と合わせて見るのが良いんだから

 

「……練習な、分かった。見てやっから。」

「ホント!?」

「おう、次の曲で最後にすっからちっと待ってろ」

「は~い♪」

─ワンコかな?

─ウサギのはず

─アバターじゃねえのにパタパタしてる耳が見える見える

 

ギターを軽く鳴らす。

 

ジャラン

 

「……集中できねぇな」

「かぐや静かにするもーん!」

「いるだけで騒がしいんだよ」

 

─ひどい

─でも否定できん

─常時効果音付き

 

「っていうか隼斗、その曲好きなの?」

 

かぐやが、ふいに聞く。

 

「……まあな」

「かぐやもそれ好きー」

 

少しだけ間。

 

「……そうかよ」

─今の空気好き

─なんか良い

─柔らかいな今日

 

照れ隠しみたいにコードを鳴らした。

 

「……そういうワケで、もう一曲だけやって終わるわ」

─おっ

─助かる

─終わらないで

─毎秒メン限して

 

「最後、FLOWの『COLORS』な」

 

静かな弾き語り。

 

──自分を世界さえも変えてしまえそうな──

──瞬間はいつもすぐそばに…──

 

─……

─良い夜だ

─なんだかんだ落ち着くんだよな歌で

 

 

──心を吹き抜ける空の色、香る風──

 

静かな余韻だけが残る。

 

コメント欄も、さっきまでの騒がしさが嘘みたいに落ち着いてた。

 

「はい、お疲れ。夜更かしすんなよ」

─お疲れー

─良い夜だった

─メン限感謝

 

「かぐやはこれから特訓でーす!」

「だから声デカいんだよ」

「隼斗コーチお願いしまーす!」

「誰がコーチだ」

 

配信終了画面に切り替わる直前。

 

「ちゃんと見るから、転ぶなよ。ってか配信部屋行くぞ」

「やったー!」

「あとギターのこと絶っ対彩葉に言うなよ」

「え~どうしよっかなぁ~」

 

そんな声が、最後に小さくマイクへ乗っていた。

 

コラボライブまで、あと4日。

 




海の坊主さん、コーカサスオオカブトさん、感想いただきありがとうございます。

お気に入り登録いただいた方々もありがとうございます。
とても励みになります。

使用楽曲コード:13504746,22977210,27252957,30990769,70841110,N00653317

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。