今日も世話を焼く   作:ディアーリーズ

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28話

 

翌日、彩葉のスマホのアラームで起こされた。

ここ数日はこれで起きていたため、聞き覚えはあった。

眠い目を擦る。

布団から起き上がろうとして──

……動けねえ。

なんか、左腕に柔らかい感触が絡みついている。

また抱きついてきやがったのか、かぐやのやつ……。

 

──いや待て、かぐやは昨日。

 

バサッとタオルケットを剥ぎ取る。

同じ布団に入ってきていた彩葉に腕をがっちりホールドされており、起きられない。

おい朝から密着すんな流石に。

 

「おうコラ起きろおいせめて離れろコラ」

「…………」

 

反応はない。

だが、抱きつく腕がぴくりと反応した。

 

「起きてんだろテメエ狸寝入りやめろ狐の癖に」

「…………」

 

まだ返事はない。

代わりに、左腕に絡みつく力が強くなる。

 

「なんとか言えやオイ遅刻すんぞ学校よォ」

「……今日は、行きたく、ない」

 

言葉の代わりみてえに、腕の力だけが強くなった。

 

「…………あ~そうかよ」

 

……こりゃ、無理に引き剥がすわけにも行かねえか。

掴まれてない方の右手で自分のスマホを探る。

……ん?どこだ……。

枕の下に入り込んでやがった。

 

RINNNEを開き、綾紬たちのグループへメッセージを飛ばす。

 

『すまん、彩葉が体調不良で休みって担任に言っといてくれ』 JunY0u

ROKA『彩葉、大丈夫そう?』

まみまみ『なんかあったら連絡して~』

 

リアクションに『OK』のスタンプを送る。

次だ。

 

母親との個別チャットを開く。

『しばらく学校休む』

『怪我でも病気でもねえから心配いらん』のメッセージを送る。

すぐに既読と『了解!』のスタンプ。

……話が速くて助かるわ。

 

……あとは学校か。

電話帳アプリを開く。

……登録はしてたが、電話なんてしたことねえぞ。

電話帳の名前をタップする。

 

コール音が何回かした後、すぐに相手が電話に出た。

 

『もしもし。どうしたんだ、高羽。こんな朝早くに』

「あー、立花先生。すんません、ちょっと色々あって。しばらくガッコ休みます」

『え、大丈夫なのか?確か高羽、実家出てるだろ?何かトラブル?』

 

いい先生なんだよな、ここでサボりって思わずに心配してくれるとことか。

 

「あー、家庭事情なんで詳しくはちょっと。ただ、ちょっと長引きそうなんで」

『そうか。高羽がそういうなら大丈夫なんだろうけど……。

 なにかあったら遠慮なく相談しにきなさい』

「はい。ありがとうございます。ああ、それと……」

 

一応、言っといたほうが良いよなぁ……。

 

「酒寄も、しばらく休むんで」

『酒寄も?……ああ、同じところに住んでるんだったな』

 

あー、学校に住所提出したから知ってるか、そりゃ。

まあ、細かくは把握してねえだろうけど。

 

『深くは聞かないよ。来れるようになったら来てくれればいい。

 二人とも出席日数も足りてるし、成績も文句無しだからな』

「はい、すみません。そういうことで、はい……はい、失礼します」

 

画面をタップして電話を切る。

 

左腕に、微かに吐息がかかる。

顔を俺の腕にうずめた彩葉が何か言っている。

 

「…………隼斗まで休むこと、無かったのに」

「んな状態のテメエほっぽって行けるか」

 

これが卒業ライブの次の日の話だ。

翌日、翌々日も彩葉はロクに活動せず『生きているだけ』って感じだった。

 

かろうじて水は飲むし、俺の作ったメシも食う。

ただそれ以外は自室でぼーっと時間が過ぎるのを待っているだけ。

 

夜になると、ふらっとリビングに出てきて、俺と一緒の布団で眠る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

卒業ライブから、数日が経ったある日の朝。

ふと、学校に行くために身なりを整えた。

かぐやはきっと、私がいつまでもこうしていることは望まないから。

そうでも思わないと、動けなかった。

 

朝ご飯を作っていた隼斗が、制服に着替えた私を見て少しだけ眉を動かした。

 

「行けるのか?」

「行かなきゃ」

「そうかよ。……俺はちょっと時間ズラして登校すんぞ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ、酒寄さんだ。もうコロナ治ったの?」

「あれ、留学したんじゃなかったっけ?」

「よかったー!俺結婚したなんて信じてなかったっすよ!」

 

数日学校を欠席しているうちに、あらゆる噂が飛び交っていたようだ。

……隼斗が先生には連絡してくれたはずなんだけどな。

一々否定して回るわけにもいかないので、全部に「おはよう」で返して、職員室に直行。

 

そして、真っ先に立花先生に頭を下げて、進路希望調査票を提出する。

 

「……やっぱり、法学部か」

 

先生は調査票を眺めながら言った。

そこにあるのはお母さんと同じ、法曹の道。

 

「すみません。ちょっと、色々あって」

「酒寄は今までできすぎだったから、むしろちょっと安心したよ」

「でも、もう大丈夫なので。法学部目指します。今度、受験対策の相談乗ってもらえますか?」

「もちろん。ああ、高羽にも後でお礼は言っておきなさい」

 

そう言って、立花先生は柔らかい笑顔を浮かべた。

結局、欠席についてはほとんど責められることはなかった。

 

職員室を出て、廊下で芦花と真実の登校を待った。

 

「連絡返せんくて、ゴメン!」

 

二人の姿が見えた途端、駆け寄って頭を下げた。

 

「無視ひどー」

「家乗り込もうかと思ったよ」

 

冗談めかして拗ねて見せる二人。

でも、十割こっちが悪いから、ひたすら謝るしかない。

 

「すまん!すまん!」

 

手を合わせてさらに謝る。

 

「……私たちはさ」

「彩葉が生きてればいいから」

 

二人は困り眉になりながら、苦笑交じりにそう言った。

 

 

 

 

 

 

 

 

授業が終わって、放課後。

隼斗は先に帰宅し、私はなんとなしに旧居のアパートの方向に足が向いた。

ほんの少し前まで住んでいたアパート。

私がかぐやを拾った電柱は、今は何の変哲もなく、七色に光ることもない。

 

かぐや。

私、かぐやとの思い出を胸に、前に進むよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

おとぎ話のようなかぐやとの日々が終わり、彩葉と隼斗に日常が戻ってきました。

これが彩葉と、隼斗と、かぐや姫の物語。

めでたし、めでたし。

 

 




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週間ランキングに入ったようで全てみなさんのおかげです。
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