8話~12話までのどこかですね。
粉水パンケーキの保存期間があるので、8話のすぐ後くらいを想定してます。
「よー、ジュンヨウだ。今日はリメイク配信をやる」
配信タイトルは【リメイク】隣人のかわいそうなパンケーキリメイクしてみた【料理】
「それは現物を見てもらった方が早いな」
カメラが皿の上のそれに向けられる。
直径十センチほどの、くすんだ焦げ茶色の円盤。
表面は黒ずんでいる箇所が散見され、端が少し反り上がっている。
それが皿の上に、九枚乗せられている。
「材料は小麦粉と水だけ。混ぜて強火で短時間で焼いた結果、表面だけ焦げて中が生焼けのまま、という代物だ」
「なぜこれが手元にあるかというと、隣に住んでるクラスメイトが『節約飯』として作ったやつを、まあ……いろいろあって、俺が引き取ることになった」
「隣人は大丈夫だ。ちゃんと飯は食えてる。てか頻繁に差し入れしてる」
「……まあ、今日の本題はこれをどうするか、だ」
改めて皿に目を向ける。
「まずこいつの問題点を整理すっか。
一、表面が焦げている。
二、中が生焼けで粉っぽい。
三、味が小麦粉と水だけなので基本的に何もない。
以上の三点が問題なんだよな」
「あと多分混ぜてすぐ焼いたせいでグルテンも出来てねえのか、ボソボソなんだよ」
「捨てるのは簡単だけどよ、でも食材を無駄にしたくねえし」
「何より俺の性格的に、これをそのままにしておく方が嫌なんだわ」
「……さて、どうすっかな」
少し間を置いて。
「まず生焼けから片付けるか。電子レンジで700wで二分ほど加熱。これで中まで火が通んだろ」
「加熱中に武器を紹介するか。今日用意したのはこちらになりま~す」
カメラを引き、ローテーブルに並んだ材料が映し出される。
バター。
はちみつ。
シナモン。
バナナ一本。
スライスチーズ。
ツナ缶。
マヨネーズ。
ブラックペッパー。
「こいつが九枚あるんで、まず三通りやってみる。甘い系が二種、塩系が一種だ」
紹介が終わったタイミングでレンジが鳴った。
「……よし、中まで火が通ってる」
取り出した生地に竹串を刺して、生焼けの生地が付いてないことを確認する。
「OK、問題点その二は解決した。次に問題点その一、焦げだ。」
「これはもうどうにもならないので、逆に活かす方向でいく」
「焦げた香ばしさを、スパイスや甘みと組み合わせる。」
「そのついでに問題点その三であるところの無味も対応できる。……まず一種類目いくぞ」
フライパンを中火にかける。
バターを一欠片。
じわりと溶けていく。
「生地をそのままフライパンで焼く。バターで焼くことで焦げ臭さをバターの香りで少し緩和できる」
「火はさっきのレンジで通ってるから、弱火で丁寧に。溶けたバターで生地をコーティングしていくイメージだ」
表面に薄くはちみつを塗る。
シナモンを細かく振る。
「バナナを薄切りにして……生地の上に並べる」
手際よく並べていく。
「最後にもう一度、上からはちみつを垂らして」
「で、これが一種類目。バナナとはちみつとシナモンのやつだ」
皿に乗せる。
見た目は……まあ、悪くない。
バナナが整然と並び、はちみつの艶が出ている。
焦げだけはいかんともしがたい。
「食ってみるわ」
一口大に切って、口に運ぶ。
「…………まあ、食える」
「……正直に言うと、生地の粉っぽさがまだ少し残ってんだよ。でも、バナナとはちみつとシナモンが上手くカバーしてる。悪くはない」
「元の生地単体なら確実に食えねえけど、これなら朝飯として出されたら食う」
「次、二種類目いくぞ~。甘い系の二つ目だ」
スライスチーズを取り出す。
「生地の上にチーズを乗せてトースターで焼く。チーズが溶けたら上からはちみつ、仕上げにブラックペッパーを少し」
「クアトロフォルマッジの発想だな。本来は『クアトロ』っつうくらいだからチーズ四種類使うんだけど」
トースターから取り出す。
チーズが綺麗に溶けて、生地の上に広がっている。
はちみつをかけて、あらびきのブラックペッパーを少々。
「食ってみるわ」
こちらも一口。
「……これが一番マシだな。まだ二つ目だけど」
「チーズの塩気とはちみつの甘みとブラックペッパーの刺激で、生地の粉っぽさがほぼ消えてる」
「生地が薄い分チーズの存在感が勝ってて、それが良い方向に働いてる」
「元の生地が何もないのが逆に活きた形だな。ピザパンみたいな感覚で食える」
「あとで持ってくし」
「最後、塩系だ」
ツナ缶の水気と油をしっかり切って、マヨネーズと混ぜる。
「ツナマヨを作って生地に乗せる」
シンプルな工程だが、手際が良い。
「トースターで軽く焼く。焦げ目が付いたらその上からブラックペッパーで完成だ」
取り出す。
ツナマヨに薄く焦げ目が付いている。
「食ってみるわ」
一口。
「……塩系は強えな」
「ツナマヨが生地の粉っぽさと焦げとを全部塗りつぶしてる。おかずクレープみてえな感じ?」
「チーズのやつは生地の欠点を活かした形だったが、こっちは力技で全部消しにいった感じだ」
「どっちが好きかは好みによる」
「まとめると。一番完成度が高いのはチーズはちみつブラックペッパー」
「元の生地の欠点が最も目立たなくなる」
「次点でツナマヨ。完全に別物になるが食えるようになる」
「バナナシナモンはちみつは、生地の粉っぽさが少し残るが悪くない。以上だ」
「……まあ、根本的な解決策は、最初から砂糖と卵とバターを入れることだわ」
「バニラエッセンスとベーキングパウダーも欲しい」
「そこまで踏み込めれば苦労しねえんだよな~」
「……まあそういうことで、このリメイク隣人に持ってくから、今日はここまで。おつかれ~」
配信を切り、少し考える。
……残りはどうすっかな。
隣の部屋から鼻歌と騒がしい声が聞こえてくる。
ヤチヨの曲とあのやかましいかぐや姫の声だ。
少しだけ苦笑しながら、リメイクしたパンケーキの皿を持ってノックをしにいった。
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