「……はっ!?ここは!?」
「隼斗運転お疲れ~」
「ヤチヨ?いや待ってここどこ。俺まともに運転できてた?」
「覚えてないの?サービスエリアでご飯食べてたのに?」
「マジ?」
「彩葉に『舞茸天そば』おすすめして、自分は『赤城どり天丼』食べてたよ」
「そう言われると天丼のたれみたいな味が口内に……」
……んで、結局ここどこだ?
パッと見ただの駐車場なんだけど。
……な~んか硫黄の臭いがすんなぁ。
空気も妙~に冷てえなあ。
……山の温泉地?
「なんか彩葉に『四人一部屋で温泉行くよ』って言われたくらいから記憶があいまいで」
「ええ……?テキパキとお泊りセット準備してたよ?」
「記憶にございませんな……」
……ん?かぐやと彩葉は?
「隼斗ー!温泉まんじゅう買ってきたー!!」
「最後だろそれ」
マジで草津かぁ……。
マジかぁ……。
「来ちまったモンは仕方ねえか……」
まあ、温泉自体は嫌いじゃねえし。
問題はそこじゃねえしなぁ。
「ね~隼斗ぉ~。かぐや熱帯圏行きたいなぁ。
ヘビを首に巻いたりとか、ワニいたりとか。カピバラの赤ちゃんもいるんだって~!」
「ちょっと興味あるな」
かぐやと一緒に車に戻ってきた彩葉がボソッと言った。
「お部屋にお風呂ついてるからね」
「……露天?」
「露天」
やっぱ帰ろっかな。
「うーわぁ、マジで部屋に露天風呂あるぅ……」
「すっごーい!ホテルなのにキッチンある!」
「ミニキッチンだけどね~」
「寝室は和室と洋室あるからね」
逃げ場がないんだが。
「かぐやベッドー!」
「ヤッチョもベッド~!」
「ちょっと待て」
そうなると俺と彩葉で和室になるだろ!
「ねえ、大浴場行こうよ!そんで浴衣でお散歩行こ!」
「よし行こう、すぐ行こう」
部屋にいると意識しちまう。
大浴場はさすがに男女別だろ。
ちょっと一人でこの変な汗流そう。
「……意識は、してくれてるんだ」
誰かが、ぽつりと小さく呟いた。
「誰かなんか言ったか?」
「ヤッチョが温泉楽しみだな~って、ね?彩葉」
「う、うん」
彩葉がなにかを誤魔化すみたいに荷物を探っていた。
「「くっせぇ~」」
「まあ硫黄の臭いって癖あるよな」
「ダメな人はホントダメよね」
いやぁいい湯だった。
部屋戻った後のことはとりあえず考えないようにしよう。
今は散策楽しもう、うん。
「隼斗見てー!温泉プリン!」
「ヤッチョは地鶏たまごソフト~!」
「おー、彩葉のそれは?」
「クリーム白玉蒟蒻あんみつ。……隼斗のは?」
「おかき」
「なんで温泉街来ておかきなのよ」
「いや名物なんだぞこれ。焼き立て」
気付けば両手に食い物を抱えながら、温泉街をぶらついていた。
「彩葉彩葉!温泉卵!」
「あんたまだ食べるの?」
「お饅頭屋さん多いね~」
「まあ名物だしな」
「隼斗!お土産屋さん見たい!」
「まだ早いだろ」
「……お兄ちゃんはよくわかんないの買ってきてたけど、
隼斗も小さいころ剣のキーホルダー買ったりしたの?」
「買うだろそりゃ」
「買うんだ」
「ドラゴンが珠握ってるやつな」
「いまかぐやが買ってるようなヤツ?」
「お目が高いわアイツ」
「……子供っぽいところは変わってないんだ」
「ふっふっふ、甘いねかぐや」
「なんだと!?」
「ヤッチョは日本刀型だよ!しかも鞘から抜けるやつ!」
「くっ、くそ!」
「ヤチヨもセンスあるわ。日本刀嫌いなガキなんていねえ」
「なにやってんのあんたら」
西の河原通りを冷やかしながら歩いて。
「うわーすっごい、公園の川から湯気出てる~」
「はーなるほど、『鬼の泉水』ってのも頷けるわ」
「足湯もあるね~」
「うわ、あの滝も温泉なんだ……」
「ライトアップもすご~」
西の河原公園を散策したり。
「彩葉、隼斗!公園の奥にも温泉あるんだって!入れるやつ!」
「へー、足湯か?」
「ううん、おっきい露天風呂!」
「よし帰ろう」
「しかも毎週金曜日は混浴なんだって~」
「ふ、ふ~ん。隼斗、ちょっと行ってみる?」
「ダメ」
「そ、そんな否定しなくても」
「絶対ェダメ」
……お前らが他のヤツに見られるとか、なんかちょっと許せん。
「ちなみに言っとくけど~」
「……なんだよ、ヤチヨ」
「湯浴み着の貸し出し、あるからね?」
「だとしても、ダメ」
「……ふぅ~ん」
……なんだよその意味深なの。
「ほ、ほら、そろそろ宿戻ろ。ご飯の時間だし」
「そうだな、戻るか」
「「は~い」」
危ねぇ。
このまま話続いてたら、絶対ロクな方向行かねぇ。
……ん?なんか忘れてるような。
宿に戻って数分後。
テーブルいっぱいに並んだ料理を前に、俺はようやく思い出した。
「そーだった、宿戻るってことはそうだよなそりゃ」
「「「かんぱ~い!」」」
「……乾杯」
……俺も酔ったほうが楽かなぁ色々。
彩葉がやけに近い。
というか座る距離がおかしい。
そんなに椅子近づける必要あるか?
部屋じゃなくて他の客もいる食事会場だぞ、ここ。
あーもういいや。
ジョッキの生ビールを一気に飲み干す。
すんません。
マッカランロックで。
「一気に酔いが覚めたわ、どうすんだこれ」
部屋に戻って和室のふすまを開けた瞬間、冷水を浴びせられたように一気に目が覚めた。
……布団が並べられて敷いてある。
そーりゃそうだよな。
クソッ、なんで妙に頭冴えてんだよ。
「……かぐや、ヤチヨ。どっちか寝床変わんねえ?」
「ヤッチョも~~~おねむ~~~」
「え~かぐやベッドでバインバインしたい~」
宿のベッドで跳ねるなよ。
っていうかもうやってたわコイツ昼間に。
……かぐやのベッドで寝るってのもなぁ、ちょっとなぁ……。
ヤチヨは浴衣ぐしゃぐしゃでもう布団に沈んでるし……。
あーもうはだけてる、かぐやそれなんとかしてくれ。
つーかお前も暴れんな。
「……ただ隣で寝るだけだろ。昔もあったろそんなん」
……とりあえず旅館のあのスペースで一服すっか……。
和室の奥の小さい広縁に移動して、煙草を一本取り出して咥える。
ジッポで火をつけようとしたところ……。
「……全館禁煙じゃねえか」
頭ん中ぐちゃぐちゃな時はこれが一番まとまるんだがなぁ……。
駄目だ頭冷やそう。
咥えた煙草をしまって窓を開ける。
冬の初めの冷たい風が茹だった頭を冷やす。
ぴちょん、と水音がやけに大きく聞こえた。
…………あー、もう。
そういえば露天風呂付きだったわ、この部屋。
「あ、隼斗……」
あー聞こえちゃいけない声が聞こえちゃいけない場所から聞こえた!
「……風呂、入ってたんだな」
「うん、ちょっとね。お酒入ったら汗掻いちゃって」
少しだけ舌が回ってない声だった。
「飲酒後の風呂はあんま良くねえぞ」
「分かってるけど、何かあっても隼斗いるし……ねえ隼斗」
「なんだよ」
「首、痛くないの?」
「めっちゃ痛めたけど嫁入り前の肌見るよりマシだろ」
声が聞こえた瞬間、防衛本能で反対側に首を回した結果、変な筋痛めたっぽい……。
「……湯船浸かってるし、多分見えないからこっち向いてくれない?」
「お前俺の目のこと忘れた?」
「ほら、暗いし」
「鳥目ってか。やかましいわ」
ちゃぷ、と水の揺れる音。
あー意識すんな、意識すんな。
くっそ、かぐやはなんでいま静かなんだよ。
はしゃげよ、今だろ。
「……ありがとね、隼斗」
「あん?何が」
「いろいろと。今日もそうだし……今までも」
「今更だろ」
「そうかもね。……でも、言っておきたかったの」
旅行ハイとアルコールのせいか、いつになく饒舌だ。
「なんだよ、湿っぽいな」
「……隼斗、覚えてる?『わたしを手伝ってほしい』って言った時のこと」
「そんなこともあったか」
「あの時さ、隼斗は『今はお前のやりたいことに付き合う方が面白そうだ』、
『細かいことはその時考える』って言ってたじゃん」
「……んなこと言ってたか?」
少し間が空いた。
続いて、小さな溜息。
「なんでわたしの方が憶えてんの」
ちょっと拗ねたような声。
「……かぐやとヤチヨの体も出来たしさ。隼斗も、わたしの手伝いじゃなくって、
自分の好きなこと───」
「おう、次はなにするよ?」
「……えっ?」
ばしゃっと、激しい水音。
おい湯船から立ったろ。
そんな変なこと言ったかよ俺。
「あん?目先のゴールが終わっただけだろ。まだまだあるだろ、やることは」
「いや、そうじゃなくて!」
また、ばしゃっと激しい水音。
……座ったか?
「隼斗も、自分のやりたいことやればって言ってるの!
この十年、わたしに付き合わせたんだから。
……遅いかもしれないけど、今からでも……」
「おいおい、なんか勘違いしてねえか」
コイツ俺の性格忘れたか?
基本、嫌なことはやりたくねえ男だぞ。
「俺が一緒にかぐやを迎えに行ったってだけで、この十年付き合ってきたと思ってんのか?」
「……違うの?」
「随分見くびられたもんだな」
そりゃ、ちょっと癪だわ。
「あのな、十年だぞ。十年。んな長い間責任感だけでやってられっかよ」
「……後悔してないの?」
「あん時も言ったけど、もっかい言うぞ」
「お前は後悔させてくれるような奴じゃねえだろ。
この十年であん時の選択を後悔したことなんて一度もねえよ」
ちゃぷ、とまた水音。
……待て待て待て足音するんだが。
せめてバスタオル巻け!!
「憶えてんじゃん。こっち向いてよ」
「向けるわけねえだろ」
「……じゃあ私も勝手にする」
背中が温かい。
浴衣が濡れる。
後ろから抱き着かれた。
「……おい、酔ってるだろ」
「酔ってる、けど、本気」
もう初冬だというのに、背中が熱い。
彩葉の体温なのか、それとも俺の緊張か。
「……好き」
「……素面で言え」
「言えへんから、こんな状況作ったんやん」
「オメーとの関係を、酒のせいにしたくねえんだよ」
腹に回された腕に、力が入る。
「……ほんなら、お酒なしやったら聞いてくれるんか?」
「……ああ」
「……わかった」
腕が解ける。
ぺたぺたとした足音の後、タオルで身体を拭く音。
……助かった、のか?
「ほな、今日のとこは我慢しとく」
「……なんか含みのある言い方だな、おい」
「……だって、明日も予約取っとるもん。この部屋」
完ッ全に外堀埋められてた。
……とりあえず、替えの浴衣取りに行こう。
背中濡れちまって寒ぃわ。
部屋のドアを開けて、フロントへ向かう。
ついでに喫煙所探して一服しよう。
……今日、寝れる気がしねえなぁ。
LOKI PRIMEさん、龍爺さん、閃光羅刹さん、グローイングマイティさん、紫電 .さん、俺はスポーツマンだ!!さん、閃式さん、月影時雨さん、クロ0805さん、評価いただきありがとうございます。
いあいあニャル様さん、ROSOさん、SG1さん、感想いただきありがとうございます。
エルウェストさん、感想に続き評価いただきありがとうございます。
お気に入り登録いただいた方々もありがとうございます。
とても励みになります。
活動報告の方でネタの募集も始めておりますので、ご一読いただければと思います。