④ ガチ料理配信
「はい、じゃー今日は本格的に作りまーす」
「だれがおとーさんだ。今日のご飯はうどんです」
「違うぞ、きょうはぶっかけ」
「そしてこちらが事前に仕込んでおいたうどんの生地になります」
「ってわけで、今日はこいつに生地を踏ませます。ほら、ビニールの上から踏めよ」
「かぐやっほー!
かぐや、美味しくなるように心の底から愛を込めて踏みまーす!よいしょ、よいしょ!」
「踏まれたいってコメントした奴、こんどSETSUNAに呼び出しな」
「ついでに今回は付け合わせも作ります」
「おっ、正解」
「天ぷら美味しいよね~。かぐやは海老ととり天が好きー。隼斗といろPは?」
「わたしはなすと舞茸……。舞茸ある?」
「あるぞ、俺はきす天とれんこん。
れんこんって舐められがちな気がすんだよな。あいつはもっと評価されていい」
「大葉も良いよな、天ぷらの中ではさっぱりいける。今回は用意してねえけど」
「すまんね」
「そんじゃ、裏でいろPが製麺機でうどん切ってくれたんで。
うどん茹でてる間に、天ぷら揚げてくぞ~」
「先にかしわ揚げるぞ~。こいつだけは生焼け許されんからな」
「わ~い!」
「どんどん行くぞ、次は海老とキス」
「キス!?」
「魚だぞ」
「あっそっち」
「そっち以外ねえだろ今」
「なんだその連帯感。
リクエストにはなかったけど、当然こいつらも要るよな。さつまいもとかぼちゃ~」
「隼斗わかってるぅ♪」
「隼斗、なんかコメントが急に半角に」
「流せ流せ。いちいち真に受けんな」
「揚げモンしてんだから雑にもなるわな。
最後、なすと舞茸行くぞ~。かぐや、うどんそろそろ上げて良いぞ」
「……あ、やっべ」
「どしたん?」
「うどん茹ですぎたかもしれん」
「俺をなんだと思ってんだオメーらは。まあ氷水でしめりゃこれ以上は伸びん。
今日はぶっかけうどんだしセーフセーフ」
「ねっ早く食べよ!」
「せっかく揚げたてだし、熱いうちに食べたいんだけど」
「ネギとショウガと天かす要らんのかお前ら」
「「いるに決まってる(じゃん)」」
「息ピッタリかよ」
⑤ ゲリラコラボ歌枠
「よー、ゲリラ。新居に移って壁が厚くなったから、今日は自宅から歌枠やる。
……隣にこいつがいるけどな」
「かぐやっほ~♪壁が厚くなった配信部屋からデュエットしちゃうよー!」
「んじゃまずは『革命デュアリズム』」
マイクの位置を調整し、イントロが流れる。
以前のカラオケボックスとは違い、自宅ならではのリラックスした空気。
曲は、二人の定番になりつつあるアップテンポなデュエット曲だ。
──伝説の朝に──
──誓った言葉──
──分かち合う声に──
──奇跡よ照らせ──
────革命をLet's shout────
────革命をLet's shout────
ハモリの息が、驚くほどぴったりと合う。
引っ越してから毎日、嫌でも顔を合わせているせいだろうか。
声の距離感が信じられないほど近い。
「……はい、お疲れ。自宅だと時間気にしなくて良いの最高だな」
「ねー! 隼斗、次の曲はこれ歌お!」
「おま、これかぁ……。まあ……良いか、たまには」
──あー、恋の定義が分かんない──
──まず好きって基準も分かんない──
──要は恋してる時が恋らしい──
──客観?──
──主観?──
────エビデンスプリーズ!────
かぐやの弾けるようなキュートな歌声に、隼斗の少し低めで気怠げな、
だけど完璧にリズムを捉えた声が重なる。
原曲のコミカルな掛け合いが、二人の普段のやり取りそのまますぎて、
コメント欄の速度が計測不能なレベルに跳ね上がっていく。
──証明はいまも確度を増しているようだ──
──曖昧も除外して──
──最大の仮説を──
────いま、ふたりなら実証できそう────
しっとりと歌い上げ、テンションを上げてラスサビに突入する。
──証明しよう──
──証明しよう──
────シンプルなQ.E.D.────
最後まで完璧にノリきって曲が終了すると、
画面の向こうから拍手の絵文字が津波のように押し寄せる。
「……はい、お疲れ。二度とこれ選曲すんなよ」
「え~? めっちゃ楽しかったじゃん! ねー、リスナーのみんなもてぇてぇって大喜びだよ?」
「文字の言うことを真に受けんな。……あー、喉乾いた」
「じゃあ次、これね!」
「少しは休ませろよ」
苦笑いしながら入れられた曲名を見る。
ああ、でもサビまで俺の出番ねえな。
──あの日、見渡した渚を今も思い出すんだ──
──砂の上に刻んだ言葉、君の後ろ姿──
どこか切なく、胸を締め付けるようなピアノの旋律が静かに響き始める。
さっきまでのポップな空気から一転、配信部屋がまるで夏の夜の静寂に包まれたかのような錯覚。
かぐやがマイクにそっと息を乗せるように、儚く、だけど確かな声量でAメロを紡いでいく。
普段のうるさいくらいの元気さが嘘のような、少女の切なさを帯びた歌声。
俺は手持ち無沙汰に麦茶を流し込みながら、画面の向こうでリスナーが「情緒が追いつかない」
「ゲリラで浴びていいセトリじゃない」と悲鳴を上げている様を眺めていた。
……おっと、
────パッと光って咲いた、花火を見ていた────
────きっとまだ、終わらない夏が────
サビに入った瞬間、二人のハモリが防音室の壁を震わせる。
『革命デュアリズム』のようなぶつかり合いではない。
お互いの声の輪郭を際立たせるような、綺麗に溶け合う重唱。
引っ越してから、いやかぐやが産まれてから毎日顔を合わせ、
互いの呼吸を掴んでいるからこそできる芸当だった。
……あれ、これ二番のAメロ全部俺だな。
──「あと何度君と同じ花火を見られるかな」って──
──笑う顔に何が出来るだろうか?──
男声パート特有の、低く、どこか語りかけるような独特の譜割り。
いつも通りの気怠げなトーンなのに、配信部屋の高価なマイクを通した俺の声は、
妙に耳元で囁かれているかのような生々しさを持って響いた。
自分で歌っておきながら、歌詞の言葉がほんの少しだけ胸の奥に引っかかる。
……こういう日、いつまで続くんだろうな。
────パッと光って咲いた、花火を見ていた────
────きっとまだ、終わらない夏が────
ラスサビ。二人の声が再び完全に重なり合い、感情を押し上げるように広がっていく。
切ない曲調のはずなのに、重なる音には確かな熱量があった。
────La La La La……────
最後のハミングが、長い残響を残しながら静かに消えていく。
ピアノのアウトロが完全にフェードアウトするまで、
コメント欄すら流れるのを忘れたかのように、一瞬の静寂が配信を支配した。
「……はい、お疲れ。……って、おい、もう満足しただろ。いい加減配信切るぞ」
「え~?まだまだ歌い足りないよ~!ねー、リスナーのみんなも──あ、みんな尊死してる」
「そら見ろ。文字をこれ以上いじめるな。ほら、終わり終わり」
楽しそうにキーボードを叩いて次を探そうとするかぐやの手を、強引にマウスから引き剥がす。
ブラウザの向こうでは、息を吹き返したリスナーたちが
「神配信だった」
「アーカイブ絶対残して」
「おとーさんありがとう」と大絶賛の嵐を巻き起こしていた。
「じゃあなオメーら、さっさと寝ろよ。お疲れ」
マウスを操作し、配信終了のボタンをクリックする。
画面が暗転し、新居の自室に本当の静寂が戻った。
自宅だと時間を気にしなくて良いのは確かに最高だが、隣から伝わってくる妙な熱気と、
さっきまで重ねていた歌の残響のせいで、どうにも喉が渇いて仕方がなかった。
「……ね、隼斗!今のめっちゃ上手くいったね!」
「あー。お前がテンポ走らなきゃ、もっと良かったけどな」
「もー! すぐそういう意地悪言うー!」
ぷんすかと怒る金髪を適当にあしらいながら、俺はポットから麦茶を注いだ。
まあ、楽しかったかな。
⑥ メン限ギター練習弾き語り
「……よし」
ポロン、と静かな音が鳴る。
画面にはゲーム画面じゃなく、
薄暗い部屋と、膝の上のアコギ。
タイトルは簡素。
【メン限】深夜のギター練習
「よー、ジュンヨウです。今日は普通にギター練習」
いつもより声が落ち着いてる。
「雑談もしつつ、適当に弾く。ミスっても笑うなよ」
「なんだよ湿度って」
軽くコードを鳴らす。
ジャラン……
「最近ちゃんと触れてなかったからな。指戻さねぇと」
「別に。単純に鈍ると気持ち悪いだけ」
そう言いながら、
ゆっくりアルペジオ。
「そんじゃ、米津玄師で『M八七』」
そのまま、
小さく歌い始める。
──遥か空の星が 酷く輝いて見えたから──
──僕は震えながら その光を追いかけた──
コメント欄が静かになる。
──痛みを知る ただ一人であれ──
一曲終わる。
「……はい終わり」
「まだ指あったまってねぇし」
苦笑しながら、
ギターを抱え直す。
「でもまあ、最近ちょっと忙しくてな」
「……いろいろ」
少しだけ曖昧に返す。
その時。
ガチャ
「あっ、いた!!」
「うわっ!?」
ガチで肩を跳ねさせる。
「お前ノックしろっつってんだろ!」
「だって電気ついてたし!」
「配信中!!」
「あっ」
コメント欄爆速。
「えへ」
「えへじゃねぇ」
ちらっと画面を見るかぐや。
「ん?弾き語り?」
「えっ、隼斗ギター弾けるの!?なんで今まで黙ってたの!!」
「いや別に言う必要なかったし、そもそも弾き始めたのもつい最近だし」
「余計なこと言うなコメント欄!」
「えぇ~!今度伴奏してよ!いろPと一緒に!そしたら三人一緒じゃん!」
「っ……こうなるから隠れてやってたんだよ!」
「あっ!ていうかそのアコギ、かぐやのじゃん!勝手に使ってるんなら伴奏して!」
「オメーが俺の部屋に置いてって回収しねえから有効活用してんだろ!
あとまだ人前でやれるレベルじゃねえ!」
「ギターの話は置いといて!」
「逃げた~」
「置い!とい!て!オメーは何しに来たんだよ」
「あっ、そうそう!ライブの曲クッソむずくてさぁ、隼斗に練習見てもらいたくって!」
「あ?歌か?」
「歌もだけど、振りも全然入んなくて!」
「流石にダメだな、配信には乗せねえ」
「まあね~」
「ヤチヨになに言われっか分かんねえし」
「オメーらも、ライブで初見にしてえだろ?」
「……練習な、分かった。見てやっから。」
「ホント!?」
「おう、次の曲で最後にすっからちっと待ってろ」
「は~い♪」
ギターを軽く鳴らす。
ジャラン
「……集中できねぇな」
「かぐや静かにするもーん!」
「いるだけで騒がしいんだよ」
「っていうか隼斗、その曲好きなの?」
かぐやが、ふいに聞く。
「……まあな」
「かぐやもそれ好きー」
少しだけ間。
「……そうかよ」
照れ隠しみたいにコードを鳴らした。
「……そういうワケで、もう一曲だけやって終わるわ」
「最後、FLOWの『COLORS』な」
静かな弾き語り。
──自分を世界さえも変えてしまえそうな──
──瞬間はいつもすぐそばに…──
──心を吹き抜ける空の色、香る風──
静かな余韻だけが残る。
コメント欄も、さっきまでの騒がしさが嘘みたいに落ち着いてた。
「はい、お疲れ。夜更かしすんなよ」
「かぐやはこれから特訓でーす!」
「だから声デカいんだよ」
「隼斗コーチお願いしまーす!」
「誰がコーチだ」
配信終了画面に切り替わる直前。
「ちゃんと見るから、転ぶなよ。ってか配信部屋行くぞ」
「やったー!」
「あとギターのこと絶っ対彩葉に言うなよ」
「え~どうしよっかなぁ~」
そんな声が、最後に小さくマイクへ乗っていた。
コラボライブまで、あと4日。
海の坊主さん、コーカサスオオカブトさん、感想いただきありがとうございます。
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