ところで鬼いちゃんと隼斗の誕生日が近かった。
言うてよ公式さんそれは。
鬼いちゃん誕生日おめでとうございます。
というわけで初投稿です。
晩飯の後片付けが終わって、四人でリビングのソファにだらっとしていた。
テレビはつけっぱなし。
かぐやがソファの背もたれに腹を乗せて足をぶらんぶらんしている。
ヤチヨが作ってやったなめろうで、おちょこをちびちびやっている。
彩葉が本を開いては読むでもなく、ぼんやりしている。
俺は俺でスマホをいじって、ネットサーフィンをしていた。
そんな、何でもない夜だった。
「ねえ、『愛してるゲーム』やろ!」
唐突だった。
「はい?」
「いいね~」
「誰と誰でやんの?」
「じゃあまずかぐやと彩葉!」
「なんで乗り気なのあんたら」
彩葉が本から顔を上げて、俺とヤチヨを交互に見た。
俺はスマホを置いて肩を竦めて、ヤチヨはにこにこしている。
「『愛してるゲーム』ってのは~」
かぐやがソファから転がり落ちて、正座になりながらゲーム説明を始めた。
「お互いに『愛してる』って言い合って、先に笑ったり照れたりした方が負けるの!」
「へえ……」
「ルールはそれだけ?」
「そう!シンプル!一番負けたヒトはお風呂掃除一週間!」
「罰ゲームまで決まってんのか」
彩葉がちらりとこちらとヤチヨを見て、かぐやに視線を戻した。
「……やらなきゃダメ?」
「ダメ~!かぐやが先攻するね!」
かぐやが彩葉の真正面に膝をつく。
彩葉が観念したように本を閉じた。
「……分かった。やる」
二人が向き合う。
「じゃあ行くよ?」
かぐやが、真剣な顔を作って。
「……彩葉。愛してる」
真顔だった。
全力の真顔だった。
彩葉が一瞬固まった。
「……っ、あぅ」
目が泳ぐ。
この時点で負けなんだけどな。
「ちょっ、待って」
「愛してる」
かぐやが畳みかける。
「待って待って、準備が」
「愛してる」
「なんで連打してんの!?」
彩葉がそっぽを向いた。
どう考えても彩葉の負けだった。
「いぇーい!かぐやの勝ち~!!」
かぐやが飛び上がる。
「彩葉弱すぎでしょ~」
「急に言われたら誰だって……!!」
「準備してどうすんだよ、このゲームで」
俺がそう言うと、彩葉がこちらを向いた。
負けず嫌いなところがあるからか、その目には少しの苛立ちが見て取れた。
「じゃあ隼斗やってみなよ」
「は?」
「かぐやと」
「え!!かぐやと隼斗!?やる!!」
かぐやが目を輝かせる。
「……まあ、良いけどよ」
向き直る。
かぐやが膝をついて真正面に来た。
「じゃあ行くよ?」
「おう、来いよ」
かぐやが一呼吸置いて。
「……かぐやのこと、愛してる?」
変化球だった。
疑問形で来るとは思っていなかった。
でも甘いな。
「愛してる」
即答した。
「っ……!えっ!」
かぐやの顔が真っ赤になった。
もう勝ちだけど、畳みかけたろ。
「ちょっ、待って今のは」
「愛してる」
「なんで即答なの!?」
「愛してる」
「ずるい!!それはずるい!!」
「愛してる」
かぐやがソファのクッションを抱えて、顔を埋めた。
「もう無理!!負け!!」
「いぇ~~~い」
「……隼斗、冷静すぎじゃない?」
彩葉が少し呆れた顔で言う。
「真顔でいつも思ってること言えばいいだけだろ、これ」
「簡単に言うけどさ」
「じゃ次、ヤチヨと彩葉やれ」
「え~?ヤチヨはずるいよ!絶対動じないじゃん!」
ヤチヨがおちょこを置いて膝を正す。
「やろっか、彩葉」
「……さっきと全く同じ状況になりそう」
でも彩葉は向き直った。
「先攻どうする?」
「じゃあヤッチョから」
ヤチヨが静かに彩葉を見て。
「彩葉。愛してるよ」
穏やかな声だった。
真剣な目だった。
かぐやの全力の真顔とも、俺の即答とも違う、どこか静かな「愛してる」だった。
「……っ」
彩葉が息を呑んだ。
その目に力が入っている。
頑張ってる顔だった。
……これも判定次第で負けじゃねえか?
「……ヤ、ヤチヨ」
「愛してる」
「……っ愛して、る」
声が少し掠れた。
ヤチヨが微笑んだ。
「……愛してる」
「……愛してる。八千年前から、ずっと」
しばらく二人は続けていた。
かぐやが固唾を呑んで見守っている。
やがて彩葉の目に薄く涙が滲んだ。
「……なんで泣いてんの私」
そのまま両手で顔を覆った。
「私の負けじゃん……」
ヤチヨが小さく笑った。
「ありがとう、彩葉」
「ゲームで言わないでよそれぇ……」
「じゃあ次!隼斗とヤチヨ!」
かぐやが次の対戦カードを叫んだ。
ヤチヨに正面から向き直る。
対戦相手のヤチヨは静かに笑っていた。
「……」
「……」
「愛してる」
「愛してる」
「愛してる」
「愛してる。八千年前から、ずっと」
「奇遇だな、俺もだ。愛してるぞ」
かぐやが「終わんない!!」と叫んだ。
彩葉が笑いをこらえている。
「「愛してる」」
しばらくして。
「……引き分けにしとくか」
俺が言うと、ヤチヨも頷いた。
「そうしよっか」
「なんで二人だけ引き分けになってんの!?」
「強者同士だから仕方ない」
「そういうゲームじゃないよこれぇ!?」
かぐやが抗議するが、ヤチヨはおちょこを取り直してにこにこしている。
「最後、彩葉と隼斗ね~」
「私勝てないってぇ!」
「じゃあ俺の不戦勝か、やり~。彩葉一週間風呂掃除?」
「やんないとは言ってないわよ!」
彩葉の目に闘志が宿った。
かぐやにも朝日にも負けず劣らず、割と負けず嫌いだからなぁ、こいつ。
ちょろい。
彩葉の正面に陣取る。
「先攻はどうする?」
「……じゃあ私から。良い?」
「良いぞ、ハンデをやろう」
「生意気」
彩葉が一呼吸置いて、真剣な顔を作ろうとしているのが分かった。
さっきより目に力が入っている。
負けず嫌いが全面に出ている。
「……隼斗。愛してる」
真顔だった。
かなり頑張った真顔だった。
ただ、さっきのかぐやの全力の真顔よりは、若干固い。
「愛してる」
即、返答した。
「……っ」
彩葉の目が揺れた。
でも堪えた。
顔には出ていない、続行だ。
「……愛してる」
「愛してる」
「…………愛してる」
「愛してる」
……防御固いな。
さっきのかぐやより粘ってる。
ただ、目が潤んできている。
「……愛してる」
「愛してる。ずっと傍にいてくれてありがとな」
彩葉が固まった。
動揺が見て取れる。
「……っ、それは」
「ゲームで言うなそれって言いたいんだろ」
「……分かってるなら」
「愛してる」
「……愛して、」
一瞬、声が詰まった。
「……っ愛してるわよ、こんのバカ。『傍にいてくれて』って、私のセリフだっつの!」
目が潤んで、頬が紅潮していた。
「隼斗の勝ち~」
「いぇ~い。おっと」
ヤチヨの判定を受けて小声で煽ると、彩葉がクッションを投げてきた。
「……ヤチヨ、全部撮ってんのか」
「うん♪」
「消せ」
「やだ」
「消してよ」
「やだよ~」
「かぐやも消せっつってやれ」
「かぐやは残してほしいな~!!」
彩葉がもう一個のクッションで顔を覆って、ソファに倒れ込んでいた。
「……バカ」
おい罵倒されたぞ。
「聞こえてるぞ~」
「聞こえてても言う」
ヤチヨがスマホの画面をオフにした。
俺もネットサーフィンに戻る。
「……最後に一個だけ」
彩葉がぼそっと言った。
「なんだ」
「四人全員でやったら誰が勝つと思う?」
「俺とヤチヨは引き分けだから除外して、かぐやと彩葉の一騎打ちだろ。決勝戦ならぬ決敗戦の」
「かぐやが勝つじゃん、それ」
「かぐやの勝ち~!!」
「喜ぶとこじゃないんだよなぁ、三位だぞ……?」
「精進しなさい、彩葉」
「師匠目線?」
かぐやと彩葉がわちゃわちゃやっているのを脇に、ヤチヨが俺の顔をじっと覗き込んできた。
「(そういえばさっき、隼斗「いつも思ってること言えばいいだけ」とか言ってたな~)
……ふふっ」
「なんだよ、ヤチヨ」
「なんでもないよ~♪」
テレビのバラエティの笑い声が、リビングに響いていた。
「ちなみに今日の最終結果は~」
かぐやが指折り数え始めた。
「かぐやvs彩葉でかぐやの勝ち!」
「隼斗vsかぐやで隼斗の勝ち!」
「ヤチヨvs彩葉でヤチヨの勝ち!」
「隼斗vsヤチヨで引き分け!」
「隼斗vs彩葉で隼斗の勝ち!」
「つまり……最下位は彩葉!お風呂掃除一週間!」
「改めて言われんでも、分かってたわよそんなこと!!」
「かぐやとヤチヨでやってねえけど?」
「まあやっても良いけどね~」
「かぐやが負けても、彩葉に勝ってるもんね~」
「どっちが勝つにせよ、彩葉のビリは変わらんってことね」
「だから改めて言わんで!」
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