今日も世話を焼く   作:ディアーリーズ

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37話

一機目の義体完成が目前となった、十年後。

 

「最後のブレイクスルーはもう目の前なのよ」

 

白衣を羽織り、メンダコ型の簡易義体を抱えた彩葉が椅子を回し、正面を見ながら話す。

デスクの脇に横置きになったタブレットの画面からはヤチヨとかぐやが手を振っている。

 

「は?」

「ふぅん?」

 

「はっきり言います。お兄ちゃん!出資して!損させないから!」

 

手を合わせ、実の兄に向かってお願いをする。

 

「いやいやいや、俺をどこの富豪と思ってんのよ」

「大丈夫!お兄ちゃんはできる、強いもん!」

 

彩葉はその気にさせるためにヨイショする。

十年前の関係性からこうなるとはだれも思わなかったろう。

 

「なんかお前……」

「なに?」

「……いや、いいよ。お兄ちゃんに任せな」

 

諦めたように目を伏せた朝日。

頼られて嬉しい部分もあるのだろう。

 

 

 

 

「だー!所長!来客かつスポンサー候補を立たせてな~んでオメーは座ってんだ!」

「お~、隼斗副所長。もうスポンサーになったよ~ん」

「なら猶更だろうがァ!」

 

 

 

ドアをバタンと蹴り開けてやってきた、同じく白衣を羽織った隼斗。

その手には湯気の上がっているコーヒーカップが5つ乗せられたトレイ。

 

「隼斗も久々。でもお構いなく、もう行くからさ」

「少しはゆっくりしてきゃ良いのによ。その分来客対応っつってサボれっから」

「俺のアバターボディも欲しいんだけどな~」

「スポンサーには優先的に回すことも検討しま~す」

「……俺と乃依も助力しよう」

「えっ、俺も?」

「たまには人のためってのも良いだろ」

「俺の柄じゃないんですけど~」

 

やり取りを見た彩葉はひひっといたずらっぽく笑っている。

 

「んじゃ、また顔出すわ」

「お~。あ、雷」

「なんだ」

「次どこ行くよ」

「後で候補を送っておこう」

 

そのやり取りを横目に、コーヒーカップの乗ったソーサーを持ちながら放心している真実と、

その横でコーヒーを啜っている芦花。

そんな二人と、所長、副所長コンビに軽く挨拶をしながら黒鬼の三人は退室していく。

 

「ま、まさか今のは~……」

「兄!」

「にょ~~~!!」

「あれはモテるねぇ~」

 

十年来の推しである帝のリアルに限界化する真実。

それを横に芦花は美容系インフルエンサーの確かな審美眼で評価している。

 

「ってことは一緒にいたのは~……」

「雷乃依な」

「ひょわぁ~~~!!!」

 

 

 

「彩葉ずうずうしくなったねぇ~」

「ね!昔の彩葉だったらぜぇ~ったい言えなかったよね~!」

「まあ、いろいろありましたからね~」

 

タブレットの中のヤチヨ、かぐやに性格の変化を指摘され、背もたれに体を預けながら言う彩葉。

 

「図々しすぎて部下の立場としてはひやひやする毎日だぜ、マジ」

「私もう、ヤチヨもかぐやも追い越しちゃったかもよ~っ?」

 

彩葉は言いながら、タブレットにウィンクを飛ばした。

 

「勘弁してくれ……」

「あ、終業時間だ。帰宅しま~っす。休むも仕事!」

「ん、今日はこのまま女子会だろ。風呂は?」

「入る!」

「迎えは?」

「要る!」

「りょ~かい。すまん真実、芦花。終わったら連絡くれ」

「毎回律儀だよねぇ」

「わたしらまで送ってくれなくて良いのに~」

「こんな美人連中、深夜に歩かせるほうが不安になんだわ」

「「そういうトコ~」」

 

二人は顔を見合わせて、声をそろえた。

 

「かぐやたちも隼斗にそういうこと言われた~い~」

「はいは~い、予約お願いしま~す。八千年待ち?」

「あと一年もせずに言ってやるよ」

 

ぺっぺっ、と手を振り女子5人(タブレット含む)を部屋外に追いやる隼斗。

空のコーヒーカップを片付けながら。

 

「十年か。短いようで長かったなぁ。随分と待たせちまった」

 

感傷に浸ったように、壁にかけられたカレンダーを見て目を細める。

 

「やっとここまで来れたぜ」

 

完全無欠の大団円のハッピーエンドまで、あと少し。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ……んぅ」

「……わぁ」

「おはよ!二人とも」

 

まず目に入ったのは、目の前でペンを振る、彩葉の姿。

瞬きをするたびに、視界が途切れた。

 

「うっ、うわ……おっも~」

「ぅえ~……身体ってこんなんだったっけぇ~」

 

手のひらを握ったり、開いたり。

皮膚が擦れる感覚。

呼吸で胸が上下する感覚。

――生きてる。

 

「ヤチヨはKG型のボディよりYC型のほうが、かぐやは逆の方が適合するねぇ」

「「はっ!パンケーキ!」」

 

声をそろえてじゅるり、と涎を啜る二人。

電子パッドにメモを取りながら苦笑する彩葉。

 

「っふふ、義体での実証はもうちょいお待ちあれ」

「も~、一秒だって待てないのに~!」

「あれ?隼斗は?」

 

 

 

 

「いま隼斗は───」

「おまちどうさまっ、と」

 

両手になにか平たいものを大量に乗せた皿を持ちながら、隼斗が入室してくる。

どんっ、とテーブルの上にそれを載せて。

 

「ご所望のパンケーキだぞ、ご査収くださ~い」

「おいこら、なんだこれ」

「こいつらの希望だぞ。いやマジで。副所長嘘吐かない」

 

皿に乗っていたのは、あの頃の彩葉が画期的節約飯、と称していた「粉と水のパンケーキ」。

もう待てないといわんばかりに二人がそれに殺到して、開口一番。

 

「「うぇ~クソ不味ィ……」」

「味覚機能は正常だな」

「あんたと私で作ったんだから当然、なんだけどなんか納得いかない」

「さて、それじゃ」

 

隼斗は一度退室し、大量のアレンジ用の調味料、具材を持参し、所狭しと並べる。

 

「調整がてらな、『所長のかわいそうなパンケーキリメイクしてみた』、やろうぜ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『今生に間に合った、かぐやの復活ライブ!

 現実とツクヨミ同時開催で、ヤチヨと舞い踊ります!

 しかも!オープニングアクトは、特別ゲスト!』

「オタ公の野郎……ハードル上げやがって」

 

月面出張完了!!!ただいまー!!!』と、

かぐやの直筆で書かれたメッセージがディスプレイに映し出されている。

ったく、こちとらもうアラサーだぞ。

こんな目立つ場所に引っ張り出しやがって。

……まあ、十年前は果たせなかった約束だ。

せいぜい頑張ってみますかね。

 

「はっやとー!!」

「うぉっと、あぶねえな。お前その体高ぇんだぞ?」

「へへ、隼斗は絶対受け止めてくれるじゃん!」

 

後ろから飛びついてきたかぐやを受け止める。

ちょっとその信頼が重い、体も重いが。

十年前みたいなノリで飛びつくな、腰やるわ。

 

「私もアラサーだけどステージ出るんだから、覚悟キメなさい」

「オメーは十年前もそれからもちょくちょくライブやってんだろ。

 俺はこんな大箱でやるの初めてなの」

「配信でもメン限でも何度もやってたのに~?」

「練習はな?ツクヨミの歌姫と比べねえでくれ」

 

今日持っているのはツクヨミで握っている愛刀ではなく、ギター。

それも十年前にかぐやが買ってきたものを借用してたアコギじゃない。

自分で選んだ深緑のレスポール。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ま、気軽に行ってくるわ」

「待って、隼斗。ん」

 

ライブ衣装の彩葉が拳を差し出してくる。

はいはい、あれね。

 

「おう」

 

俺も拳を差し出して、彩葉の拳に合わせた。

控えめなグータッチ。

俺と彩葉の仲良しのヤツ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あー!彩葉だけズルいー!」

「ヤッチョとかぐやも隼斗となかよしするー!」

「言い方なんとかならんか?」

 

苦笑しながら両の手のひらを差し出すと、右手をかぐやが、左手をヤチヨが上から叩く。

今度は二人が手のひらを差し出してくるので、それぞれを上から叩いてやる。

最後に二人とハイタッチ。

おれとかぐや(ヤチヨ)との、仲良しのヤツ。

 

「……へへ」

「どうした、ヤチヨ」

「手が痛いなって。ジンジンして、生きてる感じ」

「そういうこと出番前に言わんでくれ。年取って涙腺ゆるいの」

「まだヤチヨの1/10も生きてないでしょ~!」

「八千年追体験したから実質俺のが年上ですぅ~」

 

誰とは言わず、笑いがあふれた。

 

「行ってらっしゃい、隼斗!盛り上げといてくれないと承知しないんだから」

「保障はしねえぞ~」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

相棒のレスポールを持ってステージに出る。

まだ暗いステージの上からは観客の期待の籠ったざわめきが聞こえる。

 

スポットライトが点いた途端、レスポールを掲げる。

途端、耳をつんざく歓声。

数えきれないほどの深緑のペンライト。

 

─ジュンヨウーーーー!

─隼斗ーーーーー!

─お父さーーーーん!!!

 

「誰だお父さんって言ったやつ!!」

 

マイクを通してツッコむと、会場内に笑いが起きた。

 

「あー、あー。マイクテス、マイクテス。

 お前ら、十年ぶりのかぐやのライブだ。楽しみにしてたか?」

─うおおおおおおおおおお!

─当たり前だろ!

 

会場の反応に笑みを浮かべる。

 

「俺も楽しみだった。

 前んときはライブには参加できなかったからな、今回はオープニングから一緒にいてやれる。

 こんな景色見てたんだな、あいつら」

 

マイクをスタンドに取り付ける。

レスポールを軽く鳴らして調子を確かめる。

よし、チューニングバッチリ。

 

「前置きはこのくらいにして」

 

リズム隊に目を向ける。

無言で頷いてくれた。

 

「この曲は十年前からメン限でやってた曲だから、俺のリスナーは聞き飽きてるかもしれん。」

「でも、今日は許してくれや」

 

 

 

 

そんじゃ、一曲目。

 

 

 

 

──自分を世界さえも変えてしまえそうな──

──瞬間はいつもすぐそばに──

 

 

 

 

 

 

『COLORS』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




tdzさん、ROSOさん、感想いただきありがとうございます。

ユウ・十六夜さん、評価いただきありがとうございます。

お気に入り登録いただいた方々もありがとうございます。
とても励みになります。

本作としては一旦完結となりますが、もうちっとだけ番外編が続くんじゃ。

また、活動報告の方でネタの募集も始めておりますので、ご一読いただければと思います。
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