今日も世話を焼く   作:ディアーリーズ

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時系列上は十年前になります。
8話~12話までのどこかですね。
粉水パンケーキの保存期間があるので、8話のすぐ後くらいを想定してます。


Ex.『隣人のかわいそうなパンケーキリメイクしてみた』

「よー、ジュンヨウだ。今日はリメイク配信をやる」

 

配信タイトルは【リメイク】隣人のかわいそうなパンケーキリメイクしてみた【料理】

 

─なんだこのタイトル

─隣人?

─かわいそう言うな

「それは現物を見てもらった方が早いな」

 

カメラが皿の上のそれに向けられる。

直径十センチほどの、くすんだ焦げ茶色の円盤。

表面は黒ずんでいる箇所が散見され、端が少し反り上がっている。

それが皿の上に、九枚乗せられている。

 

─うわ

─なんだこれ

─生地?

─なんか反ってるんだが

─これはたしかにかわいそう

 

「材料は小麦粉と水だけ。混ぜて強火で短時間で焼いた結果、表面だけ焦げて中が生焼けのまま、という代物だ」

「なぜこれが手元にあるかというと、隣に住んでるクラスメイトが『節約飯』として作ったやつを、まあ……いろいろあって、俺が引き取ることになった」

 

─いろいろ?

─どんな経緯?

─隣人大丈夫?

 

「隣人は大丈夫だ。ちゃんと飯は食えてる。てか頻繁に差し入れしてる」

「……まあ、今日の本題はこれをどうするか、だ」

 

改めて皿に目を向ける。

 

「まずこいつの問題点を整理すっか。

 一、表面が焦げている。

 二、中が生焼けで粉っぽい。

 三、味が小麦粉と水だけなので基本的に何もない。

 以上の三点が問題なんだよな」

「あと多分混ぜてすぐ焼いたせいでグルテンも出来てねえのか、ボソボソなんだよ」

 

─問題点が多すぎる

─リメイク以前の問題では?

─捨てろ

 

「捨てるのは簡単だけどよ、でも食材を無駄にしたくねえし」

「何より俺の性格的に、これをそのままにしておく方が嫌なんだわ」

「……さて、どうすっかな」

 

少し間を置いて。

 

「まず生焼けから片付けるか。電子レンジで700wで二分ほど加熱。これで中まで火が通んだろ」

─なるほど

─確かに

─発想が料理人だ

 

「加熱中に武器を紹介するか。今日用意したのはこちらになりま~す」

─武器て

 

カメラを引き、ローテーブルに並んだ材料が映し出される。

バター。

はちみつ。

シナモン。

バナナ一本。

スライスチーズ。

ツナ缶。

マヨネーズ。

ブラックペッパー。

 

─あ、方向性複数あるやつだ

─甘い系と塩系?

─バナナとチーズとツナ?

 

「こいつが九枚あるんで、まず三通りやってみる。甘い系が二種、塩系が一種だ」

 

紹介が終わったタイミングでレンジが鳴った。

 

「……よし、中まで火が通ってる」

 

取り出した生地に竹串を刺して、生焼けの生地が付いてないことを確認する。

 

「OK、問題点その二は解決した。次に問題点その一、焦げだ。」

「これはもうどうにもならないので、逆に活かす方向でいく」

─逆に活かす

─発想の転換

 

「焦げた香ばしさを、スパイスや甘みと組み合わせる。」

「そのついでに問題点その三であるところの無味も対応できる。……まず一種類目いくぞ」

 

フライパンを中火にかける。

バターを一欠片。

じわりと溶けていく。

 

「生地をそのままフライパンで焼く。バターで焼くことで焦げ臭さをバターの香りで少し緩和できる」

「火はさっきのレンジで通ってるから、弱火で丁寧に。溶けたバターで生地をコーティングしていくイメージだ」

 

表面に薄くはちみつを塗る。

シナモンを細かく振る。

 

「バナナを薄切りにして……生地の上に並べる」

 

手際よく並べていく。

 

「最後にもう一度、上からはちみつを垂らして」

─なんかそれっぽくなってきた

─フレンチトーストっぽい発想?

─バナナシナモンはちみつ合わないわけないだろ

 

「で、これが一種類目。バナナとはちみつとシナモンのやつだ」

 

皿に乗せる。

見た目は……まあ、悪くない。

バナナが整然と並び、はちみつの艶が出ている。

焦げだけはいかんともしがたい。

 

「食ってみるわ」

 

一口大に切って、口に運ぶ。

 

「…………まあ、食える」

─食えるって

─最低評価で草

─もっと何か言えや

 

「……正直に言うと、生地の粉っぽさがまだ少し残ってんだよ。でも、バナナとはちみつとシナモンが上手くカバーしてる。悪くはない」

「元の生地単体なら確実に食えねえけど、これなら朝飯として出されたら食う」

─それ割と高評価では?

─基準が辛口すぎる

─ジュンヨウに朝飯で出してもらいたい

 

「次、二種類目いくぞ~。甘い系の二つ目だ」

 

スライスチーズを取り出す。

 

「生地の上にチーズを乗せてトースターで焼く。チーズが溶けたら上からはちみつ、仕上げにブラックペッパーを少し」

─チーズとはちみつとブラックペッパー?

─聞いたことある組み合わせだ

─これ美味いやつでは?

 

「クアトロフォルマッジの発想だな。本来は『クアトロ』っつうくらいだからチーズ四種類使うんだけど」

 

トースターから取り出す。

チーズが綺麗に溶けて、生地の上に広がっている。

はちみつをかけて、あらびきのブラックペッパーを少々。

 

「食ってみるわ」

 

こちらも一口。

 

「……これが一番マシだな。まだ二つ目だけど」

─一番マシ

─褒め方が消極的すぎる

 

「チーズの塩気とはちみつの甘みとブラックペッパーの刺激で、生地の粉っぽさがほぼ消えてる」

「生地が薄い分チーズの存在感が勝ってて、それが良い方向に働いてる」

「元の生地が何もないのが逆に活きた形だな。ピザパンみたいな感覚で食える」

─ちゃんと分析してる

─なるほど

─隣人に教えてあげて

「あとで持ってくし」

 

「最後、塩系だ」

 

ツナ缶の水気と油をしっかり切って、マヨネーズと混ぜる。

 

「ツナマヨを作って生地に乗せる」

 

シンプルな工程だが、手際が良い。

 

「トースターで軽く焼く。焦げ目が付いたらその上からブラックペッパーで完成だ」

─ツナマヨトースト的な?

─それは絶対うまい

─生地問題もごまかせそう

 

取り出す。

ツナマヨに薄く焦げ目が付いている。

 

「食ってみるわ」

 

一口。

 

「……塩系は強えな」

「ツナマヨが生地の粉っぽさと焦げとを全部塗りつぶしてる。おかずクレープみてえな感じ?」

「チーズのやつは生地の欠点を活かした形だったが、こっちは力技で全部消しにいった感じだ」

「どっちが好きかは好みによる」

─力技で草

─でも分かる

─ツナマヨは何でも美味しくする

 

「まとめると。一番完成度が高いのはチーズはちみつブラックペッパー」

「元の生地の欠点が最も目立たなくなる」

「次点でツナマヨ。完全に別物になるが食えるようになる」

「バナナシナモンはちみつは、生地の粉っぽさが少し残るが悪くない。以上だ」

─ちゃんとまとめた

─丁寧な配信

─隣人のパンケーキが救われた

─かわいそうなパンケーキが成仏した

 

「……まあ、根本的な解決策は、最初から砂糖と卵とバターを入れることだわ」

「バニラエッセンスとベーキングパウダーも欲しい」

─そりゃそうだ

─結局それ

─隣人に直接言えや

 

「そこまで踏み込めれば苦労しねえんだよな~」

─なんかあったんか

─含みがある

─気になるけど聞けない空気

 

「……まあそういうことで、このリメイク隣人に持ってくから、今日はここまで。おつかれ~」

 

配信を切り、少し考える。

……残りはどうすっかな。

隣の部屋から鼻歌と騒がしい声が聞こえてくる。

ヤチヨの曲とあのやかましいかぐや姫の声だ。

少しだけ苦笑しながら、リメイクしたパンケーキの皿を持ってノックをしにいった。

 

 




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