今日も世話を焼く   作:ディアーリーズ

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Ex.十年後②

「……はっ!?ここは!?」

「隼斗運転お疲れ~」

「ヤチヨ?いや待ってここどこ。俺まともに運転できてた?」

「覚えてないの?サービスエリアでご飯食べてたのに?」

「マジ?」

「彩葉に『舞茸天そば』おすすめして、自分は『赤城どり天丼』食べてたよ」

「そう言われると天丼のたれみたいな味が口内に……」

 

……んで、結局ここどこだ?

パッと見ただの駐車場なんだけど。

……な~んか硫黄の臭いがすんなぁ。

空気も妙~に冷てえなあ。

……山の温泉地?

 

「なんか彩葉に『四人一部屋で温泉行くよ』って言われたくらいから記憶があいまいで」

「ええ……?テキパキとお泊りセット準備してたよ?」

「記憶にございませんな……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……ん?かぐやと彩葉は?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「隼斗ー!温泉まんじゅう買ってきたー!!」

「最後だろそれ」

 

マジで草津かぁ……。

マジかぁ……。

 

「来ちまったモンは仕方ねえか……」

 

まあ、温泉自体は嫌いじゃねえし。

問題はそこじゃねえしなぁ。

 

「ね~隼斗ぉ~。かぐや熱帯圏行きたいなぁ。

 ヘビを首に巻いたりとか、ワニいたりとか。カピバラの赤ちゃんもいるんだって~!」

「ちょっと興味あるな」

 

かぐやと一緒に車に戻ってきた彩葉がボソッと言った。

 

「お部屋にお風呂ついてるからね」

「……露天?」

「露天」

 

 

 

 

やっぱ帰ろっかな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うーわぁ、マジで部屋に露天風呂あるぅ……」

「すっごーい!ホテルなのにキッチンある!」

「ミニキッチンだけどね~」

「寝室は和室と洋室あるからね」

 

逃げ場がないんだが。

 

「かぐやベッドー!」

「ヤッチョもベッド~!」

「ちょっと待て」

 

そうなると俺と彩葉で和室になるだろ!

 

「ねえ、大浴場行こうよ!そんで浴衣でお散歩行こ!」

「よし行こう、すぐ行こう」

 

部屋にいると意識しちまう。

大浴場はさすがに男女別だろ。

ちょっと一人でこの変な汗流そう。

 

 

 

 

 

「……意識は、してくれてるんだ」

 

 

 

 

 

誰かが、ぽつりと小さく呟いた。

 

「誰かなんか言ったか?」

「ヤッチョが温泉楽しみだな~って、ね?彩葉」

「う、うん」

 

彩葉がなにかを誤魔化すみたいに荷物を探っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「くっせぇ~」」

「まあ硫黄の臭いって癖あるよな」

「ダメな人はホントダメよね」

 

いやぁいい湯だった。

部屋戻った後のことはとりあえず考えないようにしよう。

今は散策楽しもう、うん。

 

「隼斗見てー!温泉プリン!」

「ヤッチョは地鶏たまごソフト~!」

「おー、彩葉のそれは?」

「クリーム白玉蒟蒻あんみつ。……隼斗のは?」

「おかき」

「なんで温泉街来ておかきなのよ」

「いや名物なんだぞこれ。焼き立て」

 

気付けば両手に食い物を抱えながら、温泉街をぶらついていた。

 

「彩葉彩葉!温泉卵!」

「あんたまだ食べるの?」

「お饅頭屋さん多いね~」

「まあ名物だしな」

「隼斗!お土産屋さん見たい!」

「まだ早いだろ」

「……お兄ちゃんはよくわかんないの買ってきてたけど、

 隼斗も小さいころ剣のキーホルダー買ったりしたの?」

「買うだろそりゃ」

「買うんだ」

「ドラゴンが珠握ってるやつな」

「いまかぐやが買ってるようなヤツ?」

「お目が高いわアイツ」

「……子供っぽいところは変わってないんだ」

「ふっふっふ、甘いねかぐや」

「なんだと!?」

「ヤッチョは日本刀型だよ!しかも鞘から抜けるやつ!」

「くっ、くそ!」

「ヤチヨもセンスあるわ。日本刀嫌いなガキなんていねえ」

「なにやってんのあんたら」

 

西の河原通りを冷やかしながら歩いて。

 

「うわーすっごい、公園の川から湯気出てる~」

「はーなるほど、『鬼の泉水』ってのも頷けるわ」

「足湯もあるね~」

「うわ、あの滝も温泉なんだ……」

「ライトアップもすご~」

 

西の河原公園を散策したり。

 

「彩葉、隼斗!公園の奥にも温泉あるんだって!入れるやつ!」

「へー、足湯か?」

「ううん、おっきい露天風呂!」

「よし帰ろう」

「しかも毎週金曜日は混浴なんだって~」

「ふ、ふ~ん。隼斗、ちょっと行ってみる?」

「ダメ」

「そ、そんな否定しなくても」

「絶対ェダメ」

 

 

……お前らが他のヤツに見られるとか、なんかちょっと許せん。

 

 

「ちなみに言っとくけど~」

「……なんだよ、ヤチヨ」

「湯浴み着の貸し出し、あるからね?」

「だとしても、ダメ」

「……ふぅ~ん」

 

……なんだよその意味深なの。

 

「ほ、ほら、そろそろ宿戻ろ。ご飯の時間だし」

「そうだな、戻るか」

「「は~い」」

 

危ねぇ。

このまま話続いてたら、絶対ロクな方向行かねぇ。

……ん?なんか忘れてるような。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

宿に戻って数分後。

テーブルいっぱいに並んだ料理を前に、俺はようやく思い出した。

 

「そーだった、宿戻るってことはそうだよなそりゃ」

「「「かんぱ~い!」」」

「……乾杯」

 

……俺も酔ったほうが楽かなぁ色々。

彩葉がやけに近い。

というか座る距離がおかしい。

そんなに椅子近づける必要あるか?

部屋じゃなくて他の客もいる食事会場だぞ、ここ。

あーもういいや。

 

ジョッキの生ビールを一気に飲み干す。

すんません。

マッカランロックで。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「一気に酔いが覚めたわ、どうすんだこれ」

 

部屋に戻って和室のふすまを開けた瞬間、冷水を浴びせられたように一気に目が覚めた。

……布団が並べられて敷いてある。

そーりゃそうだよな。

クソッ、なんで妙に頭冴えてんだよ。

 

「……かぐや、ヤチヨ。どっちか寝床変わんねえ?」

「ヤッチョも~~~おねむ~~~」

「え~かぐやベッドでバインバインしたい~」

 

宿のベッドで跳ねるなよ。

っていうかもうやってたわコイツ昼間に。

……かぐやのベッドで寝るってのもなぁ、ちょっとなぁ……。

ヤチヨは浴衣ぐしゃぐしゃでもう布団に沈んでるし……。

あーもうはだけてる、かぐやそれなんとかしてくれ。

つーかお前も暴れんな。

 

「……ただ隣で寝るだけだろ。昔もあったろそんなん」

 

……とりあえず旅館のあのスペースで一服すっか……。

和室の奥の小さい広縁に移動して、煙草を一本取り出して咥える。

ジッポで火をつけようとしたところ……。

 

「……全館禁煙じゃねえか」

 

頭ん中ぐちゃぐちゃな時はこれが一番まとまるんだがなぁ……。

駄目だ頭冷やそう。

咥えた煙草をしまって窓を開ける。

冬の初めの冷たい風が茹だった頭を冷やす。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ぴちょん、と水音がやけに大きく聞こえた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…………あー、もう。

そういえば露天風呂付きだったわ、この部屋。

 

「あ、隼斗……」

 

あー聞こえちゃいけない声が聞こえちゃいけない場所から聞こえた!

 

「……風呂、入ってたんだな」

「うん、ちょっとね。お酒入ったら汗掻いちゃって」

 

少しだけ舌が回ってない声だった。

 

「飲酒後の風呂はあんま良くねえぞ」

「分かってるけど、何かあっても隼斗いるし……ねえ隼斗」

「なんだよ」

「首、痛くないの?」

「めっちゃ痛めたけど嫁入り前の肌見るよりマシだろ」

 

声が聞こえた瞬間、防衛本能で反対側に首を回した結果、変な筋痛めたっぽい……。

 

「……湯船浸かってるし、多分見えないからこっち向いてくれない?」

「お前俺の目のこと忘れた?」

「ほら、暗いし」

「鳥目ってか。やかましいわ」

 

ちゃぷ、と水の揺れる音。

あー意識すんな、意識すんな。

くっそ、かぐやはなんでいま静かなんだよ。

はしゃげよ、今だろ。

 

「……ありがとね、隼斗」

「あん?何が」

「いろいろと。今日もそうだし……今までも」

「今更だろ」

「そうかもね。……でも、言っておきたかったの」

 

旅行ハイとアルコールのせいか、いつになく饒舌だ。

 

「なんだよ、湿っぽいな」

「……隼斗、覚えてる?『わたしを手伝ってほしい』って言った時のこと」

「そんなこともあったか」

「あの時さ、隼斗は『今はお前のやりたいことに付き合う方が面白そうだ』、

 『細かいことはその時考える』って言ってたじゃん」

「……んなこと言ってたか?」

 

少し間が空いた。

続いて、小さな溜息。

 

「なんでわたしの方が憶えてんの」

 

ちょっと拗ねたような声。

 

「……かぐやとヤチヨの体も出来たしさ。隼斗も、わたしの手伝いじゃなくって、

 自分の好きなこと───」

「おう、次はなにするよ?」

 

 

 

 

「……えっ?」

 

 

 

 

 

ばしゃっと、激しい水音。

おい湯船から立ったろ。

そんな変なこと言ったかよ俺。

 

「あん?目先のゴールが終わっただけだろ。まだまだあるだろ、やることは」

「いや、そうじゃなくて!」

 

また、ばしゃっと激しい水音。

……座ったか?

 

「隼斗も、自分のやりたいことやればって言ってるの!

 この十年、わたしに付き合わせたんだから。

 ……遅いかもしれないけど、今からでも……」

「おいおい、なんか勘違いしてねえか」

 

コイツ俺の性格忘れたか?

基本、嫌なことはやりたくねえ男だぞ。

 

「俺が一緒にかぐやを迎えに行ったってだけで、この十年付き合ってきたと思ってんのか?」

「……違うの?」

「随分見くびられたもんだな」

 

そりゃ、ちょっと癪だわ。

 

「あのな、十年だぞ。十年。んな長い間責任感だけでやってられっかよ」

「……後悔してないの?」

「あん時も言ったけど、もっかい言うぞ」

 

「お前は後悔させてくれるような奴じゃねえだろ。

 この十年であん時の選択を後悔したことなんて一度もねえよ」

 

ちゃぷ、とまた水音。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……待て待て待て足音するんだが。

せめてバスタオル巻け!!

 

「憶えてんじゃん。こっち向いてよ」

「向けるわけねえだろ」

「……じゃあ私も勝手にする」

 

背中が温かい。

浴衣が濡れる。

後ろから抱き着かれた。

 

「……おい、酔ってるだろ」

「酔ってる、けど、本気」

 

もう初冬だというのに、背中が熱い。

彩葉の体温なのか、それとも俺の緊張か。

 

「……好き」

「……素面で言え」

「言えへんから、こんな状況作ったんやん」

「オメーとの関係を、酒のせいにしたくねえんだよ」

 

腹に回された腕に、力が入る。

 

「……ほんなら、お酒なしやったら聞いてくれるんか?」

「……ああ」

「……わかった」

 

腕が解ける。

ぺたぺたとした足音の後、タオルで身体を拭く音。

……助かった、のか?

 

「ほな、今日のとこは我慢しとく」

「……なんか含みのある言い方だな、おい」

「……だって、明日も予約取っとるもん。この部屋」

 

完ッ全に外堀埋められてた。

……とりあえず、替えの浴衣取りに行こう。

背中濡れちまって寒ぃわ。

 

部屋のドアを開けて、フロントへ向かう。

ついでに喫煙所探して一服しよう。

……今日、寝れる気がしねえなぁ。

 




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