Ex.十年後①
「隼斗が手を出してこないっ!!」
三杯目のジョッキをテーブルにドンっと置きながら、胸に溜まったものを吐き出した。
「彩葉、吞みすぎじゃない?」
「飲まずにはいられないッ!」
「酒寄だけに?」
「ヤッチョのせいかなぁ、言葉がネットミーム寄りになってる」
「兄のそういう話、ちょっと聞きたくないんですけど」
ついこの間二十歳の誕生日を迎えた鶫ちゃんがカクテルのグラスを傾けながらジト目で見てくる。
そんなこと言われたって……。
「もう十年一緒に住んでるのよ、甘い雰囲気にくらいなってもいいじゃないのよ……」
「隼斗くん、もうお父さんの貫禄なんだけどねぇ」
双子のお母さんの真実が唐揚げをつまみながら言う。
くそぅ、持つ者の余裕か。
「まあ、彩葉たちってそういうのすっ飛ばして家族になっちゃったみたいなものだしね」
「わたしにだって『そういうの』に憧れはあるの芦花ぁ~~~」
赤ワインのグラスを揺らす芦花。
絵になるなぁ。
「こちとら未だにちゃんとしたデートの回数すら数えられるのよ!?」
「えっ?かぐやとヤチヨは隼斗のバイクとか車乗せてもらったりしてるよ?」
「しっ、今それ言っちゃうと藪蛇だよ」
聞き捨てならん!
「どこ行ったの」
「い、彩葉、目が座ってるよ」
「どこ行ったの」
「彩葉、お水飲んだほうが良いとヤッチョは思うな~」
「どこ!行った!の!」
詰め寄ると、かぐやとヤチヨは渋々口を開いた。
「か、かぐやは一番最近だと……日光かな?紅葉見に行ったよ」
「泊りで!?」
「う、うん」
「一緒の部屋で!?」
「う、うん。そっちの方が楽しいじゃん!って言ったら」
ジョッキに残ったビールを喉に流し込む。
真実の手元の注文用タブレットを奪い取って、次のジョッキを頼む。
まとめて2杯。
「ヤチヨは」
「ヤッチョは~色々行ってるからなぁ~」
「……いろいろ?」
可愛らしく指を顎に添えながら、小首を傾げるヤチヨ。
クソッ、顔が良い。
「河口湖にキャンプも行ったし、熱田神宮にお参りにも行ったんだ。
あ、厳島の鳥居も凄かったな~。ホントにツクヨミの鳥居みたいで」
「ぜ、全部……泊りで……?」
「うん。キャンプは同じテント」
「」
「ヤチヨちゃん、ちょっと一旦レフェリーストップで」
視界の端で、真実が「うわぁ」って顔をした。
芦花の声が耳には入ってくるけど、頭に入ってこない。
わ、わたしだけ……わたしだけ……。
「そういえば兄さん、雷さんとも良く旅行に行ってますよね」
「雷って旅が好きらしいよ、帝が言ってた!」
「隼斗、旅も運転も好きだから気が合うんだろうね~」
「ご当地グルメ目的らしいよ、SNS見ると」
…………えっ。
「男の人にまで負けてるの、わたし!?」
テーブルに突っ伏した。
……あ、ビール来た。
「うーん、まあでも仕方ない面もあるんじゃない?
所長と副所長が休み合わせると、回らないこともありそうだけど」
「それはそうだけどぉ」
それでも、二人の義体が完成してからは融通が利くようになっている。
それに酒寄研究所は業界屈指のホワイトで、土日祝はお休みだ。
……いままで突っ走ってきたツケなのかな、これ。
「もしかして隼斗って、『そういうの』あんまり興味ないのかな。……女の人とか」
「や~そんなことないと思うけどな~」
ヤチヨが升を傾ける。
……その言い方、なんか知ってる感じなんだけど。
「だって、女性に興味なかったら『下着の洗濯分けろ』とか、
脱衣所に『利用中』のプレート付けたりしなくない?」
「あー、そういえば引っ越しのとき、かぐやの下着の段ボール開けて固まってた!」
「あんたお兄ちゃんにそんなことさせてたのかぐや」
鶫ちゃんがかぐやのほっぺを引っ張る。
いひゃいいひゃい~!と騒ぐかぐや。
「……それにしては、こう……。
隼斗が『そういう』……欲とか、そういうのある感じしないんだけど」
「そりゃ、ヤッチョたちに気を使ってくれてるからね~。
少なくともウチではそういうのしてないよ」
鶫ちゃんに伸ばされたかぐやのほっぺが赤くなっている。
……なんか、ヤチヨやけに知りすぎじゃない?
「……ま~ヤッチョは電子の歌姫ですから?
隼斗の検索履歴とかGPSログとか、なんとな~く見れちゃうし、ね?」
「『ね?』じゃなくない!?」
「ほら、健康管理とか安全確認とか~……浮気調査とか、諸々兼ねて?」
「監視じゃん!!隼斗のプライバシーは!?」
「ねえヤチヨ~それかぐやも見れる?」
「見ようと思えば見れるよ~」
犯罪でしょ!?
「ヤチヨちゃんも彩葉と別方向で重いよね」
「……まぁ八千年だからねぇ」
「じゃあ仕方ないか……」
「仕方なくないし、お兄ちゃんのそういうのホントに聞きたくないんですけど」
芦花、真実、絶対仕方なくないから。
鶫ちゃん、ゴメンけど今日はもう諦めて。
「あっ!そうだ!」
と、かぐやが復活した。
……大体こういう時はロクなことにならないけど、一応聞いてあげようではないか。
「温泉行こ!みんなで!」
……えぇ?
「温泉!卓球!浴衣!散策!同じ部屋!並べられたお布団!絶対隼斗も
「いや、あの、かぐや……」
「あっ、貸切あるところがいいよね~」
「ヤチヨ?」
「お部屋に露店風呂あるとこ探しとくね~」
「ヤチヨさん???」
「隼斗、準備して」
「あん?今日なんかあったっけか」
「草津行くよ。かぐやとヤチヨと四人で」
「はい?」
「車出してもらうから」
「急すぎんか???」
「二人分の有給はもう取ってあるから」
「用意も周到すぎる」
「予約済みだから」
「……まぁ、たまには良いか。ゆっくりすんのも」
「……おんなじ部屋だからね」
「ちょっと待って、それは話が違いませんか彩葉さん」
「もう待たない。四人一部屋だから」
「」
マツマッピーさん、パトブルペルさん、大雷 ミナトさん、yuu-01さん、夜神桜さん、暴走者さん、評価いただきありがとうございます。
tdzさん、ROSOさん、感想いただきありがとうございます。
文才の無い本の虫さん、感想に続き評価いただきありがとうございます。
お気に入り登録いただいた方々もありがとうございます。
とても励みになります。
活動報告の方でネタの募集も始めておりますので、ご一読いただければと思います。