「よー、ジュンヨウだ。今日は自宅からじゃなくて、帝の家から配信。帝の家にあるもんで適当にメシ作って呑んで駄弁るぞ~」
「よう、ジュンヨウリスナーの子ウサギども。お前らの帝様がきたぜ!」
「ウチのリスナーのではないだろ」
「また、祭りが始まるな。雷だ」
「乃依で~す」
「帝ぉ~冷蔵庫見ていいか~?」
「好きにしろ」
「じゃあ失礼すんぞ~。あ、俺はもう顔出ししてるようなもんだから良いけど、お前らはカメラ気を付けろよ。特に乃依」
「りょうか~い」
カメラを冷蔵庫の中に向ける。
「……案外ちゃんとある」
「失礼な奴だな」
「生活してんだな~って思って。鶏もも肉があるし豚の薄切りもある。卵と……白菜が半玉。ニンニクと生姜。ソースと醤油と白味噌か。あとビールと日本酒と……なんだこれ、謎の缶が三種類」
「やっすいPBのコーラとジンジャーエールとソーダ。酒を炭酸で割るんだよ」
「あとなんだこれ。蓋にトラの絵が描いてあるプリン」
「それ俺の~。こないだ来た時に置いてったの」
「あ~トラって乃依か」
「昨日気付かずに食いかけた」
「棚もちょっと見るぞ」
「あ、俺の一人吞み用缶詰取るなよ」
「取らない取らない。……じゃがいも玉ねぎニンニクしょうが、あと乾麺か。パスタと素麺。乾燥わかめもある」
「俺は一人でもちゃんと自炊するからな」
「フーデリで済ませるようなが多いからなライバー界隈……全員メシ作りに行ってやろうか」
「いろPとかぐやちゃんとヤチヨちゃんに怒られるぞその発言」
「なんでぇ?」
「いっそ企画にしちゃう?」
「アリだわ」
「これだけあれば十分だ。何食いたい?」
「肉」
「肉」
「お肉!」
「雑だな。もう少し具体的に頼む」
「焼き肉」
「網もロースターもねーだろ」
「じゃあ炒めた肉」
「方向性は分かった。ニンニクと生姜で鶏と豚を炒めて、白味噌と醤油で味付ける。白菜と卵も使う。酒の肴と飯のおかずの中間みたいなやつが出来る」
「それで良い」
「決断はええな」
「帝、まな板と包丁はどこだ」
「下の引き出し」
「了解。雷、鍋かフライパン出せるか?」
「分かった」
「乃依、ちょっとだけ手伝えるか?白菜洗ってちぎってくれ。大きめで」
「え、ちぎる?切らなくていいの?」
「炒め物の白菜はちぎった方が火の通りが良い。断面の凸凹が多い方が味が染みるから」
「へ~、なるほど。ちぎれば良いんだね」
「そう、豪快にいってくれ」
「帝はとりあえず先にやってて良いぞ、食材と場所提供してるわけだし」
「ビール」
「俺はビールじゃねえぞ。テメーで冷蔵庫から取れ。雷と乃依は?」
「俺は日本酒で」
「俺コーラ!本物のヤツね」
「PBをニセモンみたいに言うな」
「俺は今日は帰りがあるから呑まねえ」
「車で来てんのかよ、先に呑みって言ってたろ」
「ちょっと本業の方の都合でな」
「じゃ、泊まってけよ。明日休みだろ?いろPから聞いてる」
「情報漏洩~。……迷惑じゃねえか?」
「全然全然。オフん時はこいつらも泊ってくしな」
「泊まってるぞ」
「泊まってるよ~」
「……したら、後でうちに連絡だけさせてくれ。話し戻すぞ。まず油を熱してニンニクと生姜から炒める」
じゅわっ、という音。
ニンニクの香りが立ち上がる。
「良い匂い~」
「そりゃそうだろ。先に鶏肉を炒める。豚は火が通りやすいから後だ」
鶏もも肉を入れる。
また音が弾けた。
「乃依、白菜どうだ」
「できたよ~!ちぎるの楽しい」
「そうだろ。こっちに寄越してくれ」
白菜を受け取って、豚肉と一緒にフライパンへ。
「嵩があって今は多く見えるけど、すぐ火ぃ通って萎れるから気にしなくて良い」
「へえ~」
「次に豚肉。……雷、フライパンの横で覗き込むな、油が跳ねるぞ」
「見たくて」
「危ないから後ろで待て。できたら呼ぶから」
「……分かった」
卵を溶いて流し込む。
白味噌と醤油で味付けして、全体を絡める。
「……出来た。皿出せるか」
「どこだ」
「食器棚だろ。……先にやってて良いっつったけど家主ホントに働かねえな!」
「先にやってて良いって言ったろ~」
皿に盛って、カメラを向ける。
白味噌の甘みを纏った鶏肉と豚肉に、しんなりとした白菜、半熟気味の卵が絡まっている。
「こんな感じだ」
「お待ちどうさま~っと」
「「「いただきます」」」
全員で口に運ぶ。
帝がしばらく黙って食べた後。
「……うまい」
「そりゃ良かった」
「いつもこんなもの食べてるのか」
「まあ大体こんなもんだ。手間かけなくても食えるもんは作れる」
「……俺の飯より断然うまいわ~」
「自炊してるって言ってたが、何作ってんだ」
「ゆで卵とサラダチキン。たまに肉団子」
「それは料理じゃなくて食材だろ。冷凍庫にあった胸肉それ用かよ」
「体作ってるからさ」
「……帝は大体わかったとして、雷と乃依は?兄弟で二人暮らしだろ」
「外食か、スーパーの総菜か、それこそフードデリバリー。たまに俺か乃依のやる気があったら自炊する程度」
「そのたびに食材と調味料買いに行くんだよね~」
「オイスターソースとか毎回使い切らない」
「……雑にチャーハンにでも入るぞ、オイスターソース。カレーに隠し味として入れても良いのに」
「良いことを聞いた」
「雷オメーそれ試して満足して使い切らないだろ」
「…………」
「せめてなんか言え」
「うん」
「肯定すんな」
「……お前ら、普段まともな飯食ってんのか?」
「食えてはいる」
「食えてはいると、ちゃんと食えてるは違うけどな」
「じゃあ今日みたいに作ってくれれば良い」
雷がさらっと言った。
「今日みたいにって、何回もやれるかよ」
「要請があれば来るだろ?」
「来るわけないだろ普通」
「コラボという名目で来れる」
「……まあ、気が向いたらな」
「あと一個ツッコんでいいか」
「大体わかるけど良いぞ」
「なんで雷が許可出してんの~?」
「多分俺も何度もツッコんでることだから」
「おう、許可得たからツッコむわ。……帝のそのゲーミング箸なに???」
「あー、これ?便利だぞ。暗くてもメシ食えるし」
「電気点けろよ」
「点けるの面倒な時あるじゃん」
「雑だわ~」
「それ俺が面白半分で置いてったやつだね」
「下手人はオメーかよ乃依」
「今度はなにをゲーミングにしよかな」
「……アキラなんでも気にせず使うんだから、そういうのやめなって言っただろ。どんどん変になるぞ」
「もともと変だし~」
「酷くね?便利なのに」
「今度ゲーミングタンブラーとか探してみよ」
そんな雑談の最中、急に帝がカメラに向き直って。
「ということで」
なんだ急に。
編集点か?
「次回の雑飯配信with黒鬼は、雷と乃依の家から開催予定だ」
「え!?聞いてないんだけど!?」
「いま俺が決めた」
「俺も初耳だぞ。次回の開催あんのかよ」
「俺も」
「……まあ、今日はここまで。おつかれ~」
「おつかれ」
「また」
「また来てね~」
配信を切る。
「おつかれ~」
カメラのランプが消えたのを確認して、日本酒を注いだ。
おちょこは無かったので、グラスに。
「で」
一口飲んでから言う。
「次回どうすんだよ。雷乃依の部屋からって」
「どうするって?」
帝……朝日はケロッとした顔で缶ビールを傾けている。
「いや乃依って今もう
「ブッ」
盛大に咽た。
あ~炭酸で咽るとキツいぞ~。
「……なんで知ってんだ」
咳払いを一つした後、問い詰めてくる。
必死に取り繕った声だった。
なんでって言ってもな。
「乃依と彩葉ってやり取りしてんの知らんの?」
「は?」
「そこ経由」
数秒。
「…………」
「あ、初耳なんだ」
「初耳なんだが」
「主に朝日の愚痴~」
「乃依」
「あと相談も」
「乃依」
「彩葉ちゃん聞き上手でさ~」
「乃依」
雷が静かに視線を逸らした。
「……俺も、隼斗に教えた」
「雷ぃ?」
「旅行の最中に聞かれたから答えただけだ」
あ~、運転中に手持無沙汰だったから「そういや乃依って一人だけど何してんの?二人暮らしだろ?」って聞いたわ。
「?」って顔してたからツッコんだら「乃依いま朝日の家に住んでるから、俺一人暮らし」って返ってきてちょっとビビったんだよな。
「裏切り者しかいねぇ」
「裏切りって言うか、お前が知らなかっただけだろ」
なんでバレてねえと思ってたんだ。
来客用のスリッパ乃依が出してたぞ。
「配信中は上手く誤魔化せたと思う」
雷がぽつりと呟く。
「メシのくだりとかプリンとかな」
「あれ危なかったな」
「結構ヒヤヒヤしてた」
朝日は頭を抱えた。
「乃依のプリン置いてあった時点でアウトじゃね?」
「そこは『入り浸ってる』で押し切れるかなって」
「押し切れてたか?」
「大丈夫でしょ、インタビューとかで入り浸ってることは前々から言ってるし」
「布石打ってんのかよ」
グラスを傾けながら笑った。
「ゲーミング箸は本当に置いてったやつだしね~」
乃依がフォローになっているのか分からないことを言う。
「十年前から現役だよ」
「それはマジなんだ」
「朝日なんでも使うからさ、面白くて」
「便利だからな」
「便利の基準がおかしいんだよ」
即座にツッコんだ。
朝日は咳払いして話を戻す。
「……まあ、なんとかなるだろ」
「なるか?」
「なるなる」
「根拠は?」
「普段から食材も調味料もロクにないって言ってたし」
「うん」
「二人で住んでる冷蔵庫じゃないってバレるこたぁねえだろ」
「うん」
「だから大丈夫だ」
「声震えてんぞ」
「震えてねぇよ」
「震えてる」
「震えてるな」
「震えてるね~」
三方向から即答された朝日は天井を見上げた。
「……次回までに雷んちの冷蔵庫に何か入れとくか……」
「裏工作じゃねえか」
「兄弟二人暮らしの生活感を演出するだけだ」
「しっかり裏工作じゃねえか」
「調味料とか、無駄に岩塩とミル置いとく」
「解像度高いな、雷ならやりそうだわ」
「くれるの?ミル」
「喜ぶなよお前も」
「お前んとこに賞味期限切れのチューブの柚子胡椒とか焼き肉のタレとか無い?」
「無いわ、ちゃんと使い切るわウチは。そういう配信だってしてんだから」
「コンビニサラダのドレッシングをサイドポケットに入れとくとか」
「発想が生々しいんだよ」
「朝日~?それ俺やらないからね?雷はやるけど」
「……そうか、乃依がうちでやってることやればいいのか」
「だから裏工作だろそれ」
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