「はい、それじゃあ文化祭での我がクラスの出し物、提案して」
七月の放課後。
総合の時間、司会をかって出た彩葉が黒板の前に立っている。
「はーい!高羽くん居るんだから、飲食店!」
諌山が即座に手を上げた。
「待て待て待て待て」
「えーっと、飲食店……と。何出す?」
「おいコラそのまま通すな」
彩葉が板書しながら進める。
「実質JunY0uコラボじゃん」
「集客力エグそ~」
「オメーら俺の身バレ気にしろ???」
「もうかぐやちゃんのお陰で身バレしてるようなもんじゃん隼斗く~ん?」
「まだ苗字まではバレてねえし在籍校もバレてねえわ」
「で、なに出す?」
「進行が鬼。……うーん、うちの文化祭ってよ、9月の夏休み明けすぐじゃんか」
「そうだね」
「ってなるとよ、飲食は当日の天気にかなり左右されるんだよな」
「あ~。その時期って確かに暑かったり寒かったりするよな」
と、綾紬の隣の席の男子が頷く。
「で、そうなると飲食一本は在庫を抱えるリスクが高ぇ。何かしらの付加価値をつけるべきだ」
「付加価値って?」
「来た人が飯食うだけじゃなくて、何か体験なり思い出なりが残る仕掛けがあると、
多少天気が悪くても客は来る。逆に言えば、飲食に体験要素を組み込む」
「例えば?」
隼斗は少し考えてから。
「……喫茶店形式にして、コーヒーか紅茶かどっちかを自分で選ばせる。
それだけで選んだ感が出る。あとは……」
黒板を見る。
「メニューをあえて絞る。多すぎると仕込みで死ぬ。
二品か三品に絞って、クオリティを上げる方がトータルで評価される」
「なるほど~!」
彩葉が「隼斗、前出て書いて」と促す。
渋々立ち上がってチョークを持つ。
「……まず飲み物を決めよう。アイスとホットの両対応が必要だ。
天気次第でどっちも出るようにしとく。紅茶とコーヒーで良いだろ」
チョークで黒板に書いてから、ふと思い立った。
……文化祭って、下の弟妹が来ることもあるよな。
「ただどっちも飲めない客のことも考えて、
ペットボトルで良いからオレンジジュースとリンゴジュースもあったほうが良いな」
チョークで追記する。
「フードは……夏休み明けならパスタと焼き菓子の組み合わせが安パイだろ。
冷製にすりゃパスタは暑くなっても食える。焼き菓子は常温で保存が利く」
「高羽くん、手作りで全部できる?」
「仕込みを何日前から始めるかによるな。
ソースの仕込みは冷蔵庫使えるんなら三日前からやって保存がきく。焼き菓子は前日でいい」
「じゃあ高羽くんが料理担当で!」
「待て待て、一人じゃ回せねえわ。
最低でも俺の他に仕込み三人、当日もローテで時間帯別に三人は欲しい。昼飯時は要員厚くしてえし」
「じゃあ私も仕込み入るよ」
彩葉が静かに手を上げた。
「料理できるの?」
「彩葉たまに高羽くんに教わってるもんね~」
「……まあ、基本的なことなら」
「ならちょうど良いわ。仕込みは俺と彩葉とあと料理できるやつ何人かで」
担任が「じゃあ喫茶店系でまとめるか。衣装はどうする?」と水を向ける。
「「「制服で良くねえか?」」」
男子陣が声を揃えた。
「えー!せっかくだし揃いのエプロンとカチューシャみたいなやつくらい欲しくない?」
「ジャージにそれでジャージメイドになるよね!」
「女子はそれでいいけど
「去年執事喫茶やってるクラスあったけど、衣装残ってないかな」
「あ~、あるかもしれないな。探しとくぞ」
「やった、せんせーありがと!」
「うぇ~マジぃ?」
「め、メンドくせえ……」
「でも女子がジャージメイドならかっちりした燕尾服だと浮いちゃわない?」
「夏服のワイシャツに燕尾のベストくらいなら良さそう」
「それくらいならいいんじゃない?」
真実の彼氏が穏やかに場を収める。
「じゃあ衣装はそれで。告知はどうする?ポスターとチラシと、看板?」
彩葉がどんどん司会を進めていく。
そんな中で、ふと気が付いた。
……あれ?もしかして当日、俺シフト入りっぱなしか?
そして当日。
「いらっしゃいませ~」
ワイシャツに燕尾のベストで、教室の入口で淡々と呼び込みを続ける。
案の定、九月頭の気温は暑かった。
「いらっしゃいませ~」と隣で綾紬がにこやかに続いた。
メニューはトマトバジルのパスタと同じ材料で作れる冷製カッペリーニ、
トマトが苦手という客も取り込むために和風ツナマヨパスタの三種。
サイドにスコーン、ドリンクは紅茶かコーヒー、それとジュースの選択制。
……う゛、客が来ちまった。
……一拍置いて、覚悟を決める。
「お帰りなさいませ、お嬢様方。
本日のメニューはこちらになりますが、いかがいたしましょうか?」
燕尾服着てるんだから、接客もこうじゃなきゃ!と、演劇部に演技指導みてえのもさせられた。
メンドくせ~と思いつつも内心を顔には出さず、にこやかに接客する。
配信者だ俺は配信者求められてるキャラを作れ普段は素だけど。
「え、えっと……それじゃ、パスタセットで。良いよね?」
「う、うん。あたしもそれで」
「パスタとドリンクはいかがいたしますか?」
「カッペリーニとコーヒー……あ、ホットで」
「あたしはトマトバジルと、オレンジジュースで」
「畏まりました。少々お待ちくださいませ」
メニューを下げて、微笑みながら教室から外へ。
……なんか黄色い声が聞こえるが努めて無視。
コンロの使える家庭科室へ向かって、調理班へメニューを連携。
「おーい、カッペリーニとトマトバジル頼んだ」
「分かった。すぐ出せるからちょっと待ってて」
「おう、ドリンクとスコーンはこっちでやっとく」
ポットからコーヒーを、ペットボトルからオレンジジュースを紙コップに注ぐ。
作り置いていたスコーンをトースターで温めて紙皿へ。
……本当は食事が終わったタイミングで出したいんだけどな。
そこまでオペレーションに手間を掛けられんしな~。
『良いな~文化祭たのしそ~』
『しょうがないよぉヤッチョたちは体無いんだし~』
「あんまり騒がないでね」
と、彩葉のスマホからかぐやとヤチヨが文句を言っていた。
こればっかりはな、と苦笑してパスタを受け取った。
「お待たせいたしました、お嬢様方。トマトバジルとオレンジジュース。カッペリーニとホットコーヒーでございます。こちらはセットのスコーンです」
「「ありがとうございます……」」
「それでは、ごゆっくりお楽しみくださいませ。失礼いたします」
左手を胸に当て、右手を後ろ腰に回して一礼。
「あ、すみません!」
「なにか粗相がございましたでしょうか?」
「あ、いえ、あの……写真とかって……」
「申し訳ありません、写真はご遠慮いただいておりまして……」
流石に写真撮られると、どこで拡散されるか分からんからな……。
「そ、そうですよね、すみません」
「大変申し訳ないのですが、思い出の中にしまっておいてくださいませ」
と、ウィンクを投げた。
「「ひぅっ」」と胸を押さえて固まってしまった。
やってみたら案外ヒットした。
……これ使えるかもなぁ、写真求められたらこれで行くか。
客引きがてら、教室の入り口の脇に立っていると、見覚えのある顔が近づいてきた。
げっ、鶫だ。
友達を二人連れて三人で来やがった。
「お兄ちゃん……!」
鶫が入口で固まった。
……身内だしな、口調崩しちまって良いか。
「なんだよ」
「……執事みたい」
「文化祭だしな」
「……なんか負けた気がする」
「なにが???」
鶫の右隣の友達が、ぎゅっと鶫の裾を掴んでいる。
目が泳いでいた。
「あの……JunY0uさん……ですよね……?」
「
「声一緒だ。ほ、本当なんだ……!」
「サイン……いただいてもいいですか……!?」
「あ、あたしも!」
しばらく考える。
……まあ、文化祭だしな。
「書いてやるから『素顔のJunY0uがいた』とか、言いふらさないでくれよ」
そう言いながら流し目で口元に指を当てて「シーッ」とジェスチャーをする。
「「「っ……!!」」」
鶫と友達二人が同時に固まった。
「お兄ちゃん……!それは……!ずるい……!!」
「ずるいじゃなくて配信者の顔してるつもりなんだが」
「どっちにしてもずるい!!」
「なんでだよ、ファンサくらい良いだろ」
友達二人の方はもはや声も出ていなかった。
それでも、バッグからそれぞれミニ色紙と普通にデカいサイズの色紙を出して、差し出してきた。
用意良いな。
えーっと、ペン、ペン……確かどっかにあったような。
と、体を探っていると、無言でサインペンも差し出してきた。
本当に用意が良いな。
キュポっとサインペンのキャップを外し、サインを書きながら。
「あんま言いふらさないでくれな」
「……は、はい」
「それと普通にメシ食っていきな。うちのクラスの料理、美味いから。俺監修だし。
なんなら俺の奢りで良いぞ」
鶫の友達二人がこくこくと頷いた。
鶫はまだ何か言いたそうな顔をしていたが、「奢り」という言葉に反応して笑顔を浮かべた。
夕方。
片付けが終わって、机を元の配置に戻しながら。
「完売したな~。材料全部ハケると思わんかったわ」
「高羽くんのおかげじゃん!」
「クラス全員で回したからだろ。俺は料理とシフト入ってただけ」
「だけって~。それが一番大きいじゃんね」
「シフト外の時も料理班見てくれてたくせにね」
そりゃ無責任な仕事は出来ねえし。
でもちょっと照れくさくて目線を外すと、スコーンが一個だけ残っていた。
……誰かが取り忘れたやつか?
「お~い、スコーン一個余ってっけど、誰か食うか?」
「高羽くん食べちゃっていいよ~!」
そういうつもりじゃなかったんだが。
……う~ん、腹減ってねえんだよな。
かぐやとヤチヨがスマホん中から『文化祭回りたい~』っつって色々食わされたから。
「彩葉、これ食うか?」
「私?」
「おう、俺はそんなに腹減ってなくてよ」
「……じゃあ、貰う」
言うや否や、俺の手にあるスコーンにかぶりついた。
呆気にとられたが、流石に一口で行けるわけもなく、咥えたスコーンを両手で持って食べ進めた。
「ん、美味し」
「お前なぁ」
呆れていると、彩葉のスマホから、かぐやとヤチヨの声がちいさく聞こえていた。
『文化祭、楽しかったね!』
『うん。いつかは彩葉たちと一緒に行けたら良いな』
それを聞きながら、窓の外を見た。
校庭では他のクラスの片付けがまだ続いている。
……いつか、か。
ツクヨミ内でのイベントくらいでしか、今の時点じゃ実現できそうにねえが。
それでも、いつかは絶対二人に体を。
「……片付けも終わったし、体育館の後夜祭行くか。軽音部のバンドあるらしいぞ」
「かぐやのオリ曲やるみたいだね」
『えっ、マジ!?』
「あ~、『私は、わたしのことが好き』練習してたな、連中」
『ヤッチョの曲もやって欲しいな~』
「ボーカルの難易度高えんだよな、ヤチヨのは」
「飛び入りしてみる?」
「やだよメンドくせえ」
そんな会話をしながら、四人で連れ立って体育館へ向かった。
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