「隼斗ー!彩葉ー!ヤチヨー!!早く早くー!」
「元気だなおい……」
……眠ぃ。
ほぼ徹夜みてえなテンションだわ。
三人は朝から部屋の露天風呂入りやがって……。
大浴場行ってて良かったぜ……。
「あんまり寝れなかったみたいだけど大丈夫?」
「ま~配信やってるときはこんなもんだしな」
ヤチヨが顔を覗き込んでくる。
「昔私にあんだけ言っといて、自分が睡眠不足じゃ世話ないわね」
「……誰のせいだよ誰の」
彩葉が腰に手を当てて呆れている。
コイツ、よくそんな澄ました顔できるな……。
「お猿さんいっぱいいるよ!」
「そうだな~」
「あの水場、温泉みたいだね」
「ホントだ、湯気出てる」
今は草津熱帯圏に来ている。
サル山だの熱帯ドームだの、動物と触れ合える施設が集まった観光施設って感じだ。
「可愛い~温泉入ってる~」
「サルってホントに温泉入るんだね」
「気い付けろよ~。糞投げてくることあっから」
「「ばっちぃ~」」
かぐやとヤチヨが口を揃えた。
……息ピッタリだな。
思わず吹き出してしまった。
「ね、みんな。かぐや熱帯ドーム行きたいな!」
「先にドーム?ふれあいは後で良いの?」
「お楽しみは最後に取っとくの!」
「ヤッチョもドーム行きたーい!」
「したら向こう行くか」
二重になっているドアを潜って、ドームの中に入る。
……まあ、勿論『熱帯』とついているので。
「「あ、あっつ~い……」」
「温感機能は問題なしだな」
「発汗機能もね」
「このマッドサイエンティストどもめ~」
「人の心とかないんか~……?」
人の心があるから茶化してんだわ。
全員いきなり薄着になりやがって。
「わっ、カメの甲羅と同じ重さのリュックだって!」
「彩葉背負える~?」
「わたしはちょっといいかな。隼斗は……もう背負ってる!?」
「そりゃ背負えるなら背負いたいだろ。亀仙流だぞ」
「これ背負って修行したら元気玉使える!?」
「元気玉は界王さまに教わらないとね~」
「……何の話?」
そりゃドラゴンボールよ。
嫌いな男子いねーだろ。
……あの二人も似たような感性してるし。
「ワニデッカ!」
「ヘビなっが~」
「あ、ヘビのふれあい体験だって。……やるの?」
「「やる!」」
「おう、じゃあ写真撮ってやるよ」
「「いぇーい!」」
あー、ようやくいつもの調子に戻ってきた気ぃするわ。
「首に一周させるのは危険なので、かけるだけにしてくださいね~」
「はーい!」
「りょ~♪」
「……フリじゃねえからな~」
まあ首絞められたくらいで壊れる義体じゃねえけど。
それはそれとして職員さん驚かしちまうからな。
「楽しそうだね」
「ん?ああ、そうだな」
いつの間にか隣に来ていた彩葉。
「お前は楽しめてるか?あの二人のテンション付いてけてるか?」
「お構いなく。かぐやとヤチヨが楽しんでるの嬉しいし、私は私なりに楽しんでるから」
それならいいんだが。
「今日の晩御飯は飲み放題付けてもらってないからね」
「……今それ言うの止めねえ?」
「素面なら聞いてくれるんでしょ」
沙汰を待つ亡者の気分なんだが。
「よーし!メイン!ふれあい行くよっ!」
「うさぎとかモルモットとか、あとナマケモノとかアルマジロも居るんだって」
「フェネックもいるんだって、彩葉のお仲間~」
「確かに狐だけどさ」
「むっ、うさぎもいるからかぐやもいるよ!」
「ハヤブサいねえだろ、仲間外れにすんな」
「メンダコもいないよ~ヨヨヨ~」
「仲間外れは仲間外れ同士で仲良くしような、ヤチヨ」
「くっ、まさかヤチヨ、これを狙って……!」
乗ったけどなんだこの茶番。
「ひよこいっぱいいる~♪手に乗せちゃお~」
「モルモットって本当にぷいぷい鳴くんだ」
「割と嚙むから気ぃ付けろよ。……えっ、アトラスオオカブトいんの?コーカサスも?
テンション上がってきた」
「男の子ってカブトムシ好きだよね~」
カブトムシとクワガタが嫌いな男の子なんていねーから。
うわギラファもいる。
「「…………」」
「……なぁ、ナマケモノ見てて飽きねえ?」
「「全然」」
「さいですか……。あれ?彩葉は?」
「あっちー」
ナマケモノから目を離さずに指を差したかぐや。
その方向を見ると、フェネックにおっかなびっくり手を差し出してる彩葉。
なんだそれ可愛いな。
指をペロッと舐められて「わっ」なんて声を上げてる彩葉。
あざといなコイツも。
…………あー、寝てねえ上に暑いとこいたから疲れたわ。
ちょっと座ろ。
「……ん?おいこら、勝手に人の膝乗んなよ」
座って休憩してたらうさぎが勝手に膝の上に乗ってきた。
ぴょんじゃねえのよ。
ここ、うさぎのふれあいコーナーだったか……。
……これ寝てねえかコイツ?
「仕方ねえなもう……」
「(……かぐやとかヤチヨとかによく『あざとい』って言うけど、隼斗も大概だよね)」
「(あれ天然なんだもんね)」
「(……あざとい)」
「……にひ♪」
あー……手触り良いなぁ。
……ん?
「……なにしてんだ」
「うさぎ増えたよ?」
「……デケえうさぎだなぁ」
左手で膝の上のうさぎ、右手で金髪のうさぎを撫でる。
……十年前と変わんねえなぁ、これじゃ。
「ずる~い。今度はヤッチョの番~♪」
「ああんはや~いぃ」
「順番待ち発生してんのこれ?」
べりっとかぐやを剥がして今度はヤチヨが来た。
「メンダコがきたよ~♪」
「メンダコのふれあいも出来んのかぁ」
白髪のメンダコを撫でる。
気持ちよさそうに目を細めた。
…………頑張って良かったなぁ。
二人のこんな顔を見られるなら、十年なんてあっという間だった。
「(ほら、彩葉!行きなよ!)」
「(流石に恥ずいって!)」
「(なに言ってんの!昨日裸で迫ったくせに!)」
「なっ、あんた起きてたの!?」
「(声が大きいって!)」
「なあ、
「なぁに?」
「いま、幸せか?」
「……ふふっ」
「(大丈夫だった、なんか向こうエモいやり取りしてた!)」
「(あの後にわたし行くの!?)」
「隼斗と彩葉のおかげで、ちゃんと幸せだよ」
「……そうか。なら良かった」
「(ほら、今!今行けるって!ヤチヨはかぐやが剥がしに行くから!GoGoGo!)」
「(ええい!昨日あんだけやったんだから、今さらこの程度……!)」
「は~い、メンダコの時間終了でーす。今度は狐さんが来ますからね~」
「ヴェ~早いよぉ~」
「ローテーションなの?シフト制なの?」
かぐやがヤチヨを剥がして連れてった。
代わりに彩葉が隣に来て。
「こ……コンコン……」
「あざとすぎるって」
なんだコイツ可愛いな。
……まあ、仲間外れにするわけにもいかんか。
「んっ……」
黒髪の狐を撫でる。
気持ちよさそうに目を細めて、肩に頭を預けてきた。
……体温高ぇなコイツ。
「(写真撮っちゃお)」
「(じゃあヤッチョは正面から行くね)」
「(正面は危なくない!?)」
「(今の隼斗ならイケる!完全に油断してるから!こんなチャンス次八千年はこないから!)」
「(流石に八千年は隼斗気ぃ張りすぎって話になるよ!)」
……しかし膝の上のコイツは起きねえなぁ。
無理やり退かすのはしのびねえんだけどな……。
……まあ、良いか。
この十年走り続けてきたんだ。
こういう時くらい、彩葉も俺もゆっくりして良いだろ。
結局、うさぎが起きるまで俺は彩葉を撫で続け。
しびれを切らしたヤチヨは左隣に、かぐやは背中に引っ付いて、
「「ま~だ~?」」と急かしてくるのだった。
……俺も足痺れてきたんだからもうちょっとだけ待ってくれ、コイツ全然起きん。
「……で、素面の状態だけど」
「……はい」
「聞いてくれるのよね?」
宿に戻り、夕食を食べ、部屋に戻った後。
布団に正座し激詰めされている男ありけり。
というか俺だった。
「そりゃ、勿論」
「……なんで正座してるの?」
「雰囲気的に……」
「なんか浮気を叱ってるみたいになるから、やめてそれ」
「はい……」
すごすごと足を崩す。
「……あっちで話そっか」
と、彩葉は広縁を指差した。
「……ほれ、コーヒー」
「ありがと」
ミニキッチンで淹れてきたコーヒーを彩葉に手渡す。
暖房は入っているとはいえ、広縁は窓越しの冷気で少し肌寒い。
「……いつも飲んでるのとは違うね」
「そりゃアメニティのだからな」
コーヒーを啜りながら答えた。
……美味いけどな、これも。
「隼斗が淹れてくれるやつの方が好きだな」
「そりゃ光栄なこって」
少し沈黙が流れた。
「……本題に入れよ」
「……今日、月綺麗だね」
「まだ死ぬわけにゃいかないだろ」
再び、沈黙。
湯気の立つコーヒーを抱えながら、彩葉は目を伏せた。
「……私は、隼斗のことが、好き」
「……おう」
「でも、かぐやのことも好き。ヤチヨのことも好き」
「奇遇だな」
ぴくり、と。
彩葉は肩を弾ませた。
「……だから、この関係を壊したくなかった。
進めようとしたら、壊れちゃうんじゃないかって怖かった」
そこで彩葉は一度言葉を切った。
覚悟を決めるように、息を吸った。
「私は、隼斗と、かぐやと、ヤチヨ。全員と一緒におりたい。
みんな好きで、順番なんて決められへんから。
そやったら、今の関係性のまんま、進めちゃえばええんやって」
「……なんかそれ、昔かぐやも言ってたな。コラボライブん時」
『彩葉と隼斗と結婚しよっかな~↑』とか。
「……じゃあまず、帰ったら行かなきゃいけねえところがあるな」
「……どこ?」
「朝日んところと、……お前の実家。京都だっけか」
「それって……」
目を丸くして、ようやく俺の目を見た彩葉。
その目は涙で潤んで、反対に頬は緩んでいる。
「……四人じゃ、まともな結婚の形にはなんねえけどさ。
それでも俺は、お前らと生きるって決めたから。筋は通しておかなきゃよ」
「……じゃあ、私たちも隼斗のおうちに行かなね」
「いらんいらん。こっちは鶫とお袋がうるせえだけだわ」
テキトーにメッセージ入れとくわ、と言おうとしたら、彩葉に手を繋がれた。
繋がれた手が少しだけ震えている。
震えを止めてやるように、少しだけ力を入れて握り返した。
後ろの方から、空気をブチ壊すような「ドタタッ」という音が聞こえた。
ゆっくり、ゆっくり振り返る。
洋室のドアから盛大にすっ転んだかぐや。
その背中に、巻き添えになったヤチヨが折り重なっていた。
二人ともテヘヘ、といった顔で舌を出している。
「……お前らなぁ、のぞき見、盗聴は犯罪だぞ?」
「かぐやたち月人だも~ん」
「日本国の国籍無いも~ん」
「理屈通ってる屁理屈言いやがって」
いつものやり取りに彩葉が吹き出して笑った。
二人が広縁に駆け寄ってくる。
かぐやが彩葉の後ろに、ヤチヨが俺の後ろに位置取った。
そしてそのまま、にやけた顔のまま両手で顔を抑えて振り向かされ───
「っ、あんたらねえ!」
「いや~感極まっちゃって!」
「隼斗のふぁーすときす奪っちゃった~♪」
「いやちょっ、わたしのファーストキス返して!?」
かぐやと彩葉。
俺とヤチヨ。
それぞれのシルエットが重なった。
……こいつらは本当に。
「まあノーカンっしょ!かぐやたち義体だし!」
「……にしても隼斗は動揺してないねえ、ヤッチョの初めてなのに。
……もしかして初めてじゃなかったり?」
「…………ノーコメント」
「キリキリ吐きや、どこで捧げてきたん?」
「圧が強ぇ」
……これ俺だけの恥じゃねえんだよなぁ……。
「……3歳の頃の鶫に」
「「「あっ」」」
ほら、こうなるから噤んでたんだよ口を。
目を逸らしていると、彩葉が一度だけ、かぐやとヤチヨを見た。
二人がにやにやしながら頷く。
「…………」
「ちょっ、んっ」
覚悟を決めた顔の彩葉に、そのまま唇を奪われた。
ちょっ、待っ、舌入れ──!?
「うわぁーぉ……」
「目の前でされると……」
お前らも顔赤くしてんな!
指の間から見えてるだろそれ!
「……ぷはっ」
「頭茹だりそうなんだけど」
彩葉が真っ赤な顔のまま、椅子から離れる。
逃げるみたいにかぐやの後ろに隠れた。
「大丈夫そ~?」
「これからみんなでお風呂入るのに~」
「はっ?」
そこの露天!?
四人で入れる広さじゃねえぞ!?
「無理やり四人で入るよ~ん」
「ちょっと待ってまだそこまでは覚悟できてない俺」
「その後は四人で寝るからね!」
「もう逃がさないからね~♪」
「なあちょっとアクセル緩めてくれパンクするって」
展開が怒涛すぎる。
助けを求めるように彩葉を見る。
真っ赤な顔は変わらず、潤んだ上目遣い。
「……今日は我慢せんって、昨日言うたやんか」
かぐやとヤチヨが悪戯が成功したガキみたいな顔でにやけた。
……あー、もう。
今夜も寝れねえなこれ。
雪月雪さん、ひよこんさん、蒼月紅羽さん、評価いただきありがとうございます。
ROSOさん、感想いただきありがとうございます。
お気に入り登録いただいた方々もありがとうございます。
とても励みになります。
活動報告の方でネタの募集も始めておりますので、ご一読いただければと思います。