今日も世話を焼く   作:ディアーリーズ

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23話

 

浴衣姿の三人を乗せた電車が、ガタンゴトンと揺れる。

 

休日の昼下がり。

車内には花火大会へ向かう客がちらほらいて、浴衣姿もあちこちに見えた。

 

「ねえねえ見て!あっちの人も浴衣だ!」

 

車内を見回すかぐやが、楽しそうに声を弾ませる。

いや、さっきからずっとテンション高えなコイツ。

 

「電車なんて何回も乗ってんだろ」

「でも今日はなんか違うじゃん!お祭り行く電車って感じ!」

 

くるくると周囲を見回しながら、かぐやは落ち着きなく席に膝立ちして窓から外を覗く。

その度に髪飾りが揺れて、隣に座る彩葉が苦笑していた。

 

「おい危ねえから座れ。……子どもかオメーは」

「えへへ~♪」

 

……実際、子供か。

まあ、生後二か月みてえなもんだしな。

楽しそうだから別に良いけど。

 

ふと車内を見回す。

浴衣姿の男も、一応居た。

数は多くねえが、ゼロではない。

 

「……まぁ、ゼロじゃねえだけマシか」

「まだ気にしてたの?」

「そりゃ気になるだろ」

「似合ってるって言ったじゃん」

 

彩葉は呆れたように言ってから、少しだけ視線を逸らした。

 

「……その、ほんとに」

 

最後だけ妙に小さい声だった。

 

聞こえてねえフリをしてやると、彩葉はむすっと唇を尖らせる。

その横で、かぐやはによによ笑っていた。

 

「青春~~~♪」

「うるさい」

「うるせえ。駅に着くときはちゃんと座れよ、迷惑だからな」

 

二人に同時に返されても、かぐやは楽しそうに笑うだけだった。

 

電車を降りると、むわっとした夏の熱気が肌にまとわりついた。

 

花火大会の最寄り駅のホームは、人、人、人。

改札を抜ければ、花火大会へ向かう流れがそのまま道になっている。

 

「うわぁ、すごっ……!」

 

かぐやが目を輝かせる。

 

会場へ近付くにつれて、浴衣姿はどんどん増えていった。

屋台の匂いも風に混じり始めて、遠くから祭囃子まで聞こえてくる。

 

「隼斗見て!金魚の袋持ってる人いる!」

「彩葉彩葉!あっちリンゴ飴!」

 

数歩先を歩いていたかと思えば、また振り返る。

その度に、ひまわり柄の浴衣がふわりと揺れた。

 

土手へ続く階段を、かぐやは弾むように上っていく。

 

「おい、転ぶなよ」

「だいじょーぶ!いひひ~♪」

 

……いや、下駄だったら絶対危なかったな。

 

下駄で歩き慣れてねえかぐやに合わせて、今日は三人とも普段履きにした。

浴衣にスニーカーやら彩葉のショートブーツってどうなんだとも思ったが、

意外と似たような格好のやつも多い。

思ったより浮いてねえ。

 

「はやくはやく!」

「急かすなって」

「まだ花火始まってもないのに元気だね……」

 

振り返って笑うかぐやの顔は、さっきからずっと楽しそうだった。

 

「さてと、まだ花火の時間まで結構あるけど、どうする?」

「屋台!全部回る!」

「全部は無理だろ」

 

ま、打ち上げまでの時間は屋台回るか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「隼斗!銃あるよ銃!撃とう!」

「銃言うな、射的な」

 

まずは射的だった。

かぐやは「うおお~!」とか叫びながら景品のお菓子箱を撃ち落としていたが、

彩葉は一発も倒せなかった。

参加賞のふきもどしを片手に、恨めしそうにコルク銃を睨んでいる。

……銃が悪いとでも言いたげだな、しゃーねえ。

 

「おっちゃん、これ倒しゃ景品?落とし切らなくて良いの?」

「ん?おう、倒せば景品ゲット。ただし前倒しはダメだぞ」

「りょーかい、んじゃチャレンジで」

 

テキ屋のおっちゃんに500円玉を手渡す。

「毎度あり」と、おっちゃんがコルク弾を五発よこした。

 

「彼女たちにいいとこ見せなきゃな、兄ちゃん?」

「彼女じゃねーよ」

 

……いや。

たちはマズいだろ、たちは。

 

とりあえず、癖を見るか。

適当なラムネ菓子の箱を狙って、一発。

箱は倒れたが、芯は外した感触だった。

……狙いより下にいったな。

菓子だから倒れたが、木札だと倒れてねえなありゃ。

 

おっちゃんが「お見事!」とラムネ菓子を差し出してくる横で、次の狙いを付ける。

……今の感じなら、残りで二つは獲れるな。

 

「どれ欲しいんだ、かぐや。彩葉も欲しいのあったら言えよ」

「いいのぉ!じゃあ~……アレ!」

 

と、かぐやが指差したのは……なんだあれ、鈴のストラップか?

小さなまんまるの鈴と、三日月みてえな銀の飾りが付いたストラップ。

ゆらゆら揺れるたび、しゃらりと澄んだ音が鳴る。

 

「それか。おっちゃん、どの札倒しゃもらえんの?」

「それは三等だから、この当たり札だな」

 

と、おっちゃんが当たり札を指差す。

ふーん、後ろに支えがあるタイプか。

彩葉はまだ景品棚を眺めてる。

……さっきから、白い狐面の辺りを。

 

「おっけ、やってみるわ」

「頑張れよ、兄ちゃん」

 

コルクを詰めて、レバーを引く。

狙いを定める。

札が紙だから、後ろの支えが少し透けて見える。

重心はあの辺。

一発目の弾の落ち幅から考えて……ここ。

 

パシン、と乾いた音が響いて、当たり札が倒れた。

 

「うっひょぉおお!隼斗凄ぉい!」

「ほー、やるもんだ。ほれ、景品。水琴鈴ってやつだ。厄払いだか魔除けだかの鈴なんだとよ」

「ふーん」

 

おっちゃんの解説を話半分に聞き流しながら、「ほらよ」とかぐやにストラップを手渡す。

受け取ったかぐやは、すぐに巾着袋に入れていたスマホにそれを付けた。

しゃん、と澄んだ音が鳴る。

 

「えっへへへぇ。隼斗、ありがと♪」

「おう。で、彩葉は決まったか?まだ三発あるぞ」

「ちったぁ手加減してくんねえかなぁ兄ちゃん」

 

そんなポンポン取られちゃ商売になんねえよ、とおっちゃんが苦笑する。

 

「こっちのが一個も倒せてねえんだから、トントンだろ?」

「こっちの言うな」

「はいはい、欲しいのあったか?」

 

彩葉は少し迷うように視線を彷徨わせてから控えめに指差した。

 

「……じゃあ、あれ」

 

指の先にあったのは、景品棚の端に吊るされた白狐面だった。

赤い紐が付いた、顔半分を覆うタイプ。

 

「お面?」

「……悪い?」

「や、別に」

 

……俺が実写配信のときに使う仮面に似てんな、とちょっと思っただけ。

 

「おっちゃん、あれは?」

「あれは二等だからこの木札。簡単に倒せると思うんじゃねーぞ?」

 

と、おっちゃんが挑発してきた。

へぇ?重りでも入ってんな?

 

三発目のコルクを装填して、レバーを引く。

 

引き金を引くとパシン、と乾いた音が鳴った。

木札の上端を捉えたはずだった。

 

だが、木札は前後にぐらぐら揺れるだけで、倒れない。

 

「おっしぃぃぃ~!」

「がっはっはっは」

 

かぐやが頭を抱えて地団太を踏む。

それを見たおっちゃんが豪快に笑った。

……な~るほど。

やっぱ重り入りか。

 

揺れ方が妙に鈍い。

重心が下に寄ってやがる。

 

「……やっぱ、難しいんだ」

 

彩葉が少しだけ目を伏せる。

 

「まだ終わってねーぞ」

 

次のコルクを詰める。

 

四発目。

 

さっきと同じ場所。

今度も狙い通りに当たる。

木札が大きく後ろへ揺れる。

 

「さっきとおんなじじゃん!」

「黙って見てな」

 

茶々を入れてくるかぐやに釘を刺す。

木札が揺れている間に素早く最後の弾を装填して、レバーを引く。

 

前へ、後ろへ。

揺れて、戻る勢いにさらに弾をぶつける。

木札が最も後ろへ傾く、その瞬間を狙って。

引き金を引いた。

 

 

 

 

 

 

パシン

 

 

 

 

 

 

 

最後の一発が木札を叩く。

 

今度こそ、木札がぱたんと倒れた。

 

「うっそ、ホントに倒れた……」

 

驚愕に目を見開いたかぐや。

だが静かになったのは一瞬だけ、次の瞬間には破顔して抱き着いてきた。

 

「すごーいっ!隼斗天っ才っ!かぁっこいいー!」

「だーやめろ抱き着くな!頬ずりすんな!目立つだろうが!」

「だっはっはっは!キレーに倒しやがって、もってけ泥棒!」

 

おっちゃんが景品の白狐面を手渡してくる。

 

近くで見ると、思ったよりちゃんとしていた。

白地に赤の模様。

つやつやした塗りが夏の日差しを反射している。

 

「ほれ、彩葉」

 

差し出すと、彩葉は少しだけ目を丸くした。

 

「……ほんとに取るとは思ってなかった」

「欲しかったんだろ?」

 

そう言うと、彩葉は一瞬だけ言葉を詰まらせてから、小さく頷いた。

 

「……ありがと」

 

受け取った狐面を、彩葉は大事そうに胸元へ抱える。

その横から、かぐやがにやにや顔で覗き込んだ。

 

「い・ろ・は~、付けないの?」

「……いまは、髪型崩れちゃうし」

 

彩葉は指先で狐面の縁をなぞってから、そっと巾着へしまった。

 

「そだね~?せっかく褒められた髪型だもんね~♪」

「なっ、こら、かぐや!」

「きゃ~♪」

「なにしてんだ、ったく……。あ、そんじゃ」

「兄ちゃん、彼女ら逃がすなよ~」

「彼女じゃねえって」

 

顔を赤くした彩葉に追われ、楽しそうに逃げていくかぐや。

その後を追って、射的を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「次あれ!カニ!カニ釣り!」

「お前ほんと目に付いたもん全部行くな……」

 

屋台の端に置かれた大きな青いタライ。

浅い水の中を、小さなサワガニがちょこちょこ動き回っている。

 

割りばしに糸を垂らし、先にかまぼこを着けただけの簡素な竿を受け取ると、

かぐやは目を輝かせた。

 

「おお~……狩りだ……!」

「言い方が物騒なんだよ」

 

一方、彩葉は店のおばちゃんから小さなプラスチックカップを受け取っている。

 

「取れたらここに入れてね~」

「はい」

 

しゃがみ込んだ二人を、隼斗は後ろからぼんやり眺めた。

 

かぐやは舌をちょろっと出しながら、真剣な顔で糸を垂らしている。

その横で彩葉は、釣り上げたカニを受け止める気満々でカップを構えていた。

 

……なんだこれ。

 

小学生の遠足か?

 

「コイツめっちゃ動く!」

「かぐや、右!右行った!」

「うおっ、待て待て待てっ」

 

かぐやが糸を振り回し、彩葉がカップ片手に右往左往する。

その様子を見て、思わず吹き出した。

 

「楽しそうだな、オメーら。……動かし過ぎんな、目の前で止めた方が挟むぞ」

「マジで?!」

「……あ、確かに」

「カニだけに!?」

「そういうつもりで言ってないから!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「見て見て隼斗!三匹釣れた!」

 

透明な袋に水と一緒に入れられた、三匹のサワガニを見せつけてくるかぐや。

 

「おー、良かったな」

「やっぱ現実サイコー!」

「私はツクヨミも好きだけどね」

「次!次!次はなにする?」

 

まだまだ遊び足りないとばかりにかぐやが腕をぶんぶん振る。

ふと腕時計を見ると。

 

「そろそろ花火の時間じゃねえか?」

「うん、もう始まっちゃうよ」

「ヤバッ!ご飯買わないと!タコ焼きと焼きそばとかき氷とから揚げとじゃがバターに焼き鳥に

 牛串とフルーツ串と一本きゅうりとトルネードポテトと……それからそれから!」

「そんな持てねえだろ」

「ねえ、本当に全部回ることになっちゃうじゃん」

 




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