今日も世話を焼く   作:ディアーリーズ

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31話

 

そうして話し始めたのが二日前。

丸二日が経ち、ヤチヨの体験記が縄文時代から江戸時代まで進んだ頃。

徹夜や短い睡眠時間にも慣れている彩葉も流石に舟を漕ぎ始めた。

俺は何故か逆にテンションが上がっている。

徹夜ハイってやつか、それとも歴史の裏側を覗いてるみてえで浪漫が刺激されたのか。

 

「おやすみなさいよ、彩葉。死んじゃう」

Zzz……

 ハッ、いま江戸じゃん!まだまだ」

「いや、だいぶ進んだけどな。しかしかなり贅沢なことしてんぞ俺ら。

 文字通り歴史の生き証人だもんな。欲を言えば海外も聞きたかったが……」

 

アーサー王とかヘラクレスとか実在してたんかな、ああいうの。

 

「ヤッチョはあまり動けなかったからねぇ、海外はちょっと守備範囲外かな~」

「ネムッテ、ネムッテ」

 

目を光らせたFUSHIがアラームのように喋り出す。

 

「あちゃ~、ヤチヨのほうが眠る時間だ。ふわぁ~~~ごめんね~Zzz……

 

大きなあくびを一つしたかと思うとゆらゆらと揺れ。

そのまま床に倒れこむようにヤチヨは横になった。

彩葉はヤチヨの横に腰を下ろしてその白い髪を撫ぜ、俺はタオルケットをヤチヨに掛ける。

 

「ヤチヨの連続稼働限界は五十二時間だ。

 充電とアップデート、分身たちの記憶の整理のために定期的なスリープ状態が欠かせない」

 

FUSHIが今のヤチヨの状態を教えてくれた。

 

「ず~っとけらけら笑っちゃって」

「……八千年、楽しかったことだけじゃねえだろうに」

「……私みたいになっちゃったんだ」

「前の、お前な」

 

今は違ぇだろ、と言外に彩葉に伝える。

彩葉は苦笑したかと思うと、膝を抱えたままFUSHIに話しかけた。

 

「ね、FUSHI」

 

不意に声を掛けられたFUSHIは体を跳ねる。

 

「ヤチヨが隠してること、あるよね」

「…………」

 

文字通り八千年をヤチヨと共にした彼は、何かを言いたげに、それでも口を噤む。

 

「キリキリ吐けよ、FUSHI。あいつが隠してるもん、全部」

「……ヤチヨが言わなかったなら、それは……」

「見せて。私たち、かぐやの全部を見なくちゃ」

 

FUSHIは俺たちを案じるような声色で告げる。

 

「人の身体で耐えられるかわからない……」

「「問答無用(だ)」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

FUSHIはその小さい瞳を潤ませ、喜色を滲ませながら言う。

 

「ヤチヨは……さっき久しぶりに、本当に嬉しそうだったんだ」

「うん」

「そうか」

 

一拍置き、頷いて気合を入れるFUSHI。

 

「行くぞおーーー!!!!!」

 

FUSHIの両目が光る。

その両目から放たれる光に触れた場所から、再現された部屋が音もなく崩れていく。

天井、壁、もちろん俺たちがいま座り込んでいた床も。

中空に放り出される俺たちの身体。

どちらとは言わず、手を繋ぐ。

無数の竹のようなオブジェクトが出現した。

よく観察するとぱらぱら、からからと走馬灯のようにかぐやの記憶が映し出されている。

 

『ヤチヨ、どっかにいるんでしょ。……出てきて……助けて……』

「「かぐや!!」」

 

そうして、俺たちの意識は八千年前の地球へと飛んでいった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なんと電柱から女の子が出てきたワケ!」

 

ウミウシの身体で枝をとり、砂浜に絵を描いて自身の物語を子供たちに語り継ぐかぐや。

 

(いまし)は縁起良しとぞ……」

 

ウミウシの姿のかぐやを釣り上げた豪奢な服装の女性(神功皇后)

 

「逢ひ見ての のちの心に くらぶれば」

 

月明りと燈台の明かりに照らされながら、琵琶の上のかぐやを優しい目で見る貴族の男性(権中納言敦忠)

 

「会いたい者がいるのだろう?」

 

戦に負け落城し、燃え上がる炎と煙に巻かれながら。

かぐやだけでも逃がそうと優しく声を掛ける淀殿。

 

「ムカつくからさ、辛くても笑うんだよ!」

 

外から見れば絢爛豪華極楽浄土、内に入れば苦界とされる吉原。

そんな狭い世界で運命に抗い、運命に中指を立てて笑った。

どこか古い記憶の中の(はやと)を思い出させるような花魁。

 

「君の活躍する時代を俺も見てみたかった」

 

不治の病に身を侵され、自身が見ることのできない遥かな未来に思いを馳せた明治の書生。

 

「わたしには、ここなの」

 

空襲で荒れ果て、廃材で建てられた粗末な小屋が立ち並ぶ地で、それでも笑う。

どこか古い記憶の彼女(いろは)を思い出させる、強い瞳の花売りの少女。

 

「極上のワインは時間がたつほど深まる。悪いことばかりじゃないさ」

 

正倉院に収蔵された「もと光る竹」を盗み出し、笑ってかぐやと別れたCIAの男。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

様々な出会いがあった。

それと同じだけ残酷な別離があった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

人はどんどんと技術を発展させ、気づけば世界は声を遠くまで届けられるようになっていた。

電話、ラジオ、ブラウン管―――そして、ワールドワイドウェブ。

ウミウシの身体で身を捩ってキーボードを叩き、テキストを打つ。

送信すると、すぐに返事が返ってきた。

どこの誰とも知らぬ相手と交流が持てる。

画面の向こうの相手の姿かたちなんてどうでもいい。

こんなウミウシの身体でも。

 

 

 

 

 

 

 

 

そうだ、いつか仮想世界の大きな広場を作りたいな。

みんなが好きなことをして、誰かの心を温かく出来て、誰も孤独にならずに、誰にでもいつでも返事をもらえるような。

そこまで考えて――――ハッとした。

 

 

 

 

「バカだったなぁ……。なんで今まで気づかなかったんだろ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――わたしが、ヤチヨに―――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

仮想世界ツクヨミを構築し、電子の歌姫・月見ヤチヨとなったかぐや。

何度もライブを開いた。

何度だって歌った。

何度だって踊った。

飽きることなんてなかった。

だから毎回全力で、毎回楽しくて、歌えることが嬉しくて。

だってあの子がいつ来るかわからない、あの子もいつ来るかわからない。

毎回毎回、観客の中に二人を探した。

 

そうして、その日はやってきた。

タイミングは別々で、二人一緒ではもちろんなかったけれど。

きっと見つけたらその時は泣いてしまう、そう思っていたけれど。

わたしは笑って歌っていた。

二人に見てもらうために。

わたしを見て、好きになってもらえるように。

 

 

 

 

 

 

そっか。だからヤチヨは、いつもあんなに楽しそうに笑ってたんだ―――

 

ああ、やっぱり根っこは変わってねえよ。

―――なにがあっても、そうやって笑うやつだろ。かぐや(お前)




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