「京都か~」
スマホの地図を見ながら呟いた。
「流石に車で行くには遠いな。一人だったら全然行くんだが」
まあヤチヨと広島行ったことあるけど、あれは目的が観光だったしなぁ。
流石にちょっと、今回の目的で長時間運転はな。
「じゃあ新幹線?」
「そうなるな」
「や、やっぱり別に行かなくても……」
彩葉が目を逸らした。
「今さら?」
「だって、さぁ……」
「「ダメ」」
左右から即答された。
「うぐっ」
かぐやとヤチヨが両脇から彩葉の腕を組む。
「彩葉が逃げるのは無し」
「無~し」
「でもお母さんだよ?」
「知ってる」
「酒寄紅葉だよ?」
「知ってる」
「絶対面倒臭いよ?弁護士だよ?」
「それも知ってるわ」
即答する。
面倒臭ぇってのも、弁が立つってのも。
さんざっぱらオメーにも、こないだ先に挨拶しに行った朝日にも聞かされてる。
「娘さんの人生貰うんだからな。筋は通しておかねえと」
しかも普通じゃねえ形だし。
彩葉が頭を抱える。
その左手の薬指には、昨年に全員でショップに行って購入した白金のシンプルな指輪。
「うわぁ……真面目というか律儀というか……」
「今さらそれ言うか?俺の性格は分かってるもんだと思ってたが」
「……じゃあ、連絡はしておくけどさ……」
「ま~大丈夫っしょ!」
「ね~?」
かぐやとヤチヨが彩葉の腕を取る。
二人の左手にも、同じ指輪が輝いている。
勿論、俺の左手にも。
「そんな楽観的な……」
「お前の苦手意識は分からんでもないが……」
……話聞く限り、確かに面倒臭い人ではある。
あるけども。
「……そんなに怖がるようなことにはならんと思うんだよなぁ……」
「どこにその根拠がぁ……」
根拠って言われると弱いけど。
……でも、まぁ。
「行きたくねえなら行かなくてもいいぞ。無理にとは言わねえ」
「え?」
「俺だけでも行くから、連絡だけしといてくれりゃ」
俺のケジメだしな、と付け足した言葉に彩葉が目を瞬く。
あと、高校ん時の彩葉の扱いには、流石に思うところが無いわけでもねえ。
まあ、本人の前で言う話でもねえが。
彩葉がいると逆にややこしくなりそうだから、その辺は席外してもらった方がいいかもしれん。
……まあ、いまさら外野からどうこう言えた話でもねえ気もするけど。
「……ううん。でも、私も紹介しておきたい気持ちもあるから、行くよ」
「なんて紹介してくれるの~?」
「私の研究成果たちと、」
「「ひどぉい!?」」
「冗談冗談」
目をひん剥いて抗議するかぐやとヤチヨに、彩葉が苦笑する。
ちょっとは調子取り戻したか。
京都行きの話なのに、いつの間にかいつもの空気になっていた。
「じゃあなんて紹介してくれるのかな~」
「着いてからのお楽しみってことにならない?」
「え~ケチ~」
「はいはい、そこまで。そしたら、予定は先方に合わせようぜ。
こっちは学会も発表も、ライブとかコラボも暫くねえし。融通は利くだろ」
「……うん、聞いてみるね」
数日後。
東京駅から京都駅に向かう新幹線の車内。
「おおー……」
窓際に陣取ったかぐやが外を眺める。
「動いた!」
「当たり前だろ」
「速っ!」
「速いね~」
そんな感想を飲み込んだ。
「ねぇねぇ」
かぐやが売店で買ったアイスを取り出していた。
「新幹線のアイス!」
「有名らしいね」
「めっちゃ固いんだっけ?」
「らしいな」
包装を開けて、スプーンを刺す。
刺さらない。
「……えっ」
もう一回。
刺さらない。
「……」
ぐぐぐ
「……折れそ~」
ヤチヨが笑いながら呟いた。
「だから固いっつったろ」
「え、これ食べ物?」
「食べ物だよ!?」
彩葉が思わず突っ込む。
さらに数分後。
「ま~だ~
「だから大人しく待てって」
結局、新横浜駅を過ぎる頃になってようやく普通に食べられる硬さになった。
「おいし~い♪」
「待った甲斐あったね~」
「アイスに待った甲斐ってあるんだ……」
「これに関してはあるらしい」
夏ならもうちょい早いんじゃねえのかな。
「はい!隼斗!」
「ん?」
「あ~ん♪」
あ~……。
ん~……。
まあ、四人で席向かい合わせてるし、良いか。
ぱくっ
「ん、美味いな」
「でしょ~?かぐやに感謝してくれていいよ!」
「オメーではなくねえ?」
「はい、今度は彩葉!あ~ん♪」
「わ、私!?」
今度はスプーンを彩葉に向けるかぐや。
あ~溶ける溶ける。
「早く食わないと零れるぞ」
「分かってるけどね!?」
なにを躊躇してんだ。
今さら間接キスで恥ずかしがる関係でもねえだろ。
「隼斗~デリカシぃ~」
「すまん」
ヤチヨに注意されてしまった。
……ちょっと気を付けるか。
そして、京都駅。
「うわぁ……」
改札を抜けたヤチヨが立ち止まった。
巨大な吹き抜け。
ガラス張りの空間。
複雑に入り組んだ構造。
「おっき~い」
「京都駅すごーい!」
「なんか近未来だね~」
「義体がなに言ってんだ」
近未来どころかモロ未来だろ。
かぐやも上を見上げる。
「写真撮ろ写真!」
ぱしゃぱしゃ
写真を撮っていたかぐやが、ふと何かを見つけて指差した。
「生八つ橋買おう!」
お土産かい。
「なんで毎回最初に土産買おうとすんの?」
「帰り忘れるじゃん」
「帰りでいいだろ」
「ダメだよ!」
「何がダメなんだよ」
いつものやり取りだった。
「……」
でも、彩葉だけが妙に静かだった。
「彩葉?」
かぐやが振り返る。
彩葉は肩を強張らせ、少しだけ顔を引きつらせていた。
「大丈夫?」
ヤチヨが覗き込む。
「……いや」
大丈夫じゃない。
けど、ここまで来た。
わざわざ新幹線にまで乗って京都まで来た。
あと少しで会う。
「帰るか?」
冗談半分、本気半分で問いかけた。
ここまで来たが、本当に会いたくないのであれば今からでも。
「帰らない」
即答だった。
だがその声は少し硬く、緊張しているのがありありと分かった。
「ならさっさと行くぞ」
軽く左肩を叩く。
反対側からかぐやが背中を押した。
「れっちご~!」
「酒寄家に突撃だー」
「やめて?そのノリ」
さらにヤチヨも。
「大丈~夫♪」
「ヤチヨまで……」
三人に囲まれて、彩葉はようやく小さく息を吐いた。
「……ほんと、なんでみんなこんな平気なの」
「そりゃ」
隼斗が笑う。
「会うのがお前の母親だからだろ」
「それ、理由になってないから」
「ほら、さっさと挨拶済ませて京都観光しようぜ。案内してくれよ」
「かぐや金閣寺行きたい!」
「ヤッチョは清水寺~」
「俺は伏見稲荷」
「時間足りないよ」
そう言いながらも、少しだけ肩の力が抜けた。
「……行こっか」
今度こそ、四人で京都の街へと歩き出した。
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