「ねえねえ、コミケって行ったことある?」
夕飯後のリビング。
かぐやがタブレットを抱えながら聞いてきた。
「ないよ~」
「私もない」
「俺も行ったことない」
「え~誰も行ったことないのぉ?」
「なんで急にそんなこと聞いてきたんだよ」
「コミケ……って言うか、ファンアート描いてくれてる絵師さんのつぶやきさあ、
なんか暗号みたいなの多くない?」
かぐやがタブレットの画面を三人に向けてくる。
「たとえば……『いろかぐ』ってなに?」
彩葉の動きが止まった。
ヤチヨのおちょこが止まった。
俺もスマホを置いた。
「……どこで見た、それ」
「えっ、検索してたら出てきた!かぐやいろPのタグ漁ってたら」
彩葉が額に手を当てた。
「……かぐや、それはね」
「うん?」
「……カップリング表記」
「かっぷりんぐぅ?」
「二次創作で、誰と誰が恋人や夫婦みたいな関係で描かれてるか、を表す表記だね~」
と、ヤチヨが補足した。
「……じゃあ『いろかぐ』は彩葉とかぐやが……?」
「そう」
かぐやがタブレットをまじまじと見た。
「……ほほ~!そういうのあるんだ~!!」
目を輝かせて、明るく言った。
「かぐやは……え、どう思ってるの?それ」
「どうって、絵師さんが描いてるやつでしょ?嬉しいよ?かぐやと彩葉のこと可愛く描いてくれてるんだから!」
彩葉が少し安堵した顔をした。
「……それなら良かった」
「でもさでもさ、ちょっと待って。他にも色々あったんだけど」
かぐやがスクロールする。
「『いろヤチ』は?」
「いろPとヤチヨ」
「『かぐヤチ』は?」
「かぐやとヤチヨ」
かぐやがうんうんと頷く。
「三人で色々あるんだ~!で、ここからが気になったんだけど」
かぐやがタブレットを俺に向けた。
「『ジュンいろ』ってなに?」
彩葉の顔が赤くなった。
「……それは」
「ジュンヨウといろPだ」
と、俺が答えた。
「ふ~ん!!」
かぐやが目を輝かせる。
「あるじゃん!!ジュンいろ!!いくつくらいあんの!?」
「知らん」
「嘘だ!!絶対知ってる!!」
「本当に知らん。それでエゴサしてねえし」
「えー!気にならないの?」
「ならない」
「ほんとにぃ?」
「ほんとに」
ならないことはないが。
検索したら負けな気がすんだよ。
「じゃあ次!『ジュンかぐ』は?」
「ジュンヨウとかぐや」
「あるんだ!!」
かぐやがまた目を輝かせる。
「かぐやとジュンヨウ!!どんな感じのが多いの!?」
「知らんって言ったろ」
「彩葉は!?」
「……私も検索してない」
「えー!気になる!!後で一緒にエゴサしよ!」
「「しない」」
かぐやが「ケチ~!」と言いながら次のページをスクロールする。
「最後!『ジュンヤチ』は?」
「ジュンヨウとヤチヨ」
ヤチヨが静かに一口飲んだ。
「……ヤチヨ、どう思ってんだ?」
聞くと。
「ふふ」
と笑った。
「それはそれで嬉しいな」
「動じないな」
「だって、そりゃあるでしょ?二人でカラオケとかKASSENとかしてるし」
「まあ、そうだけどよ」
「……ねえ」
かぐやがにやにやしながら俺と彩葉を交互に見た。
「いろかぐといろヤチと、かぐヤチ。ジュンいろとジュンかぐとジュンヤチ。
どれが一番多いと思う?」
「知らん」
「知らない」
「絶対知ってるじゃん~!!」
「知らない!!」
「知らん!!」
二人で声が揃ってしまった。
「「……」」
また揃って黙った。
「あははははははっ!!」
かぐやが笑い転げた。
「なんで二人で揃うの!!」
「「うるさい」」
「また揃ってる!!」
「ってか、かぐやとヤチヨ的に『かぐヤチ』ってどんな気持ちなんだよ」
かぐやからヤチヨはともかくとして、ヤチヨからかぐやは実質過去の自分相手になるだろ。
「え?かぐやは別に嬉しいけど?」
「さいですか」
「ヤッチョ的にも嬉しいよ~。だってそもそもさぁ、一番最初のオリ曲がオリ曲だよ?」
「え?」
彩葉が首を傾げる。
ヤチヨ……と、言うか。
かぐやの一番最初のオリ曲というと。
「「『私は、わたしのことが好き』だもん(ね)!」」
思いついたその瞬間に、かぐやとヤチヨが声を揃えて言った。
「「あ~……」」
納得させられたわ。
……また彩葉とリアクション揃ってるし。
そんな中、ヤチヨがおちょこを傾けながら、静かに笑った。
「……まあ、気になるなら」
ヤチヨがタブレットをするりと手に取って。
「一緒に見ようか、かぐや」
「見る見る~!!」
「ちょっと」
「待て」
二人で頭を寄せてスクロールし始めた。
「これが『ジュンいろ』か~!」
「これはジュンかぐ。こっちはジュンヤチ。みんな色々描いてるんだね」
「ヤチヨこういうの慣れてるの?」
「インターネット黎明期から色々見てるからね~」
彩葉が顔を覆った。
「……見たくない」
「俺も」
ソファに背を預けてスマホに戻ろうとしたら。
「あっ、これジュンいろのやつで隼斗が彩葉の手を引いてる絵だ。
いろかぐと合わせてシリーズになってる!!」
かぐやが叫んだ。
「……」
彩葉が固まった。
「え~いろヤチとジュンヤチも描いてほしいな~。あとでリプしちゃおっかな~」
「見るなって言ってんだろ」
「だって気になったんだもん!」
「タブレット返せ」
「見た感想は?」
かぐやがにやにやしながら聞いてくる。
「ノーコメント」
「彩葉は!?」
「……ノーコメント」
また揃った。
「……今日はもう寝よっかな」
「俺も」
立ち上がると。
「あ、ちなみに逆のもあって~」
「「待て待て待て」」
ヤチヨがまたいらんことを言い出しそうなので止めに入った。
また揃っちまった。
「逆ってなに?」
「聞くなって」
「今は『いろかぐ』とか『いろヤチ』とか、『ジュンいろ』とか『ジュンヤチ』とかでしょ?」
「解説しないでって」
「うんうん、それで?」
「前後を入れ替えて、『かぐいろ』『ヤチいろ』『いろジュン』『ヤチジュン』ってのもあるの」
「それ以上言うなって」
「へぇ~!……え?なんか違うの?」
「どっちが積極的か、みたいな?名前が前に来てる方が積極的になってるって意味合いだね」
「詳しく解説しないで!」
「あと、『irkg』とか『jnyc』みたいな、アルファベット表記で隠れる人たちも*1」
「ヤチヨ」
それは本当にダメだろ。
本人たちに見られたくないからそういう表記してんだから。
「それ以上はダメだぞ。まだ足りないなら……」
「おっ、足りないならどうするのかな、隼斗~?」
悪戯っぽく目を細めて煽ってくるヤチヨ。
忘れてるんかコイツは。
「8000のことを二人に」
「じゃあ普通のヤツだけ巡回しようかかぐや」
「8000ってなに?」
「忘れて良いよ、そういうのもFUSHIなら」
「FUSHI巻き込むなよ」
「そういえばFUSHIの義体ってどうなってるの?」
「話逸らしたね……。人型ならKG型かYC型をマイナーチェンジするだけで良いんだけど、
それにはまずFUSHIにヒトの体に慣れてもらわないといけないからね。
ツクヨミで暫くリハビリみたいなことをしてもらってからになるよ」
まあ、犬型義体も人型の応用が利くけど、ウミウシ型はちょっとね。と彩葉は続けた。
流石に哺乳類から軟体動物はな。
メンダコ型簡易義体はあるけどアレ自分で動けねえし。
「……そろそろ寝るわ、俺」
「私も寝るね、おやすみ」
「「あ、おやすみ~」」
かぐやとヤチヨの声が揃った。
二人の笑い声が背中に聞こえてきた。
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