今日も世話を焼く   作:ディアーリーズ

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34話

「……うん、間違いない。通信機能は生きてるよ。

 でも、肉体の付与機能は使い切りだったみたい」

「じゃあ、そっちの『もと光る竹』でも、ヤチヨの身体は……」

「そだね、ま~そっちは元々望み薄だったから~問題ナッシングなのです!」

 

再びマンションのヤチヨの部屋。

そこでFUSHIが彩葉の肩から腕を伝って腕輪に触れた。

途端、ゴトンと無機質な音を立ててそれが現れる。

水槽の中にあるそれと全く同じ、だが極彩色のタケノコ―――一機目の『もと光る竹』。

 

 

 

いまは隼斗のスマホから、画面越しにヤチヨが機能を診断していたところだ。

彩葉は『触れたい』『パンケーキを食べたい』という願いを口にしたヤチヨが身体を得られれば、

と思っていたが、肩を落とす。

ヤチヨは口ではそう言いつつも、やはりどこか期待はしていたようで。

隼斗から見れば少し、ほんの少しだけがっかりしている。

 

「……んじゃあ、ソレと腕輪が揃ってりゃ、ツクヨミから月へのアクセスは出来るんだな?」

「ん~と……ちょこっと調整は必要だけど、間違いなく」

「調整にどのくらいかかりそうなの?」

「調整自体はそう時間は掛からないんだけどね、次の満月を待つ必要があるんだ」

 

それが一番通信が安定する。

何故なら月側から降り注ぐ光という形で通信経路が最も太くなるから。とヤチヨは語る。

 

 

 

 

 

「んじゃ、それまでは待ち、か?」

「うん、隼斗と彩葉はそうだね。ヤッチョは『もと光る竹』の調整とか色々あるけど~」

「……ヤチヨ、今更なんだけど……」

「なんだいなんだい?」

「かぐやを迎えに行くときって、月人たちと戦いになったりしないかな?」

 

卒業ライブの時の月人たちは強かった。

SETSUNAの連勝レコードホルダーであるジュンヨウ(隼斗)に加え、

プロゲーマーの黒鬼の3人が加勢してくれた上でもかぐやを連れていかれてしまったのだ。

あの時と同じように、また戦いになったら……と、彩葉は身震いする。

 

「自動迎撃くらいは出てくると思うけど多分、戦いにはならないと思うな」

「へえ、そりゃまたどうして?」

「あの時は、こっち側がKASSENと言うシステムで迎え撃ったから向こうも合わせたんだよ。

 逆に月の方にはそういう争いとか無いからさ」

 

あの時言ったように、月では毎日同じことの繰り返し。

各々役割が決められていて、それをルーチンワークのようにこなすだけ。

そんな世界で争いが起きようはずもない、というのがヤチヨの弁だ。

 

「もしかしたらこの間のKASSENで競うの楽しい!

 腕試ししたい~ってなっちゃった子とかいるかもだから、いたら受けてあげて欲しいかな」

「そ、そういう感じなの……」

「こないだは結局、向こうに勝ち逃げされたようなもんだからな。受けて立つぜ俺はよ……」

 

メラメラと背後に炎のような闘志が見えるかのような隼斗。

ほんっと変なところで子供っぽいな……と彩葉は呆れている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そうだ、とヤチヨに向き直る。

 

「ヤチヨ、俺からも今更なんだがよ」

「なんだいなんだい、隼斗まで」

「本当に、かぐやを迎えに行って良いのか?」

 

今更なにを言っているのか、とヤチヨは目を丸くする。

いや、だってよ。と続ける。

 

「お前も俺たちにとっちゃ『かぐや』なんだ。

 かぐやを連れ戻したら、そりゃもちろんタイムパラドックスやなんやの心配もある。

 あるけどよ」

 

一度、言葉を切る。

少しだけ視線を逸らして、頭を掻く。

 

「……そうじゃ、なくてよ」

 

 

「お前、自分で自分の居場所、無くすことになんねえか?」

 

「……」

 

目を見開いたヤチヨ。

 

 

 

 

 

「もう一人の『かぐや』が戻ってきたらよ―――」

 

 

 

 

 

「お前がここにいる意味とか、俺らと過ごした時間とか、

 全部『上書き』されるみてえな気持ちにならねえかって」

 

彩葉が息を呑む。

 

「それに……」

 

少しだけ、声が低くなった。

 

「お前、八千年やってきたんだろ」

 

 

 

「なのに、『今のかぐや』は助けられて、お前だけそのままってのは―――」

 

 

 

「納得、できんのかよ」

 

 

 

 

 

部屋が静まり返る。

ゴポゴポ、と水槽のエアー音だけが部屋に響いていた。

ヤチヨを真っ直ぐ見たまま、言葉を重ねる。

 

 

 

 

「嫉妬とかよ、そういうのだってあっておかしくねえだろ」

 

 

 

 

 

「俺は、お前の気持ちとかそこんとこ無視してまで

 『完全無欠の大団円のハッピーエンド』とか言いたかねえんだよ」

 

 

 

 

 

 

少しの間、部屋に沈黙が訪れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ヤチヨは、ぽかんとした顔で隼斗を見ていたが―――

やがて、ふっと笑った。

 

「……隼斗さぁ」

「そういうとこ、ほんとズルいよねぇ」

 

「は?」

 

 

 

 

 

「人の気にしてほしくないところまで、ちゃんと気にするんだもん」

 

 

 

 

 

少しだけ目を細める。

でもその表情は、怒りや寂しさではなく――どこか柔らかい。

 

「そりゃあね?」

 

一瞬、言葉に詰まって視線をそらしたヤチヨ。

でも次の瞬間には、隼斗の目をしっかり見据える。

 

「ちょっとくらい思わないって言ったら、ウソになるよ」

「いいなぁ、とか。ずるいなぁ、とか」

 

画面の中のヤチヨが大げさに肩をすくめる。

 

「だってわたし、八千年だよ?そりゃあねぇ?

 そりゃ、無いこと無いよ。無いって言ったらウソになっちゃう」

 

和服の袖で口を隠して、くすっと笑う。

 

「でもさ」

 

ヤチヨはまっすぐ隼斗を見る。

 

「隼斗がやりたいって言ったんじゃん?」

「……ああ」

「じゃあ、やろうよ」

 

即答だった。

 

「わたしね、『同じ苦労しろ』なんて思うほど、性格悪くないつもりなんだ」

「むしろ―――」

 

少しだけ、ほんの少しだけ声が優しくなる。

 

「助けられるならさ、助けたいよ」

「だってその方が、『わたしが頑張ってきた意味』があるじゃん?」

「……!」

「それにさ」

 

にっと笑う。

 

「わたし、もう一人じゃないじゃん」

 

軽く胸を張る。

 

「隼斗と彩葉がいる『今のわたし』は、ちゃんとここにいるから」

「それが消えるなんて、思ってないよ」

 

「……」

 

「だから大丈夫」

「隼斗は安心して、全力で『完全無欠の大団円のハッピーエンド』目指しなよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「置いてかれないように、ちゃんとついてってあげるからさ!」

 

あの頃(かぐや)のように全力で笑った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……」

 

言葉が、出ない。

ほんの一瞬だけ視線を逸らして、また戻す。

さっきまであれだけ真っ直ぐ問い詰めていたくせに。

今度は自分が、どう返していいか分からなくなっていた。

後頭部をがしがしと掻く。

 

「……チッ。んだよそれ」

 

目を逸らしたまま、ぶっきらぼうに吐き捨てる。

 

「こっちが気ィ回してやってんのに、全部ひっくり返してきやがって」

 

けれど声に棘はない。

むしろ、どこか――照れている。

 

「……調子狂うだろうが」

 

小さく息を吐いて、肩の力を抜く。

少しだけ視線を上にやってから――

 

「……ったく」

「どっちが年上だか分かんねえな」

 

スマホの画面の中のヤチヨがけらけらと笑う。

 

「ヤッチョのほうが八千年分は年上だよ~ん」

 

笑えない冗談に苦笑を浮かべた。

ほんの少しだけ、悔しくて――でも、納得もしちまってた。

 

「……ふふ」

 

堪えきれずといった風に、彩葉が小さく笑う。

 

「なに笑ってんだよ」

「いやぁ?言われちゃったねぇ、って思って」

 

くすくすと、わざとらしく肩を揺らした。

 

「うっせ」

 

少しだけ、俺の様子をじっと見てから。

 

「でもさ」

 

ほんの少しだけ、声のトーンが柔らかくなる。

 

「そういうとこだよね、隼斗って」

「は?」

「ちゃんと考えてるとこ」

 

「自分のことじゃなくて、相手のことをさ」

 

ヤチヨの方をちらっと見て、また俺に視線を戻す。

 

「わたし、隼斗のそういうとこ――」

 

ほんの少しだけ言葉を探して、やっぱりそのまま。

照れくさそうに笑いながら。

 

「……すごいと思うよ」

 

からかい半分の笑みのまま、でも目だけは少し真面目で。

 

「……」

 

余りにもまっすぐで、返答に詰まった。

 

「だからさ」

「そのままでいいんじゃない?」

「隼斗がやりたいようにやって、ちゃんと周りも見てるなら」

「それが一番だと思う」

「……」

 

ほんの一瞬、目を細める。

 

そして――

 

「……お前らなぁ」

「なんで揃いも揃って、人のこと持ち上げてくんだよ」

 

ぼそっと吐き出す。

憎まれ口を叩いているけれど、その口元が緩んでいるのは自分でもわかってしまった。

 

「……ま、いいや」

 

ふっと息を吐く。

顔を上げる。

さっきまでより。

意識して、少しだけ軽い声音で。

 

「じゃあ遠慮なく、やりたいことやらせてもらうぜ」

「『完全無欠の大団円のハッピーエンド』」

 

一度言葉を切り、ヤチヨ、彩葉としっかり視線を合わせて。

 

「全員まとめて、連れてってやるよ」




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