今日も世話を焼く   作:ディアーリーズ

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22話

 

っあ゛~~~……くそ、今何時だよ……」

 

うわ、もう昼前じゃねえか……。

新学期前だってのに、生活リズム終わってんな……。

 

鉛みてえに重い体を引きずるように、螺旋階段を下りる。

一晩経って頭痛自体は治まったものの、ダルさだけはなんともならなかった。

……コーヒーでも淹れっか……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

螺旋階段を下りた先のキッチンでは、かぐやが寿司を握っていた。

……寿司?

 

いや待て。

寿司???

 

「……なんで寿司握ってんだよ」

「お!隼斗良いところに~♪」

 

握った寿司にハケで醤油を塗るかぐや。

そこでようやく、昨夜のことを思い出した。

 

「つーかオメー体調は?」

 

言い終わるより先に、かぐやが白身の握りを口に放り込んできた。

 

「なん、だこれ……うっま。いやマジで何これ」

 

いや待て。

なんだこれ。

白身なのは分かる。

だがそれ以外なんも分からん。

口ん中が強烈な旨味で支配されたんだが。

脳を旨味でぶん殴られて、ダルさがすっ飛んでいった。

 

「白甘鯛!昨日食材届くって言ったっしょ?」

「はーん白甘鯛ね……は!?白甘鯛!?

 

いや待て、クソ高いやつじゃねえか!

シンク横のアラ見る限り、一尾買いか?

どこの金持ちだよ。

金持ちだったわ。

 

「どう?美味し?」

「クッソウメえわ。……これ炙ったらヤバそうだな」

「うわぁそれ絶対美味しいじゃん!最初は炭焼き考えてたんだけど、彩葉がダメってさ~」

「炭はダメだろ。……バーナー持ってくるわ」

 

炭焼きって。

室内でやるもんじゃねえだろ、死ぬわ。

ってかもしかして、既に七輪あるんじゃねえだろうな。

……行動力考えるとありそうだわ。

 

 

 

 

螺旋階段を上り、自室からトーチバーナーを持ってくる。

キッチン収納からカセットボンベを引っ張り出して装着する。

 

夏期講習を終えたあと、ツクヨミへログインしていた彩葉も自室から顔を出した。

バーナー片手に何かを炙ってる男を見て、怪訝そうに眉を寄せる。

そりゃそうではある。

お前見とけよ、これ食ったら飛ぶからな。

 

「かぐやさ~ん、隼斗さ~ん。絶好調っすか~」

「彩葉、良いところに♪」

 

俺にやったのと同じように、彩葉の口にも白甘鯛の握りを放り込むかぐや。

無言で咀嚼する彩葉。

飲み込んでから数秒後、ようやく口を開いた。

その横で、俺は愛用のサングラスを掛け、無駄に高い位置から藻塩をぱらぱら振っていた。

 

「なにこれ美味すぎ。……隼斗なにしてんの?」

「おう、ちょうどいいところに」

 

かぐやと同じように、彩葉の口に白甘鯛の炙りを放り込む。

今度は目を見開いたまま、しばらく動かなかった。

 

「なにこれ、噛んだ瞬間なくなったんだけど」

「あ―隼斗!かぐやにも!」

「待て待てすぐ次炙るから」

 

バーナーを点火し、次の握りに火を入れる。

今か今かと待ちきれないかぐやに注意しながら、ぱらっと藻塩を落とす。

「ほれ」と炙りを差し出すと、かぐやは当然のように口を開けた。

……しょーがねえな、ったく。

 

 

 

 

「んんまーーー♡」

「オメー指ごと行くんじゃねえよ!」

 

 

 

 

ぶつくさ言いながら一度キッチンで手を洗い、俺の分を炙る。

かぐやは楽しそうに寿司を握っては、炙って欲しい分を俺の方に流してくる。

その光景を見ながら、彩葉がそわそわと視線を泳がせていた。

 

一度目を伏せたかと思うと、少し恥ずかしそうに頬を染めて。

ポケットからスマホを取り出し、俺とかぐやに画面を見せる彩葉。

そこには花火大会のページが表示されていて。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ、あそぼー」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

かぐやと顔を見合わせた。

 

彩葉から、

遊びに、

誘われた?

 

ワンテンポ遅れて、俺たちの脳が追いついた。

 

そして。

 

「ぃやった!やたやた!やったーーーー!!!!」

「オメーから遊びに誘うなんて、珍しいこともあるもんだな。良いよ、行こうぜ」

 

涙を流して、両手を振り上げてドタバタ喜ぶかぐや。

俺は思わず口元が緩むのを誤魔化すように、炙りへ火を入れながら応えた。

 

「で、いつなんだ?それ」

「あ、明日……」

「ねっ!浴衣着よ!みんなで!」

「オメーらはともかく、俺もか?男の浴衣は浮くだろ……」

「良いじゃん!みんなお揃い!……はいっ!もうお店予約しましたー!」

「くそっ、行動力の化身がよ……。ん?これ、場所は?」

「えっと、郷美。埼玉の」

 

埼玉かぁ……地味に遠いとこ来たな……。

都内って、縦に抜けようとするとマジで詰まるんだよな……。

 

「……バイクじゃちっとムズいな。しゃーねえ、じゃあ俺も電車か」

「うん。西国分寺か、府中本町で乗り換えかなって」

「……かぐや、予約したトコってのは?」

「駅前の和服レンタル屋さん!しかも手ぶらで良いんだって!」

「浴衣で電車確定~。……マジで俺浮かねえ?」

「なに着てもかっこいいよぉ♪」

「そういうことじゃ無くてな?」

「ねえねえ、浴衣選びっこしようよ!」

「あ~もうダメだ、止まらねえぞこの暴走機関車」

 

気付けば、俺とかぐやのやり取りはいつもの調子に戻っていた。

それを見て、彩葉はふふっと笑った。

体のダルさは、いつの間にかすっかり消えていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日の昼過ぎ。

かぐやお手製の、麺から作った塩ラーメン(俺作のチャーシュー、味玉乗せ)を食った後、三人で最寄り駅の南口へ向かった。

 

『夜遅くなっても平気なんだって!』とはしゃいでいた通り、浴衣は翌日返却で良いらしい。

明日から新学期のため、その場合はかぐやに任せることになるが。

……ああいや、ガッコ昼までだから別に帰ってきてから返せば良い話か。

……大分浮足立ってるかもしんねえ。

 

「そしたら、浴衣選ぼ!

 かぐやは彩葉の選ぶから、彩葉は隼斗の!

 そんで、隼斗はかぐやの選んでね!」

「俺にセンス期待すんなよ」

「隼斗に似合う浴衣ね……」

 

彩葉の目つきが変わった。

俺の頭から足先までをスキャンでもしてるかのようにじ~っと見つめてくる。

え、そんなガチ?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

十分ほど店内を吟味して、全員が浴衣を選び終えた。

機能性重視で選ぶつもりだったんだが……まあ、それだけってのも味気ねえ。

気に入ってくれりゃいいが。

かぐやの「せーの!」の合図で見せあうと。

 

「あ、彩葉ひまわり選んでる!」

「かぐやも……えっ、隼斗のも?」

「いや、かぐやと彩葉は分かるが、俺ひまわりってガラか?」

「いやいや、私の方がひまわりっぽくなくない?」

 

……いや、むしろ彩葉が一番ひまわりが似合うだろ。

凛と立ってて、目標に向かって真っすぐで、でも少し危うい。

本人は絶対認めねえだろうけど。

 

「かぐやは二人ともひまわりっぽいと思うけどな~!それに、お揃いだし♪」

 

かぐやが俺の選んだ浴衣を抱きしめながら笑う。

 

「ね、隼斗は何でこれ選んでくれたの?ちなみにかぐやは~彩葉、白めっちゃ似合うじゃん?

 そんで、ひまわりって一人で真っ直ぐ立ってて、綺麗で、彩葉っぽいから!」

「フィーリング~……」

 

改めて問われると、言葉にするのがこっぱずかしい。

……ま、別に困ることでもねえか。

 

「オメー、絶対動き回って汚すだろ。

 特に祭りの屋台メシなんてテーブルとかねえからな。だから紺色」

「心外!」

「柄はあった方が良いと思ったから、目に付いたひまわりにした。

 あとは……なんつーか、騒がしいくせに、なんか周り明るくなる感じ?

 気付いたら周りに人集まってる感じが、オメーっぽかった」

「隼斗ぉ~」

 

うっせ、によによすんな。

かぐやから目を逸らして、彩葉の選んだ浴衣に目を向ける。

 

黒に近い濃紺の浴衣だった。

浴衣全体にアッシュグレーの大きなひまわりの柄が配置されている。

落ち着いたダークトーンでまとめられた、シックな雰囲気だった。

 

「で、彩葉は何でこれにしたんだ?」

「わ、私にも聞くの?」

「聞くだろ。派手すぎねえのは助かるが、なんでひまわりなんだ?」

 

さっきも言ったけど、ひまわりってガラじゃねえだろ、俺。

 

「……な、なんとなく」

「絶対嘘だろ」

「う……だ、だって……」

 

それで許す俺だと思うなよ。

無言でじっと見つめる。

……逃がさねえ。

こちとら散々弄られたんだ。

今度はお前の番だろ。

暫く無言が続くと、観念したように彩葉は口を開いた。

……なんでちょっと頬染めてんだ。

 

「……ひまわりって、太陽の方ちゃんと向いて咲くじゃん」

「ん?おう、で?」

「かぐやって、太陽みたいだから」

「それは分かる」

 

実際、俺もそんなイメージでかぐやの浴衣にひまわり柄を選んだところもある。

 

「で、隼斗は……その隣に居る感じ」

「隣?」

「……なんか、前に出て引っ張るって言うより。後ろで見てるって言うか」

 

彩葉はちら、と浴衣へ視線を落とした。

 

「だから、居ると安心するし……なんか、大人っぽいからかな」

「褒めてんのかそれは」

 

……その『大人っぽい』っての、ちょっと複雑なんだが。

引っ越しん時に業者に「ご主人」って言われたの、地味にまだ気にしてんだぞ。

 

「ほ、褒めてるよ」

 

むすっとしたあと、彩葉は小さく続ける。

 

「でも、昼のひまわりってイメージじゃなくて」

「……?」

「昼の太陽に向かってるひまわりっていうより……夜でも、ちゃんとそこに居る感じ」

「なんだそれ」

「だから濃紺。黒じゃなくて、ちょっと青入ってるやつ」

 

彩葉は言い切ると、恥ずかしくなったのかふいっと視線を逸らした。

 

「……そんな風に見えてんのか俺」

 

思わず漏れた声に、彩葉は少しだけ目を丸くした。

 

「……うん」

 

たった一言なのに、妙に頭から離れなかった。

 

「それでは、お着付け始めますので」

 

店員の声に、俺たちは揃って振り返った。

 

彩葉はまだ少しだけ気まずそうに視線を逸らしたまま。

かぐやは「はーい!」と元気よく手を挙げる。

 

……助かった。

 

あのまま見つめられてたら、たぶんこっちが持たねえ。

 

「男性の方はこちらにお願いします」

「うっわ、なんか本格的だな……」

 

店員に連れられ、更衣スペースへ向かう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

帯を締められて。

小物のカンカン帽と、信玄袋を選んで。

気付けば、鏡の前には『いつもの俺』とは違う姿が立っていた。

……なんかこれ、前にツクヨミで使ってたアバターっぽいな。

 

……うわ、マジで浴衣じゃん。

これで電車かぁ。

……いや、他にもいるだろ、きっと。

 

「隼斗ー!終わったよー!」

 

聞き慣れた声に振り返る。

 

店の奥から出てきたかぐやは、ひまわり柄の浴衣を揺らしながら、くるりと一回転した。

ゆるく巻いた髪には、百合をモチーフにした紫色の髪飾り。

 

「どー!?似合う!?」

 

その後ろから、少し遅れて彩葉も姿を見せる。

 

白地の浴衣に、赤い帯。

ゆるくウェーブがかかって、整えられた髪。

かぐやと色違いの、水色の百合の髪飾り。

 

「……まあ、似合ってるんじゃねえの」

「えー!隼斗、もっとなんかないの~!?」

 

かぐやは唇を尖らせて、彩葉は落ち着かない様子で袖を摘まみ、視線だけこっちへ向けていた。

……我ながら言い方終わってんな。

憎まれ口しか叩けねえのか。

いや、良くねえわ。

ちゃんと褒めるべきとこだ、ここは。

 

「……いや、似合ってる、二人とも。かぐやはひまわり柄がイメージにバッチリ合ってるし、」

 

一瞬言葉を探して、彩葉の方を見る。

 

白地の浴衣に、鮮やかなひまわり。

普段より少しだけ柔らかく見える雰囲気に、不覚にも目を奪われた。

 

「彩葉は……白、そんな派手にならねえんだな。柔らかい雰囲気で、似合ってる。

 ……その髪型も、普段よりなんというか、……ずるい」

「…………は?」

 

数秒遅れて、彩葉の顔が一気に赤くなる。

 

「な、なに。急にそういうこと言うの……そっちのがずるい!」

 

耳まで真っ赤にしながら、視線を逸らす彩葉。

そのまま帯の端をぎゅっと掴んで、落ち着かなさそうに視線を泳がせる。

 

「いや、だって隼斗そういうの普段言わないじゃん……」

 

声がどんどん小さくなる。

かぐやはそんな彩葉を見て、ぱあっと顔を輝かせた。

 

「えっ、なになに!?彩葉照れてる!?かわい~!」

「う、うるさいっ!」

「隼斗もっと言って!追撃追撃!」

「アホか、もう言わん。絶対ェ言わん」

 

けれど。

彩葉は逸らした視線のまま、小さく口元を緩めていた。

 

店先の大鏡の前。

並んだ三人の姿が映る。

 

「和服よき~☆」

「……や、やっぱりちょっと変じゃない?」

「さっき似合うって言ったろ。……なあやっぱ俺は浮いてねえ?」

「二人ともなに着ても似合うよ~~~♪」

 

彩葉に頬ずりしながらかぐやは言う。

そうだったらいいんだがなぁ。

……おいこっちには頬ずりすんなよ、テンション高えなおい。

 

 




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