「よー、ジュンヨウだ」
「今回は前々からやりたいって言ってたツーリング兼、ソロキャンプ動画だ」
「配信じゃなくて動画なのは珍しいか」
ジュンヨウの字幕とナレーションから始まった動画。
【ツーリングキャンプ】ソロキャンしてきた。川釣りが楽しすぎた件【こんなに釣れるとは】
映像はスズキGSX1300Rハヤブサの車載カメラ。
十年前の相棒だったGSX250Rは、今では鶫の愛車だ。
フロントスクリーン越しに映る山道が、滑るように後方へ流れていく。
大型二輪免許を取得した
「
以下、プレミア公開のコメント欄。
「いや~、天気当たりだなこれ」
視界いっぱいに広がる青空。
「暑いっちゃ暑いけど、走ってる分には気持ち良いわ」
道路脇を流れる清流。
木々の隙間から覗く湖面。
「こういう道をのんびり走るためにバイク乗ってるとこある」
山道を流すように走るハヤブサ。
排気音だけが心地良く響いていた。
「今回はソロキャンプ。今向かってる途中なんだけど、神奈川の山の方だな」
「宮ヶ瀬の奥。ちょっと行ったらほぼ山梨みたいなとこ」
「途中の直売所で色々買い込んだんだけど、野菜が安くてな~。ちょっと買いすぎたかもしれん」
「しかもキャンプ場を流れてる川でマス釣りも出来るみたいなんだよな。楽しみ~」
「この先のコンビニが最後だから、またちょっと色々買い足してくるわ~」
「たぶん次のカットでもうキャンプ場着いてる」
「こういう郊外のコンビニって酒の品揃え良いところ多いよな~」
カット。
映像が切り替わる。
木立に囲まれたキャンプ場。
川のせせらぎが聞こえている。
「着いた。いや~良いとこだわここ」
手持ちのカメラに切り替わった映像が、サイトをゆっくり映していく。
木漏れ日の差し込む林間。
すぐそこを流れる透き通った川。
「区画サイトじゃなくてフリーサイトにしたんだけど、川沿いに張れそうなとこあったな」
「まずちゃっちゃとテント設営しちまうか~」
テント設営の映像。
手際が良い。
ポールを通して、ペグを打って、ガイロープを張って。
特に迷うことなく淡々と進む。
「ソロだとこういう作業が全部一人なんだよな。まあ嫌いじゃないけど」
設営が終わった。
カメラが川の方を向く。
「さて。釣りすっか。管理棟で釣り券とレンタルの竿と餌買ってくる」
川沿いに歩いて、受付で遊漁券と貸し竿にスカリ、餌のブドウ虫を受け取る映像。
「マス釣りは管理釣り場に毛が生えたやつだから、そんなに難しくはないはずなんだけど」
針にエサのブドウ虫を付け、川に糸を垂れる。
しばらくの静寂。
水面が揺れる。
風が木々を揺らす。
「……静かだな」
一言だけ。
しばらく経って、浮きが沈んだ。
「お」
竿を立てる。
ぐいぐいと手応えがある。
「でかいな」
無駄のない動作で引き上げる。
銀色の魚体が水を切った。
「お、良いサイズ」
「まだエサあるし、〆んのは使い切ってからにするか」
手際よく針を外し、ニジマスをスカリに入れて手頃な石を重しにして水に沈める。
「ま~二、三匹釣れりゃ十分だよな~」
そう言って、再び仕掛けを流した。
数分後。
「お」
また浮きが沈む。
竿を立てる。
「二匹目」
スカリの中へ追加。
そしてまた竿を出す。
カット。
「三匹目」
カット。
「四匹目」
カット。
「……」
川辺に置かれたスカリ。
中で銀色の魚体が何匹も泳いでいる。
ジュンヨウが数える。
「一、二、三……六」
「いや、違うんだ」
なぜか弁明を始める。
「こんなに釣れると思わなかったんだよ」
再び仕掛けを投げる。
そして数十秒後。
「……文字通り入れ食いだな」
竿が大きくしなる。
魚を取り込みながら、少し笑う。
「最後。これで最後」
魚をスカリへ入れる。
そして、カメラが少しだけ川の流れに向けられた。
水面が陽光を反射してきらきらと輝いている。
風が吹く。
木立を抜ける風と川のせせらぎだけが響く。
「……」
再び竿を持った。
「いや」
一応弁明する。
「こういうの、やめ時分かんなくねえ?」
誰へ向けたのかわからない言い訳と共に、再び仕掛けを流した。
―――
カット。
夕方。
川面が橙色に染まり始めている。
ジュンヨウがスカリを引き上げた。
「……」
重い。
中では複数のニジマスが元気よく跳ねている。
「……さすがに多すぎだな」
ジュンヨウは小さく肩を竦める。
「釣れると止め時分かんなくなるな」
「明日の朝飯分にも多いわこれ。釣ったからには全部食うけどさ」
スカリを持ち上げる。
「〆てサイトに持ち帰るか」
手際よく処理する映像。
配慮でモザイク処理が入っているものの、躊躇がない。
「前に渓流釣り堀で雷と一回やってたからな。要領は分かってる」
カット。
サイトに戻って、焚き火の準備をしている映像。
「さて、何作るか」
コンビニと直売所の袋を広げる。
じゃがいも、玉ねぎ、にんじん、ピーマン。
ウィンナー。
缶のスパイスカレー。
バター。
ウィスキーのポケット瓶。
チーズ。
「直売所でじゃがいもと玉ねぎ買いすぎたな」
「マスは塩焼きで行くとして、野菜はそのままスキレットで焼くか」
「スパイスカレーとチーズで食えるな」
手際よく具材を切り始める。
「キャンプ飯ってシンプルな方が旨いんだよな。余計なことしなくていい」
焚き火が起き上がってくる映像。
炎の色が、夕暮れ時の空と混ざる。
スキレットにバターを落とす。
じゅわっ、という音。
野菜を並べる。
マスを金串に刺して、炭火の横に立てる。
「良い匂いしてきたな」
ウィスキーのポケット瓶を開けて、ロックアイスのカップに注ぐ。
一口飲む。
「……良いな」
「一人でのんびり飲むのも悪くないな」
「……まあ、最近は賑やかな方が多いから、たまにはこういうのも良いか」
マスの皮に焦げ目がついてくる。
野菜に火が通ってきた。
「……出来たな」
皿に盛る。
マスの塩焼きと、バターで焼いた野菜のカレースパイス炒め。
「いただきます」
一口。
「……旨い」
しばらく無言で食べる映像が続く。
川のせせらぎ。
焚き火のぱちぱちという音。
夕暮れの空。
「マスはシンプルに塩焼きが一番旨いな。余計なことしなくて良い」
ウィスキーをもう一口。
「直売所のじゃがいも……大きくて旨いな。こっちの方が安かったりするの、なんなんだろうな」
夜。
焚き火だけが光源の映像。
「飯も食ったし、あとはのんびりするだけだな」
ウィスキーのグラスを傾けながら、焚き火を見ている。
「……こういう時間も必要だな」
「川と焚火の音って良いよな。ずっと聴いてられる」
言葉通り、しばらく川の音と焚き火の音だけが続く。
「……来て良かったな」
「明日は早めに撤収して帰るか。……今日はここまで。おつかれ~」
焚き火が揺れて、映像が暗転する。
エンドカード。
【おまけ】帰ってから三人にソロキャン動画を見られた結果
リビングのソファ。
ノートPCを挟んで四人が座っている。
「川あるじゃん!!魚いるじゃん!!かぐやも行きたかった!!川遊びと釣りしたかった!」
「……次は一緒に行くか」
「ほんと!?」
「釣り堀じゃなくて川釣りしてみたいな」
「ソロじゃなくなるけどな」
「……四人でキャンプか。騒がしくなりそうだな」
「なりそう!!」
「なるでしょ~」
「他の人に迷惑かけない程度にね」
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